いきなりですが、ちょっと気持ち悪い質問をします。
「鼻水を飲んだことはありますか?」「花粉症でもないのに、朝目覚めたら、黄色い痰が出てきたことはないですか?」
そのような症状をお持ちの方は、咳に注意してください。市販の咳止め薬を買うことを、少し待ってほしいのです。というのは、その咳が良い働きをしているかもしれないからです。
きょうのテーマは「後鼻漏(こうびろう)」という鼻水の話です。
鼻水とは
気持の悪い話はまだ続きます。鼻水について詳しく解説します。不快に感じた方は、次の「後鼻漏とは」から読んでいただいてもOKです。
混合液
鼻水は、鼻の奥にある鼻腺(びせん)という器官から出てくる粘液です。それに、血管から滲み出てくる水分が加わります。また、細胞も水分を出すので、それが鼻水になることがあります。コーヒーと牛乳を混ぜたカフェオレと同じように、鼻水は「混合液」なのです。
「混合液」という意味は、単純な水ではないということです。ですので、鼻水の水分が蒸発してしまうと、固体が残ります。それが「鼻くそ」です。
2つの役割
鼻水は2つの大きな仕事をしています。ひとつは、呼吸によって体内に入ってくる空気を湿らせる仕事です。鼻を使わずに、口だけで呼吸をすると、喉の奥まで乾燥してしまいます。乾燥すると粘膜が傷つきやすくなってしまうのです。鼻水は、喉のことを労わっているのです。
鼻水のもうひとつの大事な仕事は、異物を洗い流すことです。風邪をひいたときに鼻水が大量に出てくるのは、「異物をこれ以上入れないぞ!」という「体の決意」なのです。風邪はウイルスが侵入して発症しますので、そのような「決意」をするのです。
花粉症も同じです。鼻水が大量に作られると、花粉は鼻の奥に侵入することができなくなります。体が「鼻水で花粉を洗い流せ!」と決意したのです。
ただ花粉症の場合は、体の決意は、実は勘違いです。花粉は体内に入っても、健康を害することはほとんどありません。しかし体の方は「あれはとんでもない異物だ」と認識してしまっているのです。
花粉症の患者としては、「花粉は大丈夫だから、鼻水よ止まってくれ」と思うのですが、「人の意思」だけでは、鼻水を出す体の反応を止めることはできないのです。
泣いたとき
号泣したときに鼻水が出ますが、これは上記で解説した「鼻水」ではありません。目と鼻は「鼻涙管(びるいかん)」という管(くだ)でつながっています。涙が大量の生産され、目からこぼれるだけでは追いつかないとき、鼻涙管を使って鼻からも涙を放出するのです。
後鼻漏とは
鼻水の重要性を理解いただけたところで、メーンテーマの「後鼻漏(こうびろう)」についてお話しします。
前と後ろ
私たちが普通に「鼻水」といった場合、それは鼻の穴から落ちてくる液体のことを指します。「鼻の穴から落ちてくる」状態を、医療的には「前に漏れた」と表現します。鼻水は鼻の穴の奥の空間で作られるのですが、その空間を「中心」とすると、顔の方向が「前」で、後頭部方向が「後ろ」となります。
そうなんです。後鼻漏は、「鼻水が後ろに漏れた状態」という意味なのです。
少量なら異常ではない
鼻水は、健康な人が風邪でも花粉症でもない場合、1日に5リットル程度作られています。そのうちの30%程度が、後ろに漏れる「後鼻漏」となっています。
後ろに漏れた鼻水がどこに向かうかというと、喉です。これが「鼻水を飲む」という状態です。この「30%程度」がポイントで、これを上回ると「後鼻漏」が深刻になるのです。
鼻の不調が増やす
後鼻漏が30%を超えるのは、鼻水が通常よりも多く作られたときです。鼻水は、アレルギー性鼻炎や副鼻腔炎、花粉症といった、鼻に刺激を与える病気によって増量されます。
後鼻漏の問題点
繰り返しになりますが、後鼻漏は鼻水が喉に到達する症状なので、そのまま飲み込んでしまえば、それで終わりです。それが問題になるのは、流れずに「貯まること」です。
