突然ですが、「食べる」の尊敬語や謙譲語を迷いなく答えられますか?
社会人として身につけておかなければならない基本的なビジネスマナーの一つが、尊敬語・謙譲語・丁寧語といった敬語の使い分けです。仲間内や身内の人間関係であれば許されるフランクな言葉使い(言葉遣い)も、ビジネスシーンで使ってしまうとマナー違反であり、時には自分自身の信用度を低下させてしまう可能性もあります。そのため、敬語の使い分けは、私達が思っている以上に注意が必要なのですね。
そんな敬語表現の中でも、特に注意しなければならないのが「食べる」という動詞に関する敬語の使い分けです。そこで今回は、敬語の基礎知識を再確認した上で、「食べる」の尊敬語・謙譲語・丁寧語の使い分けについて、ご紹介したいと思いますので参考にしていただければ幸いです。
敬語の基礎知識
そもそも敬語の種類や使い方は学校で勉強しているはずですが、しっかりと覚えているでしょうか?「食べる」の尊敬語・謙譲語・丁寧語の使い分けについて理解するには、敬語の基本的な知識の理解が欠かせません。
そこで、まずは敬語の基礎知識について再確認しておきたいと思います。
尊敬語とは?
尊敬語とは、動作の主体である相手を高めて、その相手に対して話し手が敬意を表する言葉使いです。例えば、会社の上司や先輩、取引先の相手やお客様、といった目上の人や敬意を払うべき人が動作の主体である場面で、その敬意を払うべき相手に対して話し手が「相手を立てる」ために用いる尊敬表現です。
尊敬語の基本的なパターンは、主に次の通りです。
・動詞が語形変化する
(動詞「する」→尊敬語「なさる」、動詞「言う」→尊敬語「おっしゃる」)
・「お~になる」・「ご~になる」
(動詞「待つ」→尊敬語「お待ちになる」)
・「お~なさる」・「ご~なさる」
(動詞「出席する」→尊敬語「ご出席なさる」)
・尊敬の助動詞「れる」・「られる」
(動詞「待つ」→尊敬語「待たれる」、動詞「出席する」→尊敬語「出席される」)
謙譲語とは?
謙譲語とは、動作の主体であり話し手でもある自分側を低めて、動作の相手(客体)や聞き手に敬意を表する言葉使いです。言い換えれば、話し手である自分がへりくだることによって結果的に相手方や聞き手を上位の存在として敬う、という意味合いが謙譲語にはあるのです。
謙譲語の基本的なパターンは、主に次の通りです。
・動詞が語形変化する
(動詞「する」→謙譲語「いたす」、動詞「言う」→謙譲語「申しあげる」)
・「お~する」・「ご~する」
(動詞「伝える」→謙譲語「お伝えする」)
・「お~いたす」・「ご~いたす」
(動詞「連絡する」→謙譲語「ご連絡いたします」)
・「お~いただく」・「ご~いただく」
(動詞「買う」→謙譲語「お買いいただく」)
丁寧語とは?
丁寧語とは、話し手が聞き手に対して敬意を表して、物事を丁寧に伝えるための言葉使いです。丁寧語は尊敬語や謙譲語のように語形変化することはなく、基本的に文末や語尾が「です」・「ます」・「ございます」に変化するのみです。
尊敬語と謙譲語の比較
このように敬語には、尊敬語・謙譲語・丁寧語の3種類があります。そして、単に物事を丁寧に伝える丁寧語は別にして、尊敬語と謙譲語の違いは以下の2点がポイントになります。
・尊敬語は相手を立てて、謙譲語は自分がへりくだる。
・尊敬語は動作の主体が相手であり、謙譲語は動作の主体が自分側である。
このように尊敬語と謙譲語は、結果的に相手や聞き手に敬意を表する点では同じですが、表現のアプローチ方法が異なるわけです。
ちなみに、尊敬語と謙譲語の違いが難しく感じるのは、動詞が語形変化してしまう点にあると言えるかもしれません。例えば、動詞「する」を見てみると、尊敬語では「なさる」に変化し、謙譲語では「いたす」に変化します。このように尊敬語と謙譲語で動詞が異なる語形変化をすると、とても混乱しやすいのですね。
「食べる」の尊敬語・謙譲語・丁寧語の使い分け
それでは、「食べる」という動詞を敬語にする場合、どのように尊敬語・謙譲語・丁寧語で使い分けるのでしょうか?
