ある程度の大きさの企業・会社に勤務している会社員であれば、必ずつきまとうのが「人事異動」ですよね。実際に人事異動の対象者となれば、勤務場所・仕事内容・人間関係など大きな変更を余儀なくされますから、日常生活にも大きな影響が及びます。引っ越しを伴う転勤ともなれば、その影響は自分だけにとどまらず、配偶者や子供といった家庭・家族の生活にも関係してきます。
自分の希望職務への人事異動あるいは自分の出世に有利となる人事異動ならば心理的にも受け入れやすいと言えますが、逆に自分の望まない職務・部署への人事異動や出世に不利となる人事異動については心理的に受け入れることは容易ではありません。それでは、自分が望まない人事異動は、拒否しても良いのでしょうか?
そこで今回は、人事異動に関する基礎的な知識を再確認した上で、人事異動を拒否できるのかについて、ご紹介したいと思いますので参考にしていただければ幸いです。
人事異動に関する基礎的な知識
そもそも会社における人事異動について、どれだけのことを知っているでしょうか?会社において人事異動が実施される理由や目的くらいは、会社員である以上は知っておきたいところです。
そこで、まずは会社における人事異動に関する基礎的な知識について再確認しておこうと思います。
人事異動の種類
一口に人事異動と言っても、いくつかの種類があります。そこで、まずは人事異動の種類について、主なものを挙げてみたいと思います。
- 転勤:勤務場所の変更。引っ越しを伴うものと伴わないものがある
- 配置換え:同一勤務地内で勤務部署を変更するものです(例:本社人事部→本社経理部)
- 昇進(昇格):会社側が定める職階・地位が上がるものです(例:課長→部長)
- 降格(降職):会社側が定める職階・地位が下がるものです(例:主任→平社員)
- 派遣:顧客先などに従業員を派遣するもの(例:SEが顧客企業に常駐するケース)
- 長期出張:一時的に従業員の勤務場所を変更するものの、同一業務を行うもの
- 応援:一時的に従業員の勤務場所と業務を変更するもの(例:震災復旧のケース)
- 出向:自社との雇用契約を残しつつ、他社に雇用されて他社の業務を行うもの
- 転籍:自社との雇用契約を打ち切り、他社に雇用されて他社の業務を行うもの
会社側が人事異動を実施する理由と目的
会社側が社員・従業員の人事異動を実施するのには、いくつかの理由と目的が存在しています。
適材適所となる人材の配置
基本的に企業・会社は営利目的の組織ですから、利益をあげるために合理的である必要性があります。そして、人には向き不向きがあるものであり、採用時には見えなかった適性が入社後に判明することもあります。それゆえ、利益をあげるために適切な人員配置とするために、人事異動を実施するのです。
また、事業環境の変化に伴って、会社の事業方針が変化することもあります。例えば、事業を縮小する方針になれば、事業所の閉鎖もあり得ます。その際には、消極的な理由となりますが、人事異動が発生するでしょう。
人材育成
会社の幹部候補となる人材には、会社全体を見る視点が必要となります。そのため、営業職や企画職といった様々な部署で配置換え(配置転換)あるいは管理職へと昇進・昇格させるなど、多くの経験を積ませるために人事異動を実施するのです。
組織活性化
人は慣れる性質があり、同じ仕事をしていると慣れから注意力や集中力が欠けていきます。その結果として、組織としても活力を失い、会社の成長も阻害されます。そのため、定期的に人事異動をすることにより、組織の活性化を図るのです。
不正防止と職場環境・社内規律の維持
同じ仕事を一人の従業員に担当させていると、その仕事が属人化してしまい上司・管理職の目も届きにくくなることにより、不正の温床となる可能性があります。従業員の使用者である会社側としては、従業員の不正防止にも気を配る必要があるのです。そのため、定期的に人事異動をすることにより、不正の抑止力としているわけです。
また、近年はセクハラ・パワハラといったトラブルにも、会社側は対処しなければなりません。職場環境や社内規律を維持するためにも、その対処法の一つとして人事異動が実施されることがあります。つまり、懲戒処分としてトラブルの加害者を異動させるのですね。
人事異動を拒否できるのか?
