双極性障害とは?症状や分類、治療法について理解しよう!

双極性障害は、昔は躁うつ病と呼ばれていたので、もしかしたら、心の病気だと思っている方も多いかもしれません。でも、双極性障害では、脳内伝達物質や細胞内情報伝達系の障害、ミトコンドリア機能障害などが起こっていると言われており、心の病気というより、体の(脳の)病気です。

このことを理解しないと、患者さん自身も、患者さんのご家族も、方向の間違った努力をしてしまい、ますます病気を悪くしてしまうので、注意が必要です。

この記事では、双極性障害の症状、うつ病との違い、原因、治療法などの詳細をご紹介します。

双極性障害って何?

感情の双極

「双極性障害」は、昔は「躁うつ病」と呼ばれていたことからも分かるように、躁状態とうつ状態の両極端な病状が起こります。うつ状態だけが起こる病気を「うつ病」と言いますが、双極性障害のうつ状態の時は、うつ病そっくりになります。

気分の波は、誰にでもありますが、双極性障害はこの「気分の波の揺幅」が、極端に大きく、生活できないほどになってしまうのが特徴です。

なお、単極性障害は「うつ病」のことを指します。「単極性うつ病」などの呼び方をすることもあります。単極性「躁病」もあっておかしくないはずですが、アメリカ精神医学会が発行しているDSM-IVは、「単極性障害はうつ病だけ、それ以外は双極性障害」という定義を採用しているので、単極性の躁病は「双極性障害I型」という分類に入ります。

双極性障害の症状

感情の波

双極性障害の症状は、以下の3つの病相(状態)を繰り返すというものです。

  • 気分が落ち込み、興味・喜びが無くなってしまううつ状態
  • 気分が高揚し、落ち着かない躁状態、軽躁状態
  • 何の症状のない寛解期

うつ状態(うつ病相、うつ病エピソード)

うつ状態の重要な症状は以下の2つです。

  • 抑うつ気分:なんとも言えない鬱陶しい気分が、殆ど毎日、何日も続く
  • 興味・喜びの喪失:好きだったことや大切にしているものに対してまで興味が持てなくなり、何をしても嬉しいという気分が持てなくなることが、殆ど毎日、何日も続く

上の症状が少なくとも1つが2週間以上あり、

以下に続く症状が5つ以上、2週間以上毎日出ている状態が、うつ状態です。

  • 入眠障害:寝付きが悪く、途中で目が覚めてしまう
  • 睡眠障害:夜眠れない
  • 早朝覚醒:暗いうちから目が覚めてしまう
  • 食欲減退:何を食べても美味しさが感じられない
  • 体重減少:(食欲がなくて)体重が減ってしまう
  • 食欲亢進・体重増加:食欲が亢進して体重が増えてしまう
  • 全身倦怠感:体がだるい、疲れがとれない
  • 易疲労性:疲れやすい
  • 意欲低下:何をする気にもなれない
  • 自責感:自分を責める気持ちになってしまう
  • 自殺念慮:自殺したいと考えてしまう

また、うつ状態の症状が進むと、

  • 貧困妄想(根拠もないのに破産したなどと信じ込む妄想)
  • 心気妄想(自分が重い病気にかかったと信じ込む妄想)
  • 罪業妄想(何もしていないのに、大変な罪を犯したので、刑罰を受けると信じ込む妄想)

などの妄想も起こります。うつ病では妄想や幻覚などの精神病症状は比較的少ないのですが(ありますが)、双極性障害のうつ状態では、これらがうつ病よりも多いのも特徴です。

躁状態(躁病相、躁病エピソード)

躁状態では、その人を知っている人なら、明らかに「おかしい」「人が違っちゃったみたいだ」と感じるほど気分が高揚し、周囲に迷惑をかけたり、怒り続けたします。

また、非常に行動的になるので、借金を作ったり、愛人を作ったりするなどして、社会的信用を損なったり、人間関係を悪化させたり、家族を失ったりして、後の生活に著しい支障をきたします。

