モノを噛むと、飛び上がるほど痛い!歯から歯茎が、ズキズキ痛い!死ぬほど痛い!・・・こんな経験をしたことはありませんか?もちろん、経験したくなんかありませんよね。このガマンできない歯の痛みは、「根尖性歯周炎(こんせんせいししゅうえん)」かもしれません。
根尖性歯周炎は、虫歯(齲歯=うし)から生じる歯の疾患です。細菌感染が歯根膜を越えて歯槽骨まで広がると、根尖性歯周炎となります。根尖性歯周炎が進行すると、副鼻腔や顎(あご)の骨、手足にまで症状が出ることがあります。
しかも、慢性根尖性歯周炎は痛みがありませんから、知らないうちに病状が悪化してしまうことがあります。激痛が生じる急性根尖性歯周炎より、ずっと恐ろしいですね。
根尖性歯周炎の原因や症状、治療について、お伝えしますね。
根尖性歯周炎とは?
根尖性歯周炎とは、細菌感染が歯の根尖部にまで浸透し、歯根膜を越えて歯槽骨(しそうこつ)にまで達して、炎症を起こすことです。虫歯(齲歯・齲蝕=うしょく)から生じる歯の疾患です。歯槽骨とは、顎の骨で、歯を支えている部分のことです。
炎症が歯根膜まで広がると「歯根膜炎」、歯槽骨が溶かされ、歯の根の先に膿の袋ができると、「根尖病巣(こんせんびょうそう)」または「歯根嚢胞(しこんのうほう)」といいます。
[虫歯が進行すると根尖性歯周炎になる]
虫歯は、口の中に常在する細菌に感染して、歯質が脱灰して(やわらかくなって)、歯の実質が欠損することです。虫歯が進行すると、細菌感染は歯髄にまで広がります。歯髄には、歯の神経や血管が含まれています。細菌感染により歯髄に炎症が起こることを、「歯髄炎(しずいえん)」といいます。
歯髄炎が進行すると、歯髄が死んでしまいます。中に含まれている神経や血管も死んでしまいます。これを「歯髄壊死」といいます。
歯の血管が死ぬと、血液が流れなくなります。血流が絶えると、免疫機能を担っている白血球が働かなくなります。歯の根の中で細菌が繁殖しても、硬い歯の組織に囲まれている上に白血球が働かないので、細菌を歯の根の外に排出することができません。
細菌は、歯髄腔から歯の根の中で繁殖します。細菌や細菌の産生する毒素が歯根の先から歯根膜・歯槽骨にまで到達して、歯の根の周囲の組織に炎症を起こすのです。これが、「根尖性歯周炎」です。
[根尖性歯周炎の原因]
根尖性歯周炎は虫歯から生じる疾患ですが、直接の原因としては、虫歯の放置だけでなく、他にもあります。
➀虫歯の放置
根尖性歯周炎の主な原因は、虫歯を治療せずに放置することです。
虫歯は口中常在菌による感染症といえます。口中常在菌が糖質から産生する酸が歯を溶かして(脱灰して)、歯に穴を開ける(歯の実質欠損を起こす)のです。口中常在菌の中でも、ミュータンス菌(ストレプトコッカス・ミュータンス)が、虫歯菌として知られています。
細菌が歯の表面(エナメル質)から歯髄に達すると、冷たい物がしみたり、歯が痛んだりします。そのうち、熱い物や甘い物がしみるようになります。痛みも強くなります。
虫歯が進行して、歯の神経が死ぬと、痛みを感じなくなります。でも、細菌感染は止まりません。細菌は歯髄腔の中で繁殖し、細菌と細菌が産生する毒素が歯根膜を越えて歯槽骨にまで到達します。この細菌や毒素が歯根の周囲の組織に炎症を起こし、根尖性歯周炎が発症します。
②進行した虫歯の治療
歯医者さんは、虫歯治療をする時、できるだけ歯の神経を残そうとします。しかし、虫歯が進行していると、歯の神経を取らなければなります。
歯の神経を取った後に、歯髄腔に細菌が残ることがあります。細菌が歯髄腔で繁殖し、歯根膜から歯槽骨にまで達し、根尖性歯周炎を発症することがあります。つまり、治療済みの虫歯にも、根尖性歯周炎が発症することがあるのです。
