日本でも有名なカナダ出身のアーティストである、アヴリルラヴィーンさんが長期休養していた理由として、一時期話題になったライム病のお話です。彼女はを発症してしまってから、一時期寝たきりになってしまうほど深刻な状態に陥ってしまったそうです。
2015年末に完治まであと一歩のところまで回復した、と発表されました。しかし症状を自覚したのが2014年の10月頃だったそうで、闘病の期間を知るだけでも大変な病気だと分かります。
ここではアヴリルさんの発症例も挟みながら、詳しい症状等をお話していきます。
ライム病とは
スピロヘータという自然環境の至る所に存在する常在菌があります。このスピロヘータの一種に、人や動物に対して毒性がある菌(=病原菌)であるボレリアというものがあります。
ライム病とは、ボレリアが人に感染する事による細菌感染症です。ボレリアを常在菌として保菌しているマダニに噛まれて感染してしまいます。
名前の由来
ライム病が初めて確認されたのは、1975年にアメリカのコネチカット州のライムという地域です。その地名から病気の名前が付けられました。
マダニについて
人の皮膚に噛み付いて血を吸うダニです。マダニに噛まれ、吸血されているときに病原菌であるボレリアが感染します。
そしてボレリアを人に感染させるマダニは数種類存在します。
- シュルツェマダニ・・・東ヨーロッパ〜ロシア、中国、日本(主に本州より北)に分布しており、6、7月頃に一番吸血の被害報告がでています。
- スカプラリスマダニ・・・シュルツェマダニと共に、主に米国に分布しています。
- リシヌスマダニ・・・シュルツェマダニと主に、主にヨーロッパに分布しています。
マダニの活動が活発になるのは春〜初夏、そして秋に入る頃までです。アヴリルさんは、2014年のちょうどマダニの活動開始時期にあたる春頃に噛まれたそうです。
二次感染の危険性はない
ライム病を発症した人から新たにボレリアを感染することはありません。同じく動物から人へ感染することもありません。
ライム病の主な症状
日本では重症化の報告例は数少ないので具体的な症状がいまいち浸透していません。
米国では、全土の感染報告の1/5がニューヨークからとなっており、現地では「風土病」と呼ばれています。大都市の感染症は注目されやすいためか、米国では全身性疾患として広く認知されています。他にヨーロッパでも、認知度が高い病気です。
感染初期の症状
マダニに噛まれた場所を中心に遠心性(=中心部から離れて輪っか状に広がる様子)の紅斑が数日〜数週間かけて現れます。この紅斑は遊走性紅斑(ゆうそうせいこうはん)といって、ライム病を発症した人に特徴的に現れる症状です。この症状と同時に疲れが取れない、筋肉痛、関節痛、頭痛、悪寒などの風邪に似た症状が現れます。
しかし、感染してから遊走性紅斑が現れない人が発症者の20パーセント前後居ます。そのような人は、医師の診断でインフルエンザのようなものと言われてしまうこともあるそうです。
播種期(はしゅき)の症状
血流に乗って全身に病原体が運ばれた状態の事を播種期と呼びます。感染初期に出る遊走性紅斑に加えて出る症状は以下の通りです。
神経症状
- 髄膜炎・・・継続する激しい頭痛を訴える他、高熱、倦怠感、悪寒、吐き気などの症状がみられます。
- 脊髄神経根炎・・・筋力の低下や脱力がみられます。
- 末梢性顔面神経麻痺・・・脳・脊髄から出る神経の麻痺による表情筋の筋力の低下(表情を作りづらい、顔がひきつる等)がみられます。
心疾患
- 狭心症・・・胸のあたりに痛みや苦しさを感じます。人によって、顎、みぞおち、耳付近にも痛みを感じるそうです。
- 心筋梗塞・・・左胸周辺に、激しい圧迫感、痛みが起こります。肩、背中、首などに痛みを感じる人も居て、同時に冷や汗や吐き気を伴う場合が多いです。
眼症状
目の痛み、充血、視力低下等の異常が発作のように突然起こります。
軽度の関節炎
膝、肩、手首、股関節、ひじ、指の関節に、発赤や熱感を生じます。動かしたり触れたりすると、激しい痛みを感じます。
晩期の症状
感染してから数ヶ月経過してからの時期です。播種期の症状に加えて、以下の症状をみられるようになります。
重度の慢性関節炎
播種期の関節炎に比べて、高熱の発熱、全身倦怠感、食欲不振といった全身症状が認められます。そして関節の破壊と変形を招いたり、貧血、血管炎、皮膚潰瘍なども引き起こします。
慢性萎縮性肢端皮膚炎(まんせいいしゅくせいしたんひふえん)
はじめに体がむくみます。その後、脱毛、菲薄化(皮膚が薄くなってしまうこと)して、皮膚が細かいひだ状萎縮してしまいます。
最終的にはケロイド状のようになり、皮膚が硬くなってしまいます。
慢性脳脊髄炎