具体的には、以下のような症状が生じます。

  • マシンガンのように一方的にしゃべり続ける
  • 一緒にいる人(家族)が、振り回されて疲労困憊する
  • 殆ど寝ることなく動き回り続ける
  • 考えが絶え間なく思いつき、観念奔走して口がついていかいほどになる
  • なんでもできる気がして、仕事や勉強、家事などにエネルギッシュに取り組むが、何一つ仕上げることができない
  • 新しいビジネスを始めたり、急に留学しようとしたり、リスクの高い株などに手を出したりする
  • 借金までして買い物する
  • それまで築いてきた社会的信用を一気に失うような、反社会的なことをする
  • 自分は能力があり、何をしても良い特別な存在だと思い込み、尊大な態度をとる
  • モラルハラスメントやセクシャルハラスメントのような行為をとる
  • すぐに怒ったり、執拗に罵倒したり、クレームをつけたりする

また、躁状態の時には、誇大妄想などの妄想も起こります。躁状態では、これらの症状による行動で、社会的生命が脅かされるので、早めの治療が必要です。

軽躁状態(軽躁病相、軽躁病エピソード)

軽躁状態では、周りの人に酷く迷惑をかけることは少ないのですが、やはり、いつもとは人が変わったように元気になったり、怒りっぽくなったりします。

少し行き過ぎという感じを受ける場合もありますが、仕事や勉強も捗ることが多く、「調子に乗っているのかな?」くらいの感じで済む事もあります。

軽躁状態でも、ローンを組んでの買い物もありますが、躁状態と比べる、理解可能なもの購入だったりするため、周りの人も、「おかしいな」と思うことがあっても、納得してしまったりして、発見が遅れることがあります。

躁状態と軽躁状態の相違点

躁状態でも軽躁状態が似ているのは、以下の点です。

  1. 本人は気分爽快で「これが本来の自分だ」と思いがち
  2. 機嫌がいいはずだが、怒りっぽくなる

躁状態と軽躁状態はよく似ていますが、軽躁状態では以下の点が違います。

  1. 症状がひどくなっても、幻覚や妄想などが存在しない(躁には誇大妄想がある)
  2. とんでもない欲望や衝動にかられても、軽躁の方はあまり実行しない(躁は実行してしまうことが多い)

混合状態

双極性障害の症状の分類の中に、混合性エピソードがあります。これは、躁状態とうつ状態の両方の診断基準を100%満たすものです。しかし、そのような患者さんは滅多にいません。

そういうわけで、混合状態という言葉は、いろいろな意味で使われます。以下に例を示します。

躁転・うつ転に伴う混合状態

うつ状態から、数日間で急激に躁状態に変わることを躁転、その逆をうつ転と言います。躁転やうつ転する際に、気分はうつ状態なのに、行動は活動的で躁状態の時期があり、その状態のことを混合状態といいます。

うつ気分の混ざった躁状態、焦燥感のあるうつ状態などの混合状態

躁状態なのに少しだけうつ気分が入っている場合や、うつ状態なのに焦燥感がある場合のように、殆どの部分で躁状態やうつ状態なのに、対極の状態が含まれる場合も、混合状態と呼びます。このケースでは、一般的なうつ状態よりも自殺の危険性が高くなります。

寛解期

双極性障害では、うつ状態では自殺などによって生命の危機をもたらし、躁状態ではその行動の結果によって社会的生命の危機をもたらします。

しかし、躁とうつの間には正常な精神状態があり、この状態が長く続いて、症状がない状態があります。この時期のことを寛解期といい、双極性障害治療は、この寛解期を、できるだけ長く、何年にも渡って維持することを目標にします。

寛解期は、「治った」状態に近い状態ですが、継続的な薬物療法は必要です。

双極性障害の分類

分類

双極性障害には、双極性障害I型と双極性障害II型があります。ここでは、この2つの違いについて見ていきます。

双極性障害I型と双極性障害II型

双極性障害I型と双極性障害II型の大きな違いは以下の通りです。

  • 双極性障害Ⅰ型:躁状態とうつ状態を繰り返す
  • 双極性障害Ⅱ型:軽躁状態とうつ状態を繰り返す

一見すると、双極性障害II型では、軽躁状態にとどまることが多いので、症状が軽く見えますが、薬物療法が良く効き、コントロールしやすいのはI型です。また、衝動性が高く、自殺しやすいのはII型です。

