わたしたちの日常生活の中で、ウィルスとの接触は避けられないものですよね。目に見えないいくつものウィルスと接触する中で、気を付けなければいけないのがウィルスによる感染症です。
さて、「丹毒」というのを耳にしたことがあるでしょうか?高齢者が発症しやすく、さらに再発率も高いという、厄介な病気です。適切に治療をしないと重大な合併症を引き起こすという丹毒について、その原因と正しい治療法についてご紹介しましょう。
丹毒とは
丹毒は、化膿連鎖球菌が皮膚の表面から真皮内に入り込み、炎症反応を起こすことが原因と言われています。連鎖球菌の中でも、特に溶連菌と呼ばれる、A群β溶血性連鎖球菌によるものが多く見受けられます。溶連菌というのは耳にしたことがある人もいるのではないでしょうか?
皮膚から菌が入り込む要因としては、虫刺されや外傷がなどがありますが、手術跡や局所的な腫れ(浮腫)などを介して発症することもあるようです。
また、皮膚だけでなく血液を介して菌に感染することもあり、必ずしも外傷がなくても発症リスクがあるのが厄介です。主に高齢者や免疫力の低い人に発症しやすいと言われています。
また、丹毒が手や足の指先に感染すると「ひょう疽」、表皮に感染すると「とびひ」と呼ばれるものになります。
丹毒の症状
丹毒を発症すると、
- 高熱
- 悪寒
- 全身に及ぶ倦怠感
- 鮮やかな赤い腫れ
などの症状が現れます。皮膚の表面は突っ張ったように硬くなり、光沢があります。触ると強い痛みがあり、熱を持っているのが特徴です。時に水疱や出血斑を伴うこともあると言われています。
また、症状のでやすい部位としては、
- 頬や耳、眼のまわりなどの顔
- 下肢
- 上肢
- 手足
などに多く見られます。症状の出ている部位の近くのリンパ節が腫れ、痛みが出ることもあるようです。 これらの腫れは適切な治療を受ければ1週間前後で治りますが、治療法が間違っていると敗血症や髄膜炎、腎炎などの合併症を引き起こし、重篤になることがあるため注意が必要です。
厄介な習慣性丹毒
せっかく治療をして治っても、再び同じ場所に発症を繰り返す場合があります。これを習慣性丹毒と言いますが、再発を繰り返す原因は一体何でしょうか?
丹毒は抗生剤の服用などできちんと治すことのできる疾患ですが、服用を途中で止めるなどして、治療が不完全だった場合、再発につながるリスクがあります。それは、中途半端な治療によって原因菌が耐性を持ってしまうためで、抗生剤が効かなくなる耐性菌の原因にもなります。まずはきちんと治療し、完全に直してしまうことが重要というわけですね。
その他の原因としては、ガン治療のためにリンパ節郭清や放射線照射などを行うことでリンパの流れが滞り、同一部位に繰り返し丹毒を発症する場合もあります。このように、習慣性丹毒はガン治療の副作用としても起こりうるということを覚えておきましょう。
丹毒はうつる?
こうした感染症で気になるのは、やはり人にうつるかどうか、ということですよね。丹毒については、人から人への感染はしないと言われています。
もちろん、原因菌の連鎖球菌は日常生活の中にありふれている菌ですから、厳密には感染経路がないわけではありません・しかし、丹毒がうつるのは患部や傷口に直接触り、さらにその手で自分の皮膚をかくなどして傷付けた場合ですので、他人からうつる可能性はないと言ってよいレベルです。
また、とびひはうつるものとして認識されがちですが、こちらも直接患部を触った手で身体をかくなどしない限りうつりませんので、他人からうつる確率は限りなく低いと言えます。とびひが身体のあちこちにうつるのは、患者本人が患部をかき、その手で他の部位を触るためだとされています。
丹毒と蜂窩織炎(ほうかしきえん)
蜂窩織炎とは
感染する場所
症状の出方
治療法
丹毒と同様、蜂窩織炎も重症化させないことが何より大切になります。抗生物質などの内服で効果が出ない場合には、早い段階で入院治療に切り替えることが必要です。
また、蜂窩織炎は丹毒よりも深いところで起こるため、壊死性筋膜炎にもなりやすく、菌血症などの危険もあります。起こっている場所が下肢の場合には、挙上して休ませることも重要だと言われます。
瘭疽(えそ)にも注意が必要
丹毒の診断方法
視診
丹毒かどうか診断するのはさほど難しくなく、赤みと光沢、肌のツッパリなど、特徴的な発疹の外見で分かると言います。
