今回は耳にもうひとつの穴が開いてしまう病気、耳瘻孔(じろうこう)の症状をご紹介します。
場合によっては臭気を放つ膿を出したり、なんと症状が顔の別の部位にまで広がるおそれのある耳瘻孔。特に子どもに症状が多く見られるので、小さなお子さんがいらっしゃる方は必見です!
大人にも見られる症状ですが、基本的には先天的なもので若い頃に症状が現れることや、炎症が起こった場合は早いうちに手術が必要になってくるので、子供には負担が大きくなってしまう事があります。
耳瘻孔についてしっかり知っておき、しっかり対策しておけるようにしましょう。
耳瘻孔について
まずは耳瘻孔に関する基本的な内容を抑えていきましょう。耳瘻孔の概要と発生する理由をご紹介します。
耳瘻孔ってなに?
いわゆる耳瘻孔とは先天性耳瘻孔(congenital aural fistula)のことを指します。耳介(耳の構造のうち、外に出っ張っている部分のことです。人間の外耳やネコミミなどがそうです。魚類やイルカなどの耳は皮膚の内側に入ってしまっていているので耳介がありません)周辺の片側性または両側性の瘻孔であり、単に耳の一部が数ミリくぼんでいる程度の不完全なものから、数センチの深さに至る完全瘻孔があります。
瘻孔は細い管上の根が窪みから生えているような構造をしています。根っこの先は盲管といい、人間の血管とは異なり、他の組織・器官と繋がることはほとんどありません。その内腔、中身は平べったい上皮で覆われており、皮脂腺などの皮膚付属器を含んでいます。
耳瘻孔の症状
その穴の中に分泌物や老廃物が溜まることで匂いを発し、炎症を引き起こします。分泌液などは膿の様になり、穴の中から自然にまたは圧迫することで液状のものが出てきます。それによってさらにその周囲の皮膚は炎症を起こし赤くかぶれたり腫れたりして痛みを発します。
炎症が広がることや、皮膚の深部にまで炎症が及ぶことで痛みは強くなり、激痛に発展します。
また、皮膚の中に袋状に炎症の原因である膿が溜まって、大きく腫瘍のようなものが出来る場合もあります。この場合は手術による摘出が必要になります。
出て来る汁には臭いがあり、臭い特徴があります。形成外科もしくは耳鼻科の受診を受けましょう。
耳瘻孔はどうやって起こるのか?
先天性耳瘻孔の発生メカニズムには諸説あり、未だ明瞭ではありません。
有力な説としては、胎生期(人間の発生段階)において、外耳が発生する基となる第一鰓弓(さいきゅう)と第二鰓弓(鰓弓というのは人間を含む脊椎動物が受精卵から細胞分裂を繰り返しその生物の形を作っていく発生の過程でのどの部分から角のように伸びて生じる部位のことです。この鰓弓から頭や首の一部ができます)という部位に生じた6個の小隆起、または第一鰓裂(さいれつ、魚類のエラになる部分です。
人間のような哺乳類だと陸上に進出したときにエラを失っていますので、一度鰓裂によってエラになるための亀裂がのどの一部に生じたあと、もう一度その亀裂が癒合、くっついてしまうのです)における癒合不全がその成因であるという話です。
耳瘻孔と魔法の話
たしかJ.K.ローリングの『ハリー・ポッターと炎のゴブレット』のなかでハリーが鰓昆布を食べてハリーにエラができるという場面がありましたけど、確かそのときにハリーはのどを抑えて苦しみますよね。発生の観点からみても鰓はのどからできている部分なので納得です。
ただ、人間の実際の発生の場合は鰓裂によってできた部分は亀裂が塞がって頭部などを形成する材料になります。この癒合がうまくいかないと耳瘻孔の原因になるので、本来はハリーのエラは耳からできるべきだったとも言えますね
耳瘻孔になる確率はどれくらい?
日本人が耳瘻孔になる確率はどれくらい?
先天性耳瘻孔の発生頻度は人種により差がありまして、欧米の白人では1%以下、東洋人では数%から10%程度、黒人ではその中間であると言われています。国内文献でみるとその出現頻度は非常にまちまちでして、多いものでは出現率を20%程度だとするものもあります。
ただ、そのデータには信頼性が欠けているという指摘もあり、実際に外来で来る患者の場合、その発症率は1%に満たないという説もあります。ただし、乳幼児から成人に至る成長過程のなかで、不完全な瘻孔はしだいに消失していく傾向もあるので、実際に外来で診察を受け、耳瘻孔が見つかった人数がそのまま耳瘻孔の発生件数というわけではないようです。
性別発現頻度は男性に多いという説と女性に多いという説が両方あり、未だ決着はついていません。耳の左右における発現頻度においても諸説ありますが、片側の耳だけに発現することのほうが両耳に耳瘻孔ができるパターンよりも確率が高いと言われています。
両側の耳に耳瘻孔ができる場合、発症の程度が左右対称であることが多いです。片側性のものは耳の一か所だけに発現することが多いようですが、一つの耳に複数の耳瘻孔ができたという報告もあります。
日本での発症の確立は100人に2〜3人程で発症するというデータがあります。
遺伝的に耳瘻孔になりやすい人はいるか?
