昔から、へそのゴマを取ってはいけないと言われて育った方は多いと思います。理由は腹痛を起こすからというものでした。
根拠がないわりには全国に浸透していて、年代差がないことに驚かされます。江戸時代は藩を超えた民間の交流はないに等しく、それ以前も元から農業中心の地元社会でしたから情報網もありません。にも関わらず、しっかりと「へそのゴマを取ってはいけない」という戒めが、常識のように津々浦々と伝わっていたのです。
いかに下手な取り方で臍炎を起こして苦しんだ人が多かったかということです。ここでは昔から恐れられてきた臍炎についてご説明します。
乳幼児の臍炎
赤ちゃんは胎内で成長するために、母親から臍の血管を使って栄養をもらいます。太い血管に細い血管が巻き付いて1本の臍になっています。産後、赤ちゃんは臍の血管と共に外界に出ますが、肺で呼吸して口で授乳される段階では不要な存在です。
そこで切断して毎日ケアしているうちにきれいに剥がれます。通常はそれで問題なく幼児になるのですが、中には傷が癒えなくて炎症をおこしてします赤ちゃんもいます。少子化で、身近に赤ちゃんの育て方にアドバイスできる方がいない場合はご参考ください。
赤ちゃんの臍炎とは
赤ちゃんは泣くのが仕事と言われていますが、ぐっすり眠る時は眠るものです。新生児は確かに一日中、授乳とおむつ交換で眠るヒマがないくらいによく泣きます。
新生児とはいえ個性があるので泣き方も様々、弱々しい泣き方が普通の状態であったりもします。育児経験がある母親でさえ、新生児期は異常があっても分かりにくいものです。まして、初めての育児をする母親では理解できません。
もし、泣き止まないだけでなくミルクの飲み方も少ないようでしたら、お臍に当てたガーゼをめくって明るいところで観察してみてください。入浴後は風邪をひかさないように、すぐにガーゼ交換をするので見落としているかもしれません。
新生児臍炎
お臍のガーゼ交換時にお臍の切断部だけでなく、その周辺の肌の状態も観察してみてください。切断部がジュクジュクしていたり、お臍の周りの肌が赤くなっていないでしょうか。場合によっては出血や、明らかな化膿も見られます。
そっと臍周辺の肌に触れてみて、熱さを感じてみてください。他の腹部の肌と体温が同じかどうか、確認してみましょう。臭いも重要な観察点です。臭いがして、見た目も炎症らしきものがあれば小児科や小児内科での受診をお勧めします。
臍は、ただ赤ちゃんの皮膚で蓋をされているわけではありません。赤ちゃんの体内奥深くまでルートは確立したままなのです。つまり、赤ちゃんの臍から侵入したものは全て赤ちゃんの体内に運ばれて行きます。お腹に菌がばらまかれて腹膜炎になれば生命の危機になります。
ケアの注意点
オムツの当て方は患部のガーゼに当たらないよう配慮するのはもちろんのこと、抱っこの方法も注意が必要です。ミルクを飲ませた後、立てて抱いて背中をさすったり、軽くたたいてゲップを出させたりします。その時に保護者の身体に密着しますので、軟らかいタオル等を患部に当ててガーゼがずれないよう、工夫しましょう。
ガーゼ交換前、交換する人は手指消毒液でしっかり消毒してください。感染に対する力は少ないので細かい配慮が必要です。
治療法
病院では、抗生物質の投与と塗り薬で対応します。徹底的な消毒から始まりますが、赤ちゃんが痛がって泣く姿に負けて保護者であれば手を抜くかもしれません。しかし、まずはここが一番重要です。プロに任せて、しっかり炎症部位を消毒してもらいましょう。
完全に治しきるまで、ガーゼ交換と消毒、投薬をしてもらうために通院してください。不完全では深部に炎症を残してしまい、悪化させる原因となります。
毎日のケアは家族が行いますが、完治する前に赤ちゃんが急に発熱したり、ぐったりすれば内部の感染を疑って即、受診してください。
臍肉芽腫
化膿しているだけでなく、患部が腫れて盛り上がってしまう症状です。ジュクジュクしているだけの状況と違って、お臍の患部が膨らみ、中央に赤くてツルンとしたゼリーのような塊がみられます。
一見して異変を感じることができますので、いつの間にか悪化することはないと思いますが、そのうち乾燥するだろうと楽観はしないでください。身体の外側に腫れだしているので体内への影響は少ないと思われますが、放置してしまうと患部が深層にも影響を出します。
治療法
患部の大きさは大小様々ですが、臍肉芽腫ができてしまったら家庭の消毒や家にある化膿止めの塗り薬で様子をみることをせず、小児外科で受診してください。
臍肉芽腫に対して病院では、一般的に外科的切除や硝酸銀で焼いてしまう治療を行います。早ければ早いほど、切除面も焼却部も小さくて済みますので、ためらわずに治療を受けましょう。
家庭での衛生ケアは、術後になるのでより慎重になります。授乳後のゲップの出し方も、新生児臍炎に対する配慮同様、お臍が大人の身体に当たらないよう工夫が必要です。
