最近、注目すべき感染症としてとりあげられているRSウィルス感染症。ほとんどの人が2歳までにかかります。でも、みんながかかるからといって安心してはいけません。
特に、生後数週間から数カ月の赤ちゃんを育てているママたちに、このウィルスの怖さを知ってもらいたいです。
RSウィルス感染症とは
RSウィルスとは、RSウィルス感染症という呼吸器の病気を引き起こすウィルスです。
ウィルスは日本はもちろんのこと、世界中に分布しています。一度感染しただけでは、免疫抗体はつくられず、何度も感染と発病を繰り返します。生後1歳までに半数以上、2歳までにはほとんど100%の乳幼児が1度は感染すると言われています。
感染力がとても強いため、沢山ある感染症ウィルスの中で、もっとも赤ちゃんが感染しやすいウィルスなのです。
RSウィルス感染症の一般的な症状
軽い風邪のような症状から重い肺炎まで、さまざまな症状があります。
何度もかかって免疫ができている大人の場合は、感染してもほとんど風邪の症状と同じで、重症にはならないものですが、免疫のできていない新生児、乳幼児など赤ちゃんは、症状が重たくなることがあります。特に、乳児期早期は要注意なのです。
免疫が出来たら、二度とかからないの?
免疫が出来ても、感染します。大人になっても、くりかえし感染するウィルスです。
ちょっと重い風邪をひいたと思ったり、インフルエンザかと思ったけれど、違ったなどと言う場合、もしかしたらRSウィルスに感染しているのかも知れません。免疫が出来ると、症状が軽く、風邪と同じような症状で、ひどい場合は気管支炎を起こすこともありますが、その程度で済んでしまうため、気づいていない人が多いのです。
なんで、赤ちゃんは感染したらいけないの?
実は、このウィルスは1回では免疫ができず、何度も繰り返し感染と発病を繰り返すことで免疫ができるのですが、その1回目、初回にかかったときの症状は、とても危険なのです。
赤ちゃんがRSウィルスに初感染するとどうなる
乳児期早期(生後数週間から数カ月まで)の赤ちゃんがこのRSウィルスに初めてかかると、細気管支炎や肺炎といった、重い症状を引き起こすことがあるのです。2歳までには、ほぼ100%の人が最低1度はかかり、免疫をつくりますが、初めてかかるときは、この乳児期早期を避けた方がよいのです。
特に、もともと心臓や肺に疾病をもっている赤ちゃんや、神経や筋肉の病気を持っている赤ちゃん、免疫力や体力が少ない赤ちゃんには、この時期には感染させないよう注意が必要です。免疫不全症を持っている場合には、重症化するリスクが高まります。
初期症状は
感染してから、通常は2日~8日で発症します。典型的な例は、感染してから4日~6日の潜伏期間を経てから、発熱、鼻汁などの症状が数日続きます。初回感染の場合、たいていは軽症ですむのですが、3割は咳が悪化するなどその後重症になることがあります。
重症になるとどんな症状がでるの
咳がひどくなったり、ぜいぜいいったり、呼吸困難となるなどの症状が現れます。場合によっては、細気管支炎や肺炎へと進展してゆきます。
場合によっては死にいたることも!
合併症を引き起こし、無呼吸発作や急性の脳症になることがあります。特に、生後1カ月未満の赤ちゃんがRSウィルスに感染した場合は、通常よくある症状とは異なる症状が出るので診断は困難なのです。そういった場合、突然死につながる発作を起こすこともあるので、赤ちゃんが小さいうちは、感染しないよう、気をつけなければなりません。
急性細気管支炎とは
細気管支器官が炎症をおこすことで、喘鳴(ぜんめい)が特徴です。呼吸をしているときに、ぜいぜいとか、ヒューヒューというような雑音がすることです。呼吸困難の症状の現れです。
ぜいぜいいっていたら、チアノーゼを起こしていないか(唇が黒っぽくなったり、顔色がひどく悪くなる)、呼吸の数に気をつけましょう。呼吸数は1分間に40回が平均で、60回近くなった場合には要注意です。ぜいぜい言うため、喘息ではと間違えてしまうことがあります。
風邪と診断されても
月齢の低い赤ちゃんの場合は、一度病院で風邪と診断されたとしても、様子を良く見て、機嫌が悪い状態がつづく、元気がないように見える、おっぱいやミルクの飲み方が悪い、あまり飲まない、熱が高い、咳がひどいなどといった場合、もう一度受診することも大事です。
咳がひどく、呼吸が変な時には、急いで病院へ連れて行くべきです。
RSウィルスの発生状況
冬から春に流行するってほんと?