それでは、このような人事異動に関する基礎的な知識を踏まえた上で、自分が望まない人事異動について拒否をしても良いのでしょうか?そこで、会社員の人事異動における拒否の可否について、ご紹介したいと思います。
人事異動の拒否を巡る問題の本質
多くの日本企業には、正社員に限定すれば未だ終身雇用の慣行があり、雇用が保証されています。そのような慣行の存在ゆえに日本のの労働法制では、労働契約法などで企業側による従業員の解雇は大きく制限されています。その代わりに、企業側には従業員の異動について広範な裁量、つまり人事権が認められているのです。
一方で、無制限に企業側の人事権が認められると、従業員には勤務場所・仕事内容・人間関係などの変更といった様々な不利益が生じます。
ですから、人事異動の拒否を巡る問題の本質は、企業側に認められる人事権と従業員の不利益の間の調整と言えるのです。
原則として人事異動は拒否できない
前述のように正社員に限定すれば、日本では企業側に広範な人事における裁量が認められます。それゆえ、雇用が保証される従業員側は、明らかに不当と言えるような特別な事情がない限り、原則として人事異動は拒否できないと考えるべきでしょう。
加えて、就業規則に「業務の都合によっては転勤や配置転換など人事異動を命じることがある」というような内容の規定があれば、人事異動が業務命令となるのです。そのため、業務命令としての転勤命令などの異動命令を拒否すると、業務命令違反となって懲戒の対象となりうるのです。
辞令と内示
人事異動の命令が正式に発令されること及びその命令を記した書面のことを「辞令」と言います。多くの会社では通常、正式な人事異動命令の辞令に先立って、2~3週間前に辞令の予告として「内示」されます。つまり、異動を予告することにより、異動のための準備や調整などの期間を設けているのですね。
そして、内示の段階であっても、明らかに不当と言えるような特別な事情がない限り、原則として人事異動は拒否できないと考えるべきなのは同じです。
人事異動を拒否できるケースは?
このように人事異動が自分の望むものであっても自分の望まないものであっても、正社員である限りは人事異動を拒めないのが原則です。とはいえ、原則には例外がつきものです。そこで、例外的に人事異動を拒否できる可能性があるケースについて、ご紹介したいと思います。
入社時に示された労働条件と異なる
会社で従業員として働くということは、会社との間で雇用契約・労働契約を締結しているということになります。とすれば、入社時に会社側から勤務地の限定といった条件が示されていれば、その契約内容が優先されることになります。
ですから、入社時に勤務地や職種の限定を約束していれば、その範囲を超えた人事異動は契約違反となりますので、異動を拒否できることになります。入社時に取り交わした雇用契約書・労働契約書・採用通知の雇用条件書などは、しっかりと保管しておくことが大切になります。
従業員にやむを得ない事情がある
前述のように原則として企業には人事権が認められますが、従業員の被る不利益があまりにも大きい場合には、企業の人事権も合理的な範囲に制限されます。つまり、従業員の側に、やむを得ない事情がある場合には、人事異動を拒否できる可能性がありうるのです。
例えば、親に介護が必要であって介護可能な親族が自分しかいないケースでは、引っ越しを伴う転勤や長期出張を命じられると従業員側に大きな不利益となるので、人事異動を拒否できる可能性があります。
ただし、その不利益の度合いの判断は非常の相対的なものですので、必ず拒否が認められるわけではないことには注意が必要です。
人事異動に不当な目的がある
前述のように原則として企業には人事権が認められますが、その権利を不当な目的のために使っていることが明らかであれば、正当な権利行使と言えないので人事異動を拒否できる可能性があります。
例えば、リストラ目的で従業員に対して意図的に遠隔地域への転勤を命じたり、閑職に追いやるケースです。会社都合退職は労働基準監督署への届出が必要になったり、助成金の用件が欠けるといった会社側に不都合となることが多々ありますので、従業員が自己都合退職をするように仕向けるわけです。
このようなケースでは、会社側に不当な目的があるわけですので、人事異動を拒否できる可能性があるのです。ただし、その会社側の不当目的を証明する立証責任は従業員側にありますので、人事異動の無効が認められるには裁判などを経るのが通常で時間や費用がかかってしまいます。
まとめ
いかがでしたか?人事異動に関する基礎的な知識を再確認した上で、人事異動を拒否できるのかについて説明してみましたが、ご理解いただけたでしょうか?
たしかに、自分の希望職務への人事異動あるいは自分の出世に有利となる人事異動ならば心理的にも受け入れやすいと言えます。しかし、自分の望まない職務・部署への人事異動や出世に不利となる人事異動については心理的に受け入れることは容易ではありません。となると、人事異動を拒否したくなるのも人情ですが、実は会社員である限り原則として人事異動を拒否することはできないのですね。
のぞまない人事異動を退職理由として退職・転職することは個人の自由ですが、感情的になって判断することだけは避けましょう。まずは冷静になって、異動先で働くことと転職することのどちらが自身のキャリアアップにつながるか判断することが肝要です。本記事が、あなたの参考となれば幸いです。
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