全身や口腔内(口の中)に紅い斑点(紅斑)や破れにくいパンパンに張れ上がった水ぶくれやびらんができたことはありますか?
もし、そういった症状が見られた場合は、水疱性類天疱瘡(すいほうせいてんぽうそう/Bullous pemphigoid)という皮膚疾患の可能性があります。水疱症という病気の一種です。
水疱性類天疱瘡について、いったいどういった病気なのか、原因や症状、治療や注意する点について説明をします。
水疱性類天疱瘡とは
類天疱瘡には、水疱性類天疱瘡、粘膜類天疱瘡と後天性表皮水疱症に大きく分類されます。それぞれの疾患により、症状や治療は様々であり、鑑別が困難なものもあります。
類天疱瘡自体は根治が困難であり、難病疾患に含まれています。水疱性類天疱瘡は、どういった年代に生じやすいかや、原因や症状などについて述べていきます。
水疱性類天疱瘡の発症率
類天疱瘡の発症する大部分が、水疱性類天疱瘡になります。粘膜類天疱瘡と後天性表皮水疱症の発症率はほんの一部になります。
水疱性類天疱瘡は日本では、約7000~8000人が発症するとされています。好発年齢は、60歳以上の高齢者になります。特に、70~90歳代に多いです。近年は、少子高齢化社会であり、人口に対して高齢者が増加傾向にあるため、水疱性類天疱瘡の罹患人口は増加傾向にあります。
稀に、若年者や小児にも見られ、年齢としては18歳以下に見られます。
水疱性類天疱瘡の原因
自己免疫性疾患に分類される疾患です。原因は不明です。皮膚表面に自己抗体が形成されることで水疱症を出現させますが、その原因も明確ではありません。遺伝性と考える方もいますが、遺伝性ではないです。よって、家族や親族に水疱性類天疱瘡を発症している人がいても、必ずしも自身も発症するわけではありません。
まず、どのようにして発症するかを述べます。皮膚の表皮と真皮の境界にある基底膜にはタンパクがあります。このタンパクは、基底膜に有するヘミデスモソームという接着因子を構成する成分であるタンパクを指し、BP230やBP180があります。つまり、水疱性類天疱瘡の自己抗原がヘミデスモソームということです。
このヘミデスモソームというタンパクに対するIgG 自己抗体(抗表皮基底膜部抗体)により、皮膚や粘膜部に紅斑や水疱(水ぶくれ)、びらんが生じます。紅斑は皮膚の表面に生じる赤い斑点で皮疹(ひしん)になります。
ここの説明では、「自己抗体」という言葉が多数でてきますが、この「自己抗体」とは、「自分自身を攻撃する抗体」のことを指しています。「抗体」とは一見良いものに見えるかもしれませんが、自己抗体は自分自身を攻撃するため良くないものになります。
血液中に存在する抗体であるタンパク質は、ウイルスや細菌などの外的物質に反応して感染を防ぐ作用をもつため、自身の組織成分に攻撃的な反応はしません。しかし、自己抗体は自己抗原である自身の組織成分に対して反応し、攻撃をして傷害を与えます。こういった自己抗体により発症する疾患が「自己免疫性疾患」と呼ばれ、類天疱瘡はこれに含まれます。
上記の記述で、なぜ水疱や紅斑、びらんが生じるかがわかります。続いて、症状について説明をします。
水疱性類天疱瘡の症状
全身性に症状が出現します。症状としては、膨隆(ぼうりゅう)して出る赤い皮疹である浮腫性の紅斑が出現し、痒みを伴います。パンパンに膨れ上がった破れにくい性質の緊満性の大きな水疱(水ぶくれ)や、びらんも生じます。この紅斑・水疱・びらんがこの疾患の特徴になり、全身に多数出現します。
人によっては、口腔内の粘膜にも水疱やびらんが生じます。口腔内粘膜に症状が出現する人は、全体の約20%と言われています。眼や耳、喉の中などにも生じることがあり、場合によっては失明や聴覚障害、呼吸困難などを生じる可能性があります。
これらの症状は、自己抗体が表皮の基底膜部にある自己抗原に結合し、沈着します。循環血液中に認められることもあります。これにより、表皮と真皮の接着が悪くなっていき症状を生じます。
他者への感染性の有無
他の人へ感染する可能性はない疾患になります。しかし、症状が出現している部位、特にびらんの部位に細菌が侵入すると感染症などを引き起こして治癒されにくくなる可能性はあります。
また、そういった感染した部位が他の人の傷口に触れたり、物に付着してそこに他の人が触れた場合には、その他者へ何らかの病気を感染させてしまう可能性はあります。下記の「治療」の項目にも提示しますが、二次的障害を生じないように創部は清潔にして保護するようにしましょう。
水疱性類天疱瘡の検査・診断
明確化はされていませんが、内臓系の内科疾患との関連が見られるケースもあります。よって、以下に述べる検査の他に、内科疾患の検査を受ける場合もあります。
また、類似した疾患も多数あるため、鑑別の検査が必要になります。重症度や病気の進行具合は水疱・紅斑・びらんの個数と大きさと、血液中のIgG自己抗体の量によって決まります。
