近頃では年齢問わず、筋トレやスポーツで体を鍛える人が増加傾向にあります。また、普段スポーツを滅多にしない人でも、子供の学校行事や市区町村で行われるレクリエーションに参加した際など、ついつい張り切って激しい運動をしてしまう人も多いのではないでしょうか?
そんなときに気を付けたいのが、アキレス腱の断裂です。歳の積み重ねと同時に、体の柔軟性は失われているため、ちょっとした動きでも断裂する可能性はあります。原因や処置方法を知って、いざという時にしっかり備えましょう。
アキレス腱が断裂するとはどういうこと?
アキレス腱について、かかとのすぐ上からふくらはぎ下部らへんにある筋のようなものという大体の認識のみで、詳しいことを知っている人は決して多くはないと思います。そもそもアキレス腱が断裂するってどういうことなのでしょうか?
かかとすぐ上のアキレス腱部分には、骨の周りに筋肉があり、その先端に腱があります。筋肉は、どんな動きにも柔軟に対応できる伸縮性が備わっていますが、腱は伸縮性はなくとても繊細な一本筋なのです。
歩行や軽いジョギング程度では問題ありませんが、急に腱に大きな力が加わるような動きをすると耐えきれず、アキレス腱断裂につながってしまいます。
アキレス腱断裂の主な症状
アキレス腱断裂を初めて経験する人にとっては、痛みを感じても何が起こったのか分からずに動揺してしまいます。また、痛みの感じ方も人それぞれで、場合によっては軽く歩行することも可能となるため、放置して症状を悪化させてしまう人も少なくありません。
アキレス腱が断裂した際には、いくつか主な症状が表れると言われています。しっかり覚えておきましょう。
断裂する前に張りや痛みを感じる
ランニングや筋肉トレーニングなどの運動で、日常的にアキレス腱に負担がかかり、アキレス腱炎やアキレス腱周囲炎を起こしている場合があります。この状態を長く続けた結果、アキレス腱を断裂する可能性があります。
アキレス腱にこのような負担がかかって炎症を起こしている場合、足首に近いふくらはぎ部分と、かかとに張りや痛みを感じます。痛みを感じた場合は、たとえ日常的に行っている運動だとしても、一旦中止をして様子を見てください。アイシングをするなどして、患部を冷やすといいでしょう。
腱が切れる音がする
アキレス腱が切れると、一般的にはバチッという断裂した大きな音と同時に激しい痛みが襲います。また、ふくらはぎに何かをぶつけられたような感覚もあるでしょう。
さらに、アキレス腱断裂かどうかの症状を見極める1つの症状として、かかとのすぐ上の部分に、断裂した腱の間のくぼみがあるかどうかを確認するといいでしょう。
つま先がうまく動かせない
断裂直後は、痛みがあるために立てないことが多いですが、しばらくすると軽い歩行であれば可能になるケースもあります。
これは、足には無数の筋と筋肉があり、アキレス腱が切れても他の筋肉と筋が補おうとする働きが体内で起こるからです。しかし、アキレス腱が断裂している場合はつま先立ちができないのが特徴です。これもまた、判断材料の一つになるでしょう。
アキレス腱断裂の原因
症状の特徴は分かったけれど、そもそもなぜアキレス腱は切れてしまうのでしょうか?断裂を未然に防ぐためにも、原因をしっかり学びましょう。
踏み込みやジャンプする動作
踏み込んだりジャンプをしたり、腱に突然大きく負担がかかるような動作がアキレス腱断裂を招きます。スポーツの種類でいうと、バスケットボールやバレーボール、サッカーやテニスなどの競技は、急な左右の動き、ジャンプや着地、ダッシュなど、激しい動きが要されます。止まっていた状態から急に走り出すことも多く、アキレス腱への負担が大きくかかり、これらのスポーツで腱を断裂する人は少なくありません。
普段からこのスポーツを行っているから大丈夫と油断せずに、運動前には準備運動を必ずしましょう。
加齢
歳を重ねるごとに、アキレス腱断裂のリスクは高くなると言われています。主に、30~50代の方は注意が必要です。
若い頃から運動を行ってきた人は、昔のようには動けないと思うこともあるのではないでしょうか。実は、体力の衰えと同様に、アキレス腱も老化します。アキレス腱を作る物質の一種にコラーゲンがあります。このコラーゲンは、加齢とともに強張り柔軟性を失うことで、自らの体重を支えるパワーがなくなったり、急な衝撃に耐えられなくなります。
このように、加齢により腱の伸縮性がなくなったことが原因で、激しい運動をした際にアキレス腱が断裂してしまうのです。
不十分な準備体操
幼い頃は、体育の授業が始まる前や部活動の前に、必ず入念な準備体操を行ってから運動をしていましたよね。しかし、大人になった今、怠っていませんか?
