過眠症という病気を、ご存知でしょうか?「過眠症」という文字面から、なんとなく睡眠に関する障害なんだろうとか、あるいは眠り過ぎる病気なんだろうといった想像ができるくらいで、一般の人に良く知られている病気ではないことは確かでしょう。
睡眠に関する障害というと、眠れない病気である不眠症が、一般の人に良く知られている病気です。
実は、過眠症は不眠症と同じ睡眠障害の一つで、日中に眠気に襲われて起きていることができずに眠ってしまい、仕事や学校など日常生活に多大な支障を生じる病気なのです。
そこで今回は、過眠症についての概要をご紹介したいと思いますので、参考にしていただければ幸いです。
過眠症とは?
そもそも過眠症とは、どのような病気なのでしょうか?日中に眠気に襲われて、起きていられずに眠ってしまう病気といっても、単なる寝不足・睡眠不足とは、どう異なるのでしょうか?
過眠症を知らない人にとっては、単なる寝不足・睡眠不足との違いがわかりませんので、どうしても勘違いや誤解が生じてしまいます。そこで、まずは過眠症についての基礎知識を確認したいと思います。
過眠症とは?
過眠症は、夜間に通常の人と同様に十分な睡眠をとっているのに、日中にも眠気に襲われて起きていることができず、眠ってしまう状態・症状のことを言います。また、眠気を自覚しないまま、いつの間にか仕事中や授業中に眠りに落ちている場合も、過眠症の可能性を疑う必要があります。
そして、そのような状態・症状に陥ることによって、仕事などの社会生活・学校生活などに支障が生じて、苦痛を感じることも過眠症が成立するための必要な条件の一つになります。
睡眠不足との違い
睡眠不足は、自分の日常生活を維持するために仕事に忙殺されたり、自分の睡眠以外の欲求を満たすために起きていることで、人間が本来必要な睡眠時間を確保できないことを言います。つまり、自分の意思によって睡眠時間を削ることによって、結果として睡眠不足となって眠気が襲ってくるのです。
一方、過眠症は、夜間も十分に寝ているにもかかわらず、日中の起きていなければならない場面で、眠気に襲われ居眠りしてしまうものです。
ですから、客観的には同じ居眠りであっても、単なる寝不足・睡眠不足と過眠症は、明確に区別されます。
ただし、一般人が客観的な状況から睡眠不足と過眠症を判別することは難しく、どうしても怠慢や不真面目との誤解が生じがちです。そのような誤解や勘違いを訂正するには、医師による診断が必要になるでしょう。
過眠の症状の原因
日中・昼間に過剰な眠気が生じる原因は、多岐にわたっています。それらの原因をグループ分けすると、次のような形に分類されます。
- 脳の機能異常(中枢性過眠症)
- 睡眠の質的不足
- 睡眠覚醒リズムの不調
- 睡眠の量的不足(寝不足・睡眠不足)
しかし、昼間に過剰な眠気が生じるからといって、全てが過眠症となるわけではありません。本来、過眠症というと中枢性過眠症(ナルコレプシー・特発性過眠症・反復性過眠症)のことを言いますが、その他にも過眠の症状を呈する病気があります。
ですから、本記事では中枢性過眠症を中心に説明し、その他の過眠の症状を呈する病気については簡単に触れるにとどめたいと思います。
ナルコレプシーについて
中枢性過眠症は、脳内の覚醒維持の機能に異常があることで、過眠の症状を呈する病気・疾患です。
この中枢性過眠症に分類される病気は、主にナルコレプシー・特発性過眠症・反復性過眠症の三つです。まずは、ナルコレプシーについて、ご紹介したいと思います。
ナルコレプシーとは?
