食物アレルギーには色々ありますが、そばアレルギーの特徴は極少量で、重篤なアレルギー症状を引き起こす点にあります。皆さんも、蕎麦屋の前を通っただけで喘息発作が出た、うどん(茹で鍋が蕎麦と同じだった)を食べただけで身体中が腫れたという話を聞いたことがあるかと思います。
この記事では、そばアレルギーの症状やきっかけ、自分自身や身近な人がアレルギーを起こした時の対処法、小さなお子さんに蕎麦を初めて食べさせる時期、完治することはあるのかなど、そばアレルギーから体を守るための色々な情報を集めました。
この記事の目次
そばアレルギーの症状
そばアレルギーは、他の食物アレルギーと同じで、即時型アレルギー(I型アレルギー)のものがほとんどです。即時型アレルギーは、早ければ秒単位で、遅くとも2時間以内に最初の症状が出ます。
以下にそばアレルギーの症状を示しますが、一般の即時型の食物アレルギーと症状は同じです。
皮膚粘膜症状
- 口の中や咽喉がイガイガ、チクチク、変な感じ
- 口の周りが赤く腫れる
- 眼が充血する
- 眼球が腫れる
- 内側や外側の瞼(まぶた)が腫れる
- じんましん
- 顔がほてる・赤くなる
- 湿疹
口の中がイガイガしたりチクチクしたりなどの違和感があったり、唇や口の中が腫れたり、瞼が腫れたりします。瞼の腫れは外から見えるところだけではなく、内側(あかんべーをした時に見える部分)がゼリー状に腫れ上がることもあります。鼻の穴や耳の穴などが痒くなる人もいます。
口の中の粘膜の違和感や唇の腫れは他の皮膚粘膜症状よりも早く出ることが多いです。
外からは見えませんが、咽喉の粘膜が腫れて違和感を感じたりすることもあります。この場合は、気管や気管支が狭くなりヒューヒュー・ゼイゼイした音がでたり、更に進行すると、犬の鳴き声の様な咳や、声が出せないなどの症状が現れます。
また、じんましん、痒み、赤みなどの皮膚症状は、最も多い症状で、そばアレルギーに限らず、食物アレルギーの約9割にみられます。
呼吸器症状
- ヒューヒュー、ゼイゼイ
- くしゃみ
- 鼻水・鼻づまり
- 犬の鳴き声の様な咳
- 喘息
- 窒息
- 呼吸困難
皮膚粘膜症状の次に多いのが、気管や気管支の浮腫(気管や気管支が腫れてヒューヒュー、ゼイゼイした音が出る)、くしゃみ、咳などの症状です。喘息発作も引き起こされます。
気管・気管支の浮腫が進行すると、腫れたこと自体と粘液の両方により、気道が閉じて窒息します。また、喘息発作などで、くしゃみや咳が連続で起こると、呼吸困難がおこります。
消化器症状
- 吐き気
- 嘔吐
- 腹痛
- 下痢
- 血便
- 嘔吐による吐瀉物での窒息
程度は様々ですが、消化器の粘膜も腫れるので、吐き気・嘔吐・腹痛・下痢・血便などの症状が出ます。消化器症状は、特に小さいお子さんで出やすい傾向にあります。また、嘔吐による吐瀉物で窒息することもあります。
アナフィラキシー
- 皮膚粘膜症状
- 呼吸器症状
- 消化器症状
- 循環器症状(血圧低下・意識消失)
*アナフィラキシーの診断基準の詳細については後述しますが、上述のうち皮膚粘膜症状+呼吸器症状or循環器症状2つ以上、一般的なアレルゲン摂取+2つ、アレルゲン(そば)摂取+急激な血圧低下などです。
誤解を恐れず、単純に言うと、皮膚・粘膜、呼吸器、消化器などの複数の臓器症状が全身に出るものがアナフィラキシーです。
アナフィラキシーの中で、血圧低下や意識消失などの状態を伴うものをアナフィラキシーショックといいます。これは、生命にかかわる危険な症状です。
そばアレルギーのきっかけ
そばアレルギーは、他の食物アレルギーより、重篤なアレルギーを起こしやいので、注意が必要です。
しかし、そばアレルギーのやっかいな点は、それだけではありません。極微量でアレルギーを起こしても、それが重篤なアレルギーになってしまう点が、非常にやっかいなのです。見た目が蕎麦でなくても、少しでもそばの成分が含まれていれば、そばアレルギーの危険があるということになります。以下にそばアレルギーのきっかけを示します。
