料理中の不注意や、動物にひっかかれたり時に出来た切りキズや、転んだ時に出来たすり傷・・・このような小さな怪我は、子供だけでなく大人でも頻繁に起こります。病院に行くほどでもない小さいな怪我の場合、自分で対処している方が多いと思います。
しかし、あなたは正しい対処方法を知っていますか?傷口に消毒液をつけて、乾燥させたりしていませんか。あなたがしている対処方法は、治癒を遅くしているだけでなく、醜い傷跡が残る原因を作っている可能性があります。この記事で、自然治癒のメカニズムの知識をつけ、正しい対処方法について知りましょう。
傷の治し方について
擦り傷やきり傷の治し方、あなたはどのように行っていますか。お母さん世代では、傷口に消毒液をつけて絆創膏を貼るのが一般的でした。しかし、この方法は今は主流ではなく、間違った対処法だと言われています。
間違ったやり方は傷が治るのが遅くなるだけではなく、傷口を残してしまいます。ここでは創傷治癒とは何か、傷が治るメカニズムや誤った処置方法についてご紹介します。
創傷治癒とは?
小さな傷口が出来たとしても、処置せず放置してもいつの間にか治っています。傷口をケアすることを創傷治癒(そうしょうちゆ)と言い、人間には自然治癒力が備わっています。
創傷とは外的要因もしくは内的要因によって生じる体表組織の損傷を指す用語で、切り傷や擦り傷、やけど、褥瘡(床ずれ)など皮膚の様々な損傷の総称です。一般的には、傷と呼ばれます。傷が出来たときに正しい処置を行わないと、治るのが遅くなるだけでなく、醜い傷跡を起すことに繋がります。損傷した皮膚がどのように治っていくか、まずは傷が治るメカニズムを知りましょう。
傷が治るメカニズム
傷が出来た後、どのように傷が治っていくのか、創傷治癒過程を見ていきましょう。まず、怪我をすると皮膚が損傷し、時には血管も断裂する為、その部分から出血が起こります。すると、血液中の血小板と呼ばれる血液細胞の1種により止血が行われます。
この血小板は血栓の形成の中心的な役割がある為、傷が出来ると集合して傷口付近を血液で固めて止血を行います。他にも、血小板の役割は、サイトカインを分泌します。このサイトカインの物質が血管から白血球やマクロファージを分泌させ、傷口のバイ菌や汚染物質を取り除いてくれます。
この傷を治そうとする、白血球やマクロファージなどの細胞成長因子を「滲出液(しんしゅつえき)」もしくは「浸出液(しんしゅつえき)」と呼びます。他にも、マクロファージーにより、線維芽細胞や表皮細胞を増殖させ、そこに血管が新生され傷口が治っていきます。
この毛細血管と結合組織から構成されるものを肉芽と呼び、傷が治るにつれて、肉芽組織の上に、表皮組織が作られて、どんどんと傷が小さくなっていきます。このように、血液中に含まれる血小板が重要な役割を果たし、傷口を修復して細胞を活性化させて治癒しようとするのです。この過程において出来る浸出液や肉芽組織は、傷を治すのにとても重要なものです。
誤った治癒方法
上記の傷の治癒のメカニズムを知った上で、まずは誤った治癒方法から見ていきましょう。傷口が出来ると真っ先にやってしまいがちなのが、「消毒薬」を使用したり傷口を「乾燥」させたり、「絆創膏」を貼ることです。
実は、これらはやってはいけない誤った治癒方法なんです。昔は一般的であった方法が、なぜ今になって誤った方法と言われだしているのか。誤っていると言われる理由と応急処置方法をご紹介します。
消毒薬
消毒液は細菌細胞のタンパク質を破壊して殺菌します。その為、細菌だけでなく傷口付近の自分の細胞まで破壊する為、患部の状況を悪化させてしまうと言われています。このように、傷を修復しようとしている細胞まで殺菌されてしまうと、傷の治りが遅くなってしまいます。
