妊娠はしたものの、1度ならぬ、2度、3度と流産を繰り返すことがあります。特に、近年は抗レ妊娠・出産が多いため、医学が発展しているとは言っても流産をする人はいます。流産を何度も繰り返している方は、不育症の可能性が考えられます。
なかなか妊娠ができない不妊症とは全く異なります。では、不育症とは一体何なのか、頻度やリスク因子、そのリスク因子に対する治療法について説明をしていきます。
不育症とは
不育症とは、妊娠はするものの、流産や死産、新生児死亡(生後1週間以内の赤ちゃんの死亡)といったアクシデントを繰り返すことで子供をもつことができない状態の病気を言います。
不育症とはどうなると不育症と言うのか、どういった頻度で生じるのか等についてもう少し詳しく説明をしていきます。
定義は確率されていない
不育症は広い意味で使用されており、習慣流産(反復流産)は同義語になります。この場合、妊娠22週以降の死産や生後1週間以内の新生児死亡は含みません。定義されていることは、「2回以上の流産」と、「化学流産ではない」ということです。
2回以上の流産(習慣流産・反復流産)は理解できますが、化学流産ではないということは、どういうことなのでしょうか。それは、自然流産ではないということです。
自然流産は、しっかり着床し自然妊娠した流れで、何らかの原因によって流産をしてしまった場合を言います。化学流産は、様々な流産の内、妊娠初期に起こるものです。妊娠検査薬では陽性反応が出ますが、着床が不十分で妊娠が継続できず、早いと妊娠検査薬を使用する前に流産をします。つまり、妊娠が確定する前にする流産の事を言います。
このことから、医学的には化学流産は流産に含まれていません。よって、化学流産を除く、自然流産を反復した場合に不育症と言われます。
頻度
妊娠する女性の内、流産する患者は約15%と言われています。
これは、加齢と共に、また流産回数が多く習慣流産を繰り返すにつれて、流産率は増加傾向になります。習慣流産を2~3回あった場合には、早期に産婦人科の専門医の診断・検査を受けるようにしましょう。
不育症のリスク因子(原因)
厚生労働省の科学研究班による2008年~2010年の研究から、日本の不育症のリスク因子別頻度が出されています。リスク因子は、あくまでリスク因子です。必ずしも、これらにより100%流産をするというわけではないことに注意をして下さい。
ちなみに、夫婦双方に原因があるものでは、染色体異常があり、女性側に原因があるものとして、子宮奇形や内分泌異常、凝固異常、高齢化といったものが挙げられます。
では、以下に流産のリスク因子を挙げていきます。
染色体異常
妊娠初期の流産の原因の大部分を占めています。最も流産率が高いもので、胎児染色体異常が約80%となっています。この偶発的に発生した異常な染色体により染色体異常流産を繰り返す場合は、夫婦のどちらかに染色体の構造に異常がある可能性が高いです。
夫婦染色体の異常構造を保有していたとしても、夫婦は共に健康な状態です。ここで、流産のリスク因子となる染色体が出現するタイミングは、卵子や精子が生成される時です。この時に過不足な染色体が生成されます。染色体異常は一定の確率で、遺伝子として受精卵に受け継がれてしまい、流産へと繋がります。そのため、流産率が50%以上と高くなります。
流産率が極めて高いため、一見、赤ちゃんをもつことができないと思われがちですが、最終的に妊娠性効率・出産成功率が高くなり、たくさんの赤ちゃんをもつことができるようになっています。もちろん、個人差はあります。
子宮奇形(子宮形態異常)
子宮奇形とは、正常子宮の形態に異常をきたしているものを言います。子宮奇形(子宮の形が異常)により、着床の障害を引き起こすことがあります。赤ちゃんに十分に栄養が行き届かず、流産しやすくなります。
また、胎児や胎盤が圧迫されて流産や早産、死産を繰り返し、習慣流産となる危険性もあると言われています。
