私たちの身の回りには、非常に数多くのウイルスや細菌がいます。そして、疲れやストレスなどで、身体の免疫力・抵抗力が落ちると、それらに感染し、様々な症状を招くのです。身近な疾患と言うべき風邪は、まさにわかりやすい例かもしれません。
しかし、そのほかにももちろんウイルスは存在します。滅多に見られないウイルスもいれば、風邪ウイルスのように、どこにでもいて、誰でも感染する可能性のあるものもいるでしょう。
そのうちの後者にあたるのが、今回のテーマになっている「伝染性単核球症」と呼ばれる感染症の原因となるウイルスです。これは子供から大人まで、誰でもかかる可能性のある感染症です。
そこで、ここでは、伝染性単核球症についての原因や症状、治療方法などについて、ご紹介いたします。
伝染性単核球症についての基礎知識
伝染性単核球症は、キスをすることで人から人へ移ることから、別名「キス病」とも呼ばれています。年齢を問わず、感染・発症する可能性はありますが、最近では若い人の感染が増加傾向にあることが問題となっています。
これは、後ほど詳しくご紹介いたしますが、この感染症は年齢を重ねるほど、重症化しやすいという特徴があることが起因しています。
それでは、まず、伝染性単核球症についての基礎的な情報を見ていきましょう。
伝染性単核球症の原因ウイルスは?
伝染性単核球症の原因となるウイルスは、「EBウイルス<エプスタイン・バーウイルス>」(EBV)というウイルスで、ヘルペスウイルスの一種になります。ヘルペスと言うと、帯状疱疹などを思い浮かべる人も多いかもしれませんが、症状は異なります。
また、実はこのウイルスは感染率が高く、ほとんどの場合、乳幼児期に感染することで知られています。思春期までには約9割の人が感染しますが、そのうちの約8割近くは、軽い症状で済むか、不顕性感染と呼ばれる「症状のない感染」で終わることが多いと言われています。
そのため、成人の90%以上の人が、このウイルスに対する抗体を持っているので、容易に感染せずに済みます。
しかし希に、EBウイルス以外でも、
- サイトメガロウイルス
- アデノウイルス
- 単純ヘルペスウイルス
- ヒト免疫不全ウイルス
- A型肝炎ウイルス
- B型肝炎ウイルス
などが原因ウイルスとなって発症するケースも確認されているようです。
思春期以降の感染・発症について
この感染症は、年齢を重ねるほどに重症化しやすくなると言われています。さらに、思春期を過ぎてからの初感染は、感染者の半数以上という高い確率で発症することがわかっています。思春期以降の感染は、症状の重症化や合併症を招く可能性が高いため、十分な経過観察が必要です。
また、乳幼児期に感染して、症状が出なかった人のうち、15%~20%程の人は、自覚症状がないままウイルスのみを保有しています。そして、ウイルスを保有したまま大人になり、何らかの原因でその人の免疫力が弱った状態になると、発症してしまうというケースも見られるようです。
また、別の見解では、生活の欧米化が起因して、青年期での初感染が増加したという見方もあるようです。
感染経路は?
「キス病」という別名がついているのには、わけがあります。それはまさに、キスをすると移る、すなわち、唾液が感染源となっているからです。ウイルスは、唾液に最も多く含まれると言われており、フレンチキスではなく、ディープキスなどで感染者の唾液とダイレクトに触れることで、喉粘膜にウイルスが感染します。
唾液が感染源になることを考えると、感染経路はキスだけではないということは、容易に想像できるでしょう。口に入れるもの、例えば箸やコップ、ペットボトルの水など、いろいろなものが考えられます。
また、そのほかにも輸血が原因で感染したというケースも確認されています。
潜伏期間は?
潜伏期間とは、ウイルスに感染してから、症状を発症するまでの期間を示します。ウイルスによって、感染後すぐに症状が出るものや、長い間症状が出ないものもあります。
EBウイルスの潜伏期間は、約30日~50日程度と言われており、比較的長めの潜伏期間だと言えるでしょう。
また、先ほどもお伝えしたように、感染しても症状が出ない人もいます。
伝染性単核球症の症状は?