蕎麦を食べたり飲んだりしてしまった
蕎麦湯や蕎麦、蕎麦饅頭など、見た目や名前に「蕎麦」がついていれば、それを避けるのは難しくありません。
しかし、蕎麦は香りがよく、美味しいので、いろいろなものに使われています。食品衛生法により、パッケージ販売されているものには表示義務がありますが、外食や、対面販売の惣菜店にはそれがありません。また、作っている本人でさえも知らずに蕎麦粉を利用してしまうことがあります。具体的には、
- お菓子(まんじゅう、ケーキ、クッキー、かりんとうなど)
- 菓子パン、パンケーキ
- はちみつ
- お茶
- お酒
- 日本料理・郷土料理
などにも使われていることがあります。お祭りやバザーで何かを買って食べる際には、特に注意が必要です。
蕎麦屋の前を通った
蕎麦屋の前では、蕎麦の粉が飛散していることがあり、それを吸い込んでアレルギーを起こすことがあります。また、蕎麦の茹で汁の湯気や、隣のお客さんが食べているそばの蒸気でアレルギーを起こすこともあります。
そばアレルギーがあると分かっている場合は、蕎麦屋の前を通らないなどの工夫が必要になることがあります。
うどん屋に入った、うどんを食べた
そばのアレルゲンは水溶性で熱でも変性せず、アレルゲン性を失わないまま、蕎麦の茹で汁に溶け出します。そのため、蕎麦の茹で汁で他の食材を調理した場合、そばアレルゲンであるタンパク質が付着してしまいます。
うどんと蕎麦の両方を出すお店では、蕎麦と同じ釜を使ってうどんを茹でるのが普通です。そのため、うどんを頼んだつもりでも、うどんに蕎麦の茹で汁がついてアレルギーを起こすことがあります。
また、蕎麦の茹で汁の湯気や蒸気でもアレルギー反応が起こる人もいるため、うどんも蕎麦も食べていないのに、うどん屋に入っただけでアレルギーを起こす人もいます。
さらに、うどんと蕎麦の両方を手打ちで行っている場合、製麺・調理の過程で、うどんに蕎麦が混入する可能性があります。
本人や近くの人がコショウを使った
蕎麦は良い香りがするため、コショウの香りづけや、増量剤として使うことがあります。
自宅で使うコショウは食品表示を見て購入すればいいのですが、飲食店で使うコショウの成分はわかりません。本人が使わなくても、近くにいるお客さんが、テーブルに置いてある蕎麦入りのコショウを使えば、飛散したコショウを吸入してアレルギーを起こすことがあります。
また、調理の際に、蕎麦を使ったつもりはなくても、味を整える際に使ったコショウに蕎麦が入っていることもあります。
蕎麦殻枕を使った
蕎麦本体でなく、蕎麦殻にもそばのアレルゲンは含まれており、蕎麦殻枕でアレルギーを起こすことがあります。
お手玉をした時、運動会で玉入れをした
お手玉や、運動会で使う玉入れの玉は、中に生の蕎麦粒を入れて作ることがあります。
ルチンなどのサプリメントを摂取した
ルチンは健康食品やサプリメントなどの形で販売されていることが多いのですが、蕎麦はルチンが豊富なため、ルチンサプリメントにはそばのアレルゲンタンパク質が高濃度で含まれていることがあります。
グルテンフリーの小麦代替食品を利用した(特に外国製品)
北米には日本以上に小麦アレルギー患者が多く、グルテンフリー食品が豊富に並んでいます。また、グルテンフリーのピザやパスタ、シリアルも販売されています。グルテンフリー食品には、小麦の代わりに蕎麦が含まれていることが多く、海外旅行の時や輸入食品を利用する際には気を配る必要があります。
近年、北米でも蕎麦は健康食として非常に人気があり、健康を意識したレストランなどで、蕎麦を利用したパスタやピザが供されることもあります。北米ではピーナッツアレルギーについての理解はそれなりに高いのですが、そばアレルギーがピーナッツアレルギーと同じくらいの危険性があるという認識はあまりなく、小麦よりも安全だと思われていることも多いため、注意が必要です。
蕎麦畑に行った
そばの実だけでなく、そばの茎、そばの葉、そばのはちみつ、そばの花粉も蕎麦アレルギーのアレルゲンになることが知られています。
そばのアナフィラキシー
