ライ症候群とは、聞き慣れない名前です。
皆さんが耳にしたことがあると思われる”らい病”(現在のハンセン病)とは全く違う病気です。現代では大人は罹患しにくいのですが、子供が熱を出した際にある物質を含むお薬などを投与することで起こる確率が高くなると言われています。子供は熱を出しやすいものですが、熱を出した時に何も考えずに大人用の解熱剤を与えていませんか?
ライ症候群と熱と解熱剤の関係から、一番の予防法である「知識」を身につけてしまいましょう。
ライ症候群とは
アスピリンの副作用として主に小児がかかる症候群といわれており、急性脳症や肝臓の病気を引き起こす危険のある状態をいいます。
ひどい場合は命にもかかわる状態なのですが、残念ながら原因はわかっておらず、症状も1つでないため、●●病ではなく、●●症候群と呼ばれています。症候群が悪化すると、徐々に重症化してゆき、さまざまな症状が出てきます。
ライ症候群は原因不明の病気
症状の種類が多く、1つに絞れないのですが、このライ症候群と深く関わっているとみられるのが、ウィルス性疾患の患者へのアスピリン投与です。特に、若年層の中でも幼い小児に多くの症例がみられています。
インフルエンザや水痘の予後があぶない?
主に、インフルエンザや水疱瘡などで発熱した子供にアスピリン(アセチルサリチル酸)を投与したことで、ライ病症候群を発症する率が高いことが分かっています。
インフルエンザ(A型、B型)や水痘(水疱瘡のこと)にかかって発熱している未成年に、治療中にアスピリンを投与すると、通常よりもライ症候群を発症する危険は35倍に高まるという報告もあります。
アスピリンは本当に危ないの?
実は、アスピリンを投与されても発症しないのが普通だといわれています。また、一部のライ症候群の患者はアスピリンを投与されなくても発症している事実もあります。ですから、単純にアスピリン投与が危険なのか、他の病気との関係があるのかははっきりとは判明していないのです。
しかし統計的に見て、発熱した19歳未満の子供にはアスピリンが危ないかもしれないということがわかっており、その為、アメリカの疾病予防管理センターをはじめとする各関連機関では、アスピリンだけでなく、アスピリンと同じ薬物を指すアセチルサリチル酸などが含まれたものを投与したり、摂取させることに警告を発しています。
現代ではアスピリンは薬局で簡単に手に入ります。また、市販されている薬品にも、アスピリンという名ではなくとも、アセチルサリチル酸を含む解熱剤なども多く販売されています。しかし、未成年のお子さんが発熱した場合には、安直に薬を飲ませることをせず、医師に相談することをお勧めします。
発熱した未成年には気をつけたほうがいい市販薬もある
日本では、「アスピリン」として売られているものが有名です。このお薬の箱の裏には「ピリン系ではありません」と但し書きがされていると思います。アスピリンは、その名前に「ピリン」とつくため、ピリン系のお薬だと勘違いされる方も多いのですが、アスピリンはピリン系の薬剤ではありません。アスピリンの原材料名には「アセチルサリチル酸」または、「非ピリン系」と書いてあります。
これら、アセチルサリチル酸を含むお薬は、ウィルス性の病気、先述したインフルエンザや水痘(水疱瘡)による発熱をした未成年の治療としては、危険が高いとされているのです。以下に挙げるお薬は、アセチルサリチル酸を含むお薬の一部ですが、これらは通常の発熱や大人にはとても有効な薬です。
アスピリン(アセチルサリチル酸)を含む有名なお薬
- アスピリン
- バファリン(子供用じゃないもの)
- エキセドリンA
- ケロリン
- ヒロリン
などがあります。
これらはどれも優秀な痛み止めや解熱剤なのですが、まれにアスピリンを服用することで喘息を起こす体質の人がいること、そして熱を出した未成年にはリスクもあることを覚えておきましょう。
ライ症候群の主な症状
ライ症候群は、その進度とともに、1期から5期に症状が分けられています。
第1期の症状
- 食事を変えてもなくならない嘔吐を繰り返す
- 全身がだるく、無気力になる
- 混乱する(パニック)ような精神症状が出始める
- 悪夢にうなされることもある
第2期の症状
- 小脳に炎症が起きることによる、身体の一部、あるいは全部の麻痺
- 過呼吸になる
- 生体検査により脂肪肝が発見されることがある
- 反射作用が過度になる
第3期の症状
- 第1、2期の症状も継続する
- 昏睡になることも出てくる
- 大脳浮腫に進展することもある
- 呼吸停止を起こすこともまれにある
第4期の症状
- 昏睡状態が深くなる