また、歯髄炎を起こしている虫歯治療を途中で止めたり、治療の間を空けたりすると、細菌が繁殖して、根尖性歯周炎を起こすことがあります。
③歯をぶつけたり、歯が割れたりして、歯髄が損傷する
前歯を強くぶつけたりすると、衝撃で歯の神経や血管が切断されて死ぬことがあります。歯髄が損傷されると、歯に血液が流れなくなるので、新陳代謝ができません。古い組織が残って、黒く変色してしまいます。
血流が絶えるので、免疫機能を担う白血球が働かなくなり、細菌が繁殖しやすくなります。歯の根の先端やその周囲にまで細菌感染が広がり、根尖性歯周炎を引き起こします。
歯が割れると、その亀裂から細菌が侵入することがあります。細菌感染により、歯の神経や血管が死んで、細菌が増殖し、根尖性歯周炎を起こすことがあります。
④不適切な根管治療
虫歯が進行すると、歯の神経を抜くことがあります。歯の神経を抜いた後は、「根管治療」という、歯の根の中の消毒を行います。
「根管治療」とは、歯の根っこをきれいにする治療です。虫歯が歯髄や根管にまで達すると、その中に入っている神経が死んでしまいます。ダメになってしまった神経を根管の中から取り除き、歯の根の中を掃除して、消毒します。歯の根の神経が通っている管を「根管」といいます。
歯の根の中は複雑になっていて、100%消毒するのは大変難しく、根管治療の成功率は80%と言われています。根管治療が不適切で、細菌が歯の根の中に残ると、繁殖して、根尖性歯周炎を起こします。
根尖性歯周炎の種類と症状
根尖性歯周炎は、急性と慢性の2つに大別されます。症状も、急性と慢性では異なります。
[根尖性歯周炎の種類]
根尖性歯周炎は、大きく急性と慢性に分けられます。急性と慢性も、さらに細かく分けることができます。
急性根尖性歯周炎
急性根尖性歯周炎は、急性単純性根尖性歯周炎と急性化膿性根尖性歯周炎に分けられます。
(急性化膿性根尖性歯周炎)
「急性歯槽膿瘍(きゅうせいしそうのうよう)」とも呼ばれます。ガマンできないほどの激痛が生じるのは、急性化膿性根尖性歯周炎です。
虫歯が進行して細菌感染が歯槽骨にまで達したことが原因です。また、不適切な虫歯の根管治療が原因になることがあります。
炎症が、歯根膜から歯槽骨内、骨膜下、粘膜下にまで広がります。慢性化することもありますので、早期に治療する必要があります。
(急性単純性根尖性歯周炎)
細菌感染や機械的刺激・化学的刺激が原因です。機械的刺激と化学的刺激は、虫歯など歯の治療による刺激です。不適切な歯の治療によって起こることが多いようです。
痛みなども軽く、症状はあまりありません。
慢性根尖性歯周炎
急性根尖性歯周炎が慢性化したものです。ほとんど症状はありませんが、突然、急性化して激痛や腫れが生じることがあります。
(慢性化膿性根尖性歯周炎)
急性化膿性根尖性歯周炎が慢性化したものです。痛みはほとんどありません。物を噛んだり、歯を叩いたりすると軽い痛みを感じる程度です。
進行すると、歯根肉芽腫・根尖病巣(歯根嚢胞)を発症します。
(慢性単純性根尖性歯周炎)
急性単純性根尖性歯周炎が慢性化したものですが、長期に機械的刺激を受け続けたことが原因になります。歯医者さんの不適切な根管治療が原因なのです。
歯の噛み合わせに違和感があるくらいで、自覚症状はほとんどありません。
進行すると、根尖部周囲に硬化性骨炎が起こることがあります。
[根尖性歯周炎の症状]
症状のほとんどが、急性化膿性根尖性歯周炎で生じるものです。
慢性根尖性歯周炎は、ほとんど自覚症状がないので、歯医者さんのレントゲン検査で見つかることが多くなります。