・先天性と後天性がある
この子宮奇形は、先天性で正常子宮とは異なる形をした子宮奇形をもって生まれてくる人と、後天性で子宮筋腫(粘膜下筋腫)や子宮腔兪着症といった病気を発症して子宮奇形を呈する人の2パターンがあります。因果関係が明確なものは先天性の子宮奇形です。
・子宮奇形は3つのタイプがある
子宮奇形には、中隔子宮、双角子宮、弓状子宮の3つのタイプがあります。不育症との関連性が最も強いものは中隔子宮とされています。
内分泌異常
流産や死産、早産の危険性を高めるものとして、ホルモンが関与している甲状腺機能亢進症や甲状腺機能低下症、糖尿病といった内分泌異常症が挙げられます。
このホルモンの分泌異常によって、甲状腺の自己抗体の影響(体温維持に関わる黄体機能不全や甲状腺機能低下症)や、高血糖症による胎児染色体異常の増加が影響しています。その他、排卵時や、着床に影響する高プロラクチン血症などにも影響します。
こういった内分泌異常症では、早産といった産科合併症を併発する危険性も高く、妊娠をする前から体の良い状態を維持していくことが重要となります。
凝固因子の異常
血液中に存在する凝固因子の異常によって習慣流産や死産を反復する可能性や、胎児の発育異常による発達障害、胎盤の異常を引き起こす可能性があります。
凝固因子の病気には抗リン脂質抗体症候群や、これによる血栓症、塞栓症のほか、プロテインS欠乏症、プロテインC欠乏症、第Ⅶ因子欠乏症といったものが挙げられます。
また、凝固因子以外にも、自己免疫に異常がある場合にも血栓が生成され、血栓症を引き起こし、赤ちゃんに十分な栄養が行き届かずに流産や死産してしまうことがあります。
拒絶免疫異常
赤ちゃんのもつ組織や、元となる受精卵の半分は、父親からの遺伝子です。妊娠において、父親からくる組織を異物とみなさないメカニズムが体には備わっています。
しかし、そのメカニズムが正常に作用しない場合があり、赤ちゃんが保有する父親からもらった組織を異物であると認知することがあります。これによって、流産するケースもあります。
ストレス
流産や死産において、ストレスは最も大きなリスク因子となります。ストレスを抱えることで血流や代謝が悪くなり、時に頻脈あるいは徐脈になり、血圧が不安定になるといった自律神経失調症を引き起こすことがあります。
これによって自己免疫能力低下し、免疫異常をきたす恐れがあります。特に、習慣流産を繰り返している場合には、妊娠に対する喜びと共に、「また流産をするのではないか」といった不安が付いて回る可能性があります。この不安もストレスに繋がりやすいです。また、仕事や家事に追われるような環境にあり、適度な運動は必要なものの、十分な休憩をとることが難しい環境にある場合も、体的・精神的ストレスを抱えます。
これは、自覚がなくとも体がそのようになることは十分にあります。「まだ大丈夫」と思い込まず、自身の体の状態を十分に把握する必要があります。
不育症診断の検査法
検査を行っても明確な異常が判明しない方は患者全体の65.3%と、半数以上を占めます。
通常、流産を1回した場合ではリスク因子に関する検査は必要がないと言われています。それでも、妊娠10週間以降に流産をした場合や、死産、早期新生児死亡といったケースでは、女性側に原因がある場合が高くなり、検査が必要となることがあります。
2~3回以上の流産を繰り返す場合に、夫婦双方もしくはどちらかがリスク因子を保有している可能性があるとされています。そういった場合に、検査の実施を勧められます。
原因は1つではないので、いろいろな検査を行うことになるでしょう。
血液検査
問診以外に、主に血液検査を行ってリスク因子を把握します。血液検査には、4つの検査法があります。それぞれについて簡単に説明をします。
・内分泌検査
血液検査により、内分泌系の甲状腺機能や黄体ホルモンなど、ホルモンの異常の有無を確認します。
・自己抗体検査
