「少しでも健康でありたい」「より美しくなりたい」──このような思いを抱く人が増えたせいか、私たちの耳には、健康・美容に関するあらゆる情報が飛び込むようになりました。
雑誌やインターネットでは、健康やダイエットに関する記事が多く掲載され、食料品店などでは健康食品が多数販売されています。
そのような情報の一つとして、普段の食生活で摂取する「油」の善し悪しについての情報は、皆さんも一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。オリーブオイルや亜麻仁油、グレープシードオイルなど、食用のオイルで健康に良いと言われているものはいろいろありますが、それらの中で今回のテーマとしてご紹介するのが「こめ油」と呼ばれている油です。
しかし、このこめ油は、「身体に良い」という情報がある一方で、「身体に悪い」という声もあがっているようです。そこで、ここでは、こめ油に関する基本的な情報に加え、なぜ、身体に悪いという情報があるのかといった理由について、ご紹介いたします。
こめ油の特徴
お米から油が抽出されるの?という声も聞こえてきそうですが、こめ油は、玄米から白米へ精白する際に出る「ぬか」が原料になっています。
米ぬかには、果皮や種皮、胚芽などいろいろな成分が含まれており、20%ほどの油分を有しているため、そこから抽出することができるのです。ご存知のとおり、米ぬかの元となる玄米は、非常に身体に良いと言われています。すなわち、こめ油にはそれらの栄養がぎゅっと凝縮されているというわけです。
また、そのほかの植物油は、ほとんどが外国の原材料を使用しているのに対し、こめ油の場合、一部輸入原材料を使用しているものも存在するようですが、ほぼ国内で生産されています。このようなことから、より安心できる食用油としても知られているようです。
香り
こめ油の大きな特徴としてあげられるのが、香りです。ほかの植物油は、独特の香りがするものが多いですが、こめ油は香りが控えめなので、調理する際に、食材の風味を損いにくいと言われています。
オリーブオイルなど、独特の香りを楽しむお料理もありますが、できるだけ食材の味や香りを活かしたいというときには、嬉しい食用油とも言えるでしょう。
性質
こめ油は、そのほかの油に比べて酸化しにくいという点も、特徴の一つです。私たちの日常生活で、あまり取り入れる機会が少ないように感じるかもしれませんが、実は日本の給食で使用されている食用油の、約6割がこめ油という報告もあります。
また、スナック菓子などを製造する際にもよく使用されているので、皆さんも、もしかしたら気づかないうちに、こめ油を摂取しているかもしれません。
さらに、油切れが良いので、控えめな香りという点に加えて、こちらもまた、調理しやすい食用油であると言えます。
値段
こめ油は、サラダ油などに比べると割高だと言われていますが、オリーブオイルや亜麻仁油などに比べると安価なようです。
しかし、食用油の値段は、原材料と抽出方法によっても大きく異なるため、大容量で1000円代の物もあれば、100ml程度の小容量で4000円前後するものも存在します。こめ油の中でも安価なものと高価なものが存在することを認識しておきましょう。
こめ油のメリット
先にもご紹介したように、こめ油には栄養素が凝縮されているので、健康に良い成分が豊富に含まれています。また、いわゆる「油」と呼ばれるものには、「脂肪酸」が含まれており、それぞれの油によって有する脂肪酸が異なります。
人間の生命維持に必要不可欠な脂肪酸は、大きく分けると「飽和脂肪酸」と「不飽和脂肪酸」の2つに分類され、飽和脂肪酸はコレステロールを上げて、わたしたちのエネルギー源となり、不飽和脂肪酸は、生活習慣病などを予防する様々な役割を持っています。
ここでは、こめ油に含まれる脂肪酸や、そのほかの成分をご紹介しながら、こめ油を摂取することで得られるメリットをご紹介いたします。
オレイン酸
オレイン酸はオメガ9系に類する脂肪酸です。オレイン酸は酸化しにくく、熱にも強いという特徴があるので、料理にも最適な脂肪酸であると言われています。こめ油だけではなく、そのほかの植物油にも含まれている成分です。オレイン酸には、
- 血液中の悪玉コレステロールを減少させる
- 胃酸の分泌を調整する
- 腸の蠕動運動を促進する
といった働きがあるので、生活習慣病の予防や、便秘改善にも役立ちます。
また、油についての詳細を詳しく調べると、「オメガ」という言葉が出てきますが、これは、脂肪酸構成の違いによって分類されています。
大きく分けると、オメガ3、オメガ6、オメガ9に分類され、最近ではオメガ6の過剰摂取が問題視されているようですが、こめ油は、オメガ6系の脂肪酸と、オメガ9系の脂肪酸をバランスよく含有しています。