若干の遺伝性が確認されています。先天性耳瘻孔の遺伝関係について、家族性発生や不完全優性遺伝などの記載が多くみられます。欧米では、6世代にわたる遺伝的発現の例が記録されています。他の先天性の顔面奇形との合併報告も多いようです。
たとえば、副耳、耳介の奇形、伝音性難聴を合併した症例、耳珠と口角部をむすぶ線上に他の瘻孔のある症例、兎唇口蓋裂を合併する症例などの記載があります。外耳道瘻孔や側頸部瘻孔との合併の報告もあります。
似た疾患は、口角瘻孔などを含む他の顔面瘻孔、尋常性坐そうなど顔面感染症、類皮などのう胞、粉瘤手、慢性結節性軟骨皮膚炎などです。さらに炎症が進み潰瘍などを伴えば、乳様突起炎、耳介軟骨膜炎が考えられます。
先天性耳瘻孔の発現部位
先天性耳瘻孔の発現部位について結論的に述べますと、耳介を基準として診察した場合に、耳介前部か耳介前方に多いといえます。しかし、記録に残っている先天性耳瘻孔の発現部位はきわめて多彩です。
つまり、耳の一部であったらどこにでも瘻孔が生じる可能性があるということです。ただし、統計的には、耳の付け根付近で、特に耳の穴の上側の、軟骨がある部分にできるものが全体の8割ほどを占めています。ただし、先述したように、成長とともに耳瘻孔の部位や性状に変化が生じることもあります。
先天性耳瘻孔の治療
さて、ここまで耳瘻孔の基本的な知識とその発生頻度について見てきました。では、たとえばお子様が耳瘻孔になってしまった場合、どのような処置が適切なのでしょうか?
まずは症状を確認
耳瘻孔によってできるくぼみの大きさは数ミリから数センチまでさまざまです。場合によっては外側からは穴が開いているようには見えず、実は耳の軟骨の内側で症状が進行していることがあります。
どちらにしても気をつけないといけないのは細菌汚染です。耳瘻孔というのは、本来発生過程で塞がってしまうはずだったエラが塞がりきらずに残ってしまっている状態なので、その塞がっていない空洞部分で細菌が繁殖することがあります。
もし、細菌が皮膚の内側まで侵入し、さらには血管にまで到達すると、場合によっては血液に乗って別の体の部位(たとえば口の周りや顔の皮膚など)に細菌性の感染症を生じることがあります。耳瘻孔の治療は手術が最も根治に効果的ですが、幼少児の場合は全身麻酔をかけて行う大手術になる可能性があります。
一方で成長の途中で耳瘻孔が塞がってしまうこともあります。細菌が繁殖している場合も、早期であれば抗生剤で対処が可能です。症状について、まずはお子さんの状態を把握しましょう。
症状が軽い場合
孔が確認できる場合でも炎症や感染などの症状が出ていなければ、治療を行う必要はありません。まずは経過を観察し、分泌物によって膿などの症状が出ないか様子を見てみましょう。
孔から汁が出たり、臭いがある老廃物などが確認できた場合は医者の治療を受けるようにしましょう。症状が軽度の場合は外科的治療は行わず、内服薬、抗生物質などによる炎症の沈下を行う治療に留まります。
再度症状が現れる場合や、症状がひどくなってきた場合には麻酔を用いた切開などの手術が行われます。
病院で医師に相談
耳瘻孔の状態を確認したあとは、かかりつけの耳鼻科などで医師と相談されるとよいでしょう。先天性耳瘻孔は一度感染を起こすと、その後炎症が反復して起きることが知られています。
感染による炎症は瘻孔ができている部分だけにとどまらず、離れた部分にまで膿瘍を形成することが多いです。そのため、瘻孔の症状が大きくなってきて、それを放置していると本来異状のなかった顔の部位に症状が現れてくることになります。
したがって、手術による瘻孔ができている患部(瘻管)の全摘出と膿瘍を含む感染巣の根治が治療の主体となります。手術は、成人であれば局所浸潤麻酔、幼少児であれば全身麻酔をかけて行います。
事前にメチレンブルーという染色液で患部に色をつけておき、染色液に染まった患部をすべて、表面を切除するだけでなく、瘻孔が皮膚の内側に侵入してできた細い根っこの部分にいたるまで剥がして摘出します。
早期発見により、感染初期で治療ができる場合は、抗生剤を投与することによって手術をせずとも症状が消えることが多いです。信頼のおけるお医者さんに相談して、どのようにするのがお子さんにとっていいのか検討されるとよいでしょう。
耳瘻孔の手術
先天性耳瘻孔の治療の場合、手術をしないのであれば注射器やメスを使って患部に溜まっている膿を出すというものがありますが、その場合には膿が溜まるたびに治療を繰り返さなければならないため、症状が落ち着くまでは何度も通院して治療を続ける必要があります。それでは、耳瘻孔の手術はどのように実施されるのでしょうか?
