トイレが近いことを悩んでいる人は、年齢を重ねるに連れて多くなるそうです。ある団体の調査では、40歳以上の約10~15%程度の人がトイレの近さに悩んでいると推定されています。
実は、このようなトイレの近さというのは、頻尿あるいは夜間頻尿と呼ばれる症状です。頻尿あるいは夜間頻尿となると、トイレが近くなることによって仕事や家事に集中することができなくなったり、夜間の睡眠中に尿意で覚醒してしまい十分な睡眠ができなかったりと、日常生活にも影響を及ぼします。
そこで今回は、トイレが近くなる頻尿・夜間頻尿について、その原因や治療方法などをご紹介したいと思いますので参考にしていただければ幸いです。
頻尿・夜間頻尿とは?
そもそも頻尿あるいは夜間頻尿とは、どのような症状・状態のことを言うのでしょうか?
トイレが近くなるという説明では具体性に欠けますので、まずは頻尿・夜間頻尿の定義について、ご紹介したいと思います。
頻尿とは?
頻尿とは、排尿障害の症状の一つで、排尿の回数が正常な場合と比較して多くなることを言います。すなわち、頻尿は、トイレに行き尿を排泄する回数が通常時に比べて多くなることなのです。
身体の大きさなどに個人差があるように、排尿についても個人差がありますので、頻尿とされる排尿回数に明確な定義が存在するわけではありません。
しかしながら、概ね1日の間に8回以上トイレに行き排尿しているならば、頻尿を疑う必要があるとされています。
夜間頻尿とは?
夜間頻尿とは、排尿障害の症状の一つで、夜間の睡眠中に尿意を催すことで途中覚醒してしまい、排尿のために起きる回数が正常な場合と比較して多くなることを言います。
頻尿の場合と同様に、夜間の排尿についても個人差が生じますから、夜間頻尿とされる排尿回数に明確な定義が存在するわけではありません。
しかしながら、睡眠中に途中覚醒して排尿のために起きる回数が2回以上になると、夜間頻尿を疑う必要があるとされています。
排尿の正常な状態とは?
このように頻尿と夜間頻尿の定義についてご紹介しましたが、そもそも排尿における正常な状態とは、どのような状態のことを言うのでしょうか?
頻尿と夜間頻尿について理解するためにも、まずは排尿の正常な状態について、おさらいしておこうと思います。
排尿のメカニズム
尿は人の排泄物で、腎臓において血液が濾過されることによって、血液中の老廃物や余計な水分から生まれます。腎臓で生み出された尿は、尿管を通って膀胱に送り出された後、膀胱で一時的に貯留されます。
膀胱に貯留された尿量が一定量に達すると、その重さなどの刺激が神経を通じて大脳に伝わり、尿意を催します。そして、尿意を催すと、排尿に関わる尿道括約筋や骨盤底筋などの排尿筋が緩み、体内の膀胱から尿道を通って体外へとおしっこが排泄されるのです。
ちなみに、腎臓・尿管・膀胱・尿道といった排尿に関わる器官を、総称して尿路あるいは泌尿器系と呼ぶことがあります。
排尿の正常な状態とは?
腎臓で作られた尿が排尿まで一時的に溜められる膀胱は、実は大半を筋肉で作られており、溜まった尿量によって筋肉が伸び縮みします。
膀胱の大きさには個人差があるものの、成人が膀胱に溜めることのできる尿量は平均して500mlほどと考えられています。そして、その約80%程度まで尿が溜まると、その重さなどを感知して尿意が生じるのです。
このような状況から、1日の間にトイレに行き排尿する回数は4~7回が正常とされ、そのうち夜間の排尿回数は0~1回が正常と考えられています。また、1日の間の排尿量の合計は、概ね1000ml~2000mlが正常とされています。
ただし、このような排尿回数や排尿量はあくまでも目安にすぎず、水分摂取量や気温・発汗量などに応じて変化することには留意しておく必要があるでしょう。
排尿障害について
頻尿や夜間頻尿は、排尿障害の症状の一つとされています。
とすれば、排尿障害は頻尿・夜間頻尿の上位概念ということになりますので、念のため排尿障害の定義などについても、ご紹介しておこうと思います。
排尿障害とは?