ここでは、アナフィラキシーの概要と、そばアレルギーで見られるアナフィラキシーの特徴を見ていきましょう。
アナフィラキシーとアナフィラキシーショックの概要
アナフィラキシーの定義は、「アレルゲン等(そば)の侵入により急速に発症した重度の全身性アレルギー反応で、死に至る危険があるもの」です。
アナフィラキシーのうち、血圧低下等の循環障害を伴うものがアナフィラキシーショックです。
日本アレルギー学会の「アナフィラキシーの診断基準」が、図入りでわかりやすいので、ご紹介します。
そばのアナフィラキシーの進み方
そばのアナフィラキシーでは、蕎麦を食べたり吸い込んだりしてから、5分〜30分でアナフィラキシーに至ります(数秒〜2時間の場合もあります)。アナフィラキシーでは、皮膚粘膜症状が80~90%程度、呼吸器症状が40~60%程度、消化器症状が30%程度、循環器症状が30%にみられ、これらが複数組み合わさって、急速に進行します。
アナフィラキシーショックには、症状の始まりから30分くらいで至ってしまうこと多く、アナフィラキシー反応が出始めたら、多少大げさだと思っても、救急車を呼ぶか、医療機関に受診する必要があります。
また、アナフィラキシー全体に言えることですが、アナフィラキシー発作を起こした人の約15%に、初回反応から8~10時間後(1〜72時間後のこともあります)、何も新たにアレルゲンを摂取していないのに、アナフィラキシーの発作を起こす人がいます。
そばのアナフィラキシーの注意点
小児の食物アレルギーでは、皮膚症状がないことも多く(20〜25%)、小児は自覚症状を自分で上手に説明できません。そばアレルギーでも同じです。
さらに、皮膚粘膜症状がない場合(成人も含めての全アレルギーの10~20%)や、小児で自覚症状を上手説明できない場合や、成人で意識障害が起きて自分で説明できない場合には、医師であってもアナフィラキシーやアナフィラキシーショックの診断が難しいことがあります。
したがって、そばアレルギーをお持ちの場合、最初の段階で大したことがないと思っても、周囲の人たちが目を離さないようにすることは非常に重要です。成人の場合は、財布や運転免許証ケースなどに、そばアレルギーであることを示すカードなどを入れておくと良いでしょう。
そばアナフィラキシーが起こってしまったら
食物アレルギーの場合、初めてのアレルギー反応が、いきなりアナフィラキシー反応ということは、あまりありません。例外はありますが、多くの場合、それまでに、じんましんや喘息など、一般的なアレルギー反応を示していて、本人や保護者が、医師からアナフィラキシー反応が出た場合の対応方や救急車を呼ぶタイミングについて指導を受けていることが多いです。
もし、そばアレルギーをお持ちなのに、アナフィラキシーについての説明を受けていない場合は、できるだけ早く医師に相談してください。
以下に、一般的な対応の流れを示します。主治医にすでに相談済みであれば、そちらの指導内容を優先してくださいね。
1) 全身症状の確認
蕎麦を食べたしまった、あるいは、食べたものに蕎麦が含まれているかどうかはわからないが、口の中がイガイガしたり、口の周りが赤くなったりした場合は、以下のことに気をつけて、全身状態を確認します。
- 意識はあるか
- 脈が速くなっていないか
- 顔が真っ青になっていないか
- 唇が真っ青になっていないか
- 呼吸はしているか
- 皮膚に発疹が出ていないか
- (測定できるのなら)血圧が下がっていないか
2) 救急車を呼ぶ、ひとりにしない/ならない
全身状態を確認して、いつものアレルギーと違うということを確認したら、大げさだと思っても救急車を呼んでください。これは救急車の乱用とは全く違います。呼んでしまった後、症状が消えても、病院等で様子を見る必要があることもあります。救急車を呼ぶ目安はエピペンを使う目安とほぼ同じです。エピペンを使う目安については、後述します。
救急車を待っている間、ひとりにしない/ならないように助けを呼んでください。