詳しくは、臍肉芽腫ってなに?症状や原因、治療法を知ろう!予防する方法は?を参考にしてください。
尿管膜遺残症について
新生児や幼児よりも体力がある分、小児の臍炎が安心かというと決してそんなことはありません。確かに、幼児は自分で家族に身体の異常を知らせることができます。しかし、それは同時に自分で触れるようにもなっているということになります。
どうも、お臍ばかりいじってる、お臍が赤い、その症状が見られたら小児科で診てもらいましょう。皮膚科よりも小児科が適任です。その理由は、もしかしたら尿間膜遺残症かもしれないからです。
尿管膜の遺残とは
胎内においては臍帯と膀胱は尿膜管でつながっていて、尿の排泄が機能されています。
生後、この尿膜管は必要がないので退化して閉鎖され、臍との関連を失います。閉鎖されないと身体にとって有害なアンモニアが臍から漏れたり、感染して膿疱ができたりトラブルの元になります。形態により3つに分類されます。
原因は胎生期にあっても小児から成人まで、発症の年齢は幅広いのが特徴です。痛み、腫れ、そして強い臭いが臍からします。
ちょうどベルトのあたりで擦れるので、早いうちから痛みを自覚する人がほとんどです。強い痛みになることから、放置していつの間にか悪化するというものではありません。
治療法
体内で炎症して膀胱にいたると感染症を起こします。悪化すると腹膜炎を発症するので、しっかりと治療を受けることが必要です。排膿切開といって、切り開くという外科処置をして膿を排出します。その上で抗生物質の投与が必要になりますが、服用方法はしっかりと指示に従ってください。
中途半端なケアで中断すると再発のリスクが高くなります。また、抗生物質を飲み忘れたり、飲みすぎると副作用があるだけでなく効果が半減する場合もあります。
症状が落ち着いたら、尿管膜そのものを全摘出するケースがほとんどです。
尿管膜廔
臍と膀胱がそのまま直結して残ったタイプの尿管膜遺残症です。臍からの尿排泄が見られます。この場合、発見しやすいことはメリットといえます。しかし、体外にアンモニアが排泄されるというのは大きなリスクです。
真っすぐ一本の管、というより遺り方によって尿排泄の量は違います。発見のされ方は症状の大きさと保護者の観察度によって時期が変わってきます。
問題は、ただの体液が漏出するのではなくてアンモニア成分を含む尿だということです。アンモニアというのは尿として排泄されるべき有毒な物質です。もし尿管膜が傷ついて、体内に混入してしまうということは汚染されることを意味します。
臍から液体が滲み出ていれば、幼児の容態に関わらず診察を受けることが重要になります。
尿管膜洞
臍から膀胱まで直結しないまでもつながったラインで、尿管がトンネルのように部分的に膜が広がる現象です。体外からの影響をダイレクトに受けやすく、臍から見て異常を発見しやすいタイプのものです。
子供が何かしら臍をいじる時は、臍に注目してください。観察してみて、痛がらなくても盛り上がった感じであれば受診しましょう。
放置すれば尿管膜症に移行する可能性があります。臍から膀胱につながるということは、外部からの感染が大きなリスクです。臍の汚れと共に外気に含まれる細菌が、尿管膜洞に満ちています。それがそのまま膀胱に流れて膀胱炎を起こすことだけは避けなくてはなりません。
化膿性尿管膜嚢胞
これは臍と膀胱の間に空間ができて、その間に化膿した体液が袋につまったようになっています。臍にも膀胱にもつながっていませんが、外見に現れにくいので発見も遅れがちです。
発見されないので化膿するまで自覚症状に乏しいのも特徴です。臍周りの痛み、押すと圧痛が強くなりますが、正確にはCTスキャンの撮影で診断します。
腹膜の近くで炎症部位があるというのは、容易に腹膜炎に移行するリスクがあります。患部の大きさ、膀胱への位置の問題もありますので手術方法は一概には言えません。尿管膜ごと摘出しますので主治医の指示に従ってください。
臍からの異常が見てとれないタイプですので、患者の理解が難しく手術が遅れがちなのが大きなリスクといえる症状です。
幼児期以降の臍炎について
普通に生活していて、急に臍周りに激痛があったり、臍が腫れたりする症状です。稀に尿管膜が残っていたのが成人になって炎症を起こすケースもありますが、だいたいはお風呂での洗い方や臍のケア方法に問題があって臍炎になります。
症状の重さによって治療方法もさまざまですが、痛みが酷くなると着衣が触れただけでも激痛なので社会生活が困難になります。悪化すると緊急手術も必要な臍周囲炎に進行します。
臍から臭う
尿管膜遺残症も同様に臍の臭いが酷いのですが、生活習慣から発生した臍炎の臭いは強烈です。垢と胎脂の塊、つまり臍のゴマが臭いの元です。