排尿障害とは、何らかの原因によって正常な排尿が困難となる状態のことで、排尿トラブルと呼ばれることもあります。頻尿や夜間頻尿も含む排尿障害は、様々な原因によって生じます。
例えば、膀胱に尿が溜まったことを大脳に知らせる神経信号の通り道である神経系に問題があったり、膀胱が炎症を起こしたり、尿の通り道である尿道が詰まったりということが原因となります。
また、排尿障害によって現れる症状は、頻尿・夜間頻尿だけにとどまらず、多岐にわたる症状が現れます。
排尿障害で現れる症状
排尿障害と一言で表現することは簡単ですが、その現れる症状は多岐にわたります。排尿障害の主な症状を挙げると、次の通りとなります。
- ・頻尿、夜間頻尿
- ・多尿
- ・尿失禁(腹圧性尿失禁・切迫性尿失禁・溢流性尿失禁・機能性尿失禁・反射性尿失禁)
- ・尿閉(にょうへい)
- ・残尿感
- ・無尿、乏尿(ぼうにょう)
ちなみに、尿失禁は尿漏れ(尿もれ)のことです。
頻尿・夜間頻尿の原因
それでは、どうしてトイレが近くなるのでしょうか?
ここまで説明してきました知識や情報を踏まえて、頻尿や夜間頻尿の症状が生じる原因について、ご紹介したいと思います。
泌尿器の病気
頻尿・夜間頻尿の原因として最初に考えられるのは、泌尿器に関する病気・疾患です。頻尿・夜間頻尿の原因となる泌尿器疾患は多岐にわたりますので、以下で順にご紹介していきます。
尿路感染症
尿路感染症は、腎臓・尿管・膀胱・尿道といった尿路が細菌などの病原体に感染することで生じる感染症の総称です。
尿路感染症となると病原体への感染部位が炎症を起こすことから、具体的には膀胱炎・尿道炎といった病気が発症します。男性においては、尿道につながる男性特有の生殖器である前立腺も尿路・泌尿器系に含める場合があり、前立腺炎も尿路感染症に含めることがあります。
このような尿路感染症の中でも、特に膀胱炎と急性前立腺炎になると頻尿・夜間頻尿の症状が現れます。これは、膀胱炎や急性前立腺炎の炎症によって、膀胱につながる神経が刺激されることで間違った神経信号が大脳に伝わり尿意を催すためと考えられています。
間質性膀胱炎
間質性膀胱炎は、尿路感染症に含まれる細菌性の膀胱炎とは異なり、非細菌性の膀胱炎のことです。間質性膀胱炎の原因は未だ解明されていませんが、何らかの要因によって膀胱粘膜に異常をきたすことによって生じると考える見解が有力です。
間質性膀胱炎の主症状は頻尿・夜間頻尿で、排尿時の排尿痛を伴うこともあります。尿路感染症の膀胱炎では尿に細菌が含まれますが、間質性膀胱炎では尿に細菌は含まれないことが特徴とされています。また、間質性膀胱炎の患者の約90%が女性であることも、特徴の一つとされています。
腫瘍・悪性腫瘍(がん)
泌尿器系の悪性腫瘍によっても、頻尿・夜間頻尿の症状が現れる場合があります。特に膀胱腫瘍が悪性化した膀胱がんや前立腺に発生する前立腺がんなどでは、主な症状として血尿などが現れますが、症状の一つとして頻尿・夜間頻尿が現れます。これは、尿路感染症の場合と同様に、膀胱につながる神経が刺激されるためだと考えられています。
女性の場合は、子宮筋腫の発症によって神経が刺激されることもあります。
前立腺肥大症
前述のように前立腺は男性特有の生殖器ではありますが、尿道につながり膀胱の下側で尿道を囲むように存在しているため、泌尿器系に含められることがあります。
前立腺肥大症は、そのような前立腺が加齢に伴って肥大化してしまう疾患です。人は年齢を重ねて中高年に差し掛かるとともに生殖能力が必要無くなることから、前立腺の細胞数が減少して前立腺が萎縮するか、逆に細胞数が増えて前立腺が肥大するかに分かれます。
そして、前立腺が肥大化する場合には、尿道を圧迫してしまい排尿困難あるいは尿が出なくなる尿閉という症状が現れたり、残尿感が残るようになります。また、前立腺肥大によって神経が刺激されることで頻尿・夜間頻尿の症状が現れることもあります。
泌尿器以外の病気
頻尿・夜間頻尿の原因としては、泌尿器以外の病気・疾患も考えられます。頻尿・夜間頻尿の原因となる泌尿器以外の疾患も複数存在しますので、以下で順にご紹介していきたいと思います。