それでは、伝染性単核球症の症状にはどのようなものがあるのでしょうか。以下に症状をあげていきますが、ここにあげる症状が全て出るというわけではなく、人によって、いずれかの症状のみ、あるいはいくつかの症状を組み合わせて発症します。
それでは早速見ていきましょう。
全身の倦怠感
この感染症の初期症状として現れるのが、全身の倦怠感です。
だるさ、疲れやすい、無気力、身体が重たいなどの症状が出てきます。これらは風邪などの症状と似ていますが、伝染性単核球症では、場合によって、こういった全身の倦怠感が2~3ヶ月にわたって続くこともあると言われています。
高熱が続く
伝染性単核球症を発症すると、発症後1週間ほどで38℃以上の高熱が出てきます。これもまた、倦怠感同様に風邪の諸症状と似ていますが、風邪の場合、高熱が出たとしても、少なくとも数日で解熱します。
ところが、伝染性単核球症の高熱は1~2週間続くのが特徴で、症状によっては、なんと1ヶ月も発熱状態が続くケースも見られるようです。また、高熱に伴う寒気なども見られます。
リンパ節腫脹
伝染性単核球症の特徴的な症状としてあげられるのが、顎の下や首の横、あるいは首の後ろにある頸部リンパ節の腫れです。
首周りには、様々なリンパ節が備わっており、健康な状態のときには腫れることはありませんが、細菌やウイルスが侵入してくると、それらを死滅させるためにリンパ節が瘤のように腫れてしまうのです。
咽頭炎・扁桃炎
これは、いわゆる喉の症状です。これもまた、伝染性単核球症の特徴的な症状と言えるでしょう。咽頭は、喉の奥にあたる部分を示します。発症すると、咽頭が炎症を起こし、赤くなって唾を飲み込むと痛みが生じるなどの咽頭痛を伴います。
さらに、扁桃炎を起こすと、いわゆる「のどちんこ」と呼ばれる両側にある扁桃が腫れて、そこに白い膿のようなものが付着することもあります。また、舌が赤くなることもあるようです。
脾臓や肝臓の腫れ
この感染症の約半数の患者は、症状として脾臓の腫れが出ると言われています。脾臓が腫れたとしても、痛みなどの症状は現れないのですが、何らかの衝撃が外部から加わると、脾臓破裂を起こすことがあるので、決して油断はできません。
また、肝臓にも腫れが見られることがあります。肝臓の腫れに伴い、黄疸やまぶたの腫れといった肝臓機能障害が出る患者もいるそうです。
薬疹
これは、感染症の症状として出るのではなく、原因となるEBウイルスに感染した際に、何らかの薬を服用したときに見られる症状として知られています。
最もよく見られるのが、「アンピシリン」という抗生物質(抗ウイルス薬)を服用して発疹が出るケースです。
伝染性単核球症の初期症状は、風邪などの感染症と酷似しているため、診断を謝ってほかの感染症用の薬として、抗生物質が出されてしまうと、このような事態を招きます。
薬に反応して出た発疹は、非常に症状が激しく、真っ赤になって腫れ上がると言われています。回復に連れて、薬疹は治まりますが、やはりこういったケースはできるだけ避けたいものです。
合併症について
これらの症状に加え、希ではありますが、合併症を引き起こす可能性があります。その確率は、風邪で合併症が起きる場合と同等するほど低いと言われていますが、免疫力の低下など何らかの要素が重なることで生じます。合併症として見られる症状には、
- 神経障害
- 脳炎
- 異常行動
- 髄膜炎
- 貧血
- リンパ節の腫脹による気道閉塞
などが挙げられます。発生率は高くないとは言え、十分な経過観察が必要です。
慢性活動性EBV感染症(CAEBV)について
伝染性単核球症と同じEBウイルスが原因で生じる疾患としてあげられるのが、この慢性活動性EBV感染症と呼ばれる疾患です。
年間に100人もの発症例が確認されており、場合によっては死を招く可能性もある恐ろしい病気です。
伝染性単核球症との違いについて
「慢性」という言葉が付いていますが、伝染性単核球症と慢性活動性EBV感染症の2つは、全く異なる疾患です。専門書などの症状の欄に「伝染性単核球症“様”症状」という言葉が掲載されているように、「伝染性単核球症のような症状が出る」ということに間違いはありませんが、ウイルスが感染する細胞が異なるのです。
伝染性単核球症は、T細胞・B細胞・NK細胞とある3つのリンパのうち、B細胞に感染することで生じる疾患です。
一方、慢性活動性EBV感染症は、ウイルスがT細胞あるいはNK細胞に感染することによって、汚染された細胞が増殖を続けるため、伝染性単核球症のような症状が長期的に発生します。
慢性活動性EBV感染症の症状は?