ナルコレプシーは、昼間に場所や状況を問わず、強い眠気に襲われる発作を主症状とする脳疾患であり、睡眠障害のことです。
思春期前後に発症することが多いとされ、しかも日本人の有病率・発生割合が世界中で最も高いとされています。ちなみに、世界平均では2000人に1人程度の発生割合が、日本では600人に1人程度の発生割合となっています。
ナルコレプシーの原因
ナルコレプシーの原因は未だ明確に解明されていませんが、脳内の覚醒を維持する機能(覚醒中枢)とレム睡眠やノンレム睡眠の切り替え機能(睡眠中枢)が阻害されることが原因と考える見解が有力となっています。
脳の視床下部からオレキシンという神経伝達物質が分泌されていて、この物質が分泌されることで人は覚醒を維持したり、覚醒と睡眠のバランス調整をしていることが判明しています。そして、ナルコレプシー患者のほとんどで、このオレキシンが不足しているという研究報告がなされているのです。
このオレキシンが不足・欠乏する理由が分かっていませんが、オレキシンがナルコレプシーの発症に深く関与していることは確かなのです。
また、次の説明する情動脱力発作を伴うナルコレプシーでは、ほとんどの患者が特定の遺伝子を有していることが明らかになっており、遺伝との関連性も指摘されています。
ナルコレプシーの症状
ナルコレプシーの症状には、いくつかの特徴的な症状があります。昼間の強い眠気発作はナルコレプシー患者全てに現れますが、それ以外の症状については患者によって症状の有無が異なります。
昼間の過剰な眠気(眠気発作)
ナルコレプシーでは、日中・昼間に、強い眠気に襲われる発作が、全ての患者に現れます。その眠気は耐え難いくらいの強烈な眠さで、起きていることができずに寝入ってしまうことがあります。
睡眠発作
睡眠発作は、患者が眠気を自覚する前に、眠りに落ちる発作のことです。場合によっては、その睡眠発作で記憶や意識が切断されたような感覚に陥ることがあるとされています。
ナルコレプシーの居眠りは、概ね5分から30分以内と短時間で、眠りから覚めると一時的にスッキリとした感覚になることが多いようです。
情動脱力発作(情動性脱力発作・カタプレクシー)
情動脱力発作は、カタプレクシーなどとも呼ばれ、ナルコレプシーの特徴的な症状とされています。情動脱力発作は、喜怒哀楽や恐怖・羞恥といった感情が過度に高まると、突然に筋肉の緊張が消失して脱力症状が起こる発作のことです。情動脱力発作が全身に起こると転倒につながりますし、部分的に舌の筋肉が脱力すると呂律がまわらなくなったりします。
ただし、情動脱力発作の最中でも意識は明確で、患者は発作中の出来事をしっかりと覚えているとされます。
入眠時幻覚
入眠時幻覚は、入眠時に患者にとって現実感のある幻覚を見る症状のことです。例えば、自分一人だけで寝ようとしている部屋に、見知らぬ人が入ってくるような気配を感じるというような幻覚などです。
人の睡眠では、浅い眠り(レム睡眠)と深い眠り(ノンレム睡眠)が繰り返されていますが、レム睡眠では、身体は筋肉が弛緩して休息している一方で脳は活動状態にあります。そして通常の睡眠では、入眠後に最初に訪れるのはノンレム睡眠です。
しかし、ナルコレプシーでは、入眠直後にレム睡眠になるとされています。ですから、レム睡眠下で現実感のある夢をみているのが入眠時幻覚だと考えられています。
睡眠麻痺
睡眠麻痺は、目が開き意識があるにもかかわらず、身体を動かすことができない状態・症状のことで、いわゆる金縛りのことです。
睡眠麻痺は入眠時幻覚と同じく、入眠後に最初に訪れるはずのノンレム睡眠を経ずに、レム睡眠となることが要因と考えられています。ですから睡眠麻痺は、入眠直後・寝入りばなに起きやすいとされています。
睡眠障害
ナルコレプシーの患者が夜間の睡眠をとろうとしても、中途覚醒したり、熟睡困難な場合が生じます。
というのも、入眠時幻覚や睡眠麻痺を経験することで、夜間に睡眠をとることに心理的な抵抗感が生じたり、そもそもオレキシンが不足することで睡眠と覚醒のバランス調整が上手くできずに、スムーズに睡眠に入れないからです。
ナルコレプシーの治療
ナルコレプシーの治療方法は、薬物の投与による対症療法が中心となっています。具体的には、中枢神経刺激薬という薬物を投与して、昼間の眠気を抑制・改善するのです。
また、抗うつ薬が、情動脱力発作・睡眠麻痺・入眠時幻覚を抑制することから、併用される場合もあります。さらに、中途覚醒などの睡眠障害で睡眠が不足する患者には、睡眠薬が併用されることもあります。
詳しくは、ナルコレプシーの症状をチェック!原因や治療法は何?を読んでおきましょう。
特発性過眠症について
特発性過眠症も、中枢性過眠症の一つで、脳内の覚醒維持の機能に異常がある病気とされています。そこで、次は特発性過眠症について、ご紹介したいと思います。
特発性過眠症とは?