まずは炎症の治癒
手術を行う前にまずは、患部の炎症などの症状を治癒することから始まります。治癒が完了すれば摘出手術は可能ですが、通常の場合は治癒してもすぐには手術は行わず1ヶ月から3ヶ月ほど間をおいて手術に向かいます。
この時に患者に再度手術の必要がある場合の詳しい説明を行った後に、手術による治療を行うかどうかの意志の確認が行われます。
手術の内容
抗生物質の投与でも耳瘻孔の症状に改善が見られない場合、手術という選択肢が視界に入ってきます。実際の手術の場合、患部をその周囲から切り取っていきます。手術自体の所要時間は早くて1、2時間程度かかるのが普通です。ただ、耳瘻孔で開いている穴がどれくらいの深さになっているかは切開して患部を見てみないとわかりません。患部の根が深い場合、耳瘻孔を完全に切除するために少し深く切開する可能性はあります。ただ、多くの場合は5ミリ程度の切開で済みます。ただ、3、4日〜1週間の間入院して、幼少児の場合は全身麻酔での手術になります。
場合によっては大きく切開を行わなければいけない場合がります。特に一度手術を行ったにも関わらず再発してしまった場合や深部にまで穴がつながっている場合はより複雑な手術になる事があります。
耳瘻管を摘出ししっかり皮膚を縫合した後は5日〜1週間後に抜糸を行います。この時、耳介周辺は圧迫による処置が行いにくい部分になるので術後に分泌液や血液溜まりで治癒が遅くなる場合がります。
術後は1ヶ月ほどで傷も綺麗に目立たなくなります。
手術費用
手術の費用は全身麻酔か局所麻酔かによって値段が大きく分かれ、一般的に、全身麻酔の場合は10万円程度の自己負担、局所麻酔で済む場合は1万円程度の自己負担で済む場合が多いです。全身麻酔の場合に割高なのは、全身麻酔をかけるにあたって麻酔の管理をする医療従事者が必要になることや、数日間の入院が必要になるためです。局所麻酔で済めば、入院も必要ない場合が多いので、費用は安く済むのです。ただし、先述したように、耳瘻孔の深さは切開してみないとわからないことが多いため、手術の最中に耳瘻孔が予想よりも深かった場合は、途中で切り替えるというわけにいきませんから、全身麻酔の手術と局所麻酔の手術の両方の要素を熟慮したうえで手術の実施について検討されるとよいでしょう。
どのように耳瘻孔と向き合うか?
先天性の条件が影響する病気というのは、現代の科学でも私たちにはどうすることもできないことが多いです。では、私たちはどのように病気と向き合っていくべきなのでしょうか?
手術をしないという選択
昨今では医療技術も進歩してきて、どの手段を採用するのが手術を受ける人とその家族にとってベストなのかはわかりづらくなってきています。特に症状が目に見えるものであり、かつ先天的に生じている場合は、母親にとっては自分を責めてしまうようなこともあるかと思います。
先天性耳瘻孔の場合、膿のような臭い汁が出たり、皮膚に炎症ができるケースがあり、これらの症状は年頃のお子様にとっても辛い思いを強いることがあるでしょう。筆者もいくつか思うところがあります。
母親に「上手に生んであげられなくてごめんね」と言われると子どももやるせない、悲しいきもちになります。耳瘻孔の場合も、簡単に手術すればいいという話ではないと思われます。顔面や頭部にはたくさんの神経が張り巡らされています。
そのため、もし手術するとすれば、そのような神経を傷つけたりしないかどうか、お子様の年齢を踏まえて、局所麻酔で済むのか、全身麻酔をかけなければならないのか考慮に入れておく必要があるのではないでしょうか。手術しなくて済むならそれがベストなどとは言いませんが、お子様ともお話しする機会をもち、よりよい方法を模索する必要があるでしょう。
まとめ
今回のまとめは以下の通りです。
1.耳瘻孔は発生過程で塞がってしまうはずだったエラが塞がりきらずに残ってしまっている状態
2.その塞がっていない窪みで細菌が繁殖すると感染症を引き起こすことがある
3.耳瘻孔を見つけたら症状を把握し、かかりつけ医に相談
4.手術するか、抗生剤を投与するか、それとも具体的な治療をしなくても大丈夫なのか、患者とその家族にとってベストな方法を選択する
耳瘻孔については、年齢とともに塞がっていく可能性もあり、窪みを見つけた段階ですぐに治療が必要なのかどうかを医師と相談して決める必要があるでしょう。
関連記事としてこちらも合わせて読んでおきましょう。
・耳管狭窄症とは?症状・原因・治療法を知ろう!検査する方法も紹介!