ビジネスシーンにおいて必要不可欠と言えるのが、敬語の知識と場面に応じた敬語表現の使い分けです。場面に応じて適切な敬語表現を使うことは、もはやビジネスマナーの一つとされています。そのため、敬語の使い方を誤ればマナー違反ということになり、場合によっては自分自身の能力や信用度にも影響を与える可能性があるのです。
そして、敬語の知識と敬語の使い分けは、理解しているつもりでも間違いやすく注意が必要です。そんな使い分けに注意を要する敬語表現の中でも、特に気を付けなければならないのが「聞く」の敬語変換です。「聞く」の敬語表現として、ちょっと思いつくだけでも「お聞きする」・「伺う」・「お聞きになる」・「聞かれる」といったものがありますが、謙譲語と尊敬語の見分けがつくでしょうか?
そこで今回は、敬語の基本知識をおさらいしながら、「聞く」という動詞の敬語表現の使い分けについて、ご紹介したいと思いますので参考にしていただければ幸いです。
「聞く」の尊敬語・尊敬表現
本来ならば敬語表現の基本的使い方は、義務教育の段階で学んでいるのが通常です。とはいえ、学生の間における敬語を使う機会は意外と少ないので、学んだはずの敬語の使い方を忘れてしまう人も多いのです。
そこで、まずは敬語表現の一つである尊敬語・尊敬表現に関する基本知識を再確認した上で、「聞く」の尊敬語・尊敬表現について説明したいと思います。
敬語の種類
敬語表現は、目上の相手などに対して敬意を表するための言葉遣いのことです。そして、敬語表現は一般的に3種類(尊敬語・謙譲語・丁寧語)に分類されます。本記事においては、基本的に3種類の立場で説明していきます。
ちなみに、この3種類を更に細分化して、5種類(尊敬語・謙譲語・丁重語・丁寧語・美化語)で考える見解もあります。
尊敬語・尊敬表現とは?
尊敬語・尊敬表現は、行為・動作の主体である相手方を自分よりも上位の存在と考え、その相手方に話し手の自分から敬意を示す言葉遣いのことを言います。
別の言い方をすると、目上の人など敬意を払うべき相手が行為・動作をする場合に、その相手を「立てる」ために話し手の自分が使う表現方法が尊敬語・尊敬表現なのです。
そして、尊敬語・尊敬表現は、主に動詞・助動詞・形容詞の語形変化によって、敬意の意味がプラスされることになります。
動詞に関する尊敬語への主な語形変化
動詞に関しては、主に次のような形で尊敬語・尊敬表現へと語形変化します。
- 動詞の語彙そのものが変化 : 動詞「する」 → 尊敬語「なさる」
- お/ご … になる : 動詞「掛ける」 → 尊敬語「お掛けになる」
- お/ご … なさる : 動詞「掛ける」 → 尊敬語「お掛けなさる」
- 動詞に尊敬の助動詞「れる」や「られる」をつける
「聞く」の尊敬語・尊敬表現
前述のような動詞の語形変化を踏まえた上で、「聞く」という動詞の尊敬語・尊敬表現を見ると次のような形になります。
- 「お聞きになる」(お/ご … になる)
- 「聞かれる」(動詞に尊敬の助動詞「れる」)
ただし、助動詞「れる」・「られる」には受身や可能の意味もありますので、文章によっては尊敬の助動詞と意味が判別しにくくなります。そのため、基本的には「お聞きになる」を使ったほうが良いでしょう。
「聞く」の尊敬語・尊敬表現の具体的な例文
ビジネスの現場では、敬意を表するべき対象や相手が沢山います。例えば、自分が勤務する会社の社内においては、先輩や上司(課長、部長、社長など)に敬意を示す必要があります。また、会社の社外においては、取引先企業の担当者は自分より年齢が下であっても敬意を示さなければなりません。
「聞く」の尊敬語・尊敬表現の具体的な例文は、次のようなものが挙げられます。
- 「課長は、取引先企業の社長の訃報を、お聞きになりましたか?」
- 「部長は、社内運動会のことについて、聞かれましたか?」
この場合、話し手である自分が上司である課長や部長に質問していますが、「聞く」という動作の主体は課長と部長です。そのため、敬意を払うべき上司の「聞く」という動作について、上司を「立てる」ために尊敬語・尊敬表現の「お聞きになる」や「聞かれる」を用いるのですね。
尊敬語・尊敬表現における注意点
尊敬語・尊敬表現において注意すべきポイントとして、二重敬語が挙げられます。
二重敬語とは、同じ種類の敬語を重ねることです。この二重敬語は、日本語として誤った言葉遣いとされています。
二重敬語を使ってしまうと、日本語として正しくないことはもとより、言葉遣いに厳格な相手方の場合には、相手方の感情を損ねる可能性があります。というのも、話し手が敬意を高めたつもりであっても、捉え方によっては慇懃無礼な態度に見られるからです。つまり、上辺の態度は丁寧であっても実は内心で馬鹿にしている、という印象を相手方に与えかねないのですね。
二重敬語の具体例
二重敬語の具体例を挙げると、次のようになります。
- 正しい例文:「課長は、取引先企業の社長の訃報を、お聞きになりましたか?」
- 二重敬語:「課長は、取引先企業の社長の訃報を、お聞きになられましたか?」
この二重敬語の例では、「お聞きになる」という尊敬語・尊敬表現に、更に尊敬の助動詞「れる」を重ねて使っています。
「聞く」の謙譲語・謙譲表現
このような「聞く」の尊敬語・尊敬表現について、思い出していただけたでしょうか?
