麻疹(はしか)と風疹(ふうしん)は、似て非なる病気です。たしかに、麻疹と風疹は字面も似ていますし、発疹や発熱といった症状も似ていて、いずれも子供に好発する病気なので、なにかと二つセットで扱われることが多いかもしれません。
しかしながら、実は麻疹と風疹には大きな違いが存在していて、しかもその相違点をしっかりと把握しておかなければ、いざという時に不適切な対処をしてしまう危険性があるのです。
そこで今回は、麻疹と風疹の違い・相違点を比較しながら、二つの病気について紹介したいと思いますので参考にしていただければ幸いです。
麻疹(ましん・はしか)とは?
麻疹と風疹の二つを比較する前に、それぞれがどのような病気であるのか確認しておきたいと思います。
まずは、そもそも麻疹は、どのような病気なのでしょうか?
麻疹とは?
麻疹は、「ましん」と読みますが、同じ漢字表記で「はしか」とも呼ばれます。
麻疹は、麻疹ウイルスに感染して発症する急性ウイルス感染症・急性ウイルス性疾患です。
麻疹の原因
麻疹の原因は、麻疹ウイルスに感染することです。麻疹ウイルスは、数あるウイルスの中でも感染力が強力な部類に入り、免疫をもたない人が感染すれば9割以上が麻疹を発症します。
ですから、麻疹ウイルスについては、ウイルスに感染しても発症しない不顕在感染ということは、ほとんどあり得ません。
麻疹ウイルスの感染経路
麻疹ウイルスの感染経路は多岐にわたることからも、その感染力の強さが分かります。ウイルスの感染経路は主に接触感染・飛沫感染・空気感染がありますが、麻疹ウイルスはこれら全ての経路から感染する可能性があります。
麻疹ウイルスの潜伏期間
麻疹ウイルスに感染してから発症するまでの潜伏期間は、7~18日と幅広く平均すると14日間程度とされています。
麻疹の好発年齢
麻疹は、主に生後6ヶ月以降から2歳までの乳幼児に最も多く発症するとされています。これは、一般的に母親の麻疹に対する免疫が赤ちゃんに移行されることで発症が抑制されるのが、生後6ヶ月程度を過ぎると免疫が切れてしまうからです。
そのため、予防接種によってワクチン接種をするのですが、ワクチンによる抗体の働きが低下する10歳代後半から20歳代にかけても麻疹を発症しやすいとされます。
麻疹の症状
麻疹は、麻疹ウイルスに感染して潜伏期間を経た後に発症します。麻疹の症状は、カタル期・発疹期・回復期の3段階に分類することができます。
カタル期
カタル期は、いわば麻疹の初期症状と言える段階です。カタル期の症状は、発熱と上気道症状という風邪のような症状と結膜炎症状が現れます。また、麻疹に特有の症状として、口腔粘膜にコプリック班が現れます。
- 風邪様症状(38度前後の発熱、咳(せき)、くしゃみ、鼻水、倦怠感など)
- 結膜炎症状(目の充血、目ヤニ、流涙、場合によっては眼痛など)
- コプリック班(頬の裏側で奥歯付近の口腔粘膜に白いブツブツ状の膨らみ)
発疹期
発疹期は、麻疹の症状の第二段階にあたります。カタル期の後に熱が一旦下がるのが、カタル期と発疹期の境界になります。一旦熱が下がっても、半日から1日程度で再び発熱して、39~40度の高熱が生じます。そして、高熱とともに顔面や首などの上半身に赤い発疹が現れ、その発疹は徐々に全身に広がります。発疹期は、発疹が現れてから72時間・3日間程度続きます。
- 39~40度の高熱
- 赤い発疹
- 風邪様症状の悪化(咳・鼻水・倦怠感が酷くなり、下痢も伴い脱水症状の危険性)
回復期
回復期は、麻疹の症状の最終段階にあたります。高熱が下がり始めると回復期に入る徴候とされ、発疹も徐々に退色していき、茶色い色素沈着へと移行します。その色素沈着も数週間で徐々に消えて元の皮膚に戻ります。