糖尿病・高血圧
頻尿・夜間頻尿は、糖尿病や高血圧症などの生活習慣病が原因となって現れる場合もあります。
糖尿病は、インスリンの働きが弱くなることで血液中のブドウ糖濃度が高まり血糖値が高い状態となる病気です。血糖値が高まると、血液中の糖分を水分とともに体外へ排泄しようと尿量が増えるため、頻尿傾向が現れます。このような頻尿症状が現れることで、体内の水分量が減少して脱水症状気味となることにより、糖尿病患者の代表的症状の一つである喉の渇きが現れるのです。
高血圧症は、文字通り血圧が高い状態となる病気です。高血圧の主な原因には、塩分摂取量の多さがあります。血液中の塩分濃度が高まると、それを適正な濃度まで薄めるために血液に水分が取り込まれるので、血液量が一時的に増加して血圧が上昇するのです。そして、余分な塩分と水分を体外に排泄するために尿量が増えて頻尿となります。高血圧では、特に夜間頻尿となる可能性が高いとされています。
過活動膀胱(過活動性膀胱・痙性神経因性膀胱)
頻尿や夜間頻尿は、排尿に関連する神経系の障害が原因となって現れる場合もあります。
排尿に関連する神経系の障害によって膀胱機能が低下したり、膀胱機能に異常をきたす疾患を、神経因性膀胱と言います。この神経因性膀胱には過活動膀胱と低活動膀胱の2種類が存在し、特に過活動膀胱の場合に頻尿や夜間頻尿が現れます。
過活動膀胱は痙性神経因性膀胱とも呼ばれ、排尿に関係する神経系のうち尿意を知覚する大脳や尿意を大脳に伝達する神経路である脊髄などが何らかの要因で障害されることにより、膀胱や排尿筋を適切に制御できなくなる病気です。
神経系の障害により膀胱や排尿筋を制御できなくなることで、膀胱に尿が溜まっていないのに間違った神経信号により尿意を催しトイレに行くという意味での頻尿・夜間頻尿の症状が現れます。また、尿意を知覚するタイミングが遅れることで尿意切迫感を感じ、つまり尿意を知覚した途端に我慢できなくなり、尿漏れしてしまう切迫性尿失禁も過活動膀胱で良く見られる症状です。
このような過活動膀胱の原因となる神経系の障害は、脳梗塞・脳出血・パーキンソン病などの脳神経に影響を及ぼす病気や脊髄損傷・椎間板ヘルニアなどの脊髄神経に影響を及ぼす病気など非常に多岐にわたります。
その他の頻尿・夜間頻尿の原因
頻尿・夜間頻尿の原因は、ここまでご紹介してきた病気・疾患だけにとどまりません。そこで、その他に頻尿・夜間頻尿の原因となるものについて、以下で順にご紹介していきたいと思います。
骨盤底筋の緩み
頻尿・夜間頻尿の原因のうち女性特有のものとして、骨盤底筋の緩みが挙げられます。
骨盤底筋は、女性においては子宮や膀胱・尿道などの泌尿器を支える筋肉で、排尿時の尿道の開閉にも関与します。
このような女性の骨盤底筋は、加齢・老化・運動不足によって衰える他に、妊娠中の胎児の重さで筋肉が伸ばされることで損傷し、出産後に緩みを生じることがあるのです。
そのため、骨盤底筋に緩みが生じると尿道を閉めておく力が弱くなり、尿が出やすくなるのでトイレが近くなります。また、咳・くしゃみをする時、大笑いをする時、重い物を持つ時などお腹に力が入ると、その拍子に尿漏れをしてしまう腹圧性尿失禁が起こりやすくなります。
心因性頻尿(神経性頻尿)
緊張や不安といった精神的なストレスが、頻尿の症状をもたらす場合もあります。例えば、旅先でトイレの有無を気にするあまり、膀胱にそれほど尿が溜まっていないにもかかわらず尿意を感じてしまうような場合です。
このような精神的なストレスに起因する頻尿を、心因性頻尿あるいは神経性頻尿と呼びます。心因性頻尿では、精神的なストレスに起因することから、夜間頻尿はほとんど見られないことが特徴とされています。
詳しくは、心因性頻尿を治療するには?日常でできる克服方法を紹介!症状や原因は?を読んでおきましょう。
頻尿・夜間頻尿の改善対策
それでは、頻尿や夜間頻尿の症状が現れてトイレが近くなったと感じられる場合、どのような改善策があるのでしょうか?