また、感染した箇所を診察することにより、丹毒が真皮レベルで起こっているのか、さらに深いところで起こっているのかを判断します。
血液検査
視診でも十分に判断できますが、診断の補助として血液検査を行います。これによって炎症が増大しているかどうか、膿などを培養することによって原因菌を検出するなどをし、診断を確定させるのです。この血液検査では、丹毒の場合に変化が出やすい項目があるため、鑑別診断をする上でに有用とされています。
診断基準
血液検査の場合、以下の点に着目して判断します。
- 白血球の増加
- CRP(炎症検査の項目)の上昇
- 赤沈の亢進
また、連鎖球菌に対する抗体であるASOやASKが上昇することもあります。
丹毒の治療方法
丹毒は化膿連鎖球菌が原因菌のため、ペニシリン系の抗菌薬を内服、または注射することで治療します。また、非常に再発しやすいため、再発予防や腎炎の併発を考慮し、症状が改善されても約10日間は抗菌薬を内服します。
また、丹毒の患部は安静にし、冷湿布で冷やしておきましょう。ただし、足の真菌感染症によって丹毒に感染した場合には、抗真菌薬を使った治療法をとることもあるようです。
入院が必要な場合
丹毒は基本的には、抗菌薬の内服や注射で治療しますが、時として入院が必要な場合もあります。では、入院が必要な場合と治療法についてご説明しましょう。
- 発熱を伴い、症状が重い
- 血液検査で異常を示す値が高い
- 抗菌薬などによる治療で症状に改善が見られない
通常はペニシリン系の抗生物質で治療しますが、効かない場合はセフェム系という抗生物質を投与します。
壊死性菌膜炎
丹毒の感染の深度が深い、壊死性筋膜炎の場合、病巣を掻き出す病巣掻爬(びょうそうそうは)という方法があります。また、感染や壊死を起こした組織を切り取る、デブリードメントという手術を行う必要があるようです。
また、上記のような手術をしない場合も、抗生物質の種類を変えながら投与を続ける治療が行われます。その場合、入院期間は1週間から始まり、あとは症状の重さによって徐々に長くなると言われます。
壊死性筋膜炎の怖いところは、ショック状態や肝臓・腎臓不全など、多臓器不全を起こすこと可能性があることです。命に関わる危険を伴う疾患のため、丹毒の早期治療により壊死性筋膜炎を起こさないようにすることが何よりも重要だとされています。
溶連菌による感染症
すでにご紹介したように、丹毒や蜂窩織炎は溶連菌によって引き起こされます。溶連菌への感染経路としては咽頭炎や扁桃腺炎などがあり、以前は重篤化することもあった感染症です。
また、主な原因菌となるA群β溶血性連鎖球菌にもいくつかのタイプがあり、日本には4~5種類ほど確認されています。つまり、この種類の分だけ感染の可能性があるということです。
溶連菌感染症とは
溶連菌の感染症は小学生までの小児に多く、もっと幼い赤ん坊には少ないと言われています。その理由として、1~3歳くらいまでは、感染しても症状の出ないことも多く、実体が把握できないためです。また、丹毒は人から人へうつることはありませんが、溶連菌はうつるようです。子供が溶連菌に感染し、その親にうつってしまうというケースもあります。
予防法としては、感染した子供の食器などに触らないなど、接触を避けるほか、手洗いやうがいなどが重要となります。溶連菌自体はそれほど強い菌ではなく、免疫が低下していなければ発症することは少ないようです。ただし、疲れやストレスなどで免疫が落ちていれば、大人でも感染しますから注意が必要です。
症状
溶連菌感染症には2つの特徴的な症状があります。
- イチゴ舌
発病後2~4日ほどにわたり、舌がブツブツとなります。この様をイチゴ舌といいます。
- 喉の腫れや痛み
もう1つの特徴として、喉の痛みがあります。風邪と違うのは、咳や鼻水はあまり出ないという点です。
- 発熱と湿疹
このほかにも、全身に起こる症状として発熱と湿疹が挙げられます。湿疹はかゆみを伴い、多数見られます。こうした症状が一通り治まると、皮が剥がれて治っていくという経過を辿ります。
また、溶連菌の潜伏期間は2~3日あり、症状が治まるまでに1週間ほどかかります。ですから、この1週間は人との接触を避けた方がよいでしょう。
合併症
