芽殖孤虫が感染した時の症状とは?感染経路や治療法、予防方法を知ろう!

芽殖孤虫という寄生虫を知っていますか?あまり馴染みの無い言葉のようですが、世界で17症例あるうちの8例は日本で起きており、報告されている中では日本が一番症例のある国になります。

芽殖孤虫に感染すると幼虫が体の中で、分裂を繰り返し体中の至る部分に増殖を繰り返します。脳や主要な臓器に増殖すると最終的に人は死に至ります。治療方法が見つかっていない為、致死率は100%と言われている為、予防が大変重要になります。ここでは、芽殖孤虫の概要や症状、原因、治療方法と予防方法について詳しくご紹介します。

芽殖孤虫について

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ここでは、芽殖孤虫の概要と、寄生虫の概要、症状についてご紹介します。

芽殖孤虫とは?

芽殖孤虫(がしょくこちゅう)は、人に寄生する寄生虫で、平らな形をした扁形動物に属しています。人の体に侵入すると、全身に転移を繰り返しながら増殖し、脳や内蔵などの生命に必要な臓器を破壊して、宿主を死に追いやるという非常に危険な寄生虫の1種です。

芽殖孤虫という名前がつけられているとおり、成虫の状態は確認されておらず、人の体内では成虫になれない為、幼虫のまま分裂を繰り返して増殖します。

国別の感染件数について

全世界で17の症例が確認されており、予後不明の方もいますが、治療方法が見つかっていないため、報告されている中では全ての宿主が死亡しています。中でも、日本が8例報告があり、日本は芽殖孤虫による感染報告が一番多い国です。2006年にフランス領レユニオン島で見つかったことを最後に現在に至るまでその他の確認事例は出ていません。また、人間以外にも日本では牛や犬の感染、北米では哺乳類への感染が確認されています。

■国別の感染確認件数

日本:8件(最終確認年:1987年)
台湾:3件(最終確認年:1987年)
米国:2件(最終確認年:1976年)
カナダ:1件(最終確認年:1983年)
パラグアイ:1件(最終確認年:1981年)
ベネズエラ:1件(最終確認年:1982年)
フランス領レユニオン島:1件(最終確認年:2006年)

芽殖孤虫の特徴

患者から摘出された幼虫の全長は、数mm~1cm程度と極めて小さいですが肉眼で確認できます。成虫が実証されていない為、生活史については何も分かっていません。芽殖孤虫は薄い嚢に包まれていて、全身シワだらけです。形状はぐちゃぐちゃとした姿で見つかっていたり、わさびや生姜の根のような形をしたものが多いと言われていますが、蝶の羽様に拡がった虫体のような形とも言われ、不定形であると報告されています。

人に寄生すると、嚢を破って他の部位に転移し、そこで新しい嚢に包まれて分裂を繰り返します。皮下組織、筋肉、内蔵、脳、骨など様々な組織器官に虫が寄生し、体全体が虫だらけになります。報告された患者の中には筋肉片約3平方センチメートル内に20~25個もの蟲嚢が確認されています。小さな範囲で多くの虫が蔓延る状態の為、死亡解剖などで体を開いてい見ると、おぞましい光景が確認できることが想像出来ます。

芽殖孤虫は、マンソン裂頭条虫と呼ばれる寄生虫の1種の変異体なのではないかという説がありましたが、遺伝子検査により違う種であることが明確にされています。しかし、大複殖門条虫や日本海裂頭条虫と細胞の配列が近いことや、マンソン裂頭条虫と近縁であるという報告があります。

症例を見ると、体長不良を引き起こしてから、数年以内に死亡に至る場合もありますが、長い年月に渡り寄生している場合もあります。確認できているもので、寄生してから25年経過して死亡した例もあります。

寄生虫とは?

寄生虫(きせいちゅう)とは、寄生生物のうちの動物に分類されるもので、ある動物が他の生物から、栄養などを一方的に奪う物を指します。寄生動物とも呼ばれ、植物などに関しては、寄生植物と呼ばれています。

寄生虫の種類について

寄生虫の種類は大きく分けて2種類あり、体の表面上に寄生するものを、外部寄生虫と呼び、体の中に寄生するものを、内部寄生虫と呼びます。外部寄生虫はノミ、ダニなどが代表的なもので、内部寄生虫は今回の題材である、芽殖孤虫を始めとし、回虫(かいちゅう)、鉤虫(こうちゅう)フィラリア、サナダムシ、ギョウチュウが代表的なものです。寄生虫は、世界では約200種類、日本では約100種類が報告されています。

寄生虫に寄生される生物を宿主または、寄主と言います。寄生虫はこの宿主なしでは生きていくことが出来ず、宿主は寄生されると様々な害を受けます。寄生虫に感染することを、寄生虫症と呼びます。

一般的に寄生動物の体の構造は、必要のない運動期間や感覚器官、消化器官などが退化しており、生殖器官が発達している場合が多く、分裂を繰り返したり、生存能力に長けているものが多いです。