それでは、次に敬語表現の一つである謙譲語・謙譲表現に関する基本知識を再確認した上で、「聞く」の謙譲語・謙譲表現について説明したいと思います。
謙譲語・謙譲表現とは?
謙譲語・謙譲表現は、行為・動作の主体である自分を敢えて下位の存在とすることにより、自分の行為・動作の相手方あるいは聞き手に対して敬意を示す言葉遣いのことを言います。
別の言い方をすると、話し手でもあり行為・動作の主体でもある自分がへりくだることにより、結果として相手方あるいは聞き手を上位の存在として高める表現方法が謙譲語・謙譲表現なのです。
そして、謙譲語・謙譲表現は、主に動詞の語形変化によって、敬意の意味がプラスされることになります。
動詞に関する謙譲語への主な語形変化
動詞に関しては、主に次のような形で謙譲語・謙譲表現へと語形変化します。
- 動詞の語彙そのものが変化 : 動詞「する」 → 謙譲語「いたす」
- お/ご … する : 動詞「掛ける」 → 謙譲語「お掛けする」
- お/ご … いただく : 動詞「待つ」 → 謙譲語「お待ちいただく」
「聞く」の謙譲語・謙譲表現
前述のような動詞の語形変化を踏まえた上で、「聞く」という動詞の謙譲語・謙譲表現を見ると次のような形になります。
- 「伺う」(動詞の語彙そのものの変化)
- 「拝聴する」(動詞の語彙そのものの変化)
- 「お聞きする」(お/ご … する)
ただし、「伺う」は「聞く」という動詞の謙譲語でありながら、その他の動詞の謙譲語でもあります。「伺う」は、「尋ねる」・「問う」・「訪れる」・「訪問する」といった動詞の謙譲語・謙譲表現でもあるのです。
この点、「尋ねる」や「問う」は「聞く」の同義語や言い換え表現ですから意味に大きな違いはありませんが、「訪れる」や「訪問する」という動詞の謙譲語としての「伺う」は意味がまるで異なりますので注意が必要です。
「聞く」の謙譲語・謙譲表現の具体的な例文
ビジネスの現場では、敬意を表するべき対象や相手が沢山います。尊敬語・尊敬表現の場合と同様に、社内上司や取引先企業の担当者などには、自分がへりくだってでも相手方を「立てる」必要な場面が多々あるのですね。
「聞く」の謙譲語・謙譲表現の具体的な例文は、次のようなものが挙げられます。
- 「課長のご意見を伺いたいのですが…。」
- 「部長の会議でのスピーチを拝聴して、自分の課題と疑問点が明確になりました。」
- 客先で「商品の感想やご希望・ご要望を、お聞きしたいのですが…。」
この場合、話し手である自分が上司や顧客・取引先担当者に話しかけていますが、「聞く」という動作の主体は自分自身です。
そのため、敬意を払うべき相手方に対して、自分の動作を低めることによって相手方を「立てる」ために、謙譲語・謙譲表現の「伺う」・「拝聴する」・「お聞きする」を用いるのですね。
「聞く」の丁寧語・丁寧表現
それでは、最後に敬語表現の一つである丁寧語・丁寧表現に関する基本知識を再確認した上で、「聞く」の丁寧語・丁寧表現について説明したいと思います。
尊敬語・尊敬表現や謙譲語・謙譲表現に比べれば、理解も容易ですから簡単に説明したいと思います。
丁寧語・丁寧表現とは?
丁寧語・丁寧表現は、話し手が自分よりも目上として把握する聞き手に対して敬意を示す言葉遣いであり、伝達内容をより丁寧に表現するものでもあります。
そして、丁寧語・丁寧表現は、主に文末・語尾に「です」・「ます」・「ございます」をつけることにより敬意や丁寧さの意味をプラスします。
「聞く」の丁寧語・丁寧表現
「聞く」という動詞のの丁寧語・丁寧表現は、次のような形になります。
・「聞きます」
丁寧語は尊敬語や謙譲語とも組み合わせて使われる
丁寧語は、尊敬語や謙譲語という他の敬語表現と組み合わせて使われることもあります。このような組み合わせによって、話し手は相手方や聞き手に対して更なる敬意を示すことができるのです。
ちなみに、このような丁寧語と他の敬語表現との組み合わせは二重敬語には当たりませんので、問題なく用いることができます。
まとめ
いかがでしたか?敬語の基本知識をおさらいしながら、「聞く」という動詞の敬語表現の使い分けについて説明してみましたが、ご理解いただけたでしょうか?
「聞く」という動詞は基本的な言葉であり、日常的にも頻繁に使うものの一つです。とはいえ、「聞く」という動詞を敬語変換するだけでも、慣れないうちは戸惑ってしまいます。そして、現代のビジネスシーンでは口頭での会話だけでなく、ビジネスメールにおいても敬語表現が求められます。そのため、メール表現やメールの書き方の一要素として、敬語表現の知識が必要になるのですね。
今回は「聞く」という動詞にスポットを当てましたが、ぜひ本記事のきっかけにして、改めて自分自身の敬語表現を見直してみてはいかがでしょうか?
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