昆布(こんぶ・コンブ)と言えば、日本人にとって欠くことのできない食品の一つですよね。昆布は、鰹節(かつおぶし)や干し椎茸と並ぶ出汁取り(だしとり)用の食材でもあり、おでんなどの煮物料理の具材としても欠かせません。また、昆布の佃煮や塩昆布は白米を食べる時の付け合わせとして伝統的に有名な存在ですし、おしゃぶり昆布や酢こんぶといった菓子類としても昆布は一定のポジションを確保しています。
そんな昆布は、栄養学的にはミネラルや食物繊維といった栄養素が豊富に含まれることから、近年はダイエット食品としても人気となっています。女性の中には、意識的に昆布を多く摂取しようとしている人もいるようです。
しかしながら、そんな美容や健康に資する食べ物である昆布も、食べ過ぎてしまうと様々な悪影響が生じてしまう可能性があることは、意外と知られていないようです。
そこで今回は、昆布の摂取による健康効果、昆布の過剰摂取による悪影響などについて、ご紹介したいと思いますので参考にしていただければ幸いです。
昆布に関する基礎知識
そもそも昆布という食べ物について、私達は知っているようで知らないのかもしれません。
出汁取り用食材・煮物料理の具材・塩昆布・酢こんぶなどの商品を通じて昆布の存在は認識していても、いざとなるとワカメと並ぶ海藻類だという程度の知識しか思い浮かばない人も少なくないでしょう。
そこで、昆布の摂取による健康効果や昆布の過剰摂取による悪影響などについて説明をする前に、まずは昆布という食べ物に関する基礎知識をおさらいしておこうと思います。
昆布とは?
昆布・コンブは、コンブ目コンブ科に分類される海中で生育する海藻類の一つで、葉の部分が長細く食用に適する海中植物です。
一般的に漢字で「昆布」と表記されると食品や食材としての昆布を意味し、一方で「コンブ」とカタカナで表記する場合は生物学的に海中植物としてのコンブを意味します。コンブ科に属する海藻類は、更に13種類の属に分類されますが、主に日本で食用に供されるコンブの多くはコンブ属(カラフトコンブ属)に分類されます。
日本の昆布産地と昆布の種類
日本の昆布産地は、基本的に北海道沿岸全域と東北の三陸海岸沿いに限定され、いわゆる海水温の低い寒流の地域に限られます。主な日本の昆布産地と昆布の種類は、次の通りです。
- 真昆布:コンブ属マコンブ。函館沿岸が産地。
- 羅臼昆布:コンブ属オニコンブ。マコンブの変種で、知床半島沿岸の羅臼が産地。
- 利尻昆布:コンブ属リシリコンブ。マコンブの変種で、利尻島や北海道北部沿岸が産地。
- 細目昆布:コンブ属ホソメコンブ。マコンブの変種で、北海道西岸の日本海側が産地。
- 日高昆布:コンブ属ミツイシコンブ。北海道南岸の日高地方沿岸が産地。
- 長昆布:コンブ属ナガコンブ。ミツイシコンブの変種とされ、北海道南岸の釧路が産地。
- 厚葉昆布:コンブ属ガッガラコンブ。北海道南岸の釧路が産地で、葉が厚いのが特徴。
- 猫足昆布:ネコアシコンブ属ネコアシコンブ。釧路沿岸が産地で、根が猫足に似ている。
- 籠目昆布:コンブ属カゴメコンブ。函館沿岸や三陸海岸が産地で、葉に籠目状の凹凸。
食品としての昆布
昆布は、日本では非常に古くから食べられていて、日本各地の郷土料理に欠かせない食材となっています。昆布の食品としての用途は多岐にわたっていて、主な用途を挙げると次の通りです。
- 出汁取り用の食材として
- 煮物料理の具材として(おでんなど)
- 漬物として(松前漬けなど)
- 調味料として(刺身の昆布締めなど)
- 昆布加工品として(佃煮・塩昆布・刻み昆布・とろろ昆布・おぼろ昆布など)
- 菓子類として(おしゃぶり昆布・酢こんぶなど)
昆布の栄養成分
昆布は、食物繊維が豊富に含まれるため100gあたり145kcalと低カロリーな上に、ビタミン類・ミネラル類を含むので栄養価も比較的高い食品です。そのため昆布は、近年になってダイエット効果や美容効果が高いとして、その存在が見直されています。昆布に含まれる主な栄養成分は、次の通りです。
- 食物繊維(不溶性食物繊維・水溶性食物繊維)
- ミネラル類(カリウム・ナトリウム・カルシウム・マグネシウムなど)
- ビタミン類(ビタミンA・ビタミンB群・ビタミンC・ビタミンEなど)
- ヨウ素
ヨウ素とは?
