自転車で転んだり、壁にぶつけたり、またはつまずいて手やひざをついてしまって、擦過傷を作ってしまったことはありますか?
聞き慣れない言葉の擦過傷ですが、実は小さい頃から私たちが日常で体験していることなんです。そんな擦過傷についてまとめてみました。
擦過傷とは?
擦過傷とは、どのような傷のことを指すのでしょうか?
外傷の種類
そもそも、外傷とは、どのようなものなのでしょうか?
外傷とは、物理的や化学的、機械的などの原因によってできた、組織または臓器などの損傷を指します。そして創傷といわれているものは、外傷の中でもより日常的に起こりやすい皮膚損傷を指します。創傷の創は、皮膚や粘膜の一部の組織が切れることを指し、傷は皮下組織の傷がない状態を指します。創傷には、その傷の深さや大きさ、状態によって、いくつかに分類されます。
①擦過傷
皮膚の表面をコンクリートや地面などで擦ってしまったときに擦り傷です。
②切創
鋭利な刃物やガラスなどで切れた切り傷のことを指します。切り傷の場合は、その周辺の損傷があまりないので早期に治ることが多いです。
③刺創
鋭利なものが刺さってできる創です。その傷口が小さく見えるようでも、奥行きが深く注意しなければいけない損傷です。また刺さったものが皮膚に残っている場合は、早急に摘出が必要です。皮下組織や血管、神経にまで達する損傷の場合は、さらに専門の医療機関での治療が必要です。
④咬傷
動物や人などに噛まれた後に出来る創傷です。歯型の傷口が特徴です。この場合は歯牙にある菌や微生物などが噛み傷を通して入ってしまっている可能性もあり、感染の可能性の高い損傷です。治療には、細菌などの感染防止に重点がおかれます。
⑤挫創・挫滅創
鈍的外傷によって出来た皮膚の損傷です。切り傷に比べ、その周辺の損傷が大きいのが特徴です。程度によっては治癒に時間がかかったり、細菌などに感染する危険性の高い損傷になります。皮下組織にまで達する損傷の場合は、専門の医療機関でも治療が必要になります。
挫創については、挫創とは?挫傷との違いや応急処置方法を知っておこう!を参考にしてください!
擦過傷とは
外傷のひとつである、擦過傷を詳しく見てみましょう。擦過傷とは、簡単に言えば、擦り傷です。誰でも一度は経験があるのではないでしょうか?皮膚の表面をコンクリートや地面などで擦ってしまったときに出来る傷です。
皮膚は3層になっていて、上から表皮、真皮、皮下組織となっていますが、傷というのは、そのうちの表皮や真皮にできるもので、その下の皮下組織にまで達していないものを指します。なので擦過傷も、表皮や真皮までの損傷ということになります。
擦過傷は、擦ってできるという特徴から、皮膚内に土や砂などが入り込みやすく、その結果菌などの病原を持つ微生物が増殖しやすい傾向があります。病原菌や微生物が繁殖すると、その部分に感染が起きて、知覚神経を刺激し、さらなる痛みや化膿などを起こします。
擦過傷は、正しい治療法を施せば、菌や微生物の繁殖を減らすことができ、感染症や化膿などせず皮膚の修復が可能な症状です。そのため、擦過傷を作ってしまったときの対応がとても重要です。
擦過傷と擦過創の違い
よく、擦過傷と混同される言葉として、擦過創という言葉があります。この違いは何なのでしょう?