そこで、頻尿改善方法や頻尿対策などについて、ご紹介したいと思います。
泌尿器科の受診
頻尿や夜間頻尿の症状が現れた場合、基本的には泌尿器科の病院を受診することが望ましいでしょう。
前述のように、頻尿や夜間頻尿を引き起こす原因は、非常に多岐にわたっていますから、泌尿器科あるいは婦人科の病院で専門医によって原因を診断してもらうことが改善の第一歩となります。そして、医師の診断にあたっては、症状に応じて様々な検査を受けることになります。
原因となる病気・疾患の治療
頻尿や夜間頻尿の症状は、様々な病気・疾患の一症状として現れることが多いことから、原因となる病気・疾患が判明すれば、原因疾患の治療を行うことになります。
例えば、脳出血によって大脳神経に障害が起きたことで過活動膀胱となっている場合は、当たり前ですが脳出血の治療がなされなければなりません。
薬物治療
頻尿や夜間頻尿の症状を治療・緩和するために、原因に応じた薬剤を投与すると頻尿改善効果があります。
例えば、尿路感染症の場合には、細菌・病原体に効果のある抗生剤・抗生物質を投与します。また、過活動膀胱の場合には、抗コリン薬と呼ばれる薬剤を投与します。さらに、前立腺肥大症の場合には、α1ブロッカーと呼ばれる薬や抗男性ホルモン剤などが投与されます。
膀胱訓練
頻尿・夜間頻尿の症状が比較的軽い場合には、膀胱訓練と呼ばれる自らの排尿をコントロールするための訓練を行います。
具体的には、自らの排尿時に日記・記録をつけることで自分の排尿間隔を把握し、その間隔を少しずつ意識して広げていきます。意識的に排尿間隔を広げていくことにより、膀胱平滑筋などの排尿筋が鍛えられるのです。効果が実感できるようになるには2ヶ月程度を要しますが、薬剤などを使用しない点はメリット言えるでしょう。
骨盤底筋トレーニング・骨盤底筋体操
妊娠・出産後の女性で骨盤底筋の緩みが原因となって頻尿が現れている場合は、骨盤底筋をトレーニングで鍛えることが頻尿改善につながります。
骨盤底筋の緩みは、骨盤底筋を鍛え直すことで十分に回復を図ることができますので、実施してみると良いでしょう。
水分補給時の注意事項
頻尿・夜間頻尿の症状が現れた場合、あるいは頻尿・夜間頻尿の治療・改善中の場合には、水分補給について注意を要します。
水分摂取量について気を配るとともに、特に利尿作用のあるアルコールやカフェインの含まれるコーヒー・お茶などは飲みすぎることのないように注意しましょう。
まとめ
いかがでしたか?トイレが近くなる頻尿・夜間頻尿の原因や改善対策などについて、ご理解いただけたでしょうか?
頻尿や夜間頻尿になると、トイレが近くなることによって仕事や家事に集中することができないことから社会生活に支障が出たり、夜間の睡眠中に尿意で覚醒してしまい十分な睡眠ができないことから日常生活に支障が出たりします。
そして、このような頻尿や夜間頻尿の症状を引き起こす原因は、とても多岐にわたります。
ですから、頻尿・夜間頻尿と思われる場合は、早期に泌尿器科の病院を受診することが大切です。
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