酒さ様皮膚炎(しゅさようひふえん)は、顔の皮膚に赤みが出てきたり、ほてっている様にみえる病態のことを言います。一見、アトピー性皮膚炎と間違えたり、「酒」というワードが入っていることでアルコールが原因だと思ってしまう方もいらっしゃいますが、それらとは異なる病気になります。
類似している病名・病態で「酒皶(しゅさ)」もありますが、こちらも全く別の疾患になるので間違えないようにしましょう。では、酒皶様皮膚炎について詳しく説明していきます。
酒さ様皮膚炎とは
酒さ様皮膚炎は別名、ステロイド酒皶とも呼ばれています。酒さ様皮膚炎は、皮膚の真皮(しんぴ)内に存在する毛嚢炎(もうのうえん)が主に関与する疾患です。この真皮内の毛嚢皮脂腺に肉芽腫状の炎症が生じ、強固な丘疹(盛り上がった湿疹)が生じます。
この丘疹の中心の毛嚢(もうのう)開口部に膿疱(のうほう)や膿痂皮(のうかひ)、つまり「ウミ」が着くことがあります。丘疹の紅斑上に小さな鱗層が生じた場合には、脂漏性皮膚炎の合併も疑われます。
好発年齢
女性に多く、発症時期は思春期から成人期(20~50歳代)と幅広い年齢層に多くみられます。
酒さ様皮膚炎の原因
酒さ性皮膚炎を発症するに至るベースとなる他の疾患を治療する際に用いられる副腎皮質ステロイド剤(ホルモン剤)を長期間(数カ月~数年)使用し続けることで生じることが多いです。つまり、副腎皮質ステロイド剤の副作用により、皮膚が菲薄化したり、皮膚が委縮することで発症します。
副腎皮質ステロイド剤は非常に依存性が高いため、どうしても長期間の使用と中止を繰り返すことになり、酒さ性皮膚炎も生じやすい状態になります。特に、抗炎症作用が強力であればあるほど短期間で発症する可能性が高いです。
酒さ様皮膚炎の症状
原因で述べた様に、副腎皮質ステロイド剤を長期間使用し続けた箇所に皮疹、毛細血管拡張症、膿疱、丘疹が生じます。丘疹や膿疱は紅斑の無いニキビ状のブツブツとした症状のことを言います。また、毛細血管拡張症により、血管が細く浮き上がります。これは症状が進行した際にみられます。
その他に、皮膚の赤みやほてり、腫れ(はれ)、熱感、軽度の痒み、肌の皮膚の萎縮といった症状も出現していきます。皮膚の萎縮は初期からみられます。痒みは最初は軽度ですが、症状が悪化すると徐々に強くなっていく可能性があります。
酒さ様皮膚炎の治療
酒さ性皮膚炎を生じている症例のほとんどの患者が、ベースの病気として慢性的なアレルギー性接触性皮膚炎、アトピー性皮膚炎、脂漏性皮膚炎を保有しています。この様な病気の治療としてステロイド剤を使用していますが、ステロイド剤は非常に依存性が高く、同じ物では作用しなくなっていきます。
そこで使用する薬の作用は徐々に強い物を使用することで効果が得られるようになります。効果が得られたところで一度中止し、皮膚症状が見られたらまたグレードの高いステロイド剤を使用するといった、ステロイド剤の中止と再開を繰り返す治療を行います。この間に、合併症として酒さ性皮膚炎を発症する患者がほとんどであると言われています。
酒さ様皮膚炎の治療は長期間の治療が必要となり、ほとんどの場合、症状の軽快を図るのに数カ月かかることがあります。では、このような状態で一体どのように治療を進めていくと酒皶性皮膚炎を治すことができるのかを説明していきます。
ステロイド剤の使用を中止する
酒さ性皮膚炎がステロイド酒皶と呼ばれる所以は、治療方法にステロイド剤の中止が挙げられることからきています。ステロイド剤は非常に強力な効果が得られるもので、免疫抑制の作用や抗炎症作用などがあり、自己免疫疾患などには多く使用されます。
しかし、これを長期間利用し続けることで、逆に自己免疫が低下してしまい、酒さ様皮膚炎の症状に見られるような皮膚の萎縮、毛細血管拡張症やニキビ様の湿疹が出現していきます。
以上のことより、酒さ性皮膚炎と診断された際は、ほとんどの場合、ステロイド剤の使用が中止されることが基本とされます。ステロイド剤の使用を中止することで、著名な離脱症状が出現し、一時的に症状の憎悪を認められることがあります。
もちろん、これまで使用してきたステロイド剤によって皮膚疾患の症状を抑制してきたにも関わらず、酒さ皮膚炎の症状を落ち着かせるために薬の使用を止めてしまうわけなので、元の皮膚疾患の炎症が進行して過度の炎症が生じることは止むを得ません。過度の炎症に加え、ほてりも強くなり、灼熱間を身体に与えるため、精神的なストレスが増えます。それでもステロイド剤は中止しなければなりません。
これらの離脱症状は治療の経過の一部です。最初の治療の目標として、この離脱症状を乗り越えることが挙げられます。これを脱した後に治癒されていきますので、耐えどころになります。
ステロイド剤の使用を減らす
上記での述べたように、ステロイド剤を中止することで強い副作用にみまわれるのですが、医師によっては、ステロイド剤の中止をしない場合もあります。