溶連菌で注意が必要なのが合併症です。溶連菌感染症で起こりうる合併症は急性腎炎ですが、これは溶連菌への感染後2~4週ほど経った頃に引き起されることと言います。
急性腎炎の症状
急性腎炎になると、以下のような症状が現れます。
- むくみ
- 尿の出が悪くなる
- 血尿やタンパク尿
早期発見のためにも、初診時と溶連菌発症から2~4週後には尿検査を受けることをオススメします。また、溶連菌感染に伴う急性腎炎は、きちんと治療を受ければ約65パーセントの人が2か月以内、85パーセントの人が3か月以内、95パーセントの人が6か月以内に正常に戻ると言われています。血尿など、症状は派手で慌ててしまうかも知れませんが、治りやすい病気だと言えます。
アレルギー性紫斑病
こちらも注意が必要な合併症です。その名の通り、アレルギー反応(過敏性反応)によって血管に炎症が起こり、出血しやすくなるという病気です。血管から出血するため、皮膚に紫斑が現れるというわけですね。内出血により、紫色や赤色をした斑点状の発疹が現れます。部位としては主に足ですが、おしりに出ることもあるそうです。ひどい場合には関節痛で歩けなくなるほど重篤になるので、油断できません。
また、急性腎炎とアレルギー性紫斑病とが併発した場合、慢性化しやすいと言われています。
治療法
咽頭炎や扁桃腺炎を起こす溶連菌感染症も、基本的な治療法は抗生剤の服用を行います。ペニシリン系の抗生物質を10日~2週間ほど服用することで、たいていは治ります。
また、溶連菌の除菌は抗生物質を服用してから1日ほどできるとされていますが、やはり服用を途中で止めると、ペニシリンに対する耐性菌ができてしまう危険性があります。急性腎炎やアレルギー性紫斑病などの合併症を引き起こさないためにも、治療は最後まできちんと行いましょう。
丹毒と似た症状・帯状疱疹とは
また、丹毒や蜂窩織炎などと似た症状を起こす病気としては、帯状疱疹があります。
見た目は似ているので素人は間違えやすいですが、医師に診てもらえば違う病気であることはすぐに明らかになります。
原因と症状
帯状疱疹の原因は水痘・帯状疱疹ウィルスへの感染です。このウィルスはヘルペスの一種だと言われていて、感染初期には水痘になります。これはいわゆる水ぼうそうのことです。かゆみと水分を含んでぶよぶよとした湿疹が非常に不快な症状ですね。
厄介なのは、水痘・帯状疱疹ウィルスは水ぼうそうが治っても身体に潜んでいて、免疫力が落ちると再び症状を引き起こす点です。治ったと思って油断してはいけないのですね。
ウィルスは神経にんでいるので、症状が起こるとその領域に痛みを引き起こすほか、水泡などの皮疹が現れます。ただし、帯状疱疹も基本的には、水ぼうそう同様、1度発症した後は、潜んでいた神経の領域に特徴的な痛みを出したり、水泡などの皮疹ができたります。一般的には帯状疱疹も水ぼうそうと同じで一度発症すれば再発はしないと言われていますが、最近では再発を繰り返すケースもあるようです。
また、帯状疱疹の症状は人によって様々で、痛みの強い人では動けなくなるほどだと言います。初期症状としては、
・チクチクとした痛み
・皮膚に触れた時の感覚
・感覚過敏
などで、衣服などが擦れるだけで敏感に感じる場合もあるようですが、この初期症状も個人差があります。また、痛みのあとに皮疹が出ることが多いですが、皮疹が出ていない場合には判断が難しくなると言われています。
治療法
帯状疱疹は1度発症した後は、ウィルスが増殖することによって症状が起こりますので、高ウィルス薬で治療します。早めに服用すればそれだけウィルスの増殖を押えられますから、症状に気付いたら早めに受診しましょう。
まとめ
いかがでしたでしょうか?丹毒と言っても蜂窩織炎や帯状疱疹など、素人目には判断のつかない、似たような症状がたくさんありました。また、原因となる菌はわたしたちの日常生活に常に潜んでいるので、ちょっとした体調の変化などでも感染してしまうリスクがあります。
やはり1番大切なのは、
- 傷口などの感染経路を作らない
- 体調を整え、免疫力低下に備える
- 異変に気付いたら早めに受診
ということですね。放っておくと悪化や慢性化を招くこともあるため、早めの治療と、医師の指示に従った正しい治療が重要です。初期治療をしっかりとして、確実に治療していきましょう。