梅雨時から夏場にかけての時期は、ダニが最も発生しやすいとされる期間です。この時期に、朝起きると何だか身体に痒み(カユミ)が生じていて、痒みのある皮膚の場所を確認してみたら、虫刺されのような痕(跡)があったという経験をした人もいるかもしれません。
虫刺されというと同じく夏場に被害の多い蚊をイメージする人が少なくありませんが、実はダニ刺されの被害も案外多いのです。そして、ダニに刺された際の痒みは蚊に刺された時よりも酷い場合が多く、またダニに刺された痕は対処の仕方によっては長く残ってしまうこともあります。
そこで今回は、痒みを伴うダニ刺されの特徴や対処方法、ダニに刺されないようにするための予防方法などについて、ご紹介したいと思いますので参考にしていただければ幸いです。
人と関わりのあるダニとは?
そもそも人を刺すことのあるダニとは、どのような生物なのでしょうか?
また、一口にダニと言っても数多くの種類が存在しますので、人と関わりのあるダニはどれくらいいるのでしょうか?そこで、まずは人と関わりのあるダニについて、ご紹介したいと思います。
ダニとは?
ダニとは、節足動物の中でも8本の足を持つクモやサソリを含むクモ綱(クモこう)に分類され、クモ綱の分類の中でもダニ目(ダニもく)に分類される小型生物のことです。
ダニの多くは体長が1㎜以下で、世界中に2万種程度の種類が存在しているとされています。ダニの生態はとても様々で、生息域も熱帯地域から寒冷地域まで広く分布しています。
人と関わりのあるダニは?
このように世界中に2万種近く存在するダニですが、実は人と関わりを持つダニの種類は多くはありません。とはいえ、その少ない種類のダニが、様々な被害を人間に及ぼします。
吸血性のダニ
人の血液を吸血するタイプのダニとしては、マダニとイエダニが挙げられます。
マダニ
マダニは、普段は草むらや山奥などに生息していて、鹿などの野生動物に寄生し吸血を行います。しかしながら、キャンプや山登りなどアウトドアブームの広がりで、人間に直接被害が及ぶことも多くなっている傾向があります。
マダニは、吸血の際に様々な感染症を媒介することで知られ、日本紅斑熱・Q熱・ライム病などが有名ですが、近年の日本国内においてマダニによる感染が確認された重症熱性血小板減少症候群では複数の死亡例が発生しているので注意が必要です。
イエダニ
イエダニは、普段は主にネズミに寄生して吸血を行いますが、都市化によるネズミの生息域の広がりから、人間にも吸血被害が及ぶようになっています。ネズミを駆除しても、ネズミの巣や行動範囲内にはイエダニが残存している場合があり、それらが家の中に自然要因で運ばれてくる可能性も否定できません。そして、イエダニに刺されて吸血されると、痒みを伴う発疹が生じます。
人に寄生するダニ
マダニやイエダニのように吸血するわけではありませんが、人に寄生をするタイプのダニがいます。このタイプのダニは、ヒゼンダニやニキビダニなどが該当します。
ヒゼンダニ
ヒゼンダニは、人の手首・手の平・ひじ・わきの下などの皮下に小さな穴を掘って寄生し繁殖します。ヒゼンダニに寄生されると、疥癬(かいせん)という皮膚病が発症し、全身性の丘疹(赤いブツブツ)などが現れ、激しい痒みが生じます。疥癬は、布団表面などを通じてヒゼンダニが他人に感染することもある皮膚感染症ですので、注意が必要です。
ニキビダニ
ニキビダニは、人だけに限らず哺乳類全般の分泌腺・毛包に寄生するダニで、人においては皮脂腺の多い顔面部に多く見つかるので俗名で「顔ダニ」とも呼ばれます。生まれたばかりの新生児には寄生していませんが、親の頬ずり・授乳などを通じて、ほとんど100%に近い割合で人への寄生が進みます。
ニキビダニは余剰な肌の皮脂を処理してくれるなど良い効果をもたらす一方で、免疫不全疾患やステロイド系外用薬の使用歴があるとニキビに似た発疹を生じるニキビダニ症を発症する可能性があります。
