腸重積という病気を知っていますか?この病気は、腸の病気で、患者の80%~90%は生後3ヶ月から2歳間の小さい子供に発症すると言われています。
小さい子供は自分の感情を言葉にして発することが難しい為、病気の判断には特に困ると思います。お母さんやお父さんが、事前に子供がかかりやすい病気について知ることで、症状が現れた際に、すぐに対処できる可能性が高くなります。
ここでは、腸重積の概要や症状、原因、検査方法、治療方法、注意事項について詳しくご紹介します。
腸重積について
ここでは、腸重積の概要や症状、原因についてご紹介します。
腸重積とは?
腸重積は、腸の中に腸が重なった状態になり、腸閉塞を発症する病気のことです。二重に腸が重なりあっている為、腸の中か圧迫されやすくなります。患者の80%~90%は、生後3ヶ月から2歳までの小さな子供に発症しやすく、中でも10ヶ月の乳児に多いと言われています。
小さい子供に発症する確率が高いのかも解明できていませんが、発見が遅れると重症化する可能性が高く、腸全体の細胞が壊死してしまう恐ろしい病気です。
腸は、蠕動(ぜんどう)と呼ばれる、収縮波を生み出す運動を行います。この運動をすることで、腸の中にある内容物を移送します。この運動は、5分~30分置きに繰り返されます。しかし、この運動が起きるときに、腸重積が起こっている部分では、逆の方向に蠕動が起こるため、これが発生する一定の時間は、腹部に激痛が走ります。
また、腸重積になると、食べ物が腸内を通る時に、物が詰まり圧迫された状態になります。圧迫されていることに気がつかずに、長時間にわたって改善されない場合は、血液を正常に流すことが出来なくなり、腸から出血を起こします。また、詰まった食べ物が硬く変化して、腸内を傷つける場合もあります。
この状態を放置すると、正常に血液を届けることが出来ず、最終的に腸全体が壊死を起こします。腸が壊死すると、腹膜炎などの他の病気を合併することがあります。腹膜炎は腹腔に細菌が入り、激しい腹痛を引き起こす病気で、治療が遅れると命の危険に関わると言われています。
早期発見、早期治療することで、完治することが出来ますが、患者の10%は再発していることから、治療後も慎重に観察する必要があります。
腸重積の症状とは?
生後3ヶ月から2歳までの小さい子供は、病状を正確に言葉で発することが出来ない場合が多いです。その為、周りの方が異常をいち早く察知して、治療させることが、大変重要になります。
幼児の場合では、症状の特徴として、急に泣き出したり、泣き止んだりを約15分ごとに繰り返す特徴があります。また、泣き方も急に火がついたように泣き出すと言われています。激しい腹痛を伴う為、お腹を抱えるしぐさをしたり、嘔吐が見られるようになります。放置すると、顔色が青白く変化し、疲れたようにぐったりとしたり、嘔吐が胆汁性のものに変化します。
内容物により、腸管が損傷している場合、損傷が次第に大きくなると、壊れた腸管の壁からオピオイドと呼ばれる鎮痛、陶酔作用のある物質が血液内に流れるため、ボーっとするような意識障害が発生します。
また、お腹の部分にしこりが見られる場合があり、やさしく触ったとしても痛がったり泣き出すことがあり、この場合は、腸重積の可能性が高いと言えます。更に症状が進行すると、血便の症状が見られます。
血便は、始めは淡い色ですが、重症化すると真っ赤な血便になります。重症化した血便は、イチゴゼリー状の粘血便と呼ばれています。腸管の閉塞が長い時間起こると、ガスや腸液により、膨張して静脈が圧迫されます。その結果、腸管の壁がむくみを起こして、水やナトリウムが漏れ出し、腸管の壊死や血圧が下がりショック状態を引き起こし、死に至る危険性があります。
腸重積は、発症すると進行が早いことが特徴でもあります。発症してから2日~3日経過するだけで真っ赤な血便がみられる症状まで進行します。発症してから24時間以内であれば、高圧浣腸などの治療方法が有効になりますが、24時間以上経過した場合は、高圧浣腸の治療を受けることが出来ない為、開腹手術をする必要があります。
また、成人の場合の症状は乳児とほとんど一緒ですが、腹痛、嘔吐、血便の他に、便秘のような排便障害も起こると言われています。
腸重積の原因について
乳幼児の場合は、咳、鼻水、発熱などの風邪の症状がきっかけとなり、大腸と小腸の境目にある、回盲部腸管という部分のリンパ節が大きくなり、腸重積が起こるのではないかと考えられています。回盲部腸管は、リンパ系組織が発達している為、風邪の後や最中にこの部分のリンパが腫れることがあります。実際に、発症している箇所は腸の中でも、回盲部腸管が圧倒的に多く、回盲部腸管部分が大腸側に入り込んでしまう症例が多くあります。