周りに付いたゴミや細菌を取り除くには、水道水を流したままにして、傷口をしっかりと洗いなおす方が治癒を早めます。
傷口の乾燥
「カサブタが出来ると傷が治ってきている証拠」という話どこかで聞いたことありませんか。実は、このカサブタは、傷口が乾燥したことで壊死した細胞の固まりなんです。乾燥した状態が長く続いた状態の中、カサブタをはがすと更に細胞が壊死を繰り返します。
その結果、皮膚は再生されることなく傷跡として残ってしまいます。傷にガーゼをあてて処置を行う方もいますが、ガーゼは傷を乾燥させてしまうので、ガーゼを当てるのは控えましょう。
野生の動物は怪我をした時に傷口を舐めて治します。このように、傷口は乾かさないことが重要で、乾かすと細胞が死んでしまうのです。乾燥させずに、湿潤状態を保つことで、生きた細胞で埋め尽くされて回復することが出来ます。
湿潤状態を保つと、化膿するのではないかと心配する方もいます。しかし、滲出液には細胞培養液が含まれているので、滲出液が出ている間は、細菌が傷口付近に留まることが出来ません。乾燥した状態の方が、細菌が留まりやすく化膿することに繋がります。
創面にクリームを塗る
傷口に直接クリームを塗る人もいます。しかし、クリームの中には、界面活性剤が含まれ皮膚に刺激となります。クリーム以外でもキズドライなどの傷口を乾燥させたり、刺激を与える製品は控えるようにしましょう。
絆創膏
絆創膏は傷口があたる部分にガーゼがついているものです。傷口からは浸出液がでて、傷を治そうとしています。この浸出液をガーゼが吸い取ってしまう事や、絆創膏を交換するたびに、傷口とくっつき、それを無理に剥がすと痛みや再出血を伴い、治りが遅くなります。また、絆創膏では密着性にかけ、通気性がいいように作られているので、傷口が乾く原因になります。
湿潤療法(しつじゅんりょうほう)について
現在、用いられている基本的な創傷治療方法は「湿潤療法」です。閉鎖湿潤療法や湿潤治療、モイストケアとも呼ばれています。
これは、人間が本来持っている自然治癒力を最大限に生かした治療方法で、傷口を洗浄して、止血を行い、薬を塗らずに、湿潤環境を整えるだけというシンプルなものです。ここでは、湿潤治療法のやり方とメリットについて説明します。
湿潤療法のやり方
湿潤療法は「洗浄」「止血」「保湿環境」の3つの手順を用いるシンプルな治療方法です。
自然治癒力を高めることで、傷口を早く、キレイに治すことが出来ます。それぞれの手順をご紹介します。
洗浄
傷口が出来た際、傷口に触る前に、手をキレイに洗いましょう。深い傷の場合は、病院での治療が必要になります。小さな傷の場合のみ、自分で対処しましょう。
出血が少ない場合は、まずは水道水を使って傷の周りについた砂やゴミを十分に洗い流します。砂やゴミがついたままだと感染症になる可能性がでるので、しっかりと落としましょう。キレイに洗い流した後は、水を軽く抑えながら拭き取ります。
止血
出血が止まらない場合は、止血を行います。出血している傷口部分をガーゼやハンカチなどで、直接押さえて圧迫します。包帯を傷口に巻きつけて、少しきつく圧迫する方法でも問題ありません。傷口よりも心臓に近い部分で圧迫してしまうと、出血が止まりにくくなります。圧迫する場所に注意しましょう。
また、圧迫した後は、傷口が心臓よりも高い位置にくるよう患部の位置を変えましょう。脚に傷が出来た場合は、横になって椅子やクッションなどを使って、脚の方が高くなるように、段差をつけましょう。
手に出来た場合は、止血できるまで、腕を上げるなどして工夫しましょう。傷口付近の血圧が下がることで血流が弱まり、止血することが出来ます。止血が困難なほど、深い傷の場合はすぐに医療機関を受診しましょう。
