脂漏性角化症を多発している人にがんの罹患率が高いと言われています。脂漏性角化症自体は良性の皮膚腫瘍ですが、脂漏性角化症になりやすい方は悪性腫瘍が生じやすい体質を持っているのです。
今回の記事では、この脂漏性角化症の発症メカニズムと治療法についてご紹介していきます。
脂漏性角化症の発症メカニズム
脂漏性角化症って?
脂漏性角化症は老人性疣贅(ゆうぜい)や年寄りイボとよばれることもある皮膚の老化現象のひとつです。老化現象なので一般的には高齢になるほど脂漏性角化症になる可能性があります。
ただし、もちろん発症の具合には個人差があるため、早ければ30歳代から顔や手の甲に発症することもあるようです。それらの部位は主に慢性的に日光を浴びるため皮膚の老化が促進され、脂漏性角化症になるのだと考えられています。そのため、たとえ20歳過ぎくらいの若い人であっても、海水浴などで強い日焼けをした後、背中や肩に脂漏性角化症の症状が出る場合もあります。いずれの場合にしても、光老化とよばれる症状に分類されます。
脂漏性角化症でできるイボ(皮疹)は小さな米粒ほどの大きさから大きいものではソラマメほどにまでなるそうで、患者さんによってさまざまです。皮疹の表面はざらざらしているのが特徴です。角化した細胞(角化細胞)はときどき上に重なるようにして増殖します。そのようなものはボタンをくっつけたようにみえます。笹の葉模様の皮疹が体幹に多くできるようになると、内臓に悪性腫瘍ができている可能性があり、危険な兆候です。
また、脂漏性角化症を多発している人に前がん症の罹患率が高いことが統計的にわかっています。前がんというのは、現在はがんができてはいないけれど、放置しておくとがんができる可能性が高いと考えられる状態のことをいいます。そのため、脂漏性角化症は症状としては良性であるものの、脂漏性角化症になりやすい人は悪性腫瘍が生じやすい体質をしている可能性が高いといわれています。
皮膚の老化について
太陽光線と皮膚へのダメージ
脂漏性角化症の中でも発症が早い場合は光老化に分類されます。皮膚の老化には内的要因と外的要因があり、光老化は外的な要因による皮膚の老化の一種です。ここで皮膚の老化のメカニズムについてご説明しましょう。
皮膚はだいたい思春期に成長ホルモンと性ホルモンの分泌に相関しながらもっともよく成長します。そして、それらのホルモンの分泌量が十分に維持されている間は皮膚も若々しくいることができます。たとえば、エッチをした翌日は肌がツルツルになったりしますよね。それはエッチをすることで女性ホルモンが活発に分泌されているからなんですね。
しかし、ホルモンの分泌量が少なくなると皮膚を若く保つことは難しく、どんどん老化していきます。そのため、一般的に、老化の原因は外的環境因子(市外線、温度や湿度など)より内的因子(代謝に伴う活性酸素)などが主であり、基本的には遺伝子によって制御されていると考えられます。
ただし、小児期から太陽の紫外線を浴び続けていると、20歳を過ぎたころから顔の皮膚にしみなどの老化症状が出始めます。このような変化は特に光老化とよばれ、あまり太陽光線を浴びない皮膚の経年的老化と区別されることが多いです。光老化は顔面にもっとも顕著に現れる生活習慣病であるため、多くの人が関心を持っており、誰もが他人事ではない現象です。
光老化とは?