長い時間をかけて臍に溜まったゴマが、汗や湿気で蒸れて臭いを発します。しかも細菌の塊でもあるので、水分で繁殖が進みます。増えた最近は、わずかな皮膚の裂け目から皮下に侵入して炎症を起こします。
そこで更に腐敗臭も重なるのです。患部の腫れより何より、とにかく臭いのきつさが特徴です。腫れも痛みも悪化すれば大変厳しいものですが、それは患部の状況次第と言えます。腫れが少なくても、痛みがなくても臍炎は臭うのです。
見た目からして臍のゴマが多くて、臭いが酷い場合はじっくりと臍のケアに取り組んでみましょう。腫れも痛みもない臍で、臭いがやけにきつい場合は予防のケアが重要です。炎症を起こしてからでは自分でケアするのは危険です。
自分で直視しながらできる場所ではありませんし、腹膜の上に臍があるので傷つくと腹膜炎を起こす可能性があるからです。
治療法
通院レベルになると外科処置や抗生物質の投与を受けます。ここで大切なことは、医師の指示に従って、最後まで完治するということです。
ほとんど痛みがなくなってしまえば通院を止める方も少なくありません。しかし、臍炎は繰り返す可能性があります。細菌だらけの環境で再発しやすい上に、その度に抗生物質を繰り返し投与されれば効かない身体になる恐れがあります。
かなり時間がかかりますが、ここは医師の完治宣言を受けるまで頑張って治してください。
臍炎の予防法
綿棒、綿花、消毒液、ベビーオイル、手鏡、この5点を用意します。もしあれば、立ち鏡の前でケアしてみてください。部屋を暖かくして作業にかかりましょう。つい作業に夢中になってしまって長時間になった場合、風邪をひきかねません。
ベビーオイルに浸した綿棒でそっと臍の中に入れて、オイルを染み込ませます。充分にオイルが染み込んだら、お臍をしまって30分くらい待ちましょう。オイルが馴染んで皮膚から少し浮いたところで、新しい綿棒でそっとなぞって動くゴマを除去します。
その時、少し剥がれかかっているゴマを見つけたら、つまんで引っ張りだしたい欲求にかられるかもしれません。無理は禁物です。
取れるだけ取ったら、手鏡や立ち鏡で観察してみてください。出血や腫れがないかどうか確認して、問題なければ綿花に消毒液をかけて臍に何回か押し当てます。
注意点
もう少し、もう少しと意地にならないことです。ついつい触りすぎて傷をつけると、そこから細菌に感染して臍炎を起こすからです。
臍のゴマが取れてきれいになるのは嬉しいことです。水着で浜辺を歩くのに汚い臍ではみっともないからと、夏に念入りに臍のゴマを取る人もいますが、炎症を起こせば外見が損なわれます。
日常のケア
一番、良い方法はお風呂に入るたびに石鹸で軽く臍をこすり、シャワーで流すことです。臍炎になった方で、患部を洗浄したら石鹸カスや毛が出てきたケースもあります。
臍を少し拡げて、優しくシャワーを当てて汚れを取りましょう。洗い残しが垢となり、細菌の温床になるからです。そのあと、湿気を取るために綿棒を臍につけます。決して押し込んだりせず、水分が取れることを目的にします。
日々、少しづつケアする方が臍炎予防に最適な方法です。臍のゴマを取るなという昔の言い伝えは、臍炎から腹膜炎になって死に至るケースから出来た戒めと言えます。
臍周囲炎
臍炎の悪化バージョンです。臍から始まった炎症部位が拡大し、あるいは深部に達して症状が重篤化したものを指します。腹膜炎を併発する可能性が高くなり、敗血症をひき起こせば一気に全身の感染症を引き起こして生命に関わります。外科処置はもちろんのこと、入院して手術を受けることも視野に入れての対応となります。
症状と治療法
臍の痒み、痛みだけでなく臍から肉が盛り上がったり、出血や膿が見られたりします。腹痛を強く訴える方もいて、その痛みの強さから臍が原因と思えず胃腸炎と自覚するレベルです。
臭いの強さも特徴ですが、腹痛の強さでチェックポイントから外れます。いずれにせよ、病院の血液検査で白血球数値が高く出ますから、腹部の視診で異変に気付いてもらえるでしょう。
強い痛みがなくても、臍に炎症反応が見られる中で高熱が出れば、敗血症の疑いありとみてすぐに内科を受診してみてください。
まとめ
臍というのは昔から神秘的な場所でした。臍にまつわる数々の迷信にも、臍に対する畏怖に近い思いを感じます。
何かしら体外と体内のルートであり続ける印象が持たれていて、それは今日も同じです。臍の炎症、臍炎は身近な脅威として恐れられてきました。実際に今でも臍炎は外科治療や抗生物質の投与対象で患者も少なくありません。
昔であれば、ほぼ臍周囲炎から腹膜炎に移行して敗血症をひき起こし、絶命にいたったことでしょう。だから、臍のゴマを取るなという言葉が全国で言い伝えられたと推察されます。衛生面でも治療面でも向上した現代では、知ることで予防できる病気です。しっかりと知識を持って、安心して臍と向き合っていきましょう。
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