麻疹の症状は10日前後で鎮静化しますが、回復期2日目くらいまでは麻疹ウイルスの感染力が残るため、高熱が下がってから3日を経過するまでは学校への出席停止とされます。
合併症
乳幼児と成人以降の大人の感染者では、重症化や合併症の危険性があります。合併症として引き起こされる病気は、ウイルス性肺炎や二次感染による細菌性肺炎・細菌性の中耳炎などで、極めて稀なケースでウイスル性脳炎が合併することもあります。
また、麻疹患者の半数には一過性の心電図異常が現われますが、稀に心筋炎という心臓の筋肉に炎症が生じる病気を合併することもあります。
麻疹の治療法・対処法
麻疹の症状を劇的に回復させる特効薬はなく、ウイルス性感染症には抗生剤の効果も見込めません。そのため、麻疹の治療は発熱には解熱剤、咳には咳止め薬、脱水症状には点滴による輸液などの対症療法になります。
ですから、家庭での看病が大切で、水分補給・栄養補給に気を配り、入浴による体力消耗は避け、安静を心掛けることで体力と免疫力の回復を図る必要があります。
風疹(ふうしん)とは?
麻疹についての概要をご理解いただけたと思いますが、それでは今回の記事において麻疹の比較対象である風疹は、どのような病気なのでしょうか?
風疹の概要について、ご紹介したいと思います。
風疹とは?
風疹は、「ふうしん」と読み、通称で「三日はしか」とも呼ばれます。
風疹は、風疹ウイルスに感染して発症する急性ウイルス感染症で、麻疹と同じく発疹性ウイルス感染症でもあります。
風疹の原因
風疹の原因は、風疹ウイルスに感染することです。
風疹ウイルスは、麻疹ウイルスに比べると感染力は劣るものの、過去に何度も風疹が大流行したように感染力は強い部類に入ります。風疹ウイルスに対する免疫力を持たない人が感染すると約8割前後が風疹を発症しますので、不顕在感染は2割前後となります。
風疹ウイルスの感染経路
前述したように、ウイルスの感染経路は主に接触感染・飛沫感染・空気感染がありますが、風疹ウイルスは接触感染と飛沫感染により感染します。
つまり、風疹ウイルスは空気感染によって感染することはなく、その点でも麻疹ウイルスより感染力が弱いと言えます。
風疹ウイルスの潜伏期間
風疹ウイルスに感染したから発症するまでの潜伏期間は、14~21日と平均しても2週間を超えます。ですから、風疹ウイルスの潜伏期間は、麻疹に比べると長いと言えるでしょう。
風疹の好発年齢
風疹は、主に5歳から15歳程度の子供に最も多く発症するとされていましたが、近年は成人以降に風疹ウイルスに感染・発症する場合も増えています。
国立感染症研究所の風疹発生動向調査では、ここ数年は20歳代から40歳代まで大人の発症数が半数を超えているとされています。これは、定期予防接種の制度の問題でワクチン接種率が低かったことなどによって風疹に対する免疫がない人が多いことが理由と考えられています。
風疹の症状
風疹は、風疹ウイルスに感染して潜伏期間を経た後に発症します。風疹の初期症状は、耳や首にあるリンパ節が腫れ、痛みを伴います。この痛みを伴うリンパ節の腫れは、風疹の特徴的な症状とされています。
リンパ節の腫れが現れてから数日経つと、顔を中心として薄いピンク色の発疹が現れ、徐々に全身に広がります。また、発疹と同時に38度程度の発熱も生じますが、患者によっては発熱が現れない場合もあります。発疹に痒みはありませんが、発疹と発熱は3~5日程度続きます。
このように風疹の主症状は、リンパ節の腫れ・発疹・発熱ですが、その他に風邪様症状(咽頭痛・咳・頭痛など)が現れる人もいます。