医療機関がたまたま近くにあり、受け入れてもらえるのであれば、すぐに受診してくさい。
3) 蕎麦を取り除く、蕎麦のある場所から離す/離れる
もし、口の中に蕎麦が残っていれば取り除き、水でゆすぎます。手などに蕎麦が付いている様なら洗います。蕎麦屋などの近くにいるのであれば、(可能であれば)その場から離れます。
4) エピペン(アドレナリン)の自己注射
エピペン(自己注射用のアドレナリン)をお持ちなら、指導を受けた通りに自己注射します。太もも前外側の筋肉に注射します。落ち着いて、指導を受けた通りに注射できれば最良ですが、多少位置が間違えてしまっても、皮下注射になってしまったとしても、注射しないよりずっと良いです。
エピペンの注射は、基本的には自分で行いますが、患者さんが小さな子供だったり、意識がなかったりして自分で注射できないときは、保護者、学校や保育所の先生が注射することは妨げられません。どうしても不安なら、119番電話して指示を受けながらエピペンを使うこともできます。
エピペンの効果は15〜20分程度しか持続しません。また、あくまでもアナフィラキシーやアナフィラキシーショック症状を一時的に緩和するための補助治療剤です。エピペンを使って症状が一時的に落ち着いたとしても、一刻も早く医療機関を受診してください。
5) 足を上にあげて、楽な姿勢で休む/休ませる
救急車が来るまでの間は、移動ができるのであれば、安全でゆっくりできる場所で、枕や椅子などを利用して足を上に挙げて、仰臥位(あお向け)または楽な姿勢で休んで/休ませてください。足を高くするのは、心臓に戻る血流をできるだけ多くし、脳の血流を保つためです。
喘息の発作が起こっている場合は、足を挙げると却って呼吸困難がひどくなる場合があるので、座った方が楽なら、座ってください。
また嘔吐がある場合は、吐瀉物で窒息が起こることがあるので、顔を横に向けるか座らせるかして、吐いたものが咽喉につまらないようにしてください。
エピペン、救急車、迷った時はどうする?
誰が見てもアナフィラキシーというような、分かりやすいアナフィラキシーの場合は、エピペンも、救急車も迷わず利用することでしょう。でも、いつもの軽症のアレルギー症状かもしれない。こういう時は悩みますよね。ここでは悩んだ時にどうするか、その目安について記載します。
エピペンを使うか使わないか迷った時はどうする!?
日本小児アレルギー学会によるエピペンの適応
日本小児アレルギー学会が一般向けに公表しているエピペン使用のタイミングは、以下の通りです。
上の症状が1つでもあれば、使用する。とても明快な回答が、日本小児アレルギー学会から出されています。
それでも迷ったら? 使ってください! 「迷ったら使う」が答えです。
エピペンの処方
そもそも、日本では、エピペンは病院へ行って、その場で即日処方される訳ではありません(北米では、薬屋さんでお金を出せば誰でもすぐに買えます。2万円近くします。学校や保育所には常備してあります)。
日本では、まず病院や医院へ行き、アレルギー症状を話し、医師が処方が必要だと判断すれば、エピペン講習用DVDと練習用エピペンを渡され、自宅でDVDを見て練習して、また病院へ足を運んで、使うタイミングなどをさらに個別に聞いて、それから処方です。
つまり、これだけの手間暇をかけて、エピペンを処方されている段階で、「使う可能性がある」と医師が判断しているわけで、その本人や保護者が「迷う」のなら、たとえ、結果として不必要であったとしても、限りなく必要に近い不必要です。
もし、本当はエピペンを使わなくてもよかったのに、使ってしまった場合でも、15〜20分経てば効果は消えます(つまり副作用も消えます)。なお、エピペンは一般的には安全ですが、副作用があるとすれば、蒼白(顔が青白くなる)、振戦(ふるえ)、頭痛、不安、嘔吐です。
エピペンは、どちらにしようか迷ったら使ってください。太もも前外側の筋肉に注射しますが、気が動転して、間違えて内側に刺しても、使わないよりずっとマシです。
救急車を呼ぶか呼ばないか、迷ったらどうする!?