➀激痛
「痛い!」とか「激しい痛み」なんてものではありません。ズキズキ、ジンジンして、顔中痛く感じます。何か考えることなど、とてもできません。「出産より痛い」という女性もいます。
この激しい痛みが、急性根尖性歯周炎の第一の特徴です。虫歯の歯髄炎の何倍も痛みます。夜もろくろく眠れないので、歯医者さんに来た時はげっそりやつれていることが多いそうです。
②噛むと痛い
物を噛んだり、歯をスプーンで叩いたりすると、飛び上がるほどの痛みを感じます。物を噛んだ時の痛みを「咬合痛(こうごうつう)」といいます。
細菌感染が歯の根尖から歯の周囲組織にまで広がり、歯根膜に炎症が生じます。歯根膜炎が起きると、噛んだ時に痛みが出ます。それは、歯根膜で、噛んだ物の柔らかさや硬さを感じ取るからです。
[根尖性歯周炎が進行して起こる病気と症状]
歯根肉芽腫(しこんにくげしゅ)
虫歯が進行して歯髄の神経や血管が死ぬと、歯の根尖周囲に炎症が起き、膿が溜まります。この慢性的な炎症刺激により、歯根の先端にオデキのようなものができます。これが、歯根肉芽腫です。
根管治療が不適切に行われたり、歯根が割れてしまったりして、歯根肉芽腫ができることがあります。
歯根肉芽腫は、レントゲンに黒く写ります。自覚症状は、ほとんどありません。放置しておくと、急に激しく痛みだすことがあります。隣の健康な歯にも悪影響を及ぼします。
歯根肉芽腫から根尖病巣(歯根嚢胞)に移行することが多いようです。
根尖病巣(こんせんびょうそう)
「歯根嚢胞(しこんのうほう)」ともいいます。
虫歯が進行したり、虫歯の治療が不適切だったり、途中で治療を止めたりすると、歯の根の中で細菌が増殖し、歯根膜から歯槽骨まで細菌感染が広がります。細菌や細菌が産生する毒素が骨を溶かし、歯根の先に膿の袋のようなものができます。これを「根尖病巣」「歯根嚢胞」といいます。
根尖病巣は、歯根肉芽腫から移行することが多いのですが、ほとんど自覚症状もなく、いつの間にか病状が進みます。レントゲンでは、歯根の先に黒い丸い部分が写ります。
(根尖病巣の症状)
1, 歯茎が腫れて痛む。
根尖病巣に膿が溜まると、歯根の先の歯茎が赤や黄色に腫れて、痛みます。大きく腫れるほど、痛みが強くなります。
時には、顔の形が変わるほど腫れたり、口が開かなくなったりします。
2, 歯茎に膿が出る穴(フィステル)ができる
根尖病巣に膿が溜まると、その膿を出す穴が歯茎にできます。膿が出て行くので、痛みや腫れがなくなります。でも、膿が口の中に広がり、口中ネバネバして、口臭が強くなります。
膿の出る穴(フィステル)は、できたり、治ったりをくり返します。
3, 歯槽骨が溶けて、歯がグラグラになる
根尖病巣が大きくなると、歯を支えている歯槽骨を溶かします。支えてくれる骨がなくなるので、歯がグラグラします。隣の歯までグラグラすることがあります。
硬化性骨炎
歯髄腔から根尖周囲の組織に慢性的な細菌刺激が加わると、歯槽骨内に炎症が生じます。骨梁が増して、レントゲン写真に、歯槽骨内の不透過像として写るようになります。これが、硬化性骨炎です。
下顎の大臼歯に発症することが多いようです。特に痛みなどの症状もなく、通常は治療を必要としないそうです。
[さらに進行すると・・・]
根尖性歯周炎が進行すると、思いがけない病気を引き起こします。
副鼻腔炎
上顎の根尖性歯周炎が進行すると、副鼻腔が細菌感染を起こし、副鼻腔炎を発症することがあります。
歯痛・頭痛・鼻づまり・口臭などが生じます。副鼻腔炎については、副鼻腔炎って自然治癒するの?種類や原因を知ろう!を参考にしてください!