抗体の中には、血液を凝固するための因子が含まれており、これにより血液を固めやすくします。怪我などにより出血した際に働き、かさぶたを形成する因子です。人により、自己抗体は様々であり、検査項目や方法が異なります。
不育症の確定検査として、リン脂質中和法があります。これは、過剰なリン脂質を加えることでリン脂質が中和されるかを調べるための検査です。これによって出された抗体は、血液の凝固因子に良い影響を与えると言われていますが、感度の問題、血清では測定困難といった問題が示唆されています。
そこで開発された検査が、ELISA法です。これは、感度が良く、生成された脂質やリン脂質結合蛋白を使用することで、より特異的な抗体のみを測定することができるとされています。
・血液凝固検査
血液の固まりやすさを検査します。自己抗体と同様、人によって血液の凝固因子が異なり、これによって検査項目や方法が異なる場合があります。
・胎児染色体検査
夫婦双方の染色体が正常か、異常な点はないかを検査します。この検査により、流産をしやすい染色体か、そうではないのかを確認することができます。
子宮形態検査(レントゲン検査・内視鏡検査)
レントゲン検査(単純X線検査)やカメラ機能のある内視鏡を用いて、子宮の形態に異常があるかどうかを検査します。
リスク因子別の治療法
不育症の治療は、厚生労働科学研究班及び、関連する学会の指針を踏まえた上で、それぞれのリスク因子別の治療法が国内・国外の科学的根拠に基づいて利用されています。なお、この科学的根拠に対する信頼度には差があり、どういった治療法を選択するかは、担当医師やパートナーと十分に相談するようにしましょう。
では、どういった治療法があるか、主に行われる治療法について、わかりやすいようにリスク因子別に説明をしていきます。
予防が大切、産婦人科へ行きましょう
不育症は治療も大切ですが、何より早期の予防がとても重要となります。事が起きてから産婦人科へ行くのではなく、定期的に検査に行く事が重要です。リスク因子を的確に把握し、それに対して的確な検査と的確な治療法を行っていく必要性があります。
現在の日本では、まだ不育症の専門医師は数少なく、そういった専門医師に診てもらうことはなかなか難しくなります。近くにそういった専門医師がいない場合は、産婦人科を受診しましょう。受診する施設は、いろいろな検査を行えるように、最初は大きな設備の整っている場所を選択すると、スムーズに検査や治療を進めることができます。
染色体異常に対する治療法
染色体異常は、遺伝子が原因となるため、根本的な治療法が確立されておらず、難治となります。夫婦一緒に産婦人科へ行き、相談をしてみましょう。
子宮奇形に対する治療法
正常子宮に異常が見られる場合、子宮奇形の可能性があると考えられる場合、子宮筋腫など、何らかの子宮の病気がある場合は、手術の必要性があるとされるケースがあります。多くのケースは、手術を行わずに自然妊娠し、出産することができます。
内分泌異常に対する治療法
薬物療法がメインとなります。どういったホルモンの分泌に、どのような異常が見られるかによって、使用される薬物が異なってきます。下記に、幾つかの薬物療法を紹介します。
・甲状腺ホルモンの分泌に異常が見られる場合
甲状腺ホルモンの分泌量に異常が生じると、甲状腺機能亢進症や甲状腺機能低下症といった病気を発症します。これらに対しては、主に薬物療法と食事療法が行われます。
・黄体ホルモン(プロゲステロン)の分泌量が少ない場合
プロゲステロンが少ないということで、薬物療法によってプロゲステロンを補う治療法が行われます。
・プロラクチンが高い場合
プロラクチンは下垂体から分泌されるホルモンです。原因が、下垂体腫瘍である場合は、手術の必要性がある可能性があります。そうでない場合は、プロラクチンを降下させるための薬物療法が行われます。
凝固因子に対する治療法
