喉に激しい痛みが生じたとき、口を開けて喉を見ると、扁桃腺に白いものが付いていたという経験はありませんか?扁桃炎になったことのある人は、おそらくこのような経験をした人が多いかもしれません。
また、このような炎症を起こした状態ではなくても、白いものが付いており、うがいをしたり、喉に力をいれると、米粒くらいの白い塊が出てくる人もいるようです。
炎症を併発している場合には、悪性の腫瘍ではないかと心配になりますが、これは腫瘍ではありません。しかし、そのまま放置しておくと、場合によっては全身の病気を引き起こす可能性もあるので、注意が必要です。
そこで、ここでは、扁桃腺に付いている白いものの正体について、ご紹介いたします。
扁桃腺の白いものの正体は?
実は、この扁桃腺に付く白いものは、「膿栓」や「白苔」と呼ばれるもので、ウイルスや細菌に感染すると、現れやすくなります。どちらも扁桃腺に現れるため、同じものだと思われがちですが、見た目も、白い塊の中に含まれているものも、全く異なります。
では早速、その2種類について見てみましょう。
膿栓(のうせん)
扁桃腺は、リンパ組織の一つです。リンパ組織は、体内にウイルスや細菌が侵入してくると、それらに抵抗・排出するように作用する、身体の免疫機能です。
扁桃腺には、ウイルスや細菌を効率良く死滅させるため、「腺窩(せんか)」と呼ばれる小さな円状のくぼみがいくつもあります。この腺窩に、体内に侵入したウイルスや細菌の死骸、リンパ球、白血球などに、さらに食べ物のカスが合わせて入り込み、白い塊になったものを「膿栓」と言います。
扁桃炎などのウイルス感染症になったときにできやすいのですが、ドライマウスの人や、体質などによって、感染症になっていない場合にも、膿栓ができやすい人もいるようです。
そのような場合、とくに痛みなどはないのですが、膿栓で繁殖している雑菌によって、かなりの悪臭があるため、口臭の原因になることがあります。また、膿栓がずっと扁桃腺にある状態は、腎臓や心臓などの全身の病気に繋がる恐れがあるので、油断はできません。
口臭の原因になっている場合には、膿栓を除去することで口臭が改善されますので、耳鼻咽喉科で相談してみるのも良いでしょう。
しかし、とくに口臭などの問題が生じていない場合には、安易に自分で取ろうとすると、喉の粘膜を傷付けてしまう可能性があるので、そのままにしておいても、問題はありません。
膿栓については、膿栓の取り方にはうがいが有効?安全な方法を紹介!を参考にして下さい!
白苔(はくたい)
「白苔」とは、ウイルス感染によって膿栓ができた状態が、さらに悪化すると出てきます。炎症を起こした扁桃腺が、化膿した状態と言っても良いでしょう。
膿栓は「白い塊」であるのに比べ、白苔は、塊ではなく、まるで白いアメーバのように扁桃腺に、平たく張り付いています。また、白苔に含まれているものは、扁桃腺の粘膜組織が死滅したもので、ウイルスや細菌の死骸ではありません。白苔の中ではまだ、リンパ球や白血球が、ウイルスや細胞に抵抗している状態です。
ここまでくると、そこから炎症範囲を広げ「扁桃腺周囲炎」になり、さらに悪化すると、喉や胸にも膿が溜まる「扁桃腺周囲膿瘍」になる可能性がありますので、早めの処置が必要です。
膿栓が全身の病気を引き起こす理由
先にも述べたように、膿栓は、場合によっては、腎臓や心臓、大腸炎、あるいは掌蹠膿疱症という手足に発疹ができる病気など、全身の病気を引き起こす可能性があります。これは一体なぜでしょうか?
食事や呼吸などによって、ウイルスや細菌が体内に侵入してくると、扁桃腺にT細胞が出てきます。T細胞というのは、ほかの細胞に、細菌などを攻撃するよう命令を出す細胞です。そして、免疫細胞の攻撃を受けた細菌やウイルスの死骸が腺窩に入り、食べカスと合わさることで膿栓になります。
しかし、ウイルスや細菌と免疫細胞が戦う時間が長く続くと、(=膿栓がずっとでき続ける状態)T細胞の出す指令が狂ってくるのです。すると、異常な指令を送られた、ほかの免疫細胞たちが、全身のあちらこちらで暴走し、細菌がいない場所でも攻撃を始めるため、全身の病気を引き起こします。
扁桃腺は、リンパ組織の中でも、姿がむき出しになっているため、ほかのリンパ組織のT細胞にくらべ、扁桃腺のT細胞は、よりきつい仕事をしなければなりません。そのキャパシティーがオーバーすると、人間と同じように、不具合が出てくるのです。
また、膿栓ができ続ける状態を「慢性扁桃炎」といい、病院での治療も可能です。このように、膿栓そのものが、直接全身の病気に関わっているのではなく、膿栓ができ続ける状況によって、「誤作動を起こした免疫細胞」が、全身の病気を引き起こしているというわけです。
膿栓・白苔を招くウイルスとは?
ここまで見てきたように、膿栓や白苔は、ウイルスや細菌の侵入によってできやすくなります。また、全身の病気を招く「慢性扁桃炎」は、「急性扁桃炎」を何度も繰り返して、慢性のものへと変化します。では、最初のきっかけとなる急性扁桃炎は、どのようなウイルスや細菌に感染することで発症するのでしょうか?