特に太陽光に含まれる紫外線は皮膚細胞の遺伝子に直接あるいは活性酸素を介して間接的に損傷を与えます。
遺伝子の損傷は遺伝子の変異を誘発し、皮膚の老化を促進させます。顔や手の甲、二の腕などの皮膚細胞では、小児期から浴び続けてきた太陽紫外線によってさまざまな遺伝子に変異が生じるのが普通です。そのため、服などで覆われている皮膚と比べ、比較的若い頃からしみや良性の腫瘍、さらには悪性の腫瘍が生じる可能性があります。
太陽による紫外線で私たちの体がダメージをうける一般的な例は日焼けです。紫外線による皮膚の急性反応である日焼けには二種類あります。太陽光を浴びた皮膚が数時間後から赤くなる紅斑反応(サンバーン、sunburn)と数日後から始まる褐色の色素沈着(サンタン、suntan)です。海水浴に行って、帰宅後にシャワーを浴びるとお湯が染みるときがsunburnで、夏休みが終わるとクラスの男の子がだいたい真っ黒になっているのがsuntanです。
Sunburnもsuntanも遺伝子が紫外線によってダメージを受けることが引金になります。また、浴びた紫外線量が同じでも、色白で、sunburnによって赤くなりやすい人は、色黒で日焼けあとがわかりにくい人に比べると3~5倍も多くの傷が皮膚細胞のDNAに生じています。
よくオーストラリア上空でオゾンホールが発生し大量の紫外線が降り注いでいる、という話を聞きますよね。それでオーストラリアの子供たちは外へ出掛けるときには日焼け止めを塗って、サングラスをかけている、と。それは当たり前で、オーストラリア人の、特に白人の肌は太陽の紫外線によって他の人種よりも大きいダメージを受けて皮膚疾患になるリスクが高いのです。
ただし、DNAの傷を効率よく修理するとsunburnは起きにくくなります。そのため若くてぴちぴちした肌は多少傷ついてもすぐに再生し、跡も残りません。しかし、色素性乾皮症などの患者さんは健康な人が日焼けする紫外線の5分の1以下の紫外線量でもsunburnが生じてしまいます。
紫外線がDNAを傷つける
太陽光線に含まれる紫外線のなかでもとくにUVBは遺伝情報を含むDNAに独特の傷をつけます。
たとえば、真夏の昼間に外へ出て日光を浴びるとしましょう。1時間太陽紫外線を浴びると、表皮の上層では1個の細胞の全ゲノムあたり約100万個、表皮の最下層に位置する基底層細胞でも約10万個もの傷ができてしまうのです。
もちろん、すべての体細胞は自分が受けた傷をすべて元通りに修復するためのDNA修復機構を備えています。そのため紫外線を浴びて傷ができてもそれをただちに修復しはじめます。ただし、ダメージを受けたDNAのうち約半分を修復するのに数時間から24時間程度の時間がかかります。
光老化は長年にわたって日光にさらされ続けた皮膚にみられる症状です。一般的に、加齢による老化とは質的にも別物とされています。漁師や農家など若い時から毎日のように太陽紫外線を浴び続けた人の顔や首の皮膚には深いしわが刻まれ、
また、表皮は厚くなりやや黄色っぽくなります。これは典型的な光老化皮膚といわれます。光老化については緯度の違いにも影響を受けるというデータがあります。これは緯度が低いほど紫外線に含まれる年間UVB量が多くなることと関係していると考えられます。
脂漏性角化症の治療法
脂漏性角化症は太陽の下で汗水たらして働いてきた漁師や農家の皆さんに多くみられる症状であり、そのような人々に発生した、悪性腫瘍のリスクを高めかねない脂漏性角化症を野放しにはできません。脂漏性角化症にはどのような治療法が効果的なのでしょうか?
薬用治療とレーザー治療
主な治療方法にはレーザー治療と凍結療法、薬用治療があります。脂漏性角化症には色素沈着がみられることがままあります。その場合、しみと診断されることがあります。この両者の鑑別には隆起の有無が重要となります。
隆起があまり目立たないものであれば、しみ、隆起が比較的大きいと認められる場合は角化症と診断されるようです。脂漏性角化症に対する薬用治療としては、ケミカルピーリングやレチノイドの外用があります。
これにより、脂漏性角化症の角化した皮膚の表面を削り取ることができます。レーザー治療の場合は、対象となる疣贅の厚さに応じてレーザー照射を繰り返す必要があります。厚みのある疣贅の場合、ロングパルスレーザーの方が治療回数を少なくすることができます。
液体窒素による凍結療法
局所組織に超低温を作用させ、その組織を破壊することを目的とした治療法をクライオセラピーといい、日本語では凍結療法あるいは冷凍凝固療法といいます。皮膚科では昔からドライアイス(雪状炭酸、-79度)を用いた雪状炭酸圧抵法が行われてきました。最近ではより簡便で適応範囲の広い液体窒素(-196度)を使用する方法が一般的になっています。
原理としては、組織を凍結壊死させるためには、組織を―20~-40度の低温にまで温度を下げる必要があります。このとき、急速な冷凍とゆっくりとした解凍が効率的な壊死のために重要です。このような凍結・融解のプロセスを3回以上繰り返すと、より完全に組織を壊死させることが可能です。
皮膚に液体窒素をあてるとチリチリとした痛みを感じますが我慢できないほどではありません。そのため、通常は麻酔を使わずに実施されます。術後は軽いやけどと同じ状態になるので、当日はひりひりとした痛みが続きます。しかし、翌日には痛みも引いています。大きな疣贅を治療した場合は数日間痛みが続くこともあるようです。
その場合には鎮痛剤が処方されます。実際の治療は液体窒素を浸した綿球を疣贅の頂点に接触させることで行われます。疣贅の周囲1,2mmまでが白く凍結したら綿球を話、自然に解凍するのを待ちます。この凍結・融解のサイクルを2,3回繰り返します。小さい疣贅は一回の治療でとれることがしばしばあります。ただ、複数回の治療が必要なケースが多いです。
脂漏性角化症による疣贅は通常の疣贅よりも治療に対する反応がよいので、治療回数は少なくてもすむことが多いです。だいたい1cm以下の脂漏性角化症であれば、1,2回の治療ですべてとってしまうことが可能です。