湿潤環境
傷口の洗浄と止血を終えたら、創傷被覆材を用いて、その上から絆創膏や包帯で密封、固定します。創傷被覆材とは、傷口を覆って痛みを緩和させ、湿潤環境を提供することで治癒を促進させるものです。
創傷被覆材(ドレッシング材)にはハイドロコロイド被覆材のものなど、様々な種類が発売されています。その為、傷の種類や大きさによって、選びましょう。
ハイドロコロイド被覆材を使った代表的な市販薬は、「キズパワーパット」です。肌にはりつく心配もないので、はがす時も痛みがありません。1日1回、傷口を水洗いして、創傷被覆材のシートの交換を行い、滲出液がシートに付かなくなれば、傷が治っている証拠です。
湿潤方法のメリット
湿潤方法は、従来行っていた消毒や乾燥などの方法と比べると、「傷が比較的に早く治る」「痛みが緩和される」「傷跡が残りにくい」といった3つのメリットが挙げられます。
ここでは、この3つのメリットについてご紹介します。
傷が比較的に早く治る
傷を治すための成分、滲出液が傷口に満たされる状態になる為、自然治癒の効果を最大限に生かすことが出来ます。
痛みが緩和される
傷口をガーゼで覆った場合は、滲出液が吸収されて傷口とガーゼがくっついてしまい、取り替えるごとに、引っ張られて痛みが出ます。
更に無理やり引っ張ることで、再出血していまう可能性もあります。傷にあわせた創傷被覆材を用いて密閉することで、乾燥を防ぎ痛みを緩和することが出来ます。
傷跡が残りにくい
傷口を常に湿度が高い状態に保つことで、乾燥せずカサブタが作られません。皮膚の組織が再生されて、傷跡を残りにくくします。
湿潤療法は他の処置方法と比べると傷跡が残りにくいですが、紫外線により色素沈着が起こるといわれています。その為、皮膚の再生が完了しても3ヶ月ほどは、直射日光を避けて日焼けしないように気をつけましょう。日焼けしてしまうと、傷跡が目立つようになってしまいます。
家庭で行える湿潤療法と注意点
キズパットなどの創傷被覆材がいつも家庭にあればいいですが、ない場合もあります。そんなときにも安心なのが、家庭にあるもので代用できる方法。
ここでは、家庭で行える湿潤療法とその注意点についてご紹介します。
家庭で行える湿潤療法
家庭で簡単に用いる事ができるドレッシング材として、食品用ラップがあります。この食用品ラップを用いることをラップ療法と呼びます。まず、傷口を丁寧に洗い流して、止血を行います。次に、ラップを傷よりも少しだけ大きめに切っておきます。
切ったラップに小さな穴を数箇所開け、余分な浸出液が外に流れるようにします。ラップの内側に白色ワセリンを塗ります。ワセリンを塗ることで、傷との密着性を高めます。ワセリンをつけた方を傷にあてて、周りをテープでピッタリと止めます。上からガーゼをして、包帯を巻きます。ガーゼを上から置くことで、余分な浸出液を吸い取ってくれます。
ラップを切るときは、大きく切り過ぎないように注意しましょう。浸出液は普通の肌には刺激になる為、健康な肌がかぶれてしまう可能性があります。傷よりも少し大きめに切って、他の肌に影響を与えないようしましょう。
夏場もしくは、浸出液がガーゼに染み出ている場合は、1日に2~3回程度交換するのがオススメです。創傷被覆材を用いると、傷口がジュクジュクした状態になります。この状態が、傷を治す物質である「滲出液」が分泌されていて、傷口がもうすぐ治るという証拠です。
湿潤療法の注意点
湿潤療法は普及してきていますが、化膿してしまったという話も多く報告されています。細菌は高い湿度の場所で繁殖します。その為、細菌に既に感染している状態や、こまめに取り替えず清潔な状態を保たない状態で、湿潤療法を行った場合は、深刻な弊害になる可能性があります。