また、その他には、患者の2%~4%の稀な頻度で、メッケル憩室(めっけるけいしつ)と呼ばれる、小腸にできるこぶ状の突起物が原因となって発症する可能性や、ホリープ、消化管重複症、悪性リンパ腫などの腸自体の病変が要因となって発症することがあります。
特に、成人で発症する場合は、腸内にポリープや腫瘍があって、発症することが多いと言われています。成人患者の約90%が腫瘍が原因と言われ、中でもホリープなどの良性腫瘍が35%の確率、悪性腫瘍が53%の確率と報告されています。
腸重積の検査方法
検査方法には、触診や腹部超音波検査、直腸造影を用いて検査を行います。
触診
赤ちゃんのお腹を触って触診をします。腸重積が出来るおへその右上付近を軽く押してみると、しこりを感じたり、痛みを感じて赤ちゃんが泣き出します。赤ちゃんは腸の運動時間に合わせて周期的に痛がったり痛がらなかったりを繰り返します。
その為、痛くない時期に出来るだけ優しく触診を行います。慎重に行うことで、高い確率でしこりを確認できたり、診断する手がかりが見るかると言われています。
また、発症してから24時間以上経つと、ガスが溜まりお腹が張る状態が見られます。泣きが激しく体を動かして触診するこよが困難な場合は、腹部超音波検査などの検査で診断する必要が出てきます。
腹部超音波検査
腹部超音波検査は、腹腔内臓器に対して行う超音波検査で、超音波を腸管部分に当てて、跳ね返ってきた超音波を画像に変換する検査方法です。超音波とは、音の1種であり、耳で聞こえる音よりも非常に高い周波数で流す音のことです。
通常、私たちが耳で聞こえている音の周波数は、20ヘルツ(Hz)~20キロヘルツ(kHz)の範囲だといわれており、超音波は、1~30メガヘルツ(MHz)と非常に高い周波数が発生しています。非常に高い周波数は物質を破壊したり、熱を発生する力がありますが、診断に用いている高さの超音波では、そのような威力はなく人体に害を与えないと言われています。
この検査方法を通じて、腸を確認した場合、ターゲットサインと呼ばれる二重丸のような形をした腸管が画像で見ることが出来ます。腸重積の診断において、腹部超音波検査はとても有効であり、非常に高い確率で発見し、診断することが可能です。
また、超音波はレントゲンに比べて、放射線被ばくもない為、安全な検査方法の1つであると言われています。また、小腸ポリープなどが原因となっていた場合、腸の病気も併せて発見することが出来ます。しかし、超音波の検査設備が整っていない病院もあることや、超音波検査に対して経験豊富な医師でない場合は誤診を招く危険性が指摘されています。このような場合は、レントゲン検査方法を行う必要があります。
レントゲン検査
超音波検査の設備が病院に整っていない場合や、超音波検査の経験豊富な医師がその場にいない場合は、レントゲン検査を用います。また、超音波検査による診断が100%の確率でない為、超音波検査で見つからなかった場合や疑惑がある場合は、超音波検査の後にレントゲン検査を行う場合もあります。
このレントゲン検査の場合は、肛門から、造影剤と呼ばれる、画像診断検査を確認しやすくする為の薬品を入れます。投影剤にバリウムを使う病院もありますが、バリウムを使った場合は、腸がやぶれたり、腹膜炎を引き起こして重症化する可能性もあるので、バリウムではなく、生理食塩水などを用いた方がいいと言われています。
大腸内に造影剤を入れて画像を確認すると、腸内の様子を確認することが出来ます。腸重積の場合は、腸が二重に重なって、入り込んでしまっていることで、カニの爪状の映像を確認することができます。これをカニバサミサインと呼び、これを確認することで、病名が決定的なものになります。
また、レントゲンを行う為に造影剤を肛門から入れることで、圧力が加わり、重ねて入り込んでしまっていた腸も元通りになるというメリットもあります。
腸重積の治療方法について
腸重積が起こった場合は、すぐに症状が進行し、血行が悪くなり細胞が壊死します。自然治癒することはなく、治療が遅れると死に至る危険性も伴います。症状が現れたらすぐに病院に行って治療しましょう。
高圧浣腸
高圧浣腸とは、水圧や空気圧を使用して、腸内を洗浄する方法です。この方法を利用することで、腸に詰まった食べ物を取り除けるだけでなく、重なっていた腸を元に戻すことも出来ます。高圧浣腸を行う方法は、太いネラトンカテーテルを肛門から直腸に挿入し、約1mの高さに設置した専用の容器から 300~1000mlの微温生理食塩水を注入します。
併せて超音波検査やレントゲンを使い、重なっていた腸が元に戻ったか確認しながら行います。1分~2分程度で元に戻すことが出来、元に戻った後は、生理食塩水を出来るだけ回収してから装置を取り外します。この方法は、嘔吐から24時間以内に行うのを原則としています。