ヨウ素とは、元素記号がIと表記される元素の一つで、ヨードとも呼ばれる物質です。ヨウ素はミネラル類の一つでもあり、海藻や魚介類に多く含まれるので「海のミネラル」と呼ばれることもあります。このヨウ素は、人の体内で甲状腺ホルモンを生み出すために必要不可欠で、人が生命を維持する上で必須の元素の一つです。
体内でヨウ素が不足すると、ヨード欠乏症として甲状腺機能低下症などの甲状腺機能障害(甲状腺障害)が発症する可能性があります。一方で、体内でヨウ素が過剰となっても甲状腺機能亢進症などの甲状腺機能障害が発症する可能性があるとされます。
昆布の摂取による健康効果
前述のように近年になって昆布はダイエット効果や美容効果が高いとして、その存在が見直されています。それでは、昆布を摂取することによって、具体的にどのような健康効果を得られるのでしょうか?
そこで、昆布の摂取による健康効果について、ご紹介したいと思います。
便秘解消効果
昆布には不溶性食物繊維と水溶性食物繊維が高いレベルで含有されているので、昆布を摂取すると便秘解消効果を得ることができます。
不溶性食物繊維は水に溶けないタイプの食物繊維で、胃腸で栄養素が体内に吸収された後に食物残渣(しょくもつざんさ)、すなわち残りカスとなって便の元となります。この不溶性食物繊維は大腸で便の元となる際に水分を吸収して膨張することにより、大腸を内側から刺激しますので、大腸の蠕動運動(ぜんどううんどう)が促進されます。そして、波打つような大腸の蠕動運動によって、便は直腸・肛門へと送り出されるわけです。
一方で、大腸には水分を再吸収する働きがあり、この再吸収機能は便が大腸内で滞留していると水分が奪われて固くなる原因となります。そこで鍵になるのが、水に溶けるタイプの食物繊維である水溶性食物繊維です。水溶性食物繊維は、大腸内の水分に溶けてゲル状になることにより保水機能を有するので、大腸の水分再吸収を妨げて便を柔らかく保ち、便の排出を容易にするのです。
このようにスムーズな排便には、不溶性食物繊維と水溶性食物繊維の両方が必要であり、いずれも高いレベルで含有する昆布は、まさに便秘解消効果や便秘予防効果をもたらす理想的な食べ物だと言えるでしょう。
デトックス効果と整腸効果
昆布に含まれる水溶性食物繊維には、体内の有害物質や老廃物を排出するデトックス効果があり、それに伴って腸内環境を改善する整腸効果も期待できます。
人が生命を維持していくためには、食事をする必要があります。しかしながら、近年は便利さを追い求めることによって加工食品には様々な食品添加物が加えられていたり、ファストフードの普及によって脂質が多い食事になりがちです。一部の食品添加物や過剰な脂質は、腸内環境を悪化させ身体に様々な悪影響をもたらします。
水溶性食物繊維は、有害物質や老廃物を便と一緒に排出する働きがありますので、食事をする過程で取り込んでしまった有害物質や体内で発生した老廃物などを排出し、腸内環境を改善してくれるのです。
昆布には非常に多くの水溶性食物繊維が含まれるので、デトックス効果が期待でき、それに伴って整腸効果も期待できるわけです。
ダイエット効果と美容効果
昆布を食べると、前述のような便秘解消効果やデトックス効果が期待でき、腸内環境が改善されます。肌荒れと腸内環境悪化との間には密接な関係性があるため、昆布に含まれる水溶性食物繊維を摂取して腸内環境が改善されると、肌荒れが改善するなど美肌・美容効果も期待できます。
また、腸内環境が改善され大腸が本来の動きを取り戻すと、お腹だけでなく全身の血流も良くなり代謝向上が期待できます。加えて、血流とともにリンパ液の流れも良くなりから、身体のむくみ解消効果も期待できます。
このように、昆布に含まれる水溶性食物繊維を摂取すると、ダイエット効果や美容効果も期待できるのです。
免疫力の向上効果
昆布を摂取すると、前述のような腸内環境の改善を通じて、免疫力の向上効果も得られる可能性があります。
近年の様々な研究報告によって、腸内環境が改善されて腸内細菌のバランスが良くなると、それに応じて免疫力の向上も見られることが分かっています。ですから、水溶性食物繊維が多く含まれる昆布を食べることは、間接的ではあるものの免疫力をも向上させるのです。
生活習慣病の予防効果
昆布を食べると、生活習慣病(糖尿病・高血圧症・脂質異常症)を予防する効果も期待できるとされています。