ちなみに、風疹も麻疹と同様に、解熱から3日を経過するか、発疹が消失するまで学校への出席停止とされます。
合併症
風疹の合併症として引き起こされる病気は、急性ウイルス性脳炎や急性血小板減少性紫斑病がありますが、いずれも非常に稀なケースとされます。
むしろ風疹の合併症で注意が必要なのは妊婦の女性で、妊娠初期に風疹ウイルスに感染すると、胎児に先天性風疹症候群(先天性風しん症候群)が発生する危険性が高くなります。
先天性風疹症候群
先天性風疹症候群は、概ね妊娠10週程度までの妊娠初期に母体が風疹ウイルスに感染した場合に、胎児に様々な症状や悪影響が現れる症候群です。また、母体が風疹の症状の現れない不顕在感染者であっても、先天性風疹症候群が胎児に発生する可能性があります。
先天性風疹症候群は、風疹ウイルスが母体から胎児にも感染することで、主に心奇形・聴力障害・眼異常が胎児に現れる他、場合によっては胎内死亡・流産・脳障害などが現れることもあります。
- 心奇形(肺動脈弁狭窄症など)
- 聴力障害(難聴など)
- 眼異常(白内障・緑内障など)
風疹の治療法・対処法
風疹についても、麻疹の治療と同様に症状を劇的に回復させる特効薬はありません。
そして、ウイルス性感染症には抗生剤の効果も見込めませんから、風疹の治療は解熱剤などによる対症療法となります。
麻疹と風疹の相違点
麻疹と風疹は、どちらも発疹や発熱が現れるウイルス感染性の病気で、子供に好発するという共通点があり、混同される傾向があります。
それでは、両者の間にはどのような違い・相違点があるのでしょうか?麻疹と風疹との間の違い・相違点を、ご紹介したいと思います。
原因についての相違点
麻疹と風疹は、いずれも急性のウイルス性感染症ですが、細かく見ていくと沢山の違いが存在しています。
原因ウイルス
まずは、原因となるウイルスが、麻疹ウイルスと風疹ウイルスで異なります。よって、当然ですが、麻疹ウイルスに対するワクチン接種をしても、その有効性は麻疹に対してのみですから、風疹にかかる可能性があります。逆もまた然りです。
感染経路
次に、麻疹は接触感染・飛沫感染・空気感染の全ての経路で感染する可能性があるのに対して、風疹は接触感染・飛沫感染による感染で空気感染はしません。
ウイルスの潜伏期間
また、麻疹のウイルス潜伏期間は平均すると14日程度なのに対して、風疹のウイルス潜伏期間は麻疹より長く2週間以上の潜伏期間となっています。
好発年齢
さらに、子供に好発するといっても、麻疹は2歳までの乳幼児に多く発症するのに対して、風疹は5歳以降の幼児・学童に多く発症します。
症状についての相違点
麻疹と風疹は、いずれも発疹や発熱が現れるなど症状に共通性が見られますが、やはり細かく見ていくと様々な違いが存在しています。
発熱について
麻疹と風疹は、いずれも発熱が現れますが、麻疹は38度前後の発熱後に一度下熱してから再び39度を超える高熱が現れるという二峰性発熱なのに対して、風疹は38度前後の発熱が一度という違いがあります。
発疹について
次に、いずれも発疹が現れますが、麻疹は赤みが明確に現れる発疹であるのに対して、風疹はどちらかというとピンク色に近い淡い色の発疹という相違があります。
特徴的な症状の違い
また、特徴的な症状が麻疹ではコプリック班であるのに対して、風疹ではリンパ節の腫れという違いもあります。
重症化の傾向と合併症について
さらに、麻疹は重症化しやすい傾向があるのに対して、風疹は重症化は稀ですが妊娠中の感染には危険性があり注意を要するという相違点があります。
発症から症状鎮静化までの期間
最後に、発症から症状の鎮静化までの期間が、麻疹は10日前後かかるのに対して、風疹は3~5日程度と麻疹より短いという違いがあります。