この2つは、躁の時の状態が躁なのか軽躁なのかの違いだけでなく、最近は別の病気ではないかと考えられるようになってきました。「躁状態の程度の違い」以外に、以下のような違いがあります。

症状の質が違う

双極性障害Ⅰ型とⅡ型では、一見するとⅠ型が重くてⅡ型は軽いような印象を受けます。しかし、最近は、躁の「質」も違うのではないかと言われています。

先述したように、双極性障害Ⅰ型の躁状態は、将来、深刻に困るような社会的信頼をなくすようなことをしてしまいます。

双極性障害Ⅱ型の軽躁状態では、逸脱した問題行動は少ないのですが、衝動的に自殺してしまうことが、Ⅰ型よりも多い事が知られています。Ⅱ型は、うつ病に近い場合や、人格障害に近い症例もあり、双極性障害なのかどうかはっきりしない時もあります。

治療が違う

双極性障害Ⅰ型でもⅡ型では、基本的な治療法は似ていますが、同じにはできません。

双極性障害Ⅰ型に対しては、リチウム(炭酸リチウム)やバルプロ酸などの気分安定薬が良く効きます。気分安定薬は、気分の波を和らげる作用を持つ薬です。気分の波を和らげるというのは、気分が高揚したり興奮しているときは、気分を鎮め、気分のが落ち込んでいるときは、気分を持ち上げるということです。

双極性障害Ⅱ型では、気分安定薬は、Ⅰ型に対してほどは、効果がありません。またⅡ型の中で衝動性の強いタイプには、鎮静作用のある抗精神病薬が効くことがあります。抗精神病薬は、統合失調症でよく使われる薬ですが、双極性障害Ⅱ型に対しては、気分安定効果だけでなく、鎮静作用が衝動性を適度に抑えてくれるのです。

原因や遺伝的要因が違う(かも知れない)

双極性障害Ⅰ型もⅡ型も共通の原因や遺伝的要因でなりやすさが決まるのなら、その子供のⅠ型Ⅱ型の頻度は同じはずです。

しかし、近年、II型の親を持つ子供はII型になりやすいという報告が続いており、このことから、I型とII型は原因や遺伝的要因が異なるのではないかと考えられています。

そのうつ病、本当にうつ病なの?

うつ状態

うつ病も双極性障害のうつ状態も、症状がとてもよく似ているので、診察で双極性障害によるうつ状態なのか、うつ病によるうつ状態なのか区別するのは、ほぼ不可能です。

このため、双極性障害が何年も「うつ病」と診断されたままになってしまうことがあります。

双極性障害はうつ病と診断されやすい

双極性障害の患者さんは正しい診断を受けるまでに、平均7.5年かかり、その殆どが、何年もうつ病と診断されています。

この誤診の理由の一つは、躁状態や軽躁状態では、医療機関に行かない/行く気がおこらないということです。

双極性障害の1/3は躁状態や軽躁状態で始まりますが、躁状態の時は、本人は調子がいいし、病識がない(自分を病気だと思っていない)ので、医療機関を受診することは殆どありません。

したがって、双極性障害の場合、最初の症状がたとえ躁状態であっても、初診時はうつ状態です。本人は躁状態の時は病気ではないと思っているので、躁状態があったことを医師に伝えないままうつ病という診断がついてしまうことが多いのです。この誤診は躁状態が軽躁状態にとどまりやすいII型では特に多くなります。

双極性障害患者はうつ状態の時だけ受診することが多い

双極性障害の患者さんが、投薬を受けている最中に躁状態や軽躁状態になり、主治医に会うことがあれば、そのときに双極性障害との診断を受けることができるかもしれません。

ところが、躁状態や軽躁状態のときには、長く苦しんだうつ状態からやっと解放され、気分が爽快なため、主治医を受診せずに過ごすことがあります。本人としては「治った」気分なので、家族や親しい人が医療機関に連れて行こうとしても拒否することもあります。