寄生虫の特徴

どの寄生虫にも言えることですが、寄生虫の一番の問題点は、宿主なしでは生活できない為、宿主の間をどのようにして移動するかが問題となります。2015年に廃止されたと言われているギョウチュウ検査を覚えていますか。廃止される前は、小学3年生以下の児童に義務付けられていた為、覚えている方も多いのではないでしょうか。このギョウチュウ検査はセロハンを寝起きのお尻にペタンとつけて、ギョウチュウが発見できるか検査するものでした。

このギョウチュウは人間に寄生する寄生動物の1種で、人の肛門周辺に産卵を行い、産卵した際に痒みを伴う為、人が手で肛門付近を手で引っかき、その引っかいた手に卵が付着して人から人に移ります。

他にも、回虫の卵は人の便とともに体外に流れ、便を肥料として野菜が育ち、その野菜などに付着することで、食べ物と一緒に人の口の中から体内に侵入するという感染経路があります。現在では、糞や便を肥料に利用している農家がほとんどないので、感染例自体はあまり見られません。

更に、食物連鎖を利用して宿主に感染する場合もあります。カマキリやカマドウマの寄生虫として知られているハリガネムシは、繁殖時期の秋頃になると、寄生していた成虫が宿主の外から飛び出し、水中で産卵をします。孵化した幼生は、カゲロウなどの水生昆虫の体に入り、カマキリやカマドウマに捕食されることを待ちます。このように、宿主の移動に関して寄生虫の中で工夫が見られます。

この幼生のときの宿主を中間宿主と呼び、成体の宿主を終宿主と呼びます。終宿主にたどり着けない場合、寄生虫は成体になれないことが多いです。幼生が人に入ると、成虫になることができない為、寄生虫にとって最適な宿主とは言いがたいです。その為、最適な宿主を探して、幼生が分裂を繰り返して増殖しながら体中を這い回るので、体中の至るところに増えます。

今回のテーマである、芽殖孤虫も人間は最終目的地ではない為、体内で増殖し続けます。芽殖孤虫のように、全身に増殖し脳や重要な臓器に入り込んで機能を阻害すると、最終的に宿主である人間は死に至ります。

芽殖孤虫の症状

芽殖孤虫が寄生すると、幼虫は皮膚の下で増殖を始めます。しばらく経過すると、全身の皮膚や粘膜などが、盛り上がりや膨らみを見せ始めます。内臓や脳などに転移をし始めることで、臓器や脳を破壊し、喀血(かっけつ)、嘔吐、下痢、腹痛、胸痛、脳障害など様々な症状を引き起こします。転移する範囲によって症状が異なる為、人によって現れる症状も異なります。ここでは、日本で発症した芽殖孤虫の症状例をご紹介します。

【日本で発症した芽殖孤虫の症状例】

■1904年:東京都女性(33歳)の場合
・頭部・頚部、上肢を除いた全身に痒みや痛みを伴う小結節が見られる
・特に両下肢にひどく膨張が見られる

■1907年:東京都男性(36歳)の場合
・全身に痒みや痛みを伴う小結節が見られる
・喀血、嘔吐
・言語障害、運動障害、精神錯乱
・右半身麻痺
・てんかん発作
・直腸・膀胱障害

■1911年:東京男性(57歳)の場合
・全身に痒みや痛みを伴う小結節が見られる
・言語障害
・右大腿の膨張・象皮病様

■1920年:京都男性(62歳)の場合
・全身に痒みや痛みを伴う小結節が見られる
・栄養不良
・皮膚の一部分が白く、薄くなる

■1987年:茨城県男性(48歳)の場合
・右腰・右大腿の痛みと腫れ
・呼吸困難

芽殖孤虫の具体的な感染例

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ここでは、報告された感染例についてご紹介します。

熊本県の女性の場合

熊本県天草郡牛深町で1915年9月15日、当時18歳の女性が友達の家から帰ってくる際に悪寒や強い頭痛を感じ、翌日には食欲がなくなりました。数日後には左のふとももの内側付近が赤く腫れあがり、痛みを伴い始めました。日に日に痛みが増し、我慢できないほどの痛みになったので、近所の町医者に駆け込み腫れた部分を切開してもらったところ、大量の膿が確認されました。

切開は合計で3回ほど行われましたが、腫れが良くなることはなく、徐々に広がりをみせ20歳の時には左下肢・右大腿・下腹部など至るところに腫れが見られました。

痒みがあるので、腫れている部分を引っかくと、皮膚が裂けて白い虫が膿や血と一緒に流れ出てくるようになりました。虫は多い時には20~30匹ほど流れ出てきて体の不調はひどくなる一方でした。

1921年4月には九州大学病院に入院して、肥大した下腹部と両大腿部の手術を何度か受けましたが、体の腫れは広がりを見せる一方で一向に良くなりませんでした。やがて肺炎が現れて全身の衰弱が見られ、1922年4月23日に24歳の若さで生涯の幕を閉じました。

遺体解剖したところ、胸、腹、足の皮膚、脳、肺、小腸、腎臓、膀胱など至るところから、大量の白い虫体が確認されました。全身寄生虫に犯された恐ろしい状態だったと言われています。