肉体的にも精神的にも、激しい疲労感、脱力感に襲われます。思考力も低下してしまう為、日常生活にひどく支障が出てしまいます。
他にも、リンパ節の腫れ、睡眠障害などの症状も見られます。
アヴリル・ラヴィーンさんがライム病と診断されるまで
2014年の春頃にダニに噛まれて、同年10月の旅行中に症状に悩まされて受診した結果、ライム病と診断されています。
始めは、感染初期〜播種期にみられるめまい、だるさを感じていたそうです。それからは体調不良が続いていると思っていたそうです。
ライム病の晩期になった頃は、食欲不振、倦怠感、立っていられない、会話も出来ないほどの筋力低下が見られ、病院に行くことになりました。
ライム病の治療法
細菌感染症であるライム病の治療には抗生剤を用います。そして症状の出方によって使用する抗生剤の種類を変えていきます。
遊走性紅斑に
感染初期〜播種期に発症する遊走性紅斑にはドキシサイクリンという抗生剤を使用します。
ドキシサイクリン
日本ではビブラマイシンという名前で処方されます。
皮膚の感染症の他に、扁桃炎、急性気管支炎、肺炎、膀胱炎、前立腺炎、尿道炎、淋菌感染症、子宮内感染等の感染症にも有効とされています。
細菌、病原菌の蛋白合成(=細菌が繁殖したり生きる為に必要な物質を作る)を阻害する役割があります。
髄膜炎などの神経症状に
播種期〜晩期に症状がみられる髄膜炎などの神経症状にはセフトリアキソンという抗生剤を使用します。
セフトリアキソン
日本ではロセフィンという名前で処方されます。
細菌の細胞壁(=外部から細胞の大事な核などを守る部分)の合成、再構築を抑えることで、細菌を死滅させる働きがあります。
ボレリアの薬剤耐性
今のところ、ボレリアには薬剤耐性はほぼ無いと言われています。
症状によって抗生剤での治療期間は変わりますが、2〜4週間で細菌の死滅は可能だとされています。
予防策
ライム病は、マダニに噛まれて細菌感染を起こすことによって発症する病気だということがわかりました。
ここでは、マダニに噛まれないように注意しておきたい予防方法をお話します。
ハイキング、登山の時に気をつけて
マダニは野山に沢山生息します。春の活動期には、北海道の野原などにも生息しているそうです。ハイキング、登山の服装、持ち物には十分注意が必要です。
1.衣服の裾は靴下の中に入れ、肌が露出している部分を極力なくす。
マダニは、人の呼吸(主に二酸化炭素)、汗に反応してやってきます。噛まれることの他に汗の反応を鈍くさせる為にも肌の露出をなくしましょう。
2.明るい色の上着、靴でマダニの付着を確認しやすくする
マダニの付着にすぐ気づけば、虫除けスプレーやビニール袋を使って追いやることができます。そして、あまりに付着が多ければ、早めの下山などの対策もとりやすいです。
3.虫除けスプレー、携帯型の蚊取り線香などが有効
蚊に刺されない為に使う虫除けスプレーや、電池稼働できる蚊取り線香はマダニにも効果があります。汗でスプレーの成分が流れてしまう場合があります、こまめにかけなおしましょう。
4.草が生い茂るところ、薮などに入らない
出来るだけ道がひらけているところを歩いて下さい。マダニは葉っぱ、茎、枝に止まっています。狭い道て葉っぱなどを避けきれず足ですった場合、一緒にマダニもついてきてしまう可能性があります。
万が一噛まれてしまったら
予防していても、噛まれてしまう可能性があります。もし噛まれている最中に気づいた場合は無理に引きはがさず、病院で適切な処置をしてもらってください。
マダニは吸血に時間をかけるため、めったにすぐに逃げません。そして、噛んでいるときに自分の身が風や人の動作で離れないように、唾液からセメントの役割をする成分を出します。
無理に引きはがすと、マダニが噛んでいるところを傷つけてしまったり、マダニがつぶれて噛んだ所へ細菌が放出されてしまう可能性があります。
まとめ
日本ではライム病の重症者の報告が公にされていないのと、マダニの分布している地域が限られている為、まだまだ知名度としては低い感染症だと思います。
しかし海外では例に挙げたアヴリル・ラヴィーンさんをはじめ、全身に重い疾患をかかえてしまい、完治まで数ヶ月〜数年を費やしてしまう患者さんが多いのが事実です。
私たちは、海外旅行先で感染してしまうかもしれません。そして環境や気候の変化で生態系が変われば日本でも感染する可能性があがるかもしれません。これからは決して他人事ではないものになっていくでしょう。
マダニの活動期は春〜初夏、そして秋です。私たちの行楽シーズンにも当てはまります。
これからハイキングや登山を楽しむ人、そして野外イベントに参加する人は、今一度、予防策について考えてみてください。