リノール酸
リノール酸は「多価不飽和脂肪酸」と呼ばれる脂肪酸の一種で、人間の体内で作ることができないため、食事から摂取しなければならない「必須脂肪酸」の一つでもあります。
不足すると、皮膚炎や成長障害などが出てくると言われ、コレステロールを減少する働きがあることで知られているため、肉や加工食品などを多く摂取する人には効果的だと言われています。
しかし、オレイン酸とは異なり、リノール酸は摂取しすぎると、善玉コレステロールまで低下させたり、アレルギー症状を引き起こす原因にもなると考えられています。さらに、酸化しやすいので、がんを促進させる過酸化脂質が発生するため、摂り過ぎには注意が必要です。
ビタミンE
ビタミンEには、抗菌化・抗酸化作用があります。これによって、活性酸素を抑制するため、細胞の老化を予防する効果があると言われています。
また、なかでも、スーパービタミンEと呼ばれる「トコトリエノール」という成分が豊富に含まれているのも、こめ油のメリットと言えるでしょう。
ビタミンEは、大きく分けると「トコトリエノール」と「トコフェロール」という2つの成分に分類することができ、どちらも優れた抗酸化作用を有していることで知られています。とくに、トコトリエノールの場合は、トコフェロールの約50倍にもなる抗酸化作用があると言われています。
さらに、抗酸化作用に加え、
- 抗がん作用
- 動脈硬化の予防(コレステロールを減少させる)
- 利尿作用
- 炎症鎮静作用
などがあり、メラニン色素の生成を抑制する作用もあるため、女性には嬉しい美白効果もあると言われています。積極的に摂りたい成分だと言えるでしょう。
γ-オリザノール
こめ油の成分で、最も注目されている成分だと言えるのが、この「γ-オリザノール」という成分です。これは、米ぬかやコメ胚芽に含まれるポリフェノールの一種で、健康維持には欠かせない成分であるとも言われています。以下にγ-オリザノールの効能をご紹介します。
<自律神経を整える>
γ-オリザノールは、ドーパミンやノルアドレナリン、アドレナリンなどの神経伝達物質代謝の骨格となる「カテコールアミン」という化合物質の代謝に関与するため、自律神経を整える作用があると考えられています。
更年期障害や、めまい、全身の倦怠感、頭痛、不眠など、自律神経のバランスが崩れることによって引き起こる様々な不調や、抗ストレス作用などがあることも報告されているようです。
<抗酸化作用>
抗酸化性を持っているということも、γ-オリザノールの特徴と言えるでしょう。とくに、耐熱性に関しては、γ-トコフェロール以上の耐熱性を有していると言われています。
<血中のコレステロール低下作用>
γ-オリザノールは、血中のコレステロールを低下させる作用もあるので、高脂血症や動脈硬化などの予防にも役立ちます。
<抗炎症作用>
γ-オリザノールは、炎症を引き起こす原因となる、NFKBと呼ばれるタンパク質の複合体が活性化するのを抑制する「シクロアルテニルフェルレート」という成分が主成分になっています。そのため、様々な炎症を抑える働きがあると考えられており、とくに炎症性の腸疾患などには効果的だと言われています。
<抗アレルギー作用>
アレルギー反応は、体内のlgE抗原と受容体が結合することによって生じると考えられていますが、γ-オリザノールは、これらが結合するのを阻止する作用があるため、アレルギー反応の発生を抑制すると考えられています。
<美白作用>
美白作用の成分として知られている「L-アスコルビン酸」と比較すると、その作用は劣るものの、γ-オリザノールにはメラニン色素の発生を抑制する作用があることが判明しています。
これらのほかにも、胃腸運動を改善したり、月経不順などにも効果があることが報告されているようです。
植物ステロール
これは、健康に良いと言われている抗酸化物質の一種です。また、先にあげたγ-オリザノールと合わさることで、認知症の予防にもつながることが報告されています。植物ステロールには、
- 動脈硬化予防
- 高コレステロール血症の予防
- 前立腺肥大の改善
- 免疫力向上
などの効果があり、1日1000mg摂取するのが理想的とされています。こめ油は、そのほかの油と比較すると、植物ステロール含有量が100mg中961mgと最も多いため、大さじ1杯程度で1日の摂取量がクリアできるというわけです。
カロリーはそのほかの油と変わりませんが、大切なのは「質」です。そのほかの食材に関しても、カロリーだけではなく、その食材が含む成分などを見ながら、より質の良いものを選ぶことが重要です。
こめ油が身体に悪いと言われている理由は?