昆布に含まれる水溶性食物繊維の一つであるアルギン酸には、血圧上昇抑制作用があります。また、昆布に含まれるミネラルの一つであるカリウムは、血圧を上昇させる原因となる塩分(ナトリウム)を尿と一緒に体外へ排出させる働きを持っています。さらに、昆布には旨味成分であるグルタミン酸が多く含まれ、昆布を上手く利用することによって減塩を図ることもできます。それゆえ、昆布を食べると高血圧の予防につながるのです。
加えて、アルギン酸には、糖質が腸で吸収されるスピードを緩やかにする作用があるため、昆布を食べると血糖値の上昇を抑制して糖尿病の予防にもつながります。
さらには、昆布に含有される水溶性食物繊維の一つであるフコイダンと同じくアルギン酸には、血中コレステロール値を低下させる作用があるので、昆布を食べると脂質異常症の予防も期待できます。
このように昆布を摂取すると、フコイダンやアルギン酸といった水溶性食物繊維の働きやカリウムの働きによって、生活習慣病を予防効果が期待できるのです。
昆布の過剰摂取による悪影響
このように昆布を摂取すると、主に昆布に含まれる食物繊維の働きによって多岐にわたる健康効果が得られます。
しかしながら、そんな美容や健康に資する食べ物である昆布も、食べ過ぎてしまうと様々な悪影響が生じてしまう可能性があることは、意外と知られていないようです。
それでは、昆布を食べ過ぎると、どのような悪影響が現れるのでしょうか?そこで、昆布の過剰摂取による悪影響について、ご紹介したいと思います。
下痢や腹痛を招く可能性がある
昆布を過剰に摂取すると、下痢や腹痛といった症状を引き起こす可能性があります。
たしかに、昆布は不溶性食物繊維と水溶性食物繊維を高いレベルで含有する食材なので、大腸の蠕動運動を促し、便の水分を保持させて柔らかく排便しやすい状態を保ちます。しかしながら、適量を超えて昆布を食べ過ぎると、大腸の蠕動運動が高まりすぎたり、便が必要以上に柔らかくなったりして、便が緩くなって下痢になってしまう可能性があるのです。
また、食物繊維は基本的に消化に時間がかかる難消化性の物質です。それゆえ、昆布を食べ過ぎると、腸内に食物繊維が滞留することで、腸の動きが活発になりすぎて痛みが生じたり、不溶性食物繊維が膨張して腹部に張りを感じる可能性があります。
このように昆布の過剰摂取は、下痢や腹痛といった症状を引き起こしてしまう可能性がありますので注意が必要です。
おならが多くなる可能性がある
昆布を過剰に摂取すると、おならが多くなってしまう可能性があります。
昆布に含まれる食物繊維は、前述したように便秘解消や整腸効果があるので、健康に良い栄養素であることは間違いないでしょう。しかしながら、食物繊維は大腸内で腸内細菌に分解される過程で、水素ガス・メタンガスを発生させてしまいます。
ですから、昆布を過剰摂取すると、昆布に含まれる食物繊維が要因となって腸内でガスが発生しやすくなり、おならが多くなる可能性があるのです。
甲状腺機能障害を発症する可能性がある
昆布を過剰に摂取すると、昆布には多くのヨウ素(ヨード)が含まれることから、稀ではあるものの甲状腺機能障害を発症する可能性があるとされています。
ヨウ素と甲状腺の関係
前述しましたが、ヨウ素は人の体内で甲状腺ホルモンを生み出すために必要不可欠で、人が生命を維持する上で必須の元素の一つです。甲状腺ホルモンとは、甲状腺から分泌されるホルモンのことで、全身のほぼ全ての細胞に働きかけて個々の細胞の代謝率・活性度を上昇させる役割を果たします。
ヨウ素は、食事などを通じて体内に摂取・吸収されると、血液を通じて甲状腺に集積されます。人体でヨウ素を必要とする器官は、甲状腺以外にはありません。そして、甲状腺に集められたヨウ素から、甲状腺で甲状腺ホルモンが産生されるのです。
ちなみに、甲状腺という器官は頚部前面の甲状軟骨のやや下側、すなわち首の前側にあるのど仏の少し下側に位置しています。
ヨウ素が不足すると?
人体でヨウ素が不足すると、ヨード欠乏症となって甲状腺機能低下症などの甲状腺機能障害になる可能性があります。甲状腺機能低下症は、甲状腺ホルモンが不足して全身の細胞がエネルギーを利用できなくなり活性度が低下することにより、全身のあらゆる身体機能に異常を生じる危険性がある病気です。甲状腺機能低下症の具体的な症状は、主に全身倦怠感・皮膚の乾燥・便秘・体毛の脱毛・聴力低下・低体温・体重増加などです。
ヨウ素は海藻類や魚介類に多く含まれるので、海のない内陸国ではヨード欠乏症の発症が多くなります。しかしながら、日本は海に囲まれており、海藻類や魚介類を食べる機会が多いので、基本的にヨウ素不足・ヨード欠乏症の心配はいりません。
ヨウ素が過剰になると?