エピペンよりもっと迷うのが救急車かと思います。しかし、これも答えは明瞭。「エピペン使うのなら呼ぶ」です。エピペンを使うかどうかは、上の日本小児アレルギー学会によるエピペン使用のタイミングの図を参考にしてください。
エピペンを処方されていない場合は、「エピペンがあったら使いたい」と思ったら、迷わず救急車を呼んでください。
そばアレルギーの診断と治療
ここでは、そばアレルギー診断や検査の流れ、治療方法などについて解説します。
「もしかして、そばアレルギー持ってる?」と思ったら
蕎麦を食べた後などに、アレルギー症状が出て、「もしかして、そばアレルギー持ってる?」と思ったら、まずは医師に相談しましょう。
食物アレルギーには色々あり、アレルギーを引き起こす原因(アレルゲン)はそれぞれ異なります。そもそもアレルギーなのか、アレルギーとしたらアレルゲンは何なのか調べる必要があります。医療機関で行う診察や検査には以下の様なものがあります。
詳細な病歴聴取
そばを含め、食物アレルギーでは、いつ、どのようなタイミングで、怪しいと思われる食べ物を食べ、どのような症状がどのくらいの時間で出てきたか、症状が出る前に運動しなかったかどうかなどの詳しい病歴が必要です。
また、家族にアレルギー(食物アレルギーだけでなく)の人がいるかどうか、花粉症など、他のアレルギー疾患がないかどうかなど、詳細な情報も不可欠です。
血液検査:そばの特異的IgE抗体検査
血中のそばに対するIgE抗体を測定します。大まかな傾向を知るためのもので、そばの他、鶏卵や牛乳、小麦など、一回の採血で数種類のアレルゲン検査を行うことができます.。
抗体価が高いからといって必ずアレルギーを起こすとは限らず、また、抗体価が低いからアレルギーがないとも言いき切ることはできませんが、同じ患者さんでIgE抗体の値を追っていくと、その結果から治っていく傾向なのか、悪くなっていく傾向なのか知ることができます。また、食物傾向負荷試験の陽性確率(アレルギーがある確率)を推測することができます。
血液検査:好塩基球ヒスタミン遊離試験
採取した血液中から分離した好塩基球という細胞にアレルゲン(そば抽出物)を添加し、 好塩基球から放出されたヒスタミンの量を測定するものです。
血液検査ではありますが、特異的IgE抗体検査よりも、より、ヒトの体の中で起こっていることに近い形で、アレルゲンに対する反応性を見ることができます。
皮膚テスト:皮膚プリックテスト(プリックテスト)
皮膚の上に直接アレルゲン(そば抽出物)を置いて、出血しない程度の小さな傷をつけ、15~20分待って、反応が出るかみます。アレルギー反応があれば、傷をつけた箇所に、赤み、膨らみが出ます。その大きさでアレルギーの強さを評価します。
「230そば街道推進委員会」で使われ、歌舞伎風の絵で話題になった「そばアレルギーチェックステッカー(非売品)」は、皮膚プリックテストを応用したもので、貼る直前に蕎麦湯を塗って使用します(蕎麦湯がアレルゲンと糊の役割をします)。
ステッカーは皮膚に馴染むように作られており、皮膚がアレルギー反応で赤くなると、そこが透けて、デザインの一部が赤く浮き上がってきたように見えます。以下のステッカーは陽性(アレルギーあり)。陰性の場合は、赤い部分はなく、全て白黒です。
食物除去試験(除去試験)
アレルゲンとして疑わしい食品(この場合は蕎麦)を1~2週間食べないことによって、症状が改善するかどうかを判定するテストです。授乳中の場合は母親に対して行うこともあります。
食物経口負荷試験(食物負荷試験、負荷試験)
専門の医療機関で実施されています。アレルゲン(蕎麦)を食べさせて誘発症状をみるもので、負荷試験中にアナフィラキシーを起こすリスクもある試験です。検査方法自体は難しくありませんが、体制の整っていない医療施設では、危険に対して十分対応ができないこともあるので、必ず、専門の医療機関で行ってください。
食物負荷試験を行っている医療機関は、食物アレルギー研究会で検索することができます。
そばアレルギーの治療
今のところは蕎麦の除去が基本だが、変わりつつある