血液検査
血液検査を行い、蛍光抗体間接法や免疫ブロット法、ELISA法といった検査法を用いて、迅速に且つ、正確に自己抗体を検出する方法が行われます。
現在は、ELISA法に関しては、保険が適応されており、病院で検査を行うことができます。但し、ELISA法に関してはBP180とBP230のリコンビナント蛋白の内、BP180のみ適応となります。
生検
症状を呈している部位の皮膚の一部を切り取って採取し、皮膚の生検を行います。その後に、顕微鏡を使用して皮膚組織を検査し、表皮下水疱の有無を確認します。表皮下水疱とは、その文字の通り、皮膚表面の表皮の下に水疱が形成されることです。
もし、水疱性類天疱瘡である場合には、この生検された皮膚を使用した蛍光抗体直接法検査にて症状を呈している皮膚の基底膜に免疫グロブリンG(IgG)という自己抗体の沈着がみられます。なお、この検査では、最初に皮膚を切り取るため、事前に局所麻酔が施されます。
水疱性類天疱瘡の治療
水疱性類天疱瘡の治療方法は重症度によって決定されます。また、急性期・回復期・慢性期・憎悪期でも対処法は異なります。急性期では内服の治療を施行されますが、こちらは重症度に関係なく約2~4週間の内服を継続して経過を見ます。
では、受診する科と、それぞれの重症度に分けて説明をしていきます。
受診する科
皮膚疾患であるため、受診する科は皮膚科になります。検査をしっかりしてくれる設備の整った施設に受診をすると検査と治療がスムーズに進むでしょう。
口腔内の粘膜に症状が発症している場合には、検査および治療は歯科・口腔外科に受診しましょう。眼症状に関しては、眼科を受診し、それぞれの症状に対して適した科を選びましょう。なお、それぞれ受診する科はなるべく医療機関同士が連携をとることが出来る場所を選択することがオススメです。
情報の交換がスムーズであり、治療をする上でもより的確な処置を受けることができます。紹介状を書いてもらうなど、担当医と相談して行動しましょう。
軽症の場合
急性期で軽症の場合は、局所外用を用いた治療に加えて、テトラサイクリンまたはミノサイクリン、ニコチン酸アミド、ダブソン、レクチゾール、ロキシスロマイシンを併用した内服での治療が施行されます。これらは、保険適応外の薬剤になります。また、副腎皮質ホルモン剤も内服ではなく、外用薬のみで調整をしていく場合があります。
慢性期や回復期で症状が軽症の状態にまで落ち着いた場合には、寛解状態を維持する治療を行います。また、治療薬を徐々に減らし、最終的には中止する方向で治療が進められます。こういった治療を始める目安は、水疱症状やびらん、紅斑といった症状がみられなくなったタイミングになります。細目に医師に診てもらうようにしましょう。
中等症以上の場合
軽症例と同様、中等度の症例にも副腎皮質ホルモン剤に加え、テトラサイクリンまたはミノサイクリン、ニコチン酸アミドを併用した内服治療が適応されます。
副腎皮質ホルモン剤(ステロイド剤)は全身に投与します。中等症の場合は基本的には内服での治療を中心に経過観察をします。
観察し、症状が緩和傾向にあった場合に、投与する量を徐々に少なくしていきます。副腎皮質ホルモン剤の内服により、副作用の他、経過みて内服量を少なくしていった際に症状が再燃することがあります。また、この薬剤は身体への依存性が強いため、このように寛解と再燃を繰り返して治療が長期的になりやすいです。副腎皮質ホルモン剤の副作用として気を付けるものは、感染症や糖尿病、肥満、満月様顔貌、骨粗鬆症、胃潰瘍、胃癌、高血圧、白内障、高コレステロール血症などが挙げられます。
自律神経も侵されることがあり、熱発するなど体調が崩れやすくなります。胃潰瘍などの消化器に対して胃粘膜保護薬が処方されますが、こういった胃薬の副作用にも胃炎や胃潰瘍が挙げられます。服用し続ければ胃癌に繋がる可能性もあります。
高齢者の方は副作用を併発しやすいため、特に注意をして、医師と相談しながら慎重に治療を進めていく必要があります。
副腎皮質ホルモン等の他に、抗生物質含有軟膏や亜鉛華単軟膏といった塗り薬も適応されることがあります。
難治の場合
急性期の重症例での治療で効果が得られない場合や、病気の症状の進行が抑制しきれない場合に、免疫抑制剤の併用や血漿交換療法、ステロイドパルス療法といった治療を状態に合わせて施行していきます。
免疫抑制剤は、現疾患の原因となる自己抗体の産生と働きを抑制するための薬になります。ここでは基本的には、副腎皮質ホルモン剤の投与量を減らし、副作用の程度を抑えるために併用されます。しかし、この免疫抑制剤も副作用は強く、肝臓・腎臓の機能障害や骨髄抑制作用、感染症を引き起こす可能性があります。
症状が再燃する憎悪期では、副腎皮質ホルモン剤の内服量を約2倍に増量することがあります。
いずれも副作用がとても強い薬剤なので慎重性が必要です。