骨髄炎
下顎の根尖性歯周炎が進行すると、骨髄炎になることがあります。通常は、免疫機能が働き、細菌感染が骨髄まで及ばないようにしていますが、免疫力が低下すると、骨髄炎を発症することがあります。
激しい痛みとともに、悪寒がして、高熱を発します。全身に強い倦怠感があります。すぐに入院して治療を受ける必要があります。
細菌が血液に入って、全身を巡る
根尖性歯周炎が進行して、細菌が血液中に侵入すると、血流に乗って全身を巡ります。
アレルギー反応が起きて、手足に湿疹ができます。「掌蹠膿疱症(しょうせきのうほうしょう)」です。
また、血液が感染を起こすと、敗血症を発症して、死に至ることもあります。
根尖性歯周炎の治療と予防
根尖性歯周炎の治療は、まず痛みや腫れを鎮静化して、落ち着いたところで、根本的な治療を行うことになります。
虫歯にならないこと・虫歯を進行させないことが、根尖性歯周炎の何よりの予防です。
[根尖性歯周炎の治療]
急性根尖性歯周炎の鎮静化
激痛や腫れを起こしている根尖周囲に溜まっている膿を排出します。多くの場合、歯茎を切開して膿を出します。麻酔をしますが、化膿していると、麻酔が効かないこともあります。一瞬ですが、とてつもなく痛いです。同時に、抗生物質と抗炎症剤・鎮静剤を投与します。
膿を排出すると、痛みも腫れも収まります。症状が落ち着いたところで、根本治療をします。
根尖性歯周炎の根本治療
根尖性歯周炎の根本的な治療法は、根管治療です。歯髄腔や根管の中の死んでしまった神経や血管を取り除き、歯の根の中をきれいにして消毒します。根管治療は、「細菌を再感染させないこと」が第一目的です。
➀細菌感染している歯の部分を完全に削り取る
虫歯菌など細菌に感染している部分を全部削り取って、歯の健康な部分だけを残します。
②ラバーダムをして、唾液の細菌を防ぐ
唾液には多くの細菌が常在しています。唾液が歯の根の中に入ると、感染が悪化します。ラバーダムというゴムのシートのようなものを治療中の歯に着けます。
③細い針金で歯の根の中をきれいにする
ファイルという細い針金で、歯の根の中の細菌感染部分をきれいに削り取ります。歯の根の中は複雑な形なので、難しい治療です。何回か繰り返して行います。
④歯の根の中に薬を詰めて、再感染を防ぐ
歯の根の中がきれいになったら、薬を詰めて細菌の再感染を防ぎます。最近では、歯の根の先を再生させる薬もあります。
⑤劣化の少ない被せ物をする
根管治療をした歯は割れやすくなっています。割れてしまうと、抜歯することになるので、セラミックのような劣化の少ない被せ物をします。これで、再び、歯の役割を果たせるようになります。
根尖性歯周炎が長期化・重症化した場合の治療
歯の根が複雑すぎる形をしていたり、根尖性歯周炎が長期化したり、重症化したりしていると、根管治療では症状を改善できないことがあります。
「歯根先端切除術」を行ことがあります。歯茎を切開して、歯の根の先端を切除して溜まっている膿を出します。
虫歯がどうしようもないほど進行していると、抜歯する以外治療法がないことがあります。
治療費用
根管治療は保険が適用できます。ただし、歯医者さんによっては、保険診療を行わないことがありますので、事前に電話などで確認するといいですね。
[根尖性歯周炎の予防]
できるだけ口の中を清潔にします。
虫歯予防が根尖性歯周炎の第一の予防策ですから、歯磨きを丁寧にしたり、フッ素配合の歯磨き剤などを使うようにします。
定期的に歯医者さんで健康診断を受けることも、オススメです。事故などで口元をぶつけたりして、歯に強い衝撃を受けた時は、必ず歯医者さんで被害の有無を確かめます。
何よりも、信頼できる、腕のいい歯医者さんを確保しておくことが大事ですね。
まとめ 虫歯を放置すると根尖性歯周炎になります
根尖性歯周炎の主な原因は、虫歯です。虫歯が進行して歯髄に達し、歯髄炎を起こすと、歯の神経や血管が死んでしまいます。歯髄が死ぬと、細菌はますます増殖します。細菌感染が、歯の根尖から歯根膜を越えて歯槽骨にまで到達すると、根尖性歯周炎が発症します。
根尖性歯周炎は、治療済みの虫歯にも発症します。不適切な根管治療を受けたり、虫歯治療をいい加減にしたりすると、根尖性歯周炎が発症することがあります。
根尖性歯周炎は、進行すると、恐ろしい病気を引き起こすことになります。
根尖性歯周炎が進行すると、根尖病巣に移行し、さらに副鼻腔炎や骨髄炎を引き起こします。細菌が血液に侵入して、血液が感染すると、敗血症を発症して死に至ることもあります。
「たかが虫歯」と軽く見ることはできません。「虫歯で死ぬ」こともあるのです。
急性根尖性歯周炎は、ガマンできないほどの激痛を生じ、物を噛むと、飛び上がるほどの痛みがあります。でも、慢性化してしまうと、痛みがなくなります。自覚症状のないまま、病気が進行します。根尖病巣に移行して、急に歯茎が腫れて、激しく痛みだすようになります。むしろ、痛みのない慢性根尖性歯周炎の方が恐ろしいですね。
虫歯の痛みは、歯のSOSです。「これ以上悪化しないうちに治療してくれ」という叫びです。根尖性歯周炎にならないためには、ちょっとでも冷たい物がしみたり、歯が痛んだりしたら、すぐに歯医者さんに行くことをオススメします。
でも、初期の虫歯や、神経を除去した治療済みの虫歯には、痛みがありません。定期的に歯医者さんで健康診断を受けて、根尖性歯周炎を予防してくださいね。
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