皆さんは”死戦期帝王切開”をご存じですか?少し前にドラマで”死戦期帝王切開”について放送されていて少しは知っているという人もいると思います。
帝王切開は出産の際にお腹を開いて胎児を取り出す方法として有名ですが、死戦期というのはいったいどんな時なのでしょう。今回は”死戦期帝王切開”について詳しく説明していきます。
死戦期帝王切開とは?
死戦期帝王切開とは妊婦が何かしらの原因で心肺停止状態になり、母体組成処置の1つとして緊急帝王切開する事です。緊急帝王切開して胎児を取り出す事で子宮を小さくして大動脈と大静脈の圧迫を無くし母体の血行を良くする目的と、妊娠して子宮に流入していた血液が体循環に戻って血行動態がする目的で行われます。
妊娠20週以降の妊婦さんが心肺停止になってしまった場合はすぐに死戦期帝王切開術の準備を始めます。心肺停止してから4~5分経つまでに手術を始めるか判断し、胎児の事を考慮すると10分以内に娩出する事が望ましいとされています。
時間との闘いになる手術になり、本来帝王切開を行う場合はご家族などにゆっくり手術の説明をする物ですが、そんな時間などないのですぐさま手術を開始します。ですので口頭で同意だけ進め、後日サインをするという事もあります。
また、母体が心肺停止状態になると母体も胎児も危ない状態なわけですが、医者は迷いなく母体の生存を優先させます。ですのでこの死戦期帝王切開ではあくまで母体の生命を助けるという目的で行われるので胎児の生死は問われないのです。勿論出来る事であれば母子共に助けたいところですが、最悪の事を考え優先されるのは母体です。
死戦期帝王切開をするための条件
胎児も母体も助ける高度の手術ですが、これを受けるには条件が揃わないと出来ません。
- 妊娠20週以降である事
- 母体救命の可能性がある事
- 子宮が母体の血行を悪くさせている可能性がある事
- 心肺停止から4分反応していない事
これらの条件が満たすと死戦期帝王切開を行う事ができます。
妊婦の心肺蘇生と一般成人の相違点
妊婦が心肺停止状態になった場合、子宮を左方に圧排して蘇生処置を行います。胸骨圧迫・人工呼吸・AED・アドレナリン投与など行い反応が無い場合は死戦期帝王切開を行います。一般成人と妊婦の心肺蘇生には少し相違点があります。
- 子宮左方に転位を行う
- 胸骨圧迫部位を頭側に置く
- 早期に人工呼吸を確立する
- 休息輸液を考慮する
手術の流れ
1.麻酔を打つ
麻酔については死戦期帝王切開の場合、打つ時と打たない時があります。急を要するので麻酔無しで手術が行われる事が多いです。
2.切開する
切開方法は「縦切り」「横切り」の2つ分かれますが、緊急の場合は手術時間が短くて胎児を早く取り出せる縦切りを行います。へその下から恥骨に向かって切ります。ただ、子宮壁に届いたら横切りになります。
3.胎児を取り上げる
胎児を取り上げるまでは数分の作業になります。胎児が体の中から出る事で子宮が小さくなり血流が良くなるので本格的に母体の蘇生を行います。
死戦期帝王切開が行われた事例はほとんどない
実は日本では死戦期帝王切開が行われた事例がほとんどないのです。母体側の条件が揃わないという事もありますが、母体が心肺停止になった時にすぐに適切な組成処理を行い5分以内に手術を開始しなければいけないので、大きな病院で技術を持った医師がいて連携が取れている場所でないととても難しい事なのです。
産婦人科の医師の他にも、麻酔科医、新生児界、救命救急医など色々な医者が揃わないと出来ない為です。こうなると大きな病院で普段からすべての診療科がシミュレーションを行い問題点などの確認をしていないとすぐさま対応する事が出来ないのです。
●埼玉医科大学総合医療センターでの事例
妊娠高血圧腎症を発症して心肺停止になった妊婦に対して、死戦期帝王切開を行った事例があります。
参考資料はこちら→死戦期帝王切開術(PCS)により母児ともに救命し得た重症妊娠高血圧腎症を合併した双胎妊婦の1例
●りんくう総合医療センターでの事例
30分以上も心肺停止していた妊婦に対して死戦期帝王切開を行った事例があります。
参考資料はこちら→30分以上の心肺停止症例に死戦期帝王切開術施行し母児ともに救命し得た1例
どちらの事例も母子共に救命し、後遺症無く元気で退院したしたようです。
妊娠中の心肺停止
妊娠中に心肺停止になる可能性のある病気の代表的なものを紹介します。※あくまで代表的なものになるので、これらの他にも原因はあります。
アナフィラキシー
アナフィラキシーとは急性の重度のアレルギー反応の1つです。ほんの僅かなアレルゲンでも体に触れたり体内に入る事でアナフィラキシーショックを引き起こして命が危なくなる状態になります。初めてアレルゲンに触れた時には発症しない事が多く、2回目に触れた時に激しい症状が起こるのが特徴的です。