特発性過眠症は、ナルコレプシーと同様に、日中・昼間に強い眠気に襲われる発作を主症状とする睡眠障害の一つです。ただし、その他の症状については、ナルコレプシーとは異なる症状を呈します。
思春期から20歳代で発症することが多いとされ、ナルコレプシーより症例数・有病率は少ないと推測されています。
特発性過眠症の原因
特発性過眠症の原因については、中枢神経系(覚醒中枢と睡眠中枢)に原因があると推測されていて、ヒスタミンやノルアドレナリンなどの神経伝達物質の関与が示唆される研究報告もなされています。しかしながら、特発性過眠症の原因は、未だ明確には解明されていないのが実情です。
特発性過眠症の症状
特発性過眠症の主症状は、ナルコレプシーと同様に、日中・昼間に強い眠気に襲われることです。しかしながら、ナルコレプシーで見られるレム睡眠関連症状(入眠時幻覚・睡眠麻痺)や情動脱力発作などは現れません。
昼間の過剰な眠気(眠気発作)
特発性過眠症では、日中・昼間に、強い眠気に襲われる発作が現れます。その眠気は耐え難いくらいの強烈な眠さで、起きていることができずに寝入ってしまうことがあります。
ただし、その眠気は急激に襲ってくるものではなく、徐々に強まる性質のもので、眠気を自覚することができます。
居眠り時間が長い
特発性過眠症では、昼間の眠気によって一旦居眠りに陥ると覚醒が困難となり、1~4時間程度の居眠りとなる傾向があります。
また、居眠りから目が覚めても、すぐに覚醒できず眠気が継続し、なかなかスッキリ感・リフレッシュ感を感じられないことが多いようです。
夜間睡眠も長くなる傾向
特発性過眠症では、夜間の睡眠も長時間になる場合があります。その場合の夜間睡眠時間は、10時間を超えてきます。夜間睡眠が長時間とならなくても、概ね6~10時間と通常の人と同じ程度の睡眠時間で、ナルコレプシーのように中途覚醒することも少ないとされています。
夜間睡眠からの目覚めが悪いのも特発性過眠症の特徴で、無理に目覚めさせようとすると意識がはっきりとしません。というのも、特発性過眠症ではナルコレプシーと異なり、ノンレム睡眠が睡眠の主体となっている考えられているからです。
ですから、特発性過眠症は、夜間にしっかりと睡眠をとっていて覚醒しにくく、なおかつ昼間も眠くなり長時間眠りに落ちてしまうという、いわば覚醒障害といえる病気なのです。
自律神経症状を伴う
特発性過眠症では、眠気の発作などに加えて、自律神経症状が伴うことが多いとされています。具体的な自律神経症状は、頭痛・胃痛・動悸などです。
特発性過眠症の治療
特発性過眠症の治療法は、ナルコレプシーの場合と同様に、薬物の投与による対症療法が中心となっています。具体的には、中枢神経刺激薬という薬物を投与して、昼間の眠気を抑制するのです。
反復性過眠症について
反復性過眠症も、中枢性過眠症の一つで、脳内の覚醒維持の機能に異常がある病気とされています。そこで、反復性過眠症について、ご紹介したいと思います。
反復性過眠症とは?
反復性過眠症は、非常に症例数が少ない病気で、長く眠る症状が現れる期間(傾眠期)と通常の睡眠時間の期間(正常期・間欠期)が、不定周期で繰り返される睡眠障害です。反復性過眠症は、その周期性が最大の特徴であることから、かつては周期性傾眠症と呼ばれていました。
症例数自体が少ないのですが、その中では女性より男性が多く、しかも発症時期は10歳代が多いとされています。
反復性過眠症の原因
反復性過眠症の原因については、精神的なストレスや感染症による発熱などが発症のきっかけになると考えられていますが、その原因や発症メカニズムは未解明です。
ある研究報告では、傾眠期にオレキシンが減少していることが示唆されていて、中枢神経系(覚醒中枢と睡眠中枢)との関連性が疑われています。
反復性過眠症の症状
反復性過眠症の症状の特徴は、傾眠期と正常期が繰り返されることにあります。そして、ナルコレプシーや特発性過眠症のような強い眠気に襲われて、昼間に居眠りするような症状が現れるのではなく、傾眠期には単純に睡眠時間が長くなるのです。
傾眠期と正常期
傾眠期の睡眠は、1日のうち少なくとも半日以上は眠り続けることになり、平均すると16~18時間は眠り続けるとされています。この間、無理に目覚めさせようとしても、十分に覚醒せずに眠りに戻ります。
一方で、正常期の睡眠は、何の問題もなく睡眠の質や量は通常の人と同様のレベルで行われます。
周期性
傾眠期と正常期の繰り返しサイクルは、一定ではありません。傾眠期から正常期に戻り、次の傾眠期が現れるまで、数週間の場合もあれば、数ヶ月の場合もあります。