仰向けになると
鼻炎がひどいときは、睡眠中も鼻水が作られます。仰向けで寝ると、鼻水は重力に従ってますます後ろに流れていきます。無意識に後鼻漏を飲み込むこともありますが、一定量の鼻水は、鼻の奥の空間と喉の間に貯まってしまいます。
貯まったままの状態でも呼吸は続くので、貯まった鼻水はだんだん水分を奪われていきます。すると鼻水の粘り気は増していきます。粘り気が増すと流動性が落ちますので、さらに貯まりやすくなります。
川をせき止めて水を貯めるダムを作ると、その底に泥がたまるようなイメージです。
鼻水と痰と咳の関係
朝目覚めて、「喉の上、鼻の奥の奥」に異変を感じて、咳払いをすると、黄色い痰が出てくることがあります。この痰こそが、後鼻漏が夜間に貯まり、粘り気を増したモノなのです。
お気づきでしょうか。「黄色い痰」=「濃厚な後鼻漏」を、体の外に出したのは「咳」なのです。
後鼻漏と咳
咳は、異物を外に出すという仕事があります。後鼻漏が睡眠時に蓄積してできた痰は、「害」や「毒」という大げさなものではありませんが、それでも飲み込まない方がよいものです。
朝目覚めたときに出てくる咳は、この飲み込まない方がよいものを、体の外に出そうとしているのです。
簡単に咳を止めない
後鼻漏が悪化すると、夜間に作られる痰だけでなく、日中にも痰が形成されます。日中のしつこい咳は、これをかき出そうとしているわけです。なのに、「咳が不快だから」という理由で、市販薬を使って咳を止めてしまうと、後鼻漏による痰がどんどん貯まっていってしまう結果になります。
後鼻漏による咳の正しい治療法は、まずは後鼻漏を悪化させた原因を治すことです。後鼻漏を悪化させるのは、鼻炎などの鼻の不調ですから、鼻を治すことが、後鼻漏を、そして不快な咳を治めることにつながるのです。
後鼻漏のちょっと難しい話
以上で、鼻水と後鼻漏と咳の関係はご理解いただけたと思います。これ以降の解説は少し専門的な話になります。興味がある方は是非一読ください。
慢性咳嗽
「咳(せき)」は、医療用語で「咳嗽(がいそう)」といいます。8週間以上継続するしつこい咳のことを「慢性咳嗽」といいます。
咳は、1回2キロカロリーのエネルギーを消費します。ですので、咳を7回すると、コンニャク200グラム=14キロカロリーを消費したことになります。咳は「小さくはない運動」といえます。
ですので慢性咳嗽は、それだけで体力を消耗してしまうのです。しつこい咳はときに、胸の痛みや、ときには肋骨骨折を引き起こすこともあります。さらに、心にも影響を与えます。睡眠障害や抑うつ症状を招くことが分かってきました。
ですので、高齢者の場合8週間も待っていられません。頻繁な咳が3週間続いたら病院に行くよう勧める医師もいます。
治療は?
「後鼻漏による慢性咳嗽」と診断された場合、薬による治療を開始します。使う薬は2つです。
「クラリス」と「ムコダイン」といいます。
クラリスは、後鼻漏の原因が鼻腔炎だったときに使われます。抗生物質のひとつで、病原微生物の増殖を抑える効果が期待できます。副作用は、発疹や胃腸障害、下痢などが報告されています。
ムコダインは、気管支の炎症を押さえたり、痰の除去といった効果が期待できます。肝機能障害や黄疸といった副作用が報告されています。
まとめ
鼻水は顔面の真ん中から液体が漏れる状態なので、健康的な観点からだけでなく、美容的な面でも忌み嫌われる存在です。
しかし人の体に存在しているもので、意味がないものはないといわれています。鼻水は不快な症状ですが、「痛み」と同じように体の異変を気付かせてくれるサインでもあります。
「鼻水が多いな」と感じたら、医師に相談してもよいでしょう。
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