血液の中に含まれる血液を固めるための凝固因子の異常によって血栓症を生じます。この血栓症に対しては、凝固療法が行われます。血栓を防止する効果がある薬物の投与となります。どういった薬物を投与する凝固療法が行われるのか、2つ紹介します。
・低用量アスピリン療法
妊娠する前から妊娠16週まで服用し、血栓症を防止する薬です。母体の状態によっては、長期間の服用の必要性が考えられるケースもあります。
バファリンやバイアスピリンといった薬物を1日1/2錠~1錠、経口服用します。それ以上に服用量を増やすと、アスピリンによる抗血栓作用が逆に弱くなります。
抗リン脂質抗体症候群の治療にも使用されます。抗リン脂質抗体症候群の治療法には主にステロイド薬が使用されています。これが2012年より、保険適応の対象となってから、低用量アスピリン療法とヘパリンの自己注射の併用をする治療が一般的となっています。
この薬の服用によって、新生児出血が起きる可能性の増加はないと言われています。
・ヘパリン療法による自己注射
ヘパリンとは、血栓です。この血栓を防ぐための薬物療法を行います。妊娠が発覚した時点で自己注射を開始し、妊娠10~約12週間目まで継続します。
自己注射は、1日2回、12時間毎に行います。注射といっても、皮下・筋肉などいろいろありますが、ヘパリンの自己注射は皮下注射になります。自己注射なので、医療従事者ではなく、自分で自分の体に注射を打ちます。もちろん、治療を開始する前に治療の指導を受けます。打つ箇所は太股や腹部になります。
薬物を投与して2~4時間後に血中濃度がピークに達します。副作用はあまり見られず、良い効果が得られやすく、治療予後は良いと言われています。効果は、胎盤早期剥離や妊娠高血圧症候群といった症状に見られます。
拒絶免疫異常に対する治療法
再診の治療法に、ビシバニール免疫療法があります。この免疫療法は、女性にビシバニールを投与し、受精卵の中にある、男性の遺伝子の部分を異物として認知しないようにします。こうすることで、免疫の反応を調節し、正常に戻す作用があります。
ストレスに対する治療法
リスク因子でも述べたように、ストレスによって自己免疫機能に悪い影響がでることがわかっています。特に、妊娠10~16週間目には注意が必要です。
習慣流産をしている女性は、再度妊娠をすると不安にかられることもありますが、そういった場合にはカウンセリングに行く事をオススメします。また、精神的に安定させるための薬物療法も効果的です。
これは、妊娠する前から行われます。定期的に産婦人科を受診し、担当医と相談するようにしましょう。専門医なので、母体や胎児に影響がかからないように薬を選んでくれます。
カウンセリング
流産回数が2~3回以上の女性患者は、流産のリスクの有無関係なく、カウンセリングを受けた場合、妊娠の成功率が高いことが報告されています。
習慣流産や死産などには夫婦染色体に異常がある可能性もあるため、カウンセリングだけではなく、検査なども夫婦と共に受けるようにしましょう。
流産歴も影響する
実は、流産歴に対する治療効果が臨床研究から報告されており、治療を行う上で流産歴も大きく影響していることがわかっています。流産をした回数が、過去に5回以内である場合は、治療の予後は良好と言えます。しかし、流産を6回以上している場合は、難治性となり、特別な治療法の必要性が高くなります。
流産歴が6回以上の場合、有効とされている治療法が大量の免疫グロブリン療法とおなっています。
まとめ
習慣流産や死産を繰り返すことで不育症になりますが、リスク因子を見ると、この他に併発される疾患も様々にあることがわかります。
不育症が発覚してからの治療も可能ですが、早期に予防するに越したことはありません。赤ちゃんの遺伝子は母親と父親の双方からできているので、女性が一人で抱え込まずに、パートナーとしっかり相談し、定期的に産婦人科で検査をしましょう。
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