内服薬やパルス療法以外にも、免疫グロブリン(IVIG)の注射が施行されることもあります。注射する量は大量になります。妥当性は認められており、効果は期待できます。但し、一部の内服薬と同様、保険は適用されないので、請求金額は高くなります。
気を付ける事
水疱症は外的刺激に弱く、外力を加えられた部位に水疱やびらんといった症状が発症しやすいです。既に発症している場合、特に症状の活動性が高い時期では症状が憎悪する可能性があります。
こういった外力を避けるために、症状を呈している部位全体をガーゼで保護しましょう。更に、そのガーゼの上から絆創膏やネット、サージカルテープなどの医療用絆創膏テープで固定します。ここで注意すべき点は、症状を呈している部位に直接絆創膏を貼らないことです。直接、市販の緑または黄色様のガーゼが真ん中にある絆創膏を貼る方もいますが、これは逆効果になります。直接絆創膏を貼ることで、水に濡れた際に絆創膏全体、特にガーゼ部分が乾燥しにくく、患部を湿らせた状態にしてしまい、化膿しやすくしてしまうことがあります。
そして、患部が菌に感染させないようにしているつもりで、逆に、感染をさせやすくしています。安易に、患部に直接絆創膏を貼る方は多いですが、間違った方法なので行わないようにしましょう。
また、生活の中では、極力、膝や肘、手足を怪我しないようにしましょう。
柔らかい衣類を身に着ける
身体を締め付けるようなベルトやゴムの締め付けがキツイ物、摩擦を起こすような衣服や下着は避ける必要があります。水疱症を生じやすくする原因となります。発症してしまっている場合には、衣類の摩擦により痛みが生じたり、水疱が潰れる可能性があります。
もし、入院中にご家族に衣類を持ってきてもらう際にはこの点に注意をして持ってきてもらうようにしましょう。
食事療法
口腔内の粘膜に症状を呈している場合には、食事に気をつける必要があります。例えば、固い食品は口腔内に水疱症を誘発しやすいため控えましょう。
噛み合わせが不良でよく口腔内の粘膜を噛んでしまい口内炎を作りやすい方も、これにより口腔内粘膜を傷つけて水泡を誘発する可能性があります。難しいかもしれませんが、なるべく粘膜を噛まない様に咀嚼しましょう。どうしても無理だという方は、歯列矯正治療も検討すると良いかもしれません。自己判断はせず、歯科・口腔外科の医師と相談すると良いでしょう。
副腎皮質ホルモン剤(ステロイド剤)の内服の治療を継続している場合には、特に注意が必要です。上記の治療の中等症の症例の項目でも述べたように、副腎皮質ホルモン剤の副作用により糖尿病や体重増加による肥満、高血圧や高コレステロール、消化性潰瘍や骨粗鬆症になるリスクが高いです。こういったケースでは食事療法を徹底して行う必要があります。
適度な運動
先ほども述べたように、薬の副作用により体重が増加しやすく肥満体系になりやすくなります。元々が、どれだけ細いと言われる人でも薬の副作用によって身体が丸く肥満体系になってしまうことがあります。油断はせずに、軽い有酸素運動を行ってダイエットに励むようにしましょう。例えば、強く息切れをしない程度のジョギングやプールの中で歩く運動や散歩が挙げられます。
薬物療法、食事療法、運動療法の全てをバランス良く行うことで良い結果が得られやすくなります。いずれかを疎かにしては、良い結果は得られにくいです。
予後
水疱性類天疱瘡は、比較的早期に寛解するケースが多いです。但し、高齢者での発症が多く、薬の副作用に悩まされる方も多いという点はあり、治療は慎重に行う必要があります。
高齢者の治療は調整されやすいですが、稀に発症する若年層では難治性であることが多いです。とは言っても、全ての方がそうであるとは言い切れません。治療を経て良い経過をたどり、全ての治療を一旦中止しても皮膚や粘膜などに症状が出現することはなく完治した例もあります。諦めずに根気良く治療を継続すると良いでしょう。
治療を進めていく患者の中には、薬の副作用に悩んだり、面倒臭くなるなどして自己判断により薬を変えてしまったり、中止してしまう方がいます。これは、水疱の症状を悪化させたり再発させるリスクが高くなります。もし、薬に関して何らかの変化が起きたり、不安なこと等があった場合には、自己判断で事を済ませず、必ず医師に相談するようにしましょう。
まとめ
水疱性類天疱瘡は、他の水疱症に比べ治療予後は良く、比較的早期に寛解状態になることが多いです。
しかし、重症度によっては、またはどういった治療を行うかで予後は左右されます。早期発見・早期治療を心がけて、皮膚や口腔内粘膜、眼などに少しでも異常が見られた場合は自己判断で「しばらく様子をみてみよう」と思うのではなく、病院を受診しましょう。
注意したい点は、保険が適用されない治療薬や注射があることです。保険が適用されない治療を医師に勧められた際には、金額の相談もすると良いでしょう。
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