患部が感染をしている時は、腫脹、疼痛、発赤、局所熱感などの炎症の兆候が見られます。これらが見られた場合は、病院を受診しましょう。
ここでは、湿潤療法を行う時の注意点についてご紹介します。下記の内容に当てはまる場合は、傷口を小まめに清潔に保ち、感染の兆候が見られた場合は、医療機関を受診しましょう。
免疫力の低下時
浸出液が多すぎると、患部の湿度が高くなり、細菌が繁殖しやすい環境になります。細菌に感染してしまった場合、体力が低下している時、糖尿病などの病気で免疫力が落ちている場合は、細菌が増殖する可能性もあります。
深い傷
深い刺し傷は、感染したり、細菌が増殖するリスクがあるので、素人が湿潤療法をやるのは、危険です。必ず、医療機関を受診しましょう。
動物による噛み傷
動物に噛まれた時、動物の爪や口の中には多くの細菌がいる為、感染症の可能性がないか注意が必要です。特に、野良犬や野生の動物に噛まれた場合は、病院を受診しましょう。
夏場の湿度と温度
夏場は高い湿度と温度により、病原体が繁殖しやすい状態になっています。夏場には1日2回~3回は創傷被覆材を交換する必要があります。
病院での治療方法について
出血がひどい場合や、深い傷、化膿しそうな傷に関しては、医療機関を受診しましょう。医療機関を受診する場合は、ワセリンなどを塗らずに、水道水で傷口を洗い流してそのまま医療機関に診せましょう。
病院を受診しなければならないような深い傷やひどい傷口は、感染症が起こりやすいです。場合によっては、軟膏やスプレーなどの創傷治癒を促進する薬を用いる場合もあります。ここでは、医療機関で行う薬物治療についてご紹介します。
湿潤治療
病院での治療でも、湿潤治療を行っているところは多数あります。深い切り傷や擦り傷だけでなく、やけどや床ずれの時などにも湿潤治療が行われます。
医療用の創傷被覆材を用いて、前述した手順と同じことが、医療現場でも行われます。
湿潤療法用の医療用創傷被覆材
- ポリウレタンフィルム・ドレッシング材
- ハイドロコロイド・ドレッシング材
- ポリウレタンフォーム・ドレッシング材
- アルギン酸塩被覆材
- ハイドロジェル・ドレッシング材
- プラスモイスト
フィブラストスプレー
フィブラストスプレーは、「血管新生作用」「肉芽形成作用」「表皮形成促進作用」があり、創傷治癒を促進し、治癒期間を短期間する効果があります。
患部を洗浄した後に、1日5回ほどスプレーを行います。スプレーした後は、30秒ほど置いて非固着性ガーゼ、軟膏ガーゼあるいはフィルム材、ドレッシング材などの被覆材で患部を覆います。
アクトシン軟膏
アクトシン軟膏は病院で処方される塗り薬で、皮膚潰瘍治療薬の1つです。寝たきりの高齢者の床ずれに用いられていることが多いです。この薬は、「血管新生作用」「肉芽形成作用」「表皮形成促進作用」があり、塗った部分の血流を増やして傷の治療を促進する薬です。
デメリットとしては、創傷面を乾燥させる傾向があります。浸出液が少ない部分は乾燥してしまう為、使用するのに注意が必要です。自分の傷に効果があるのか、医師に判断してもらいましょう。
おわりに
傷をキレイに治すには、手当ての方法がとても重要です。あなたは今までどんな方法で傷口を手当していましたか?「消毒」や「乾燥」させることは、治りが遅く傷跡が残りやすくなります。
今回ご紹介した湿潤療法は、自然治癒力を最大限に生かすので、治りが早く、痛みもなく、傷跡も残りにくくいです。小さな傷の処置は自分で湿潤療法を行い、広い範囲のやけどや深い傷、感染症に関しては、患部を水道水で洗い流し、薬を塗らないまま、すぐに病院を受診しましょう。
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