この場合、使用するステロイド剤のグレードを効果が弱い物へと徐々に落としていきつつ、最終的にはステロイド剤の使用を止めるという方法をとります。いきなりステロイド剤を止めることよりも、副作用が抑えられ、身体的ストレス・精神的ストレスが少なくなります。徐々に抑えていくわけなので、一気にステロイド剤を中止する方法よりも長期的に時間がかかります。
また、現時点でどういった強さのステロイド剤を使用していて、皮膚病変がどういった状態なのかによって、今後どのような強さのステロイド剤を使用するのか、どれくらいの期間使用するかを判断しなければなりません。これも医師の診断が必要であり、自己判断によって少しでも方法を変えてしまうと症状が悪化する可能性があります。
とても根気のいる治療になりますので、自身の性格も加えて医師と相談する必要があるでしょう。どちらのメリットとデメリットをとるか、自身を過信しないようにして医師と相談していきましょう。
ステロイド剤の内服薬
酒さ様皮膚炎の症状が顕著である場合、上記の対処法以外にステロイド剤を内服するという方法もあります。本来では、ステロイド剤の副作用が原因で酒さ様皮膚炎を発症するので中止する必要があると言われていますが、ここで言うステロイド剤の内服は体内に服用する物なので、塗り薬とは異なります。この方法も、一度にステロイド剤の使用するのを中止するわけではなく、ステロイド剤の使用を徐々に減らしていくという治療方法の一つになります。
この方法も、どれくらいの量をどれくらいの頻度で、どれくらいの期間服用するか、医師の判断が必要です。経過を観察しつつ用量・用法が異なることがあります。決して、自己判断で服用方法を左右させるようなことはしないようにしましょう。
抗生物質の服用
これまでの記述で解るように、ステロイド剤の中止により症状が一時的に悪化する事がわかっています。この症状の悪化を緩和させ、炎症を抑制するために抗生剤が使用されます。抗生剤は、主にテトラサイクリン系または、マクロライド系の物が処方されます。
この抗生物質を服用することで細菌が成長する作用を阻害し、ニキビの原因となるアクネ菌を殺菌することができます。こういった細菌の殺菌効果は期待でき、化膿(かのう/ウミの発症)を抑制する作用もあるので、ニキビ状のブツブツとした膿疱や丘疹の治療には適しています。ここで使用される抗生物質の代表的な物にはミノマイシンやビブラマイシンが挙げられ、テトラサイクリン系の抗生物質になります。
これらの抗生物質は副作用が非常に強力なため、酒さ皮膚炎の症状が顕著な時期に一時的に用いられます。長期的な服用は困難であり、抗生物質も様々なものがあるので、服用の際は副作用を確認しながら自身の状態も診てもらい、医師とよく相談すると良いでしょう。
その他の外用薬
10%亜鉛華単軟膏、白色ワセリンなどが使用されます。これを根気に利用していきます。とても忍耐力のいる治療になります。
治療を継続しても赤みや痒みが強く、なかなか消失していかない場合には、タクロリムス軟膏が処方されます。これは、ステロイド剤と同様でタクロリムス軟膏により酒さ様皮膚炎を生じたケースで用いられます。処方の仕方、経過観察の仕方がステロイド剤を処方した際と同様と言えます。タクロリムス軟膏の使用の際も長期間の経過観察が必要になります。
その他、イオウカンフルローションも処方されることがありますが、副作用として強い肌の乾燥が引き起こされやすいです。以上の外用薬は保険が適応されますが、中には保険が適応されないものもあります。処方の際には医師としっかり相談して決めましょう。
ちなみに、灼熱感がある場合には、うちわ等であおいだり、冷却材等で軽く冷やすだけでも症状が軽減される可能性があります。
ビタミン剤の使用
後にも述べますが、薬以外にもビタミンを多く取り入れることで治癒を早めることができます。ビタミンも多く種類がありますが、酒さ様皮膚炎に必要なビタミンはビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンCになります。
中でも特に、ビタミンB群が多く処方されます。その理由には、皮膚の再生を促進することでニキビ様症状を緩和させることが挙げられます。また、ビタミンB群が不足すると口唇炎や湿疹、発疹、その他いわゆる口内炎などといった皮膚病変を発症し易くなり、これらの症状を防止・緩和させるために処方されることが多いです。
ビタミンCは抗酸化作用(肌が酸化して錆びていくことを防ぐ)、消炎作用(肌の炎症トラブルを抑える)や皮脂抑制作用(脂の過剰産生によるニキビの発症を抑制・緩和させる)の効果が得られるため、処方されます。これらを併用することで相乗効果が得られ治癒を早めることができる可能性があります。
漢方薬