「食べる」という動詞は、特に尊敬語と謙譲語で異なる語形変化をするので注意が必要です。そこで、「食べる」という動詞の尊敬語・謙譲語・丁寧語の使い分けについて、ご紹介したいと思います。
「食べる」の尊敬語
「食べる」の尊敬語は、いくつか存在します。前述の基本的なパターンに当てはめると、次のようになります。
・「召し上がる」(動詞の語形変化)
・「お食べになる」(「お~になる」)
・「食べられる」(尊敬の助動詞「られる」)
「食べる」という動作の主体である相手を高めて、その相手に対して話し手が敬意を表するため、「〇〇が召し上がる」・「〇〇がお食べになる」・「〇〇が食べられる」となります。
具体的な例文
「今日は校長先生が私達の教室で、一緒に給食を召し上がりました。」
校長先生という目上の人が「食べる」の動作主体であり、話し手が校長先生に対して敬意を表しています。
具体的な会話例
例えば、ビジネスシーンで良くあるケースで、取引先の人たちやお客様が自社に訪れた場合には、コーヒーやお茶などの飲み物やお茶菓子を出すことがあります。
この場合、飲み物やお茶菓子を「食べる(飲む)」のは訪問客ですから、「食べる(飲む)」の動作主体は訪問客である取引先の人たちやお客様です。そして、その動作主体を高めて敬意を表しつつ、相手に「食べる(飲む)」ように勧める際に「どうぞ、召し上がってください」あるいは「温かいうちに、召し上がってください」などと言うのです。
同じように例えば、接待などで取引先の人たちを食事に招く場合は、料理を「食べる」動作主体は招かれた取引先の人たちです。そして、その動作主体である取引先の人たちを高めて敬意を表しつつ、料理に手をつけるように勧める際に「どうぞ、召し上がってください」あるいは「どうぞ、お食べになってください」という言い方になるのです。
「食べる」の謙譲語
「食べる」の謙譲語は、動詞が語形変化した「いただく」と「頂戴(ちょうだい)する」の2種類です。
「食べる」という動作の主体であり話し手でもある自分側を低めて、「食べる」という動作の相手方や聞き手に敬意を表します。
具体的な例文
「お昼ご飯に社長からの差し入れの豪華な弁当をいただき、美味しさに感激しました。」
話し手であり「食べる」という動作の主体がへりくだることによって、相手の社長に敬意を表しています。
具体的な会話例
例えば、ビジネスシーンで良くあるケースでは、取引先の人たちやお客様を訪問した場合にはコーヒーやお茶などの飲み物やお茶菓子が出されることがあります。
この場合、相手側は訪れた客である自分側に対して敬意を表しつつ、飲み物やお茶菓子を「食べる(飲む)」ように勧める際に「どうぞ、お召し上がりください」あるいは「温かいうちに、お召し上がりください」などと尊敬語を使うのは前述の通りです。
これに対して、訪れた側は飲み物やお茶菓子を「食べる(飲む)」にしても、一言お礼や謝意を述べるのが礼儀でありビジネスマナーです。この場合、「食べる(飲む)」という動作の主体は自分側であり、相手側に敬意を表するために自分側がへりくだった謙譲表現が必要になります。そのため、飲み物やお茶菓子に手をつける前に、「ありがとうございます。お言葉に甘えて、いただきます。」や「恐縮です。頂戴します。」などと一言添えるのです。
「食べる」の丁寧語
「食べる」の丁寧語は、語尾を「ます」に変化させて「食べます」となります。簡単ですから、特に具体例なども必要ないでしょう。
二重敬語には要注意
このような「食べる」の尊敬語・謙譲語・丁寧語の使い分けは、ビジネスマナーとして必ず押さえておかなければなりません。
加えて、注意しなければならない事項として、二重敬語が挙げられます。特に相手への敬意や配慮の気持ちを示そうとすると、敬語に敬語を重ねてしまい二重敬語となりがちです。しかし、二重敬語は正しい日本語の言葉使い・用法としては誤りであって、言葉使いに厳しい人など受け取り手によっては慇懃無礼(いんぎんぶれい)に感じられる可能性もあります。
ですから、尊敬語と謙譲語の使い分けをマスターした上で、二重敬語にならないように気を配る必要があるのですね。
二重敬語の具体例
例えば、「社長、今日の昼食は召し上がられましたか?」という質問では、「食べる」という動作の主体である社長に敬意を表しつつ、話し手は社長が昼食を食べたかどうかを確認しています。しかし、「食べる」が語形変化した「召し上がる」で尊敬表現となっているところに、尊敬の助動詞「られる」が重なって二重敬語になっています。
また、「社長、今日の昼食はお食べになられましたか?」という場合も同様で、「お~になる」という尊敬表現に、尊敬の助動詞「られる」が重なっています。
ですから、このような二重敬語については、本来の日本語の用法としては適切ではないのです。
ただし、「お召し上がりください」や「お召し上がりになる」は社会的にも頻繁に使われています。そのため、本来の用法ではなくとも、社会的に許容されていると考える見解もあるようです。
まとめ
いかがでしたか?敬語の基礎知識を再確認した上で、「食べる」の尊敬語・謙譲語・丁寧語の使い分けについて説明してみましたが、ご理解いただけたでしょうか?
たしかに、敬語表現の中でも「食べる」という動詞については、尊敬語と謙譲語が語形変化して異なるために、敬語の使い分けで混乱したり誤用しがちです。しかしながら、尊敬語・謙譲語・丁寧語といった敬語の使い分けは、社会人として身につけておかなければならない基本的なビジネスマナーの一つです。敬語の使い分けを間違い続けると、それがマナー違反であることはもちろん、時には自分自身の信用度を低下させてしまう可能性もあります。
ですから、本記事などを参考にして今一度正しい敬語の用法をチェックして、敬語を使うべき対象者と自分の関係性を意識し直し、適切な敬語を使うようにしましょう。
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