決定的な違いは、傷の深さです。擦過傷は、傷があっても、皮膚同士のつながりが認められますが、擦過創は、皮膚が切れてしまっている状態です。
擦過傷の原因
では、実際に擦過傷を起こす原因となる行動を見てみましょう。
多くが日常生活の中でのちょっとした行動で擦過傷が出来てしまいます。
- 転んでしまい、コンクリートや地面などに手や膝などがついてすりむいてしまった。
- 自転車に乗っていて、ふとした弾みに転倒した、またはペダルを踏み外し、すりむいてしまった。
- 階段や道でバランスを崩し、手や膝を擦りむいた。
- 誰かと衝突して擦りむいた。
これらの日常の行動における損傷は、小さい子供に限らず、大人や筋肉の弱くなったお年寄りなどによく見られることです。
多くは軽症で、さほど気にならないかもしれませんが、擦った場所によっては、雑菌などのばい菌の繁殖の可能性があります。擦過傷を作ってしまったら、すぐに正しい手当てをし、きちんと傷口を保護しましょう。
擦過傷の症状の経過
ひどくなると
擦過傷の症状は、多くが皮膚の表皮や真皮を擦りむくことで、そこが赤く腫れたり、出血をしたりします。また、傷の中には、擦りむけた際に入り込んだ砂や土やホコリ、また石などの異物が入っている場合もあります。必ず治療の前には傷口をよく洗い、異物を取り除くことが必要です。治りが遅くなる可能性があるので、傷口に消毒液などをつけるのはやめましょう。
また、細菌などの繁殖によって、傷口が悪化した場合は、その部分が化膿することがあります。ひどくなると黄色い膜や膿が溜まることもあるので注意が必要です。その場合は、新しい皮膚が出来るのが遅くなり、かさぶたが出来ます。そのかさぶたの下で微生物や細菌などが繁殖してしまった場合、痛みなどが続くだけでなく、破傷風などの危険な症状へと進んでしまいます。
さらに皮膚内に異物が入ったままにしておくと、異物の上から皮膚が再生し、まるで刺青のような後になります。これは外傷性刺青と呼ばれ、見た目にも問題がでてきます。このような外傷性刺青になってしまった場合は、そのままでは治らないので、専門の医療機関で、レーザー治療などを受けるしかありません。そうならないように、擦過傷が出来たときには、最初の対処がとても大切なのです。
擦過傷の治療法
では、擦過傷を作ってしまった場合に、正しい対処法はあるのでしょうか?
傷が治るメカニズム
小さい頃など、擦過傷と思われる傷を作っても、知らないうちに治癒していたなんていうことはありませんか?それは私たちが本来持っている自然治癒力が働いているのです。ではそのような人間の傷を治すメカニズムを見てみましょう。
擦過傷などの傷を作ってしまうと、その部分の皮膚は損傷を受けたことになります。その程度によっては皮下組織や血管なども切れてしまうので、出血します。すると、その出血に反応するように血小板という、血液を止めようとする働きを持つ血液細胞が動き出します。さらにその血小板の働きに反応して、サイトカインという物質を分泌するのです。
サイトカインという物質は、血管に指令を出し、血管は、身体の中に入った菌などを退治してくれる、白血球やマクロファージといった細胞を含む液を分泌します。これら貪食細胞といわれるものが、損傷から入った細菌など身体にとって有害なものを退治してくれるのです。
その後、細胞を早く回復させるために細胞が増殖していき、傷口を修復していくのです。
正しい治療法とは
身体の自然治癒力を最大限に生かし、出来てしまった擦過傷を早くキレイに治すためにはどのような方法があるのでしょうか?