24時間以内であれば、80%~90%の患者がこの方法で治療できると言われています。しかし、24時間経過している場合は、腸が壊死している可能性が高い為、この方法を行うことで、腸が壊れる可能性があり、基本的に禁止されています。
また、この方法で治ったとしても、数時間~数日で再発する可能性もあるので、対応後は注意して経過観察する必要があります。再発した場合でも、高圧浣腸の方法を再度用いて治療することが出来ます。
開腹手術
発症してから、24時間以上が経過している場合は、高圧浣腸で腸を元に戻すことが出来ません。また、高圧浣腸を行っても腸が元に戻らなかった場合は、開腹手術を行い、腸を元に戻します。手術方法は、損傷した部分が切れてしまうのを防ぐ為に、腸管は引っ張らずに、ミルキングと呼ばれる方法を用います。
ミルキングとは、乳搾りの意味を持ち、手でもんだり、専用のローラーを使って、流して押し出すことです。腸の場合は、両手で肛門側の腸管を握って、重なった部分を押し出す方法を用います。
また、重症化した腸管は、血行不順により、壊死し始めている場合があります。発症から24時間以上経過すると壊死し始め、その場合は、手術により、壊死している腸管を摘出する必要があります。その他、腸に小腸ポリープや悪性リンパ腫があり、これらの病気が原因で発症したと考えられる場合は、原因となる部分を摘出します。
手術は幼い子供にとって肉体的にも精神的にも大きな負担になります。手術を回避するには、早くに異変に気づき、適切な治療を受けることが重要な鍵になります。
手術した後は、術後の管理の為に入院します。また、再発を防止する為に、数時間から半日程度は絶食を余儀なくされます。脱水症状が改善され、感染症の心配もなく、腸管の機能が回復した場合、水や食べ物の摂取が開始されます。
手術後は発熱や腸管の麻痺が続く場合がある為、術後は特に慎重に経過観察することが必要になります。食べ物が食べられるようになり、排便が確認できれば退院することが出来ます。再発する場合もあるので、退院後も慎重に経過観察を続けましょう。
腸重積の注意事項
ここでは、腸重積に関する注意事項をご紹介します。
再発リスク
治療後に再発する確率は10%だと言われています。再発した場合でも、すぐに治療を行えるように、慎重に経過観察することが重要です。
早期発見・早期治療
発症してから2日程度で重症化し血便がみられるようになります。このような状態になると、細胞が壊死している場合が多く、最悪の場合は腸全体が壊死します。手術で摘出する必要がでてくるので、このような状態を避けるためには、早期発見、早期治療が重要です。
特に幼児の場合は、泣き方の異変に気づくと思います。泣き止んだときに腹部を優しく触って、しこりがないか、また痛がらないかも確認しましょう。夜間に症状が出た場合も緊急病院を利用したり、救急車を呼んで重症化する前に、対応しましょう。
ロタウィルスワクチン
ロタウィルスワクチンとは、ロタウイルスによる感染症を予防する生ワクチンです。現在では、ロタリックス(2回接種)、ロタテック(3回接種)の2種類が使用されています。2011年に日本で発売になったワクチンですが、このワクチンを使用することで、腸重積になるリスクが高まるという声があります。
ロタウィルスとは、激しい嘔吐や下痢、発熱の症状を伴う胃腸炎や脳炎を引き起こすウイルスで、感染すると、2日の潜伏期間後に発症します。特に下痢の症状が激しく起こり脱水症状を引き起こしやすくなります。
ワクチンにも様々な種類があり、中でも生ワクチンとは、生きた細菌やウイルスの毒性を弱めたものを、体内に入れることで、免疫をつけることを目的としています。生ワクチンを受けて、軽い症状が現れることが稀にあっても、その摂取が原因となって対象の病気そのものにかかる可能性はありません。
しかし、このワクチンを接種することで、ロタウイルスに対する高い免疫力が得られる一方で、初回摂取した後に腸重積のリスクが高まったと指摘している国があります。日本では因果関係がはっきりと認められていませんが、このような指摘があり、リスクになる可能性があることを知った上でワクチンを接種するか検討してください。
おわりに
腸重積は、腸の中に腸が重なったり、入れ込んだりして腸の中が詰まる病気のことです。特に幼児に発症する確率が高く、原因の多くはウイルスが入り込んで風邪を引き起こした後に、腸のリンパが腫れることがきっかけで起こるのではと考えられています。
どんな病気でも早期発見、早期治療が重要だと言われていますが、この病気は特に重要です。その理由として、発症すると進行が早く2日程度で重症化して手術が必要になる事や、死に至る危険性を伴うからです。
赤ちゃんは特に言葉を発することが出来ない為、お母さんやお父さんをはじめとする周りの人が泣き声や仕草の異常に敏感になることが重要です。