ここまでご紹介したように、こめ油には、健康維持や美容には欠かせない素晴らしい成分が豊富に含まれているにも関わらず、「身体に悪い」という意見が出ているのも事実です。
その理由には、どのようなものがあげられるのか、早速見ていきましょう。
ノルマヘキサンの危険性
原料から油を抽出する方法には、圧搾法・抽出法・圧抽法と呼ばれる3通りの方法があります。
<圧搾法>
文字通り、原材料に圧力をかけることで油分を抽出する方法です。コーン油やべに花油などでよく用いられる方法です。
<抽出法>
ノルマヘキサンという薬品に原材料を浸すことで油分を抽出する方法です。とくに、油分の少ない原材料を使用する場合に用いられます。
<圧抽法>
圧搾法である程度油分を抽出した後、さらに抽出法でノルマヘキサンを使用して油分を抽出する方法です。
オリーブやとうもろこしには約50%も油分が含まれているのに比べると、こめ油の原料となる米ぬかには20%ほどしか油分が含まれていないため、圧搾法などでの抽出は大変困難になります。そのため、こめ油は、そのほとんどが2番目にあげた抽出法と呼ばれる方法を用いて製造されています。
その際に使用される「ノルマヘキサン」という溶剤が、身体には良くないと言われているようなのです。抽出法では、ノルマヘキサンの中に米ぬかを浸けて油分を溶かし出し、それを300℃まで加熱します。
ノルマヘキサンは頭痛や麻酔作用などを起こす毒性の劇薬として知られていることや、高温処理の過程でこめ油に含まれている栄養素などが一緒に除去されてしまうのではないかということで、こめ油の危険性が心配されているというのです。
しかし、ノルマヘキサンについてさらに見ていくと、沸点が69℃前後と非常に低い性質であることがわかります。すなわち、前述のように、油を抽出したあとの加熱処理で300℃まで加熱することを考えると、ノルマヘキサンの残留量はゼロになります。
これらから、こめ油は、決して身体に悪い油ではないということがおわかりいただけるのではないでしょうか。
農薬や放射線の悪影響
こめ油が危険だと言われている理由は、ノルマヘキサンだけではないようです。米ぬかの原料は、お米の果皮や種皮、胚芽などの外側部分に値することから、農薬や放射線の影響を心配する人もいるようです。
安心できるこめ油の選び方は?
このように、こめ油は、決して危険な食品ではありませんが、より安心して摂取したい場合には、以下のようなことを確認して購入することをおすすめします。
<抽出方法・精製方法を選ぶ>
大きな懸念事項とされている抽出方法を確認して選ぶのは、一番手っ取り早い方法かもしれません。商品ラベルや成分表示ラベルなどに表記してありますので、それらを確認し、不明な場合は製造メーカーに問い合わせてみるのも良いでしょう。おすすめのものでは、
- 圧搾方法
- スチームリファイン製法(精製する際に最小限の加熱に抑える精製法)
- コールドプレス製法
などの抽出・精製方法で製造されているものがあります。しかし、これらは、抽出法で製造されているこめ油に比べて、高価になります。
<残留農薬・放射線物質の確認>
残留農薬や放射線物質については、定期的に製品化したものをチェックされていますので、気になる人は製造メーカーのオフィシャルサイトなどを確認してみるのも方法の一つでしょう。
こめ油の活用法
ご覧いただいたように、こめ油は、決して身体に悪いものではありません。健康や美容に嬉しい成分が豊富に含まれているので、積極的に摂取したい食用油です。少しお高めの商品が揃うスーパーマーケットや通販でも購入することができるので、いろいろな種類を見極めて、お気に入りの逸品を探すのも良いでしょう。
ここでは、こめ油の活用法について、ご紹介いたします。
料理に使う
普段使用しているサラダ油をこめ油に変えたり、お菓子やパン作りなどで、バターやマーガリンの代わりにこめ油を使用すると、いつものメニューがグッとヘルシーに仕上がります。香りが控えめで、どんなお料理にも使いやすいので、いろいろなレシピに使用できるのも嬉しいところです。
美容オイルとして使用する
こめ油は、食用ですが、食事から摂取するだけではもったいない美容効果もありますので、ぜひ、美容オイルとしても試してみてください。
化粧水の後に、クリームや乳液の代わりにこめ油を薄く肌になじませることで、シミやシワの改善にも効果が期待できます。こめ油の抗酸化力を肌にダイレクトに届ける方法です。
石鹸づくりに使用する
石鹸は油で作られているので、こめ油でも作ることができます。40℃に調整したこめ油と苛性ソーダ水を混ぜ、お好みの型に流して乾燥させて完成です。簡単に作ることができ、アロマオイルなどを使用すると、オリジナルの香りを楽しむことができるので、おすすめです。
こめ油石鹸を作る際には、苛性ソーダが皮膚などに触れないように、ゴム手袋で手を保護することも忘れないようにしましょう。
まとめ
いかがでしたでしょうか。一部では身体に悪いと言われていたこめ油ですが、実際には身体に嬉しい効果がたくさんある優れた食用油です。ぜひ、上手く取り入れて、美容や健康に役立ててみてください。
また、本文でもご説明しましたが、油としてのカロリーはほかのものと同様です。質の良い油とは言え、摂り過ぎには注意して、ヘルシーライフを楽しみましょう。
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