ほんの数年前まで、アレルゲンとなる食物は食べない(除去する)のが、アレルギー管理の基本だと考えられてきました。しかし、最近になって、原因物質であっても、”食べられる範囲”、”症状が出ない範囲”までは、むしろ積極的に食べた方がよいという考え方にシフトしつつあります。
そばの場合は、わずかな量を摂取しただけで激しいアレルギー症状を出すことがあるので、”症状が出ない範囲”まで食べるというのは、非常に難しく、医療機関においても、まだ、方針が一定していません。
そばアレルギーにおいては、今のところは、除去が基本。アナフィラキシーの恐れがあるのなら、蕎麦屋に近寄らないなどの対策も必要です。しかし、近い将来、変わる可能性があること、すでに変わりつつあることを、知識としてもっておくといいですね。
他のものまで除去するのは無意味
「念のため、心配だから」という理由で過剰に食物除去をするのは、意味がありませんし、健康に悪影響すらあります。
例えば、そばアレルギー(だけがある)と診断され、小麦にも大麦にも米にもアレルギーがないのに、「念のために」小麦や大麦や米などを食べないことにするのは、全く意味がありません。
そばは何歳から? そばアレルギーは治るの?
日本小児アレルギー学会による「食物アレルギー診療ガイドライン」が、2016年10月に5年ぶりに改定されました。
また、NIH(アメリカ国立衛生研究所)でも、2017年1月にピーナッツアレルギー予防に関する臨床ガイドラインを発表しました。食物アレルギーに関する考え方が大きく変わりつつあるので、ご紹介します。
離乳食を遅らせるのは無意味、母乳のお母さんも何でも食べて
ほんの数年前まで、食物アレルギーの原因になりやすい食べ物は、赤ちゃんには食べさせないという考えが主流でした。
しかし、上述の「食物アレルギー診療ガイドライン」2016年版によると、食物アレルギーの原因になりやすい食品で(牛乳、卵、小麦、ピーナッツ、そば、エビ、カニなど)摂取時期を遅らせても、食物アレルギーの発症予防にはつながらないと考えられています。
もちろん、これらの食品を初めて食べさせる場合には、病院が開いている平日の朝〜午後の早い時間帯に開始する、新しい食材は1つずつ、少ない量から食べさせるなどの一般的な注意事項はあります。しかし、今までは早期の導入は避けるべきと考えられていた、アレルギーの原因になりやすい食品でも、早い時期から食べさせてよいという考えになっています(早い時期から食べさせた方がよいという説すらあります)。
つまり、離乳食の開始は通常5ヶ月〜6ヶ月からなので、上述の一般的な注意事項が守れるのであれば、蕎麦であっても(卵でも牛乳でも!)5ヶ月から開始してよい(開始した方がよい)という考え方になっているということです。
また、今でも食物除去試験は母乳を与えているお母さんに行うこともありますが、実際には母親の食事制限も無意味という考えにシフトしてきています。母親本人にアレルギーがあれば別ですが、妊娠中、母乳投与中を通し、予防のために食事制限をしても意味はないという考えが主流になりつつあります。
そばアレルギーは耐性獲得しにくい
食物アレルギー治療の最終目標は、食べても発作がでなくなることです。そして、食物アレルギーの原因食物を食べられるようになる状態には「耐性獲得」と「脱感作」の2種類が存在します。
- 「耐性獲得」は、「治った」状態です。
- 「脱感作」は、定期的に義務的に食べて続ければ症状は出なくなるけど、食べるのをやめてしばらくするとまた症状が出る状態です。
子どもに多い、卵、牛乳、(小麦)では、成長に伴い「耐性獲得」し、50%は幼児期までに、80%〜90%は学童期までにアレルギーの反応が出なくなります。
逆に、学童から成人で新規発症することが多い、(小麦)、甲殻類、ピーナッツ、ソバ、魚類、果物では、耐性獲得の可能性は乳児期発症に比べて低いことが知られています。
つまり、そばアレルギーは、ある程度成長してから発症し、ほとんどのケースで「耐性獲得」できないことが多い=治りにくいのです。
もしかして、蕎麦も食べて予防・治療する時代が来るかも
そばアレルギーの人は、耐性獲得しにくい蕎麦を一生食べることはできないのでしょうか? アナフィラキシーの危険のある人は、一生、蕎麦屋さんやうどん屋さんに近寄ることも難しいのでしょうか?