アレルギーの原因となるダニ
人に寄生するわけではありませんが、ダニの死骸・糞・脱皮殻などがハウスダストとなって、人にアレルギー疾患を引き起こさせるダニもいます。チリダニやヒョウヒダニなどが該当します。
チリダニ・ヒョウヒダニ
チリダニ・ヒョウヒダニは、部屋の中のホコリに含まれる有機物をエサとしていて直接的に人に危害を及ぼすことはありませんが、その死骸・糞・脱皮殻などがハウスダストの一部となります。
そして、その死骸・糞・脱皮殻などが皮膚刺激をするとアトピー性皮膚炎による湿疹、呼吸器粘膜を刺激すると気管支炎などといったアレルギー疾患を引き起こす危険性があります。
人を刺すダニ
人に寄生したり吸血するわけではありませんが、人を刺して血液ではない体液を吸うダニもいます。このタイプのダニの代表格がツメダニです。
ツメダニ
ツメダニは、チリダニなどに比較するとやや大きいのが特徴です。ツメダニは、チリダニなど他のダニの体液を吸い捕食しますが、本来的には人を刺すことは好まないとされています。
しかしながら、高温多湿となる梅雨時から夏場にかけて畳・カーペット・布団などで繁殖・増殖することにより、偶発的に人を刺す機会が増え、刺咬症(しこうしょう)・虫刺症(ちゅうししょう)と呼ばれる虫刺されの外傷が生じます。このダニ刺されの外傷は、通常痒みを伴います。
痒みを伴うダニ刺されの特徴
このように人と関わりがあり被害を及ぼすダニは案外少ないのですが、痒み症状を伴うものは更に少なくなります。それでは、痒みを伴うダニ刺されは、他の虫刺されと何が異なるのでしょうか?
そこで、痒みを伴うダニ刺されの特徴について、ご紹介したいと思います。
人を刺して痒みを生じさせるダニは?
チリダニ・ヒョウヒダニは人に寄生することも刺すこともありませんし、人に寄生するヒゼンダニ・ニキビダニも人を刺すことはありません。ヒゼンダニは人の皮膚に穴を掘って寄生し、激しい痒みを生じる疥癬を発症させますが、人を刺すわけではありません。
マダニは、人を刺して吸血する際に日本紅斑熱・Q熱・ライム病・重症熱性血小板減少症候群などの感染症を媒介しますが、いずれも主症状は痒みの無い発疹・紅斑や発熱とされています。
ですから、人を刺して痒みを生じさせるダニという枠組みで見ると、基本的にイエダニとツメダニが該当することになり、いずれも屋内で人を刺します。
イエダニによるダニ刺されの特徴
イエダニは体長が0.5~1㎜程度で、もともとは淡褐色ですが吸血すると赤褐色に変色します。人がイエダニに刺される場合、二の腕・腹部・太ももといった基本的に肌が衣服で覆われて露出していない部分を刺される傾向があります。つまり、イエダニは衣服の中に侵入して、全身の皮膚・肌の中でも比較的柔らかい部分を刺して吸血するのです。
イエダニに刺された場合、概ね1~2日で激しく強烈な痒みに襲われ、その痒さが1週間程度にわたって継続します。その痒みは、大人であっても我慢することが難しいと言われており、子供の場合は患部の肌を掻きむしらずにはいられません。
また、痒みと同時に刺された場所には直径1~2㎝の赤くて円形状の発疹・腫れが現れ、酷い場合には患部の中心部が水疱状・水ぶくれ状になることもあります。イエダニは複数の場所を刺す場合もあり、発疹が1ヶ所の場合もあれば数ヶ所にわたる場合もあります。
ツメダニによるダニ刺されの特徴
ツメダニは体調が0.3~0.8㎜程度で、薄く黄色味がかった色をしています。人がツメダニに刺される場合、イエダニのような際立った傾向はなく、首・胸・腹部・足など至る所を刺されます。ツメダニはイエダニのように皮膚・肌の中でも柔らかい場所を好むというわけではなく、皮膚・肌の中でも比較的硬めの膝・肘でも刺すことがあり、衣服に覆われた場所でも露出している場所でも刺します。