麻疹と風疹の予防方法
このように麻疹と風疹は共通性があるものの、良く見てみると原因や症状について様々な相違点があることがお分かりいただけると思います。
とはいえ、麻疹と風疹の予防方法については、どちらかというと共通性のほうが見出されます。そこで、麻疹と風疹の予防法・感染対策について、ご紹介したいと思います。
予防接種によるワクチン接種
麻疹や風疹などのウイルス性感染症の予防法・感染対策として有効性を発揮するのが、予防接種によるワクチン接種です。
生ワクチンの接種
麻疹や風疹の予防接種で接種されるワクチンは、いずれも生ワクチンと呼ばれるものです。生ワクチンとは、生きたウイルスから病気を発生させる力・毒性を弱めたものを含んだ弱毒性ワクチンのことです。生ワクチンが接種されると、毒性を弱められたウイルスが体内で増殖し、それに対する抗体が作られることで免疫が獲得されるのです。
接種するワクチンは、麻疹だけを予防する麻疹単独ワクチンと風疹だけを予防する風疹単独ワクチンもありますが、現在の主流は「麻疹・風疹混合ワクチン(麻しん・風しん混合ワクチン、MRワクチン)」となっています。
ちなみに、日本で生ワクチンが接種される病気は、麻疹・風疹・水疱瘡・おたふく風邪・結核(BCG)です。
現在の定期予防接種
現在は、定期接種として混合ワクチン予防接種の機会が2回用意されています。1~2歳で1回目を接種して、5~7歳で2回目を接種します。
2回接種するのは、1回目の接種で免疫が作られるのが約95%で、残りの5%の人は免疫を獲得できないためです。2回目の接種によって約99%の人が免疫を獲得できるとされています。
ちなみに、注意点として定期接種で定められた期間に接種を受ける場合は予防接種費用が無料となりますが、それ以外の期間に受ける場合は任意接種となり全額自己負担となります。
予防接種の副作用
予防接種で接種されるワクチンは弱毒性であるため、麻疹や風疹の症状は出ないのが通常です。
しかし、注射した部分が赤くなったり、接種後1週間くらいで発熱・発疹・じんましんといった症状が現れる場合もあります。とはいえ、いずれも一過性の症状ですので、それほど心配することはないでしょう。
抗体検査
前述したように、妊娠初期に風疹にかかると先天性風疹症候群の危険性が高まります。ですから、妊娠を希望する女性は、前もって風疹に対する免疫を獲得しておく必要があります。そして、免疫の有無を確認するのが抗体検査(血液検査)で、多くの自治体で妊娠希望の女性に対して無料で実施しています。
妊娠してからの予防接種は、できません。というのも、ワクチンに含まれる弱毒性ウイルスによって先天性風疹症候群を引き起こす危険性を否定できないからです。
まとめ
いかがでしたか?麻疹と風疹の違い・相違点について、ご理解いただけたでしょうか?
たしかに、麻疹と風疹は、発疹や発熱といった症状が似ていて、いずれも子供に好発する病気ですから、なにかと二つセットで扱われることが多いのも事実です。
しかしながら、実は麻疹と風疹の症状が似ていると言っても、よくよく細かく見ていくと症状も異なれば、症状を引き起こす原因についても異なるのです。
ただ、麻疹と風疹が似ていることにより、予防接種のワクチンを混合ワクチンにできるので、別々に接種することを回避できるのはメリットと言えるでしょう。
いずれにしても、麻疹と風疹の相違点をしっかりと把握しておかなければ、いざという時に不適切な対処をしてしまう危険性がありますので、お子さんをお持ちの方は注意しましょう。
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