食物アレルギーは、本来は人の健康を維持するために必要な食べ物が、ある人には毒になってしまう病気です。セリアック病もそのひとつです。
この病気の患者にとっての毒は、なんと小麦です。小麦を食べると小腸が害されて、ありとあらゆる症状を引き起こします。セリアック病で亡くなることはありませんが、その症状は、文字通り死ぬほどつらいものです。
セリアック病の症状
腸や大便に関する症状
セリアック病では小腸が傷つくことから、腸や大便に関する症状が現れます。初期は、お腹が膨れたり、おならが頻発したりします。いわゆるガスが溜まっている状態で、腹痛を伴います。また下痢と便秘を繰り返すこともあります。これによっても腹痛が生じます。
さらにダイエットや食べ過ぎているわけではないのに、体重の突然の減少や、突然の増加もみられます。これは腸の吸収が良すぎたり悪化したりするからです。
大便は、色が青白くなります。またとても臭くなることもあります。
血液に関する症状
セリアック病は、さまざまな血液に関する病気も引き起こします。鉄分の吸収が阻害されるので、たびたび貧血に襲われます。立ちくらみやめまいが現れます。
血が止まりにくくなったり、ちょっとしたキズで出血したりすることもあります。これはビタミンKが欠乏してしまうからです。ビタミンKを含む食事を摂っていても、セリアック病によってビタミンK欠乏症が発症するのです。血が止まりにくくなるのは、血小板が働かなくなるからです。
骨に関する症状
血液は骨の中で作られるので、血液と骨は密接に関係しています。それでセリアック病では、骨も障害されます。
代表的な症状は関節の痛みです。骨の関節以外の部分が原因となって生じる痛みもあります。また、歯の色が悪くなったり、歯が欠けやすくなります。女性の高齢者に多い骨粗鬆症が、若い人にも発症します。骨がすかすかになり、穴が開くこともあります。関節リウマチの発症リスクも高まります。
神経に関する症状
腸に異常をきたすと、必要な栄養素が体に取り込まれません。栄養不足は体力的な落ち込みや疲れやすい体質を作るだけでなく、神経の働きも阻害します。
脳に直接つながっている中枢神経がやられると、体中に張り巡らされた末梢神経からの情報が脳に届きません。脳が正しい健康維持の仕方を描けなくなるのです。また、脳の指令が末梢神経に届かないので、臓器や器官が通常の働きをしなくなります。
心に関する症状
神経の働きが狂うと、心にも変化が生じます。急に態度が変ったり、抑うつ症状が出ることもあります。それでセリアック病は精神疾患と誤診されることがあります。
内臓に関する症状
セリアック病の症状は、小腸から始まります。小腸は、臓器のグループ分けでは消化器というグループに所属します。よって、小腸の先にあるそのほかの消化器もやられます。体に大きな負担になるのは、肝臓と胆嚢と膵臓が障害されたときです。
セリアック病が肝炎やⅠ型糖尿病を引き起こすことがあり、そうなると治療は1段階も2段階も大変になります。肝炎は肝がんを発症するリスクが高まりますし、Ⅰ型糖尿病はインスリンの自己注射という治療が必要になります。
ただ、胃と食道は、小腸の手前にあるので、セリアック病ではほとんど害されることはありません。
成長に関する症状
セリアック病の乳児は成長が遅いです。また大人になってから発症すると、生理不順や不妊症を引き起こすこともあります。不妊症は男女ともにリスクがあります。女性患者は流産の確率が高まります。
セリアック病は年齢に関係なく発症します。
皮膚に関する症状
円形脱毛症や疱疹状皮膚炎、強皮症といった皮膚や頭髪などの異常も現れます。胞状性皮膚炎は、水ぶくれや発赤によって皮膚がかゆくなったり痛くなったりする病気です。
強皮症は、皮膚だけでなく内臓も硬くなる病気です。顔の皮膚が硬くなるとうまく表情が作れなくなります。医療現場ではその症状を「仮面様」といいます。仮面のように変化が出ないからです。また皮膚の色が落ちてしまい、特に肌が元々褐色の人はまだら模様になってしまいます。