まず知っておきたいことは、擦過傷が出来た時点で、きちんとした対応をするかどうかが、その後の傷跡などの関係しています。
やらないほうがよい対処法
①傷口を乾燥させること。
傷口を乾燥させることで、その部分の細胞が壊死して治りが遅くなる可能性があります。
②ガーゼの使用
傷口に直接ガーゼを当てることで、水分を取ってしまうだけでなく、治癒を促進させる分泌液をも吸い取ってしまい、治りが遅くなる可能性があります。
③消毒液
一昔前には、傷口に消毒液をかけるのが一般的でしたが、最近ではその必要はないといわれています。消毒液を使用することで、一部の細菌などを殺すこともできますが、損傷を起こした傷口に対してあまりよくないといわれています。そのため傷の治りが遅くなるので、最近では消毒液は使用しないほうがよいと言われているのです。
④絆創膏(乾燥タイプ)
これも一昔前までは、擦過傷の際には必ずといっていいほどつけるものとして知られてきました。しかし、最近では、絆創膏でも渇いたものではなく、身体から出る分泌液をそのまま保てるような絆創膏をつかうのがよいと言われています。
正しい対処法とは
では、擦過傷などの傷口に対する対処法を見ていきましょう。
①慌てないこと
まず、一番気をつけるのが、擦過傷などの傷を作ってしまったときに慌てないことです。
出血などが多いと、つい慌ててしまいますが、慌てて処置をすると、正しい処置が出来ずに悪化してしまったり、その後に後が残るようなことになりかねません。まずは気持ちを落ち着けて対処できるようにしましょう。どうしても不安なときなどは、近くにいる人などに、医療機関まで一緒に行ってもらうなどしましょう。
②傷の様子を確認し、傷口を丁寧に洗浄する。
まず傷口を洗う前に、自分の手を石鹸などを使って丁寧に洗いましょう。対処する手がばい菌だらけでは困ります。そして傷の状態を確認します。傷の大きさや深さなど、自分で処置に困るような場合は、医療機関にすぐに受診しましょう。もし病院に行くほどでもない傷の状態であれば、水道水で丁寧に傷口を洗いましょう。
③傷口を止血する
傷の状態によっては出血が止まらないこともあるかもしれません。直接圧迫や圧迫した後に、その部分を心臓より高い位置に挙げることで血圧を下げ、出血を抑えます。
直接圧迫
出血しているところをハンカチなどで直接圧迫する方法。又は包帯などできつく圧迫しながら巻く方法もあります。
④傷を覆い、保護する
傷口をキレイに洗浄し、止血ができたら、湿潤療法に適した絆創膏や包帯などで患部をぴったりと保護します。
近年、擦過傷などの傷に対する治療法として効果的だといわれているのは、湿潤療法です。
湿潤療法とは、創傷部分にぴったりと付き、覆うような状態で、身体から出る傷を早く治す分泌液を保ち、細胞の成長を促すやり方です。一般的にはキズパワーパッドやネクストケア、カットバンモイストなどが販売されています。これらの創傷被覆材を使用することで、医療機関に行かなくても自分でキレイに治すことが出来るといわれています。
またこのような湿潤療法では、かさぶたなどは出来にくいため、二次的な細菌感染も防げるようになります。使用する際には、注意事項など使用法をきちんと読んでから使うようにしましょう。
医療機関への受診
擦過傷など傷が出来てしまったときに、どの程度の傷で医療機関に受診したらよいか、分からないときがあります。どのような時に医療機関に受診するべきでしょうか?
- ①大きな傷口が出来ているとき。
- ②傷口が深い、又は切り傷があるとき。
- ③動物などに噛まれたとき。
- ④傷が化膿しているとき。
- ⑤出血が止まらないとき。
- ⑥傷口がかなり汚染されているとき。
- ⑦ギザギザしたような傷口のとき。
- ⑧糖尿病やそのほかの疾患が持病であり、傷の治りが遅くなりそうなとき。
- ⑨免疫抑制剤など、免疫力を低下させるような薬を使用しているとき。
このような場合は、医療機関に受診して診断を仰ぎましょう。
きれいに早く治そう
擦過傷などの傷口をキレイに早く治すためには、まず丁寧な傷口の洗浄と湿潤療法のほかに、どのようなことが必要でしょうか?