ツメダニに刺された場合、概ね1~2日で激しく強烈な痒みに襲われ、その痒さが1週間程度にわたって継続する点は、イエダニの場合と同様です。
一方で、痒みと同時に現れる発疹については、イエダニと異なる傾向があります。つまり、ツメダニに刺された場所には、最大1㎝程度でイエダニの場合よりも小さく赤い斑点のような発疹を生じます。また、ツメダニは近接する複数の場所を刺すという明らかな傾向が存在します。
ダニ刺されと他の虫刺されの違い
一口に虫刺され(刺咬症・虫刺症)と言っても、人を刺す虫は多く存在します。有名なところでは、蜂・サソリ・ムカデなどが思い浮かびますが、これらの虫に刺された場合は痒みよりも痛みが生じます。
蚊による虫刺され
痒みを伴う虫刺されという意味で、イエダニ・ツメダニによるダニ刺されと間違えられる可能性があるのが蚊による虫刺されです。
この蚊による虫刺されは、ダニの場合と異なり我慢できる程度の痒みで、しかも痒みや発疹が持続することもありません。また、蚊は衣服で覆われた部分を刺すことはほとんどなく、基本的に肌が露出している場所を刺します。
ただし、蚊は日本脳炎・マラリア・デング熱など様々な伝染性感染症を媒介するので、注意が必要です。
トコジラミ(南京虫)による虫刺され
トコジラミは吸血性の寄生昆虫で、南京虫とも呼ばれます。名称からシラミの仲間と思われがちですが、実はカメムシの近縁にあたります。トコジラミの多くは、基本的に鳥やコウモリに寄生しますが、台湾トコジラミ(熱帯トコジラミ・熱帯南京虫)と呼ばれる種は人に寄生します。
トコジラミは体長が5~10㎜(1cm)程度で、成虫は赤褐色から茶色がかった色をしています。トコジラミが人を刺して吸血すると、トコジラミの唾液が人の体内に入り、それが原因となってアレルギー反応による激しく強烈な痒みと赤い発疹・腫れが生じます。
トコジラミは、基本的に肌が露出している場所で吸血しますが、一般の人がツメダニのダニ刺されと見分けるのは難しいかもしれません。ただし、トコジラミは吸血後に、黒ゴマのような血糞という痕跡を近くに残します。
近年では外国人旅行客の増加で日本の都市部の宿泊施設でも被害が見られることがありますので、注意が必要です。
ノミによる虫刺され
ノミは吸血性の寄生昆虫です。ノミには非常に多くの種が存在しており、その中でもヒトノミが人に寄生しますが、衛生環境が整った日本においては近年ほとんど見られません。
ちなみに、ノミに刺されると激しい痒みに襲われ、赤い発疹・腫れが近接した複数の場所に生じます。また、ノミに刺される場所は、主に膝下の足に多くなる傾向があります。
ダニ刺されの対処方法
それでは、イエダニやツメダニに刺されてしまい、激しく強烈な痒みに襲われた場合に、どのような対処をすれば良いのでしょうか?我慢できない痒みによって冷静さを失いがちになりますので、予め対処法を知っておくと良いでしょう。
そこで、ダニ刺されの対処法について、ご紹介したいと思います。
皮膚科の病院を受診する
痒みの原因が分からない場合、痒みの原因がダニであっても痒さを我慢できない場合は、速やかに皮膚科の病院を受診して専門家である医師・先生の診断を仰ぎましょう。
間違った対処をしたり、患部を掻きむしったりしてしまうと、患部の皮膚が損傷して肌に長く傷痕が残ってしまいかねません。また、患部を掻きむしってしまうと、患部の皮膚を損傷してしまい、その傷口から細菌・雑菌が侵入して感染症にかかり患部が化膿する危険性もあります。
ですから、たかが虫刺されと素人判断で適当な処置や放置をすることなく、皮膚科の病院で医師から適切な治療を受け、その後の対処法について教わることが大切になります。病院で処方される外用薬は、強烈な痒みを抑制するためにステロイド剤・ステロイド軟膏などが処方されるのが一般的です。