躁状態や軽躁状態が終わり、うつ状態になれば、また医療機関を訪れますが、この時、躁状態や軽躁状態のことを「うつ状態が正常になった」という認識で、医師に話さずにいると、双極性障害だと診断してもらえる機会を失ったまま、また、「うつ病」の治療の治療だけずるずると続けてしまうことになります。

治りにくいうつ病は、双極性障害かもしれない

うつ病のうつ症状に対しては、通常、抗うつ薬を使用します。通常、うつ病には、抗うつ薬がとてもよく効きます。

ところが、双極性障害にうつ病治療をしてしまうと、種類によっては、却って症状が悪くなったり、躁状態を引き起こすことがあります。

特に、三環系抗うつ薬と呼ばれる古いタイプの抗うつ薬を、双極性障害の人が使うと、躁状態を引き起こすことがあるので、双極性障害の人はできる限り避けたい薬です。

また、うつ病でも双極性障害でも、SSRIやSNRIなどの抗うつ薬を使うと、賦活症候群(アクティベーションシンドローム:Activation Syndrome) と呼ばれる状態になることがあります。賦活症候群の症状は、躁状態や軽躁状態に似ており、うつ病だけど賦活症候群になっているのか、双極性障害の躁状態や軽躁状態が出てしまったのかは、臨床症状からは、なかなか区別できません。

双極性障害とうつ病を見分けるのは、治療上とても重要なのに、とても難しいのです。「治りにくいうつ病は、双極性障害かもしれない」「そのうつ病、本当にうつ病なの?」と疑うことが、双極性障害の診断の第一歩になります。

双極性障害の人は多いの?原因は?

統計

双極性障害にはI型とII型があり、この2つは違う病気かもしれないということ。うつ病と診断されている人の中に、本当は双極性障害の人が相当数いらっしゃるということがお分かりいただけたと思います。

では、実際にはどのくらいの数の人が双極性障害になのでしょう? 何か原因はあるのでしょうか?

双極性障害の数

厚生労働省の「みんなのメンタルヘルス」によれば、生涯有病率(一生のうちにこの病気になる人)は以下の通りです。

欧米では

  • うつ病ではは、およそ15%。
  • 双極Ⅰ型障害はおよそ1%前後
  • 双極I型とII型の両方を含めると 2~3%

日本では

  • うつ病は7%くらい
  • I型とII型を合わせた双極性障害の人は0.7%くらい(12ヶ月有病率は0%)

日本では双極性障害もうつ病も少ないように見えますが、本当にそうなのか、文化的社会的な差なのか、診断ができていないだけなのかはわかりません。

双極性障害の原因

双極性障害の原因には、脳内伝達物質や細胞内情報伝達系の障害、ミトコンドリア機能障害などが挙げられていますが、まだはっきりとはわかっていません。

おそらく、1つの仮説だけが原因というわけではなく、全てが少しずつ複雑に関係していると考えられています。

脳内神経伝達物質(モノアミン)仮説・細胞内情報伝達系仮説

  • 脳内伝達物質仮説:モノアミン(ドーパミン、ノルアドレナリン、セロトニンなど)という、脳内神経伝達物質の質が変わっているという仮説です。
  • 脳内情報伝達系仮説:モノアミンに対する細胞の反応が変化しているという仮説です。

ミトコンドリア機能障害仮説

細胞内ミトコンドリアの機能が障害され、カルシウムシグナリング(カルシウムが細胞内を出たり入ったりすることで、シグナルのような働きをする)が変化しているという仮説です。双極性障害では、細胞中のカルシウム濃度が上がりやすいことが知られています。

ミトコンドリアの機能が障害されたマウスでは、まるで双極性障害のように行動量が周期的に変動しますが、これがリチウムにより改善される様子も観察されています。

神経細胞の脆弱性仮説

双極性障害の人には、軽い脳梗塞の跡が、いろいろな場所で、見つかる確率が高いことが知られています。このことから、双極性障害の人は、そうでない人より神経細胞がダメージを受けやすいのではないかと考えられています。

また、双極性障害には、リチウムやバルプロ酸などの気分安定薬が有効です。どうしてそうなるのかは不明ですが、少なくともこの2つは、いずれも神経細胞を保護して、細胞死から守っていることがわかっています。