アレルゲンは人によって違いますが、「卵」「牛乳」「小麦」は三大アレルゲンと言われていて多くの人がアレルギーの原因となっています。
●症状
「皮膚のかゆみ」「蕁麻疹」「皮膚の赤み」「嘔吐」「腹痛」「目のかゆみ」「呼吸困難」「意識混濁」「蒼白」などの症状が現れます。アナフィラキシー患者の90%に皮膚症状が見られるようです。軽症・中等症・重症の3段階に分類されます。
●治療
- 軽症:症状の進行に注意しつつ安静に観察していきます。抗ヒスタミン薬などの処方薬を内服
- 中等症:全身の皮膚や粘膜に症状が現れ、呼吸器や消火器にも症状が出てきます。抗ヒスタミン薬やステロイド薬を内服して治療します。
- 重症:強いアナフィラキシー症状が見られショック状態などに陥る可能性があります。エピペン携行薬などの使用すぐ行わなければいけません。
肺塞栓症(はいそくせんしょう)
肺動脈に血栓が詰まる病気の事を言います。この病気の9割は脚部分の静脈内にできます。これを深部静脈血栓症と言い、血流に乗って右心房や右心室を通り肺動脈まで運ばれてしまうのが原因になります。
血液が固まりやすい状態の人や、静脈が木津付いている状態の人が起こしやすい病気です。
●症状
一番の症状は「息苦しさ」になります。激しい息苦しさを感じて、今までは普通だった階段や上り坂などで息切れを感じたり、途中休憩をしないと体が動かなくなってしまうような感覚になります。この他にも「胸痛」「失神」「ショック」などの症状が見られます。
●治療
治療方法は一律でなく、どの程度の重症度なのか、合併している疾患などによって変わってきます。方法としては薬物治療・カテーテル治療・外科手術の3つになります。
不整脈
人間の脈は一定のリズムで拍動していますが、リズムが跳ねたり、遅くなったり、急に早くなったりする事を総称して不整脈と言います。不整脈は心臓の異常で起こります。不整脈には心配する事のないものと心配しなければいけないものがあります。詳しくは、不整脈の原因とは?症状や治療方法も合わせて紹介!を参考にして下さい!
●症状
「脈が速くなる」
脈が速くなると動悸がやめまいなどが起こります。重度のものになると1分間に250回を超える事もあり、心臓が体に血液を送り出す事が出来なくなり失神する場合もあります。
「脈が遅くなる」
自分では気付かない事が多いですが、数秒間心臓が停止してしまうと起こります。めまいや失神や痙攣などを引き起こします。
●治療
不整脈の原因となっている病気の治療を行います。
妊娠高血圧症候群
妊娠高血圧症候群とは妊娠中に何かしらが原因で高血圧になり、それがきっかけで臓器障害や血管障害などを引き起こす疾患です。大体妊娠20週の頃から起こります。妊娠20週~32週未満で発症した場合「早発型」、妊娠32週以降に発症したものを「遅発型」と呼びます。早発型の場合症状が重くなるそうです。
妊娠によって変化する体についていけなくなり発症するt言われていますが、詳しい原因はまだ解明されていません。
●症状
「高血圧」になる他「頭痛」「めまい」「倦怠感」などの症状が見られます。また、これらの症状と一緒に「むくみ」が出るのが特徴的です。むくみは健康な妊婦さんでも起こる症状なので他の症状と一緒に現れているかを確認する必要があります。
症状が進むと痙攣を引き起こし「子癇発作」や「常位胎盤早期剥離」などに繋がる場合もあります。
●治療
根本的な治療は妊娠を中断してからでないと行えません。妊娠34週未満の場合は胎児が未熟な事があるので取り出す事は危険になります。出来る限り妊娠を継続するのが好ましいので、あまりにも緊急でない場合は安静にし、食事療法で様子を見ます。
まとめ
いかがでしたでしょうか。出産の時は何が起こるかわかりません。母体が病気になっていると出産中に心肺停止になる可能性もあるのです。そんな時に母体の命を助ける為に行われるのが死戦期帝王切開になります。
死戦期帝王切開が行われるには母体が一定の条件に満たしていて、医療の環境が揃っていないと出来る手術ではありません。大きな病院で技術を持っている医師が揃っていても、連携がなっていないと手術が成功する確率も下がります。
妊婦が心肺停止になる原因は様々あるので、ここで紹介した病気の他にもリスクがある病気もあります。妊娠してからは母体には負担をかけないように、母体本人だけでなく周りも支えてあげる事がとても大事です。
あまり無い手術かもしれませんが、万が一自分や身内に起こったら・・・という事を考えると頭の隅にでも入れておきたい知識です。