痒くても掻きむしらない
イエダニ・ツメダニに刺されると、我慢できないほどの強烈な痒みに襲われます。もちろん就寝中に無意識で患部を掻きむしってしまうこともあるかもしれませんが、可能な限り患部を掻きむしらないようにしましょう。
痒みの原因が明確にイエダニ・ツメダニだと判断でき、病院へ行く時間がとれない場合は、抗炎症作用のある市販薬を塗布することにより応急的な処置をしても良いかもしれません。市販薬を購入する際には、特に強烈な痒みを抑制するためにステロイド成分が配合されている商品を選んだほうが良いと思います。市販薬の具体例を示すと、ムヒアルファEXは虫刺され・ダニ刺されの痒み抑制に定評があります。
とはいえ、病院へ行く時間が少しでもとれるならば、病院で診断・治療してもらうことをおすすめします。
ダニ刺されの予防方法
ダニ刺されの対処法をご紹介しましたが、そうは言ってもダニに刺されないことに越したことはありません。
それでは、どのような対策をすれば、ダニ刺されを予防することができるのでしょうか?そこで、ダニ刺されの予防法について、ご紹介したいと思います。
掃除機による清掃
最も手軽で気軽にできるダニ刺されの予防法が、掃除機を使っての清掃です。
掃除機で部屋のホコリを吸引してツメダニのエサとなるチリダニなどの繁殖・増殖を防ぐとともに、畳・カーペット・布団に直接掃除機を使うことで布団表面などのイエダニ・ツメダニを吸引します。
特に布団は柔らかく掃除機に詰まりやすいので、布団専用のノズルを利用すると良いでしょう。
布団乾燥機による布団の乾燥
イエダニ・ツメダニは高温多湿の状況を好み、特に梅雨時から夏場の高温多湿となる時期に繁殖・増殖をします。そして、この時期に人が就寝の際に用いる布団などの寝具は、周囲の高い湿度や人の汗などを吸って、まさにダニにとっては生息するために好都合な場所となるのです。
ですから、ダニの駆除方法としては、布団乾燥機を用いて高温の熱風で布団を乾燥させることが最も適切な方法と言えます。とはいえ、ダニの死骸は布団に残っていますので、布団乾燥の後に掃除機をかけると、ダニ退治としては完璧です。
ダニ取りマット・ダニシート
掃除機や布団乾燥機よりも、もっと簡単にダニの駆除ができるアイテムがダニ取りマット・ダニシートです。
商品によって微妙に使い方は異なりますが、マットやシートを布団の下に敷くだけ、あるいは布団の上に置くだけという手軽さが評判となっています。
部屋の環境整備
掃除機などによる部屋のこまめな清掃に加えて、部屋が高温多湿とならないように環境整備することも重要な予防法の一つです。例えば、次のような対策をすると良いでしょう。
- 湿度が高い日は、除湿器を利用して部屋の湿度を下げる
- 晴れた日は、窓を解放して室内の通風をする
- クローゼットや押入れには、除湿剤を設置しておく
- 冬の暖房による結露を防止する
- ネズミの巣の駆除
まとめ
いかがでしたか?痒みを伴うダニ刺されの特徴や対処方法、ダニに刺されないようにするための予防方法などについて、ご理解いただけたでしょうか?
たしかに、梅雨時から夏場にかけての時期は高温多湿となり、ダニが最も発生しやすいとされる期間です。そして、ダニに刺された際の痒みは激しく強烈な上、ダニに刺された場所は対処の仕方によっては長く残ってしまうこともあります。
しかしながら、地味ではありますが予防対策をしっかりと実施すれば、ダニ刺されの被害は避けることが可能です。また、残念ながらダニ刺されの被害に遭っても、早期に病院を受診して適切な治療や薬剤の処方を受けることで、被害を最小限に抑えることも可能です。
そのためには、本記事などを参考に、ダニに対する正しい知識を知っておくことが肝要と言えるでしょう。