ゲノム仮説

ゲノムはDNAに含まれる遺伝情報全てのことです。一卵性双生児の研究などから、双極性障害は、遺伝的要因も強いと考えられています。

しかし、双極性障害には、「双極性障害遺伝子」のような、遺伝子はありません。それひとつで双極性障害を起こしてしまうような原因遺伝子はありませんが、色々な遺伝子の組み合わせによって発症しやすくはなると考えられています。

つまり、遺伝的要因は考えられていますが、双極性障害は遺伝病ではありません。

双極性障害はストレスや環境のせい?

双極性障害は、単なる「心の病気」とは違います。ストレスや環境が引き金になったり、症状を悪化させたりするのは確かですが、脳という器官やゲノムなどが関係する「体の病気」です。例えば、高血圧や不整脈などの「体の病気」では、ストレスや環境のせいで症状が悪化することがありますが、双極性障害も同じです。

双極性障害で、ストレスや環境は大きな誘因の一つですが、これらのせいだけで病気が発症するわけではありません。また、「体の病気」である以上、カウンセリングや心理社会的治療だけでは、根本的な治療効果を得ることはできません。

双極性障害の治療は?平穏な毎日は取り戻せるの?

平穏

双極性障害は、精神疾患の中でも薬が効きやすい病気です。躁状態や軽躁状態の時もきちんと薬を飲み、生活のリズムを整えるなどの方法でコントロールすれば、殆どの人が、今までと変わらない生活を送ることができます。

まずは双極性障害だと受け入れること

双極性障害には効果的な薬物療法がたくさんあるので、薬をきちんと内服すれば大抵の場合は良くなります。

先にも触れましたが、問題は、躁状態や軽躁状態の場合です。特に初めての躁状態の場合、本人は病気とは思いません。また躁状態が軽躁状態だと周りの人にも病気だと思えないこともあります。そのため、親しい人や家族が、病院に行くように勧めても「これが本来の姿だ」と怒ったり、周りの人も「何かおかしい」と思いながらそのままになってしまったりします。

しかし、病識がない躁状態や軽躁状態の時こそ、治療が必要です。なぜかというと、躁状態では、その行動により、社会的な生命が脅かされるからです。

双極性障害の場合は、問題行動について「おかしいから」と指摘するのでなく、「ろくに寝ないで、大量の仕事をこなしている心配だ、いつか倒れてしまう」と身体の心配として受診を勧めると納得してくれるケースが多いようです。眠れないのはうつ状態の時も同じなので、同じような声かけで、精神科受診に結びつける事ができます。

どうしていいかわからない時は、医療機関のケースワーカーや自治体の精神保健福祉センターに相談するのも良いでしょう。双極性障害での家族の負担は多大なものという事実は、こうした人たちは良く知っているので、良いアドバイスをもらえます。

双極性障害の薬物療法

気分安定薬

先にも紹介したように、双極性障害には、気分安定薬(リチウム、バルプロ酸、カルバマゼピンなど)がよく効きます。

これらのうち、最もスタンダードな薬は、リチウムです。リチウムは再発率を30~40%まで減少させ、躁状態にもうつ状態にも効果があります。しかし、血中濃度を一定に保つのが難しく、少ない量だと効果がなく、ちょうどいい量でも副作用が出る事があり、少しでも多すぎると中毒症状が出るので、使い方を熟知した精神科医が、血中濃度をきちんと測りながら使わなくてはなりません。

ちょうどいい量でも出てしまうリチウムの主な副作用は、下痢、食欲不振、のどの渇き、手の震えなどで、これらの殆どは一過性ですが、手の震えだけは長い間苦しむ患者さんもいます。また、中毒症状は、意識が朦朧とする、ふらふらして歩けないなどです。

鎮静作用のある向精神薬

双極性障害II型にも気分安定剤は使いますが、気分安定剤が効きにくく、衝動性の強いタイプには、鎮静作用のある抗精神病薬を使う事もあります(クエチアピン、オランザピン、アリピプラゾールなど)。抗精神病薬の一部には、抗躁効果に加え、躁病相予防効果のあるものも報告されていますが、今のところ、日本で保険適用になっているのはアリピプラゾール(躁症状の改善)とオランザピン(躁症状、鬱症状の改善)の2種類です。