一方で、ヨウ素が過剰となっても甲状腺機能障害が現れる可能性があります。甲状腺ホルモンの分泌量が過剰となって、全身の細胞の活性度が上昇することにより頻脈・体重減少・多尿・体毛の脱毛・下痢などの症状が現れる甲状腺機能亢進症になる可能性があります。また、ヨウ素過剰摂取によっても、甲状腺が腫れたりすることで甲状腺機能低下症が現れることもあります。
この点、昆布は海藻類や魚介類の中でも、飛びぬけてヨウ素の含有量が多いとされます。ですから、場合によっては昆布の摂取を控えなければならないケースもあるのです。
昆布の適正摂取量
このように昆布を食べ過ぎると消化器系の症状が現れる可能性があり、また昆布の過剰摂取でヨウ素が過剰となると甲状腺機能障害が現れる可能性もあるとされます。それでは、昆布をどれだけ食べると、過剰摂取となるのでしょうか?そこで、昆布の適正摂取量について、ご紹介したいと思います。
昆布のヨウ素含有量
昆布の適正摂取量を検討するには、昆布に含まれるヨウ素の量がポイントになります。ヨウ素含有量の多い食品としては、昆布の他にもヒジキ・ワカメ・海苔などがあり、それぞれのヨウ素含有量は以下の通りです。
・昆布100gあたりヨウ素230000㎍
・ヒジキ100gあたりヨウ素45000㎍
・ワカメ100gあたりヨウ素8500㎍
・海苔100gあたりヨウ素2100㎍
ヨウ素の適正摂取量
ヨウ素の過剰摂取を判断するには、ヨウ素の適正摂取量を知らなくてはなりません。この点、厚生労働省による「日本人の食事摂取基準(2015年版)」から、成人に関するヨウ素の基準を抜粋すると以下の通りです。
・推定平均必要量:1日あたり95㎍
・推奨量:1日あたり130㎍
・耐容上限量:1日あたり3000㎍
昆布の適正摂取量について
このように昆布は100gあたりでヨウ素230000㎍を含んでんおり、一方でヨウ素の耐容上限量は成人で1日あたり3000㎍となっています。
日本人は魚介類の摂取も多いので、昆布をはじめとする海藻類を食べなくても、1日あたり500㎍程度のヨウ素を摂取しているという見解もあります。とすると、昆布1g(ヨウ素2300㎍)を追加で摂取するだけで、ほぼ1日の耐容上限量に近い量を摂取していることになります。つまり、菓子のおしゃぶり昆布や酢コンブを間食として1袋・1箱食べるだけで、1日あたりの摂取上限量・摂取上限値を超えてしまうわけです。
このように日本人の平均的な食生活をしているだけで、日本人はヨウ素不足とは無縁な状況にあり、必要十分なヨウ素を摂取できています。一方で、毎日のように昆布菓子を食べたり、毎日のように塩昆布やとろろ昆布を食べたりしていると、昆布の過剰摂取(ヨウ素の過剰摂取)となりかねませんので注意が必要です。ですから、平均的な食生活をしていれば、昆布によってヨウ素が過剰となることもありませんし、その程度の昆布の量であれば食物繊維が過剰となることもありません。
ちなみに、昆布は低カロリーでミネラルも豊富ですから、ダイエットの補助食品として昆布を食べることは良いとしても、昆布を主食とするダイエット方法はおすすめしません。
甲状腺疾患の患者は昆布摂取を控えるべき
自己免疫疾患として甲状腺に異常が発生する橋本病やバセドウ病の患者については、基本的に昆布やヒジキは摂取を避けるべきだとされます。というのも、少量の昆布であっても、そのヨウ素の含有量の多さから、甲状腺に悪影響を及ぼす可能性があるからです。橋本病やバセドウ病の患者さんは、医師の指導に従うことが大切になります。
まとめ
いかがでしたか?昆布の摂取による健康効果、昆布の過剰摂取による悪影響などについて、ご理解いただけたでしょうか?
たしかに、昆布は古くから食べられていて、美味しい出汁がとれる有用な食材です。栄養学的にも多くの食物繊維やミネラルが含まれるので、栄養的に優れた食材でもあります。しかしながら、昆布にはヨウ素も大量に含まれており、昆布の食べ過ぎによってヨウ素を過剰に摂取すると、甲状腺に異常が生じる可能性があるのです。
ヨウ素は不足しても過剰になっても悪影響が生じる栄養成分です。ですから、いくら昆布が美味しく栄養的に優れた食材であっても、摂取量はほどほどにすべきと言えるでしょう。