また、傾眠期の期間の長さも一定ではありません。傾眠期が数日程度に止まることもあれば、数十日に及ぶこともあります。
傾眠期と正常期の切り替わりは、突然切り替わるわけではなく、体調不良などの前触れがあって傾眠期に入ることが多く、徐々に睡眠時間が短くなって正常期に戻るとされています。
反復性過眠症の治療
反復性過眠症の治療法も、ナルコレプシーや特発性過眠症と同様に、薬物投与による対症療法が中心となります。
しかしながら、ナルコレプシーや特発性過眠症の場合に用いる中枢神経刺激薬は、効果が期待できません。むしろ、患者の攻撃性を高めたり、イライラ感を助長するなど悪影響が指摘されています。
基本的に傾眠期に入ってしまうと打つ手は無く、正常期において傾眠期に入らせないように患者の気分を安定させることが予防につながると考えられています。そのため、気分安定薬が投与されます。
過眠の症状を呈する、その他の病気
前述のように、日中に過剰な眠気を生じる原因は、多岐にわたります。その原因の一つが、脳の機能異常による中枢性過眠症でした。ここでは、その他に過眠の症状を呈する病気について、ご紹介したいと思います。
睡眠の質的不足
夜間の睡眠の質が低いと、昼間に過剰な眠気を生じます。このような睡眠の質的不足を引き起こす病気として、次のような疾患が挙げられます。
- 睡眠時無呼吸症候群
- 周期性四肢運動障害
睡眠時無呼吸症候群
睡眠時無呼吸症候群は、夜間の睡眠中に呼吸が一時的に止まってしまう病気です。
睡眠時無呼吸症候群には、脳疾患で呼吸中枢が障害されて発症する場合と、肥満などが原因で気道が塞がり発症する場合があります。いずれにしても、一時的な無呼吸によって、酸素が供給されにくく睡眠の質が低下します。
ですから、睡眠時無呼吸症候群によって、日中に眠気が生じて過眠の症状が現れるのです。
周期性四肢運動障害
周期性四肢運動障害は、夜間の睡眠中に手足が勝手に動いたり、手足にけいれんが起こる病気です。このような四肢の動きによって、眠りの途中で中途覚醒したり、中途覚醒しなくても睡眠の質が低下して疲れが取れない状況に陥ります。
ですから、周期性四肢運動障害によって、日中に眠気が生じて過眠の症状が現れるのです。ちなみに、周期性四肢運動障害は、高齢者に多く見られる睡眠障害です。
睡眠覚醒リズムの不調
夜間の仕事などによって、睡眠覚醒リズムが不調をきたすことで、昼間に眠気を生じることがあります。つまり、昼夜のサイクルと体内時計がずれることで生活リズムが狂い、昼間に眠気が生じて過眠の症状が現れるのです。このような睡眠障害を、概日リズム障害と呼びます。
過眠の症状を呈する、その他の病気
このような睡眠障害の他にも、過眠の症状を呈する原因や病気があります。
- 薬剤性過眠
- 非定型うつ病
薬剤性過眠
薬剤性過眠は、精神疾患・精神障害の治療やうつ病治療に処方される薬剤が原因となって、過眠の症状が現れます。
効き目の長い薬剤では、その副作用として昼間に眠気が生じることがあります。また、このような薬剤を長く服用していると、薬剤の依存性によって、その薬剤の服用を減らす離脱時にも眠気が生じることがあります。
非定型うつ病
通常のうつ病(定型うつ病)では不眠症が現れますが、非定型うつ病では過眠の症状が現れます。同様に、秋から冬にかけて発症する季節性うつ病でも、過眠の症状が現れます。
過眠の症状の対処法
中枢性過眠症以外の過眠の症状についての対処法や改善法は、薬物療法の他に、生活改善・生活習慣の見直しが、症状を軽減させます。
また、睡眠外来や精神科などの病院を受診して検査を受け、検査内容をもとに専門家と対策を相談することも肝要です。
まとめ
いかがでしたか?過眠症についての概要をご理解いただけたでしょうか?
過眠症は睡眠障害の一つですが、同じ睡眠障害の一つである不眠症に比べると、一般的に良く知られていません。また、過眠症の中でも、中枢性過眠症と呼ばれるナルコレプシー・特発性過眠症・反復性過眠症は、その原因や発症メカニズムについて未だ判明していないことも多いのです。
過眠症は、単なる眠り過ぎではなく、れっきとした医学的疾患です。もし、過眠の症状かもしれないと思われましたら、多くのサイトでセルフチェック方法のリストが公表されていますので、自己確認したうえで早期に病院を受診しましょう。
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