抗うつ薬

うつ状態の時には、気分安定薬に加えて、抗うつ薬が処方されることもあります。しかし、三環系抗うつ薬は、躁状態を引き起こすことがあるので、近年、双極性障害の人にはあまり処方しなくなりました。また、SSRIやSNRIなどの抗うつ薬を双極性障害の人が内服すると、賦活症候群が起こりやすいと言われています(賦活症候群はうつ病の人がSSRIやSNRIを内服しても起こることがあります)。

双極性障害の疾患教育と心理社会的治療

双極性障害の治療は、薬物療法が中心になりますが、疾患教育や心理社会的治療を補助的に使うことによって、服薬遵守、生活リズムの調整、躁状態後の心理社会的機能回復などを図ります。

疾患教育

患者さんがこの病気について理解することで、病気を受け入れ、服薬遵守して病気を上手くコントロールできるようになることが目的です。12分くらいのDVDを見るだけでも、薬に対しての理解が深まり、服薬遵守ができるようになるとの報告もあります。

家族療法

家族療法では、双極性障害に対する家族の理解を深め、症状に対する感じ方のギャップを患者さんにも理解してもらい、患者さんが家族と協力して病気と付き合えるようになることを目的にしています。

例えば、激しい躁状態は、家族にとって大きな負担になります。人によって、うつ状態の時にも他人への攻撃性があるので、一緒に住むのがとても難しくなります。そのような感情は患者さんにも伝わり、それが病状を悪化させることもあります。

また、患者さんにとって、うつ状態は非常に辛いものですが、家族はうつ状態の方がマシだと考える傾向があります。逆に、家族は、躁状態だけは避けたいと考えますが、患者さん本人にとっては絶好調です。この感じ方のギャップも、治療を難しくします。

認知療法

双極性障害に対する認知療法のアプローチは2つに分けられます。

一つは双極性障害のうつ状態に対するアプローチで、うつ病に対する認知療法とほぼ同じです。例えば、うつ状態では物事の考え方が、自責的になり「〇〇ができなかった」と考えがちなので、「〇〇はできた」と肯定的に捉える練習をしたりします。

もう一つは、躁転予防のためのアプローチで、「躁状態は絶好調ではないし、健康な状態でもない」という疾病教育や、本人が躁状態になりかけた時に気が付きやすいよう、躁転サインを発見できるようにします。ただ、今の所、認知療法が効果を発揮するという明確なエビデンスはありません。

生活リズムの調整

双極性障害を持つ場合、生活リズムを守ることは非常に大切です。例えば、双極性障害の人は、たった一晩徹夜しただけで、一気に躁転してしまうことがあります。また、お正月に親戚が集まるなどの対人的刺激も躁転のきっかけになります。あるいは、気温や気圧が急に変わるような時期(季節)にうつ転することもあります。

そのため、躁状態になりそうな、例えば年末年始などのイベント(出来事)が発生するような時期/日時や、気温や気圧が急に変わりそうな日などは、毎日の生活リズムを保ち、過度の対人的刺激を避けるなどの工夫を行うことが必要です。また、躁状態になりそうなイベントが予定されていたり、前触れの症状が出てきたら、早めに主治医に相談することで、再発予防することができます。

対人関係療法

対人関係療法は、もともとうつ病に対する精神療法として考えられたもので、大切な人との現在の関係に焦点を当てて治療を含めます。

問題領域は、うつ病での「悲哀」『対人関係上の役割をめぐる不和」「役割の変化」「対人関係の欠如」に「健康な自己の喪失に対する悲哀」を加えた5つです。

具体的には、患者さんに病者の役割(病院に行き、きちんと薬を飲み、病気を治療するという役割)を与え、「健康な自己の喪失に対する悲哀」を治療べき焦点の1つと捉えて、患者さんの責任の範囲を明確にして、双極性障害で多く見られる対人関係上の不和の解決と服薬遵守を促します。