2011年までは、冬にピークを迎え夏は発生が少なかったため、冬にかかるものと思っている人も多いようです。けれども、それは間違いです。2011年以降は7月頃から発生の報告数が増加してきているのです。
2014年には報告されたものによると、第30週(7月末)にはいってから徐々に増加し、34週~37週(8月3週から9月はじめ)には急速な増加がみられています。また、50週以降(12月3週め以降)、さらに急激な増加がみられました。
今年2016年はというと、昨年の冬から春までに一度流行がありました。1月から5月までの報告数は昨年の同時期に比べて少なく、今年はあまり流行っていないのだろうと思われていましたが、6月にはいり、大流行した2014年をうわまわる報告数があり、7月になってからも27日時点では過去3年で最も多い件数が報告されています。
RSウイルスの予防法
インフルエンザやその他の感染症にあるようなワクチンはありません。
感染し、発病することを繰り返すことで、体内に免疫ができます。ですから、初回感染の時期は、前述した乳児期早期(生後数週間から数カ月まで)を避け、症状が鼻汁では済まず、咳が出てきたらすぐにお医者さんにつれてゆきましょう。
風邪をひいている人に赤ちゃんをなるべく近付けない
大人は免疫ができているため、風邪のような症状ですんでしまいます。そのため、風邪かRSウィルス感染症か知らずにいる場合が多いのです。また、年長児にも同じことが言えます。
こういった場合に、赤ちゃんがRSウィルスに感染している人が咳やくしゃみをした時の飛び散った唾液を浴びてしまったり、通常会話をしているときに飛び散る唾液を浴びてしまったりして、そのウィルスを吸い込んで感染してしまうことがあります(飛沫感染)。
感染している人、風邪をひいているらしい人にはなるべく近づけないようにしましょう。また、風邪をひいている人は、赤ちゃんに近づくときには手指を消毒し、マスクを忘れずにしましょう。
感染している人にふれさせない
感染している人が身内にいる場合、たとえば咳をしたときに口を押さえた手を消毒せずに赤ちゃんが泣いてるからといって抱きあげたらどうなるでしょう。濃厚接触や、ウィルスが付いている手や指、またウィルスがついたままの手で触った物、ドアノブや手すり、おもちゃ、テーブル、椅子などに触ったり、なめたりすることで接触感染してしまいます。
感染している人が触れたテーブルや机など赤ちゃんが触れないようにするか、消毒をするようにしましょう。また、冷たいようですが、どんなに抱っこさせてと言われても、お断りしましょう。抱っこすれば、たいていの人が赤ちゃんに向かって話しかけますものね。
水痘、麻疹、結核のような空気感染はしない
感染している人が遠くでくしゃみをしたからといって、空気にウィルスがまじって飛んできて感染する(飛沫核感染)ということはありませんので、そこまで神経質になることはありませんが、くしゃみの唾液を浴びたりした場合は、飛沫感染のおそれがあります。
どんなことに注意すればいいの?
RSウィルスに感染し発症しやすいのは0歳児と1歳児で、飛沫感染や接触感染によって感染してしまいます。再感染以降は、風邪と同じような症状で、せいぜい気管支炎の症状で終わってしまうことから、大人だけでなく、RS感染症にかかっていても気づかない年長児もいます。
咳をしている、ぜいぜいしている、鼻水を出しているなど、風邪のような症状のある年長児や兄弟、成人には可能なかぎり、0歳児と1歳児は、接触させないようにするのが、唯一の予防策となります。
子供たちが常に触れるおもちゃや手すりなどはこまめに消毒をしましょう。
消毒の仕方
アルコールや塩素系の消毒剤で消毒します。また、外からかえったときは必ず石鹸を使って流水で手を洗うことを習慣にしましょう。大人はアルコール製剤を使って手指の消毒をするのもよいでしょう。
RSウイルスの治療方法
RSウィルス感染症の治療は、基本的には症状をやわらげる治療となります。病気にかかることで免疫をつくるのですから、軽い症状で済ますことを繰り返すのが自然なのです。
ただ、前述したような疾患をかかえる赤ちゃんには、ワクチンの代わりとなる製剤で、パリビズマブ(Palivizumab)という薬の投与があります。遺伝子組み換え技術から生まれたモノクローナル抗体製剤です。
RSウィルス感染症の流行の初期に投与を始め、流行期にはいってもつづけて1か月おきに筋肉注射をすることで、重篤な気道炎症の発症を抑制することが期待されています。しかし、この製剤を投与したからといって、必ず感染しないというわけではありません。医師と相談をしてみましょう。
この製剤は、投与の対象となる患者の条件が指定されています。
抗体製剤投与の対象となる赤ちゃん
- 早産(在胎期間が28週以下)で、12カ月齢以下の赤ちゃん
- 早産(在胎期間が29週~35週)で、6カ月月齢以下の赤ちゃん
- 過去6カ月以内に、気管支肺異形成症と診断されその治療を受けた24カ月齢以下の赤ちゃん
- 24カ月齢以下で、血行動態に異常が見られる、先天性心臓疾患の赤ちゃん
- 24カ月齢以下で、免疫不全を伴っている赤ちゃん
- 24カ月齢以下でダウン症候群の赤ちゃん
この製剤は、条件にあっているからといって必ず投与されるものではありません。投与するかどうかは、学会から提唱されているガイドライン等を参考として、赤ちゃんそれぞれの、個々の症例ごとに適用が考慮されます。
パリビズマブ製剤の投与は、保険の適用範囲となっています。
まとめ
- RSウィルス感染症の流行は冬だけではない
- RSウィルス感染症は2歳までに100%かかり、大人になっても感染をくりかえす
- 1歳以下の赤ちゃんにはなるべく感染させないようにする
- 鼻汁だけでなく咳が出るようになったらすぐ医者に見せる
- 赤ちゃんのいる家庭では、風邪をひいた人は接触しないようにする
- 赤ちゃんの触れるものなどはこまめに消毒する
- 風邪をひいた人は、赤ちゃんに近づくときにはマスクをするよう心がける
大事な赤ちゃん、健康に育ってほしいですね。