漢方薬は様々な物があり、効果が得られるまでに長期間の服用が必要になります。他の薬と同様に、その人その人の身体に合う・合わないがあり、いくつかの漢方薬を長期的に服用して劇的に効果が得られる場合と、全く効果が得られずに終わってしまう場合があります。
基礎的な外用薬の服用で全く効果を得られずとも漢方薬で治癒することができたというケースもあるため、一度試してみるのは良いかと思います。漢方薬は、よく「身体に良い」、「副作用がない」だからいくら飲んでも良いというった話も聞きますが、実際のところ薬と同じなので飲み過ぎて身体に良いというわけではありません。
エステ等にも漢方薬があり、エステティシャンによく勧められるようなことがあるかもしれませんが、エステティシャンがもつ医学的・美的知識は医師には及びません。漢方薬の服用を検討している場合は、医師とよく相談してから、医師に処方してもらい経過を観察していきましょう。
日常生活で注意をすること
治療に当たって薬の服用はもちろん大切なことです。しかし、薬の治療だけではなく、ベースとなる身体つくりや生活サイクルの見直し、食生活の見直しも行わなければ本当の治癒は難しいでしょう。
これから述べる事にも留意をして治療を行っていきましょう。
生活サイクルの見直し
どれだけ他の事に気を付けていても、生活のサイクルが乱れていては身体面と精神面の健康は調和をとれません。まず、規則正しいい生活を送り、十分な栄養摂取、十分な睡眠をとり、身体的・精神的なストレスを抱えないようにする必要があります。
ストレスによって自己免疫能力が低下して症状が悪化するだけではなく、他の症状も発症してしまう可能性がでてきてしまいます。何か手ほどきをする前に生活のサイクルを見直してみましょう。
洗顔
洗顔時に使用する石鹸は、医師と相談して決めることが最善です。市販の物で特に安い物は刺激が強いものが多いため、避けた方が良いでしょう。
顔を刺激しないように、洗顔の際には清潔なタオルで優しく触れるように拭きましょう。力を入れてゴシゴシ擦るなどをしないことがポイントです。タオルの素材も軟らかい物を選び、古くなってガサガサするような物は使用しないようにしましょう。
屋内の温度調整に注意
浴室は熱気で暑くなるので、長時間の入浴は避けた方が良いです。暖房が過剰に効いている室内も要注意です。温度の高い場所にいることで血流が促され過ぎてしまい、皮膚の赤みが悪化する可能性があります。
そうは言っても、極端に冷えすぎる場所は身体の代謝性を不安定にさせて自己免疫能力を低下させることもあり、これも症状を悪化させる原因になるため、適温を保つようにしましょう。目安は約26~28℃が良いです。
食生活に注意
刺激物、特に強い辛みのある食べ物は避けましょう。香辛料は特に身体に刺激となり、自己免疫能力を低下させる可能性が高くなります。例えば、唐辛子や七味、カラシやワサビ、コショウ等です。これらを避けるだけで自己免疫能力を維持し易くなります。
摂取すると良いものは、ビタミン、特にビタミンB2、ビタミンB6や繊維物が多く含まれている野菜を摂取して糖分を避けた物を摂取すると良いでしょう。
アルコールと喫煙は避けましょう
アルコールを摂取することや喫煙をすることで、血管が拡張され血流の循環も過剰に亢進されます。これにより、皮膚の赤みやほてりを進行させる可能性があります。また、これらも内臓機能へ作用し悪影響を与えるため、それにより自己免疫を低下させることになります。すると、皮膚症状も進行しやすくなります。また、内服をしている場合に喫煙やアルコール摂取をすると相乗効果により薬が強く効くこともあり、症状が悪化するだけでなく死に至る可能性があるため、用心しましょう。
喫煙に限っては、能動的に喫煙する(自身の口で直接喫煙をする)ことを避けるのはもちろん、受動的に喫煙(自身は喫煙していないが自身の周りで喫煙している人がおり、その煙を吸ってしまう状態)をすると、結果喫煙していることと同じになるため、周囲に注意をしましょう。
紫外線に注意
なぜ、紫外線にも注意が必要なのか、皮膚が紫外線を吸収することでこれも自己免疫を低下させてしまうからです。なるべく、日焼け止めを使用するか、日傘を使用したり、長袖の着用やアームウォームなど症状が悪化しないような対処をしていきましょう。特に梅雨の時期や天気が曇っている日は紫外線がキツイと言われているため、注意が必要です。
なお、皮膚だけではなく、眼球からも紫外線は吸収されます。皮膚を覆っているから大丈夫、というわけではありません。外出時にはUVカット機能付きのサングラスを着用することをお勧めします。
まとめ
酒さ様皮膚炎は一般の人からではアトピー性皮膚炎や酒皶など他の疾患との鑑別は難しいかと思います。他の病気と間違えて自己判断で治療をしてしまったり、市販の薬を買って間違えた対処をしてしまわないように、早めに医師に診てもらうようにしましょう。
早めの対処を!と言って早まって自己判断で間違った対処法をとってしまうと更に治癒に時間がかかってしまう可能性があるため気を付けましょう。