今のところは、そのように考えられていますし、そうした方が安全です。
しかし、今回出版された「食物アレルギー診療ガイドライン」2016年版によると、「経口免疫寛容」と「経皮感作」という2つにより、予防に対する考え方が変わっているようです。これらは予防だけでなく、治療も変えてしまう可能性があります。
「経口免疫寛容」の考えに基づくと、アレルギーの原因になりやすい食物は乳児期早期から食べ始めた方がアレルギーの発症予防につながるということになります。さらに同誌によると、「既に卵アレルギーを発症している子どもに対しても、早い段階から卵を摂取させることで免疫学的な寛容状態(脱感作)に持っていけるのか、研究を進めている段階」とのことです。
また、NIHの「ピーナッツアレルギー予防に関する臨床ガイドライン」2017年版では、ピーナッツアレルギーの発症予防のために、乳児に対し(なんと、高リスク児も含みます! ただし高リスク児は専門医の管理のもとで)、早期にピーナッツをはじめ、豆やナッツ類が含まれる食品を与えることを推奨しています。
ピーナッツアレルギーは、そばアレルギーとは全く異なるアレルゲンによるものですが、少量で重症になりやすい点と、耐性獲得しにくい点で非常に似ており、もしピーナッツアレルギーや卵アレルギーの予防(や、将来的には治療も)が、この方法でうまくいくようなら、同じような治療方法は、将来、そばアレルギーでも使えるようになるかもしれません。
なお、「経皮感作」は、アトピー性皮膚炎などの湿疹で、皮膚のバリア機能が障害されると、そこから食物アレルゲンが入り込み、皮膚からアレルゲンに感作(経皮感作)されてしまうというもの。
経皮感作は、食物アレルギーの発症や悪化につながると考えられているため、アトピー性皮膚炎や湿疹の原因が食物にせよ、それ以外の原因にせよ、皮膚症状を改善する必要があると考えられています。簡単に言うと「食物アレルギーを治療するるのなら、湿疹の治療もね」という考え方です。
食物アレルギーあれこれ
そばアレルギーはアナフィラキシー対策が非常に重要なので、そちらに重点を置いた記事を書きましたが、食物アレルギーについて、簡単にふれておきます。
食物アレルギーとは
この記事も終盤に近づいたのに、今更、用語の説明ですが、食物アレルギーの定義について記載します。食物アレルギーの定義は、「食物によって引き起こされる高原特異的な免疫学的機序を介して生体にとっては不利益な症状が惹起される現象」です。つまり「食べ物で起こる免疫反応のうち、困るもの」ということになりますね。
ただし、以下のものは除外します。
食中毒、毒性食物による反応:ヒスタミン中毒が有名です。ヒスタミン中毒の症状は、食物アレルギーにとても似ており、例えば、サバアレルギーと診断されている人の半数以上は、実はヒスタミン中毒だと考えられています。ヒスタミン中毒は、チーズ・ワインや、サバ科類似魚類(サバ、マグロ、カツオ)の遊離ヒスチジンが、腐敗醗酵して生成されるヒスタミンに起因する中毒です。ヒスタミンは熱に安定で、一度生成されると、冷凍しても調理しても缶詰にしても干物にしても中毒が起こります。
食物不耐性(仮性アレルゲン、酵素異常症など):その食品がうまく消化吸収できないために、下痢などの症状を起こしますが、食物アレルギーではありません。例えば、牛乳アレルギーと思っている人の中には、乳糖不耐症の人たちが多く含まれます。
食物アレルギーの臨床系分類
最初の方で、食物アレルギーのほとんどが即時型と記載しましたが、実は、けっこう色々と分類されています。
即時型症状
今回この記事で記載したのは、主にこの、即時型症状です。
じんましん、アナフィラキシーなどの症状を示します。通常、食物摂取後2時間以内に、アレルギー反応による症状が出現します。
食物アレルギーの関与する乳児アトピー性皮膚炎
乳児アトピー性皮膚炎において認められる食物アレルギーで、湿疹の増悪に関与しています。アレルゲンの摂取により、即時型アレルギーも同時に起こすことがあります。