強皮症によって消化器グループの内臓が硬くなると、腸などの動きが悪くなります。心臓が硬くなることもあり、心不全や不整脈のリスクが高まります。つまりセリアック病で命を落とさなくても、セリアック病の次に起きる病気によって命の危険が高まるのです。
セリアック病の原因
セリアック病は自己免疫疾患のひとつです。自己免疫とは、外敵から身を守る自己防衛の機能です。ところがこの自己免疫が暴走することがあり、体にとって良いモノに対しても外敵と認識してしまい、拒絶反応を起こすのです。
グルテンが敵
セリアック病の患者の自己免疫が敵視してしまうのは、グルテンです。冒頭でセリアック病は小麦によって引き起こされる食物アレルギーであると紹介しました。
小麦にはグルテンが含まれています。そのほか、ライ麦、大麦にもグルテンが含まれているので、食べるとセリアック病を引き起こします。
健康を守る目的で壊す
小腸の表面には、短くて細い毛が無数に生えています。これを腸絨毛(ちょうじゅうもう)といいます。絨毯(じゅうたん)の毛のような、という意味です。腸絨毛が食物に触れることで、食物の中に含まれる栄養を体内に取り込んでいます。これが吸収の仕組みです。
逆にいうと、腸絨毛が食物に触れないと、食物は小腸や大腸を素通りして、そのまま大便となって体の外に出てしまうのです。
セリアック病の患者の自己免疫は腸絨毛をのきなみ破壊していくのです。なぜそんな暴挙に出るのでしょうか。
セリアック病の患者の自己免疫は、小麦などを敵とみなしています。そこで小麦などでできている食物からグルテンを吸収することを邪魔しようします。それには腸絨毛を壊してしまえばいいのです。
患者の立場からすると「なんて余計なことをするんだ」となりますが、自己免疫の立場からすると「腸絨毛を壊すことで健康を守っている」となるのです。
セリアック病の治療
セリアック病がなぜ発症するのかは、現代医学をもってしても解明されていません。よって治療法はありません。
食べない
セリアック病は防げなくても、セリアック病によって発症するほかの病気は防ぐことができます。それはグルテンを摂らないこと、つまり小麦、大麦、ライ麦などを食べないことです。
ただ、グルテンを摂らないことは容易ではありません。まず主食のひとつであるパンが食べられません。そのほか、スープ、アイス、ソース、ホットドッグなども、市販品や外食を含め、グルテンを含んでいることが多いので避けなければなりません。食品のパッケージに「でんぷん」「充填剤」「結合剤」「増量剤」といった表示があるものも口にしない方がいいでしょう。
管理栄養士の指導
患者や患者家族のみの知識でこれだけの食品を避けることは困難を極めます。医師にすら難しい指導です。そこで、専門の管理栄養士による指導が受けられる医療機関を探す必要があります。管理栄養士に「NG食品集」を作ってもらい、これらを絶対に口にしないようにしなければなりません。
サプリメント
セリアック病では必要な栄養が摂れていないことがあり、それが健康を害するきっかけになってしまうことがあります。そのため、ビタミンやミネラルをサプリメントで摂ることは推奨されています。
まとめ
人の臓器や器官の働きは、人の意識でコントロールできるものと、コントロールできないものがあります。呼吸は意識的に止めることも激しくすることもできます。一方、心臓の動きは意識だけでは変えられません。そして自己免疫の働きは、意識でコントロールできないグループです。自己免疫が暴走しても、食い止めることができないのです。
花粉症も自己免疫疾患のひとつです。自己免疫が花粉を外敵と認識して、花粉を体の外に追い出そうとしてくしゃみや鼻水や涙を出します。いくら「花粉は外敵ではない」「鼻水よ止まれ」と意識しても、症状は治まりません。
セリアック病による小腸の腸絨毛の破壊活動も同じです。いくら「グルテンを摂取したい」「腸絨毛への攻撃をやめろ」と意識しても、自己免疫の破壊活動を止めることはできません。
自分の活動がコントロールできない病気、それがセリアック病であり、自己免疫疾患なのです。