東京都の男性の場合

日本で2件目に発症した男性に関する症例では、病院の部検所見の中に、下記のような報告が残っています。

部検所見の内容

  • 多くの大小異なる虫や虫の嚢がでてきて、恐ろしさにぞっとするものがある。
  • 全身の至るところで虫が確認でき、肺の部分に特に多く見られる。
  • 多くの虫に寄生されているので、虫を殺すよりは人間を殺した方が早い状態である。

上記の記録から、患者の悲惨な状態が想像出来ます。

芽殖孤虫の原因

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世界的に感染報告が少ない為、人にどのように感染するのか、感染経路は不明であり、中間宿主に関しても不明であると言われています。

しかし、両生類や昆虫類の摂取や汚染された水が原因なのではないかという説があります。ここでは原因について有力な説をご紹介します。

両生類、爬虫類の摂取

発症者には両生類、爬虫類の喫食経験者が多く両生類、爬虫類が原因となっているのではないかと考えられています。一番最近で2006年にフランス領であるレユニオン島で発見された患者の方は、20数年前から蛇を食べていたことが報告されています。

また、遺伝子検査でマンソン裂頭条虫と近縁であるという報告があることから、ヘビやカエルなどを食べたことの説が有力説であるともいえます。マンソン裂頭条虫は、平べったい形状をしており、長いものでは体長は1mにも及びます。カエルやヘビを食べた犬や猫などによく感染が見られる寄生虫の1種です。

このマンソン裂頭条虫はカエルやヘビなどを食べた人に寄生する場合があり、人に寄生した場合は、マンソン孤虫症と呼ばれてます。カエルや蛇をどうしても食べる場合には、十分な加熱が必要になりますが、摂取しないことが安全です。

近縁であると言われている、マンソン裂頭条虫の感染経路がヘビやカエルの摂取であることや、実際に発症した患者の中には両生類、爬虫類の摂取をした経験者が多いことから、両生類や爬虫類の摂取が感染経路の可能性があります。

汚染された水の摂取

幼虫に感染したミジンコに汚染された水を飲んだ事が原因ではないかとも考えられています。

日本の茨城県で発症した患者は、井戸水を使用していたことが確認されており、ミジンコに汚染された生水から感染したのではないかと考えられています。

芽殖孤虫の治療・予防方法

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ここでは、治療方法と予防方法についてご紹介します。

外科的手術による治療

治療方法は、まだ確立していないと言われています。その理由として、感染した患者を治療できた報告がなく、致死率が100%となっているからです。感染経路が特定できずに、感染した実例も少ないことから有効な駆除薬は無いと言われています。

一般的な寄生虫であれば、薬品を用いる事が可能ですが、芽殖孤虫の場合は、全身に渡る為容易に使用する事ができずに、手術により虫を摘出する方法しか見つかっていません。

寄生虫の感染を受けて、幼虫が体内を移動することで引き起こされる症状を、幼虫移行症と呼びます。この幼虫移行症に対しては、手術で幼虫を摘出する以外に方法はありません。しかし内蔵や脳に症状が現れている場合は、広い範囲で摘出手術を行う必要が出てくることや、1匹でも残ってしまうと、幼虫が分裂を繰り返すので、全摘出が難しいと言われています。その為、現在の時点では芽殖孤虫の治療方法はないと言えます。

予防策

感染報告されている17名のほとんどが両生類や爬虫類を食べた経験があることや、マンソン裂頭条虫と近縁であることが分かっている為、両生類や爬虫類を宿主とする寄生虫であろうという推測があります。

その為、両生類や爬虫類を食べないことや、両生類や爬虫類がいる可能性のある水辺に入ったり、水を飲んでしまうことを避けることが予防策の1つであると言えます。万が一、カエルや蛇などを食べなければいけない状況になった場合は、きちんと加熱処理がされているのか、確認する必要があります。

カエルを食べる食文化のあるフランスで発症していない理由として、加熱処理がきちんとされているからではないかとも考えられます。東京では、カエルを生で食べられる居酒屋も存在し、野生のカエルではないので問題ないかもしれませんが、リスクを回避するには、このような食べ物は手を出さない方が安全でしょう。

また、井戸水など汚染された水を飲むと感染する危険性もあるので、これらの行為を控えることが予防に繋がります。

おわりに

芽殖孤虫は、人間に感染すると100%の致死率を持つ恐ろしい寄生虫です。この芽殖孤虫に感染したと報告されている患者数は現時点で合計17名でそのうち8名が日本で起こっています。報告例が少ないことや、虫が全身の至るところで増殖をすることから治療方法が見つかっていません。

唯一治療方法として、手術による摘出が可能ですが、全身に蔓延る全ての虫を駆除することが難しく、1匹でも残してしまうと、再び増殖し始めるので、全てを死滅させるのは手術のみでは困難であると言われています。

原因は未だに不明ではありますが、患者の多くが両生類や爬虫類を摂取している経験があることから、これらが何かしら関係しているのではないかと推測されています。その為、両生類や爬虫類が住む水辺の水を飲んだりしないことや、食べないことが予防策に繋がるといえます。

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