社会リズム療法

社会リズム療法では、起床時間、人と初めて会った時間、仕事などを始めた時間、夕食の時間、就寝の時間など(17項目版と5項目版があります)を毎日記録します。

具体的には、17項目の活動(5項目の活動)の活動を行った時の時刻をそれぞれ記載し、自国に加えて、他人から受けた刺激の度合いも記録します。他人から受けた刺激の度合いの記載方法は、1人で行えば「0」、他人がいただけだったら「1」、他人が関わっていたら「2」、他人が刺激的だったら「3」と数値化して行います。

このような活動の時刻/時間と、他人から受けた刺激の度合いを「社会リズム」と定義していますが、社会リズムを記録をすることで、どのような日のどのような活動で社会リズムが不規則になりやすいかを理解/予測できるようになります。この療法は、上述の「生活リズムの調整」を実行する上でも効果的です。

対人関係・社会リズム療法

対人関係療法と社会リズム療法を組み合わせたものです。

双極性障害では、特に躁状態の際に対人関係がうまくいかなくなりますが、それを対人関係療法の手法で解決を図ることで、対人関係から受けるストレスを減らしたり、社会リズム療法での他人からの刺激が「3→2」になるように図ります。

併せて、社会リズム療法によって、生活リズムを含めた社会リズムを規則正しくすることで、うつ状態や躁状態の再発を予防するというものです。

躁状態や軽躁状態の時は治療継続が難しい

せっかく双極性障害の診断がついていても、双極性障害の患者さんの中には、躁状態や軽躁状態の時に、治療を自己判断で中止してしまう人がいます。

躁状態や軽躁状態の時は、医師より自分の方が病気のことや薬のことをよく知っているつもりになりやすい上(実際、そういう面もありますが)、うつ状態で辛い思いをするくらいなら、躁状態や軽躁状態の方がマシだと思ってしまうからです。

加えて、双極性障害の基本的な治療薬であるリチウムの副作用は、決して軽くはないのです。双極性障害には、よく効く薬が多いのですが、どの薬も副作用があるものばかりです。

しかし、双極性障害では、再発を繰り返すうちに、どんどん再発しやすくなり、躁状態やうつ状態を短期間に繰り返すように(ラピッドサイクル:rapid cycle)なってしまいます。そして、ラピッドサイクラーは、寛解期(殆ど治った状態)になることは殆どのケースでありません。

せっかく「うつ病」ではなく「双極性障害」と診断されたのなら、ラピッドサイクルに陥らないよう、治療を継続していければと願っています。

双極性障害は薬なしにはできないが、平穏な毎日は取り戻せる

双極性障害の人が、寛解して(殆ど治った状態になり)、普通の社会生活を送れるかどうかは、躁状態や軽躁状態の時に治療継続できるか、うつ状態が治った時にどのように治療するかにかかっています。

うつ病は、多くの場合、1年くらいで治療を終了でき、うつ状態さえなくなれば、薬をやめることもできます。

ところが、双極性障害は、症状がなくなったからといって薬をなしにはできません。躁状態や軽躁状態の時は、自分では何も困っていないのに、わざわざ副作用のある薬を飲み続けるのは納得いかないでしょう。

けれども、双極性障害で予防療法をするのは、高血圧で降圧剤を飲んだりするのと同じです。双極性障害は、症状が全くなくなっても、薬なしにはできませんが、きちんと薬を内服して上手くコントロールができれば、今まで通りの生活を取り戻すことは十分可能です。

まとめ

双極性障害は、日本では約0.7%と言われており、だいたい100人に1人はこの病気ということになります。意外と多いと感じる方もいらっしゃると思います。

この記事で、お伝えしたいことは4つ。

  • 治りにくいうつ病は、双極性障害を疑う
  • 双極性障害と診断されたら、「治った」気分になっても、薬を飲み続ける
  • 生活リズムの調整も大切(手段として対人関係・社会リズム療法を取り入れてもよい)
  • 双極性障害は、治療を適切に受けられれば、今まで通りの生活が十分可能

です。

もし、自分や身近な人が双極性障害と診断された時に、この記事が少しでもお役に立てば幸いです。

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