きちんと丁寧に傷口を洗浄できるように、医療機関では、生理食塩水や局所麻酔クリームなどが使用されることがあります。
生理食塩水
生理食塩水は、主に擦過傷などの傷口の洗浄の時に使われます。医療機関では、本来の清浄法として、水道水を推奨しています。しかし水道水では、洗浄の際には痛みを強く感じることがあるため、生理食塩水を使うようです。医療機関のほか、薬局などの店頭やインターネットでも購入が可能です。また自分で作ることもできるようです。
生理食塩水の作り方
材料
・500ミリの精製水ペットボトル
・食塩
作りかた
①ペットボトルにボトルキャップ半分程度から1杯程度の食塩を入れる
②ペットボトルをよく振る。
これで完成です。出来たものはすぐに使用してください。また洗浄の時には傷口に入ってしまった石や砂、土などの汚れをブラシで取り除くように洗ってください。異物が残ったまま洗浄を終わらせてしまうと、傷口が後になって残ることがあります。
局所麻酔クリーム
擦過傷などの皮膚の損傷で皮膚科や外科などを受診した際に、傷口の洗浄前に局所麻酔クリームを使われることがあります。
その名のとおり、患部の洗浄の際に感じる痛みなどを出来るだけ軽減するためのものです。擦過傷などで、患部に石や砂、土などが入ってしまっている場合は、患部洗浄の際にブラッシングなどで皮膚に刺激がくるためです。
ワセリン
ワセリンは、湿潤療法に適した被覆剤がない場合に、応急手当として使われることがあります。
クリーム状のテクスチャで、ねっとりとしています。患部に直接塗りつけることで、傷口をしっかり覆うことができ、また湿潤を保つことが出来ます。ワセリンは医療機関のほか、薬局などの店頭やインターネットで購入することができます。
日焼け止めクリーム
擦過傷が完治してきたときに、皮膚に色素沈着が起こる場合があります。
その予防のために、医療機関から日焼け止めクリームを薦められることがあるそうです。色素の沈着を抑え、きれいな皮膚の再生を促進させる効果があります。
皮膚の再生によい食べ物
出来るだけ早くキレイな皮膚を再生するために、よい食べ物はあるのでしょうか?
①亜鉛
亜鉛は、細胞の再生を促す力があるといわれています。また、ケラチンという物質を作り皮膚を丈夫にします。またクエン酸やビタミンCと一緒に摂取することで、その吸収率があがります。
牡蠣・ごま・あさり・豚レバー・卵・チーズ・大豆・とうもろこし・玄米など
②ビタミンB群
ビタミンB2やビタミンB6、ビタミンB12、ナイアシンなど、ビタミンB群は、皮膚や粘膜などの炎症によいといわれています。
レバー・納豆・チーズ・ごま・卵・筋子・バナナ・さけ・牡蠣・パプリカ・イワシ・たらこ・さば・落花生
③ビタミンA
ビタミンAの不足は、皮膚が傷つきやすくなるといわれています。
牛乳・のり・うなぎ・にんじん・ほうれん草・マンゴー・かぼちゃ
④ビタミンE
ビタミンEが不足すると、細胞が壊れややすくなります。
アーモンド・モロヘイヤ・落花生・小麦胚芽・ほうれん草・アボカド・筋子・たらこ・かぼちゃ
⑤ビタミンC
皮膚や粘膜を強くし、皮膚の回復を促進させます。
キウイフルーツ・トマト・イチゴ・レモン・ブロッコリー・じゃがいも・ほうれん草
⑥アミノ酸
体内でタンパク質が分解され、アミノ酸になり、皮膚を作ります。そのため、良質のタンパク質を補うことが必要です。
肉類・大豆製品・魚・乳製品
まとめ
いかがでしたか?
擦過傷は擦り傷ですが、正しい対処法をしないと、ひどくなったり、後の残る傷になったりすることがわかりました。
このような擦過傷を作らないためには、日頃から足腰を丈夫にし、注意深く行動することが必要なのかもしれません。また傷を作ってしまったときは、慌てずに対処できる冷静さを持つことも忘れないようにしましょう。