新生児・乳児消化管アレルギー
母乳やミルクしか飲んでいないのに、乳特異的IgE抗体が検出されないことも多く(もちろん他のアレルゲンに特異的なIgE抗体も)、非IgE依存性です。
原因はよくわかっていませんが、恐らく細胞性免疫(抗原提示細胞、アレルゲン特異的リンパ球、好酸球、患部の上皮細胞など、細胞性免疫による)によると考えられています。症状は、新生児・乳児の消化器症状(嘔吐や血便、下痢など)です。
食物依存性運動誘発アナフィラキシー
アレルゲン摂取後、運動を行った時にアナフィラキシーを起こすものです。アレルゲンを摂らなければ運動してもアナフィラキシーは起こさないし、アレルゲンを食べてしまっても2時間(可能なら4時間)運動を控えれば、運動はできます。
口唇アレルギー症候群
口唇・口腔粘膜における果物や野菜による接触性蕁麻疹です。多くは、摂取後5分以内に症状を認めます。粘膜症状から始まりますが、皮膚症状(じんましん)も出ます。
花粉症と合併することが多く、ハンノキやシラカンバの花粉症はバラ科の果物(リンゴ、モモ、サクランボ)、ヨモギはセリ科(セロリ、ニンジン)、イネ科とブタクサは瓜科(メロン、スイカ)と交叉反応(交差反応)しやすいことが知られています。
また、ラテックスアレルギーでは、アボガド、クリ、バナナなどと交叉反応してアナフィラキシーを起こすことがあります。
食品表示
2001年、厚生労働省では、食品アレルギー発症件数が多いもの(卵、乳、小麦、えび、かに)や、発症した際の症状が重く命にかかわるもの(そば、落花生)について、食品・加工食品に使用した場合の表示を、食品衛生法上義務付けました。これは世界的に見ても画期的なことで、北米などでも同様の策を取ろうとしていますが、努力義務にとどまり、まだそこまでは至っていません。
食品衛生法により、「卵、乳、小麦、えび、かに、そば、落花生」の7品目を食品に使用した場合には、必ず食品のパッケージにアレルギーの原因となる食品の名称を表示しなければなりません。
また、「あわび、いか、いくら、オレンジ、キウイフルーツ、牛肉、くるみ、さけ、さば、大豆、鶏肉、バナナ、豚肉、まつたけ、もも、やまいも、りんご、ゼラチン」の18品目を食品に使用した場合には、できるだけ食品のパッケージにこれらの名称を表示するよう努めることとされています。
なお、2009年より、厚生労働省で行っていた食品表示等に関する業務は、消費者庁へ移管されています。
外食や対面販売での食品表示について
現在、食品衛生法では、外食や対面販売の惣菜などの中食については表示の義務はありません。しかし、2013年に交付された「食品表示法に基づく食品表示の検討課題」として、外食・中食のアレルギー表示についても取り上げられており、今後は、表示が求められるようになる可能性があります。
そばアレルギーは、麺類飲食業界にとっても重要な課題と認識されており、「平成25年度厚生労働省生活衛生環境営業対策事業費補助金」を活用して、「食物アレルギーの基礎知識-麺類飲食業者のために」という小冊子なども作成されています。この小冊子は、日本麺類業団体連合会/全国麺類生活衛生同業組合連合会から無料でダウンロードすることができます。
まとめ
この記事を読んでくださった方が、
- そばアレルギーは、食物アレルギーの中でもやっかいな部類に入ること
- アナフィラキシーを起こしてしまったら、迷わずエピペンを使い救急車を呼ぶこと
をご理解くださり、ご自身や身近な人の生命を守ることができれば幸いです。
そして、もし将来、そばアレルギーの予防法や治療法が変わることがあった時に、「ああ、『食べて直す方向で研究中』ってどこかで読んだな」と、スムーズに対応できれば嬉しく思います。
このような長文を、最後までお読みくださり、ありがとうございます。
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