慢性活動性EBV感染症の症状は、伝染性単核球症で見られる症状に加え、
- 口腔内アフタ
- 蚊刺過敏症
- 貧血・血小板の減少
- 下痢・下血
- 冠動脈瘤
- ぶどう膜炎
などの重篤な症状が現れます。この疾患の恐ろしいところは、こういった症状が再燃を繰り返すということです。対処療法で症状が緩和することはあっても、根本治療をしないと、こういった症状は継続し、場合によっては悪性リンパ腫や白血病などによって、死に至るケースもあるのです。
診断基準と検査
伝染性単核球症の症状は、ほかの感染症にも見られる症状ですので、原因となっているウイルスが何のウイルスなのかを明確にする必要があります。
ここでは、診断基準と検査方法について、見ていきましょう。
臨床症状の診断基準
診断基準としては、上項目であげた症状のうち、
- 発熱
- 咽頭炎・扁桃炎
- 1cmまたはそれ以上の頸部リンパ節腫脹
- 肝臓の腫れ(4歳未満は、1.5cm以上)
- 脾臓の腫れ(触知で確認)
以上のいずれかの症状のうち、3項目以上当てはまる場合には、伝染性単核球症を疑います。こういった臨床症状に加えて、血液検査を並行して行い、以降にあげる項目別で検査して、陽性か陰性かを診断します。
リンパ球の数値
伝染性単核球症になると、血中のリンパ球が増加するという特徴があります。通常、男性では26.8%~43.8%、女性であれば24.5%~38.9%が正常値と言われていますが、EBウイルスに感染すると、この数値が50%以上になるようです。
さらに、それに加えて、普段は見られない異型リンパ球やHLA-DR+細胞が10%以上検出された場合は、感染している可能性が高いと診断されます。
肝機能数値
前述のとおり、伝染性単核球症になると、肝臓の機能障害が見られることがあります。この症状が出始めると、血中のAST、ALT、ALP、ビリルビンの値が上昇します。
ウイルス抗体検査
原因ウイルス確定のために重要になるのが、このウイルス抗体検査です。伝染性単核球症のウイルスに特異的に作用する抗体には、
- VCA抗体
- EA抗体
- EBNA抗体
の3種類があり、初感染時と、急性期、回復期ごとに上昇する抗体が異なります。
<VCA抗体>
ウイルスが体内に侵入して働く抗体には「lgG抗体」と「lgM抗体」の2種類があり、VCAおよびEA抗体はlgGとlgM値を測定できます。初感染時に上昇するのが、このうちのVCA-lgM抗体です。一方、回復期にはlgG抗体が上昇してくると言われています。
<EA抗体>
急性期の終わり頃に上昇するのがEA抗体です。しかし、この抗体は長期間検出されるため、回復期になっても陽性の場合があります。
<EBNA抗体>
これは、感染後数ヶ月ほど経ってから検出される抗体です。急性感染の場合はVCA-lgM抗体が陽性、EBNA抗体が陰性となって現れます。
伝染性単核球症の治療法と予防法
伝染性単核球症には、特異的な治療法というのはなく、諸症状に対する対処療法で治療しながら、回復を待つのが、現段階での治療法となります。また、感染症の予防として、免疫力を上げておくことも大切です。
ここでは、伝染性単核球症の治療で行われる対処療法と、予防のために免疫力を上げる方法について、ご紹介いたします。
対処療法
まず、脾臓に腫れが見られる場合、強い衝撃などで脾臓破裂を招く恐れがあるので、その場合には、極力安静にして過ごすことが必須です。感染後少なくとも1ヶ月程度は、重たい物を持ったり、激しい運動は控える方が良いでしょう。
また、回復後は、脾臓の腫れが引いていることを確認するために、必ず医師の診察を受けてください。
次に、諸症状に対する治療法についてですが、先にご紹介したように、伝染性単核球症の場合、薬疹が発生する可能性がありますので、抗ウイルス薬などの抗生物質は使用しません。諸症状に対して、それぞれの対処療法が行われます。
対処療法の例としては、発熱や痛みに対しては、それらを鎮静させるために、アセトアミノフェンやアスピリンなどの非ステロイド性の抗炎症薬が用いられることが多いようです。
しかし、小児の場合においては、ライ症候群を引き起こす可能性があるため、アスピリンは使用されません。
気道閉塞などの合併症が見られる場合には、コルチステロイド薬を用いて治療します。
免疫力を上げる方法
これらの感染症を予防するためにも、免疫力を高めておくことが大切です。免疫力を上げる方法には、以下のような方法があります。
<体温を上げる>
とくに最近では、若い人で身体の冷えに気づいていない人が多いようです。手足の冷えはもちろん、内臓の冷えもまた、全身の冷えにつながります。
身体が冷えると、免疫力が低下するためウイルスや細菌などに感染しやすくなってしまいます。手足を冷やさないように、締めつけの少ない靴下などで保護したり、しょうがなどを積極的に摂取して、内側からのケアも忘れないようにしましょう。
<食生活>
バランスの良い食生活は、健康維持の基本です。インスタント食品や加工食品の過剰摂取は避け、栄養バランスのとれた食事を心がけましょう。できるだけ、品目を多く摂るように意識すると、栄養の偏りを防ぐことができます。
<生活習慣>
喫煙や、飲酒、夜更かしなどの不摂生は、もちろん健康に良くありません。地球にも朝、昼、晩とリズムがあるように、私たちの身体にもまた、リズムがあります。規則正しい生活を心がけましょう。
<適度な運動>
人間は動物、すなわち、「動く」「物」です。休むときには、身体を動かさない方が良いですが、普段は身体を動かしている状態の方が、様々な機能を問題なく働かせることができるのです。
とくに、無理のない有酸素運動などは、免疫力が向上すると言われています。運動不足は、生活習慣病の原因にもなりますので、継続できるような自分に合った運動を習慣づけることをおすすめします。
まとめ
いかがでしたでしょうか。伝染性単核球症は、誰でも感染する可能性のある感染症ですので、完全にウイルスを予防することは困難です。普段からウイルスと戦うための免疫力の向上に努めましょう。
また、感染した場合、あるいは、身近に感染者がいる場合には、唾液を介す物や行為には十分に注意し、二次感染を防ぎましょう。
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