急性扁桃炎、または膿栓・白苔の原因となるウイルス・細菌について、早速見ていきましょう。
溶連菌
3歳以上の子供が感染しやすいと言われている溶連菌ですが、大人にも感染します。大人が感染すると重症化することもあるため、注意が必要です。溶連菌には、A群、B群、C群、G郡があり、そのうちのA群のβ溶血性連鎖球菌と呼ばれる菌が主な原因となっています。感染すると、2~5日の潜伏期間を経て、以下のような症状が見られます。
- 激しい喉の傷み
- 高熱(38度~39度)
- 体や顔に出るかゆみ、赤みを伴う小さな発疹
- 舌の赤いポツポツとした湿疹(苺状舌)
- 扁桃腺の腫れ、白苔
- 上顎(軟口蓋)の粘膜発疹
- 吐き気、嘔吐 など
溶連菌の検査は、病院ですぐに調べることができ、数分程度で結果もわかります。
アデノウイルス
夏風邪の一つでもある「プール熱」の原因ウイルスとしても知られている、アデノウイルス。アルコール消毒も効果がないため、予防するのがかなり困難なウイルスでもあります。
現在のところ51型までのアデノウイルスが確認されており、さらにそこから、発症する症状によって、A~F群に分類されています。喉に炎症を起こすのは、このうちの「3型」のアデノウイルスであることがほとんどです。
体内にウイルスが侵入し、5~7日の潜伏期間を経て、以下のような症状が出てきます。
- 5日ほど継続する高熱
- 激しい喉の傷み
- 扁桃腺の腫れ、赤み
- 扁桃腺の白苔
子供に感染した場合、喉の痛みをどのように表現して良いのかわからないため、不機嫌、泣くといった方法で訴えてくることもあります。
また、これに加え、結膜炎を併発すると、プール熱と呼ばれる病気に分類されます。アデノウイルスの検査は、病院で、約15分程度で結果を見ることができるようです。
EBウイルス
EBウイルスの正式名称は「エプスタイン・バール・ウイルス」です。リンパ節の異常や肝機能障害を引き起こす原因となるウイルスです。感染した人の口の中で繁殖するため、飲み物の回し飲みやキスなどで、人から人へ感染します。
EBウイルス感染症の代表的なものとして、「伝染性単核球症」と呼ばれるものがあります。この病気に感染すると、30日~50日という長めの潜伏期間を経て、以下のような症状が見られます。
- 首のリンパ節の晴れ
- 1~3週間続く高熱
- 咽頭炎、および扁桃炎
- 発疹
- 全身の倦怠感
- 肝臓や腎臓の腫れ、および肝機能障害
- 湿疹
ヘルペスや水疱瘡なども、EBウイルスが原因となって起こる病気です。伝染性単核球症の場合は、治るまでに4~6週間ほどかかると言われています。
また、ウイルス検査には血液検査が必要となります。高熱があまりにも続くという場合には、EBウイルス感染の可能性がありますので、病院で受診しましょう。
扁桃腺のウイルスや細菌を予防しよう!
ウイルス感染による扁桃腺の炎症を避けるためにも、しっかりと予防したいものです。「手洗い・うがい」ももちろん大切ですが、まずは免疫力を高くする必要があります。
ウイルス・細菌感染は、免疫力の落ちた人が感染しやすく、また、感染すると、体内のウイルスや細菌が死滅するまで待つしかありません。そのとき、どの程度の回復力があるかによって、回復速度も変わってきます。
日頃から免疫力を高めるには、以下のような方法があげられます。
口内、および喉を乾燥させない
口内が乾燥するドライマウスの人はウイルス感染しやすい傾向があります。また、冬にウイルス感染を起こしやすいのも、空気の乾燥により、喉粘膜が乾燥するため、免疫力が落ちることが原因です。
ドライマウスの人には、口呼吸をしている人が多く見られます。口呼吸を辞めるためには、口輪筋を鍛える必要がありますので、顔のストレッチや体操も取り入れてみましょう。
また、乾燥が気になる季節には、マスクや加湿器を使用するのも効果的です。
睡眠
人間は、寝ているときに、全身を回復させます。一日の疲れは、睡眠によって、自分の身体の機能で癒しています。また、怪我をしたり、風邪をひいたときは、眠っている間に、修復細胞が働き始め、身体の損傷を治癒しているのです。
ですので、質の良い睡眠をとることは非常に重要です。枕などの寝具を合うものにして、就寝前の3時間は、スマホやテレビなど刺激の強い明かりは避けましょう。
食生活の改善
食事は、私たちの健康維持の基本です。1週間の食事を書き出し、不足している栄養がないか、確認してみるのもおすすめです。きちんと栄養バランスをとっているように感じても、実は何かの栄養素が足りていなかったということは、よくあります。
また、ビタミン、鉄分、タンパク質などの必須栄養素は、それ単体では、体内に入っても、役に立つ栄養素として働くことができません。ほかの栄養素と結合することで、初めて、機能するのです。バランスの良い食生活で、免疫力を高めましょう。
まとめ
いかがでしたでしょうか。膿栓や白苔は、私たちの身体が正常に機能していることを証明するものでもあります。ウイルスや細菌が入ってきたら、すぐに活動するよう指令を出してくれるT細胞にも感謝ですね。
このような様々な身体の機能を活かせるよう、私たちも、日頃から健やかな生活習慣を心がけたいものです。