歳を重ねるごとに筋肉が衰えている方も多く、関節も固くなっているでしょう。アキレス腱はもともと伸縮性がありません。昔と変わらず体力は落ちていないと自信がある方も、過信せずにしっかり準備体操を行ってから運動をしましょう。
アキレス腱を断裂した際の治療法
もし、アキレス腱が断裂してしまった場合は、どんな治療が施されるのでしょうか?突発的な痛みと症状が襲い、ただでさえ混乱している状態です。応急処置の方法も事前に学んでおくと安心です。
応急処置を施す
アキレス腱断裂が起こったら、まず患部を冷やしてください。万が一に備えて、アイシングスプレーや瞬間冷却剤は必ず常備するようにしましょう。
そして十分に冷却したら、患部がグラグラと動かないように仮固定をしてください。しばらくすると軽い歩行ができるようになる場合もありますが、無理は禁物です。必ず誰かに支えてもらいながら、整形外科を受診してください。
保存療法
保存療法とは、手術を行わずにギプスや装具を用いて治療する方法です。
ギプス療法は入院の必要はなく、患部を固定しながら数週間生活をします。その後、ギプスがとれたら短下肢装具に切り替えます。短下肢装具は、取り外しが可能で、歩行時に全体重をかけられるようになります。
保存療法は、入院の必要がないこと、費用が安い、そして手術による合併症の不安がないことがメリットです。手術療法に比べて数週間程度、回復は遅いとされていますが、保存療法を希望する人は年々増えています。
手術療法
手術療法とは、断裂してしまったアキレス腱を手術で縫合する治療法です。
縫い合わせた患部は、しばらく一切負担をかけずに生活する必要があるので、術後1週間程度は入院ベッドで安静にしている必要があります。また、患部がほとんど治った時に、手術でできた傷跡が痛んだり、筋が引っ張られるような感覚があるなど、後遺症が残る場合もあります。
しかし、保存療法に比べて回復も数週間早いため、スポーツ選手などは手術を選ぶ人が多いと言われています。また、再断裂のリスクも低くなるため、完治した後も変わらずに運動をし続けたい人は、手術療法がいいかもしれません。医師に、それぞれの治療法のメリットとデメリットを聞いて、自分の生活に見合った治療法を選ぶことをおすすめします。
リハビリ期間中の運動
受傷後、ギプス固定もしくは手術をするなど、様々な方法で治療をしますが、その後はどのように過ごせばいいのでしょうか?安静が第一のような気がしますが、実は下半身の筋力低下を防ぐため、意外と早い段階からリハビリを開始します。ギプスで固定している時のリハビリから、固定が無くなった後の仕上げのリハビリまで、それぞれの方法を教えます。
ギプス固定期間のリハビリ法
受傷後、3~4週間程度でギプスは取れますが、固定期間であってもリハビリは大切です。ギプスが取れてからの回復の早さは、この期間に正しいリハビリを行い、筋力をどれくらいキープできたかで大きく変わってきます。以下、リハビリの一例です。
- 仰向けに寝て、ギプスをした足の膝をまっすぐ伸ばし、20㎝浮かして戻す動きを繰り返しゆっくり行いましょう
- うつ伏せの状態から、ギプスをした足の膝を伸ばし、20㎝浮かして戻す動きを繰り返しゆっくり行いましょう
- 横向きに寝て、ギプスをした足の膝を伸ばし、20㎝浮かして戻す動きを繰り返しゆっくり行いましょう
- 椅子に座り、膝の間にクッションや枕を挟み、両膝で強くゆっくり10回押しつぶしましょう
- 床にまいたビー玉10個を、足の指で掴んで取りましょう
いかがですか?ギプス固定期間は、筋力の衰えを防ぎつつ、足の感覚を取り戻すことが大切です。無理しない程度に、毎日ゆっくりと行うといいでしょう。
ギプスが取れた後のリハビリ法
ギプスによる固定がなくなったら、カチカチに強張った足首をやわらかくするのと、ふくらはぎの筋力を取り戻す運動を行います。以下、リハビリの一例です。
- ゴムチューブを使います。チューブの両端を手で持ち、折り曲げた中心に足裏の先端部分をかけます。膝を伸ばし、つま先でチューブを蹴る動きをゆっくり20回行いましょう。足の底屈運動とふくらはぎの筋力が鍛えられます
- リハビリにも慣れて回復してきたら、床にギリギリかかとが付かないようにして、両足でつま先立ちを繰り返しゆっくり20回行いましょう。はじめは、壁や手すりに手をかけてやりましょう
- リハビリにも慣れて回復してきたら、両足でバランスボードに乗って感覚を取り戻しましょう
- 完治間近になったら、スクワットをしてアキレス腱をゆっくり伸ばして、断裂の恐怖を払拭しましょう
このようなリハビリを重ねると、受傷後およそ3ヵ月程度でジョギングができるようになるでしょう。完全に復活するのは、約6ヵ月と言われています。ギプスが取れたこの時期は、再断裂する可能性が高いと言われています。
大切なのは、無理をしないこと!不安な場合は、リハビリ専門のトレーナーのもとで行うといいでしょう。
まとめ
自分はアスリートじゃないから……と、アキレス腱断裂を他人事のように思っていませんでしたか?犬の散歩中や子供と遊んでいる時など、普段の生活の中でも断裂する可能性がある場面はたくさんあります。
大切なのは、運動する前に準備体操をしっかりすることです。また、運動をした後にストレッチをするなど、アフターケアも忘れずに行いましょう。