- 光に対して、最小反応を伴う瞳孔の拡大が見られる
- 肝機能不全の症状がみられることもある
第5期の症状
- 第4期の症状が急に出だす
- 深い昏睡状態に陥ることもある
- てんかん発作を起こすこともある
- 筋肉弛緩が見られる
- 血中にアンモニアが増加する
- 呼吸停止が起きることもある
- ひどい場合、死亡することもある
ライ症候群に似た症状の別の病気
ライ症候群は原因不明ですが、その症状は多岐にわたります。そのため、子供のころに起こりうる他の病気と間違われやすいものもあります。
代謝障害(先天性代謝異常)
ライ症候群の初期症状に、代謝異常が現れますので、間違いやすので注意が必要です。
頭部外傷によるもの
頭部外傷により、脳症と似たような症状が出ることがあります。ライ症候群は脳症に進展しますので、間違われることがあります。
別の原因からくる肝不全によるもの
ライ症候群は肝臓の代謝異常も引き起こします。これが、他の肝臓疾患と間違われてしまうことがあります。
ウィルス性脳炎
ウィルス性の脳炎と、ウィルスから発症したインフルエンザとアスピリン投与から発症したと思われるライ症候群から発病する急性脳炎とは、区別のつきにくいものです。どちらにしても、至急の処置が必要なのですが、ウィルス性脳炎では肝臓疾患を引き起こすことはまれなので、経過検査が必要になります。
脳髄膜炎
これも、脳炎と同じような症状が出ますし、またてんかん発作も引き起こしますので、ライ症候群から進展したものか、他の原因によるものか、精密な検査が必要となります。
ライ症候群の検査方法と治療方法
ライ症候群の検査方法
前述した症状がある場合、血液検査が必要です。血液の中の白血球の量や、肝機能に異常が出ていることを示す値などを調べます。ライ症候群である場合には、血中のアンモニアの増加や、低血糖や乳酸値の上昇が見られます。また、ケトン血症が見られることがあります。
髄液を採取しての検査では、細胞数の増加は見られないのですが、肝臓の生体検査では、脂肪が見られることから、ライ症候群であるかないかが判断されます。
また、頭部のCTやMRIの検査もすることがあります。ライ症候群の場合は、この検査で脳浮腫が認められます。
ライ症候群の治療法
実はライ症候群は、現代ではとてもめずらしい病気なのです。成人の場合、重篤な症状にはいたらず、ほぼ完全回復すると言われています。しかし、幼い子の場合は別となります。
小児、あるいは19歳以下の場合、ライ症候群を見逃して他の病気と間違えてしまい症状が重篤化してしまうと、後遺症として脳に障害が残ってしまうこともあります。また、そのまま進展すれば死に至ることもあるのです。
ライ症候群を発症したとみられる際は、その時点での症状を緩和する治療がとられます。また、同時に血糖値や血圧、脳圧、体温などの管理も行われ、症状に応じては高アンモニア血症に対する治療や、脳浮腫に対する治療なども行われることになります。場合によっては、血液の透析なども行う必要がある場合もあります。
お子さんに熱が出たら
熱を出して苦しそうなお子さんを見ると、すぐに熱を下げてあげたくなるのが親心です。前にもらった解熱剤や座薬をとりあえずは使おう、と思ってしまうかもしれません。けれども、そこには危険があります。
熱は何のために出るかというと、身体が闘っている証拠なのです。身体の中の菌やウィルスは熱に弱いため、体温を上げることでウィルスの繁殖を抑えたり、細菌の活動を鈍くしたりするのです。さらには、体温が上がることで外から侵入する病原菌と今後闘うための免疫細胞を作り出そうとするのです。
身体が懸命に闘っているから、熱が出るのですが、これを薬で無理やり下げてしまうと、身体が丈夫になろうとする力を奪ってしまいかねないのです。
どうしても心配な場合は、まずは病院へ連れてゆきましょう。変な物を食べたりしていないのに嘔吐する、インフルエンザのように高熱が出るなどしても、安易にアスピリンを含む市販薬を与えないのが、ライ症候群に対する一番の予防策であると言えるのです。
大人にとっては38度の熱はかなり辛いものですが、子供は大人よりも、熱の辛さを感じないように出来ているようです。ただし、急に高熱が出ることで痙攣がでる場合があります。熱性けいれんといいます。乳幼児特有のものですが、その場合はすぐに医師に見せましょう。
熱性けいれんを伴う場合
熱性けいれんは、5歳くらいまでの乳幼児に多いもので、38度以上の高熱が出ることで起こる、痙攣や意識障害のことをいいます。この症状が出たら、まずは様子を細かく見てください。痙攣の頻度、時間、様子などを細かく見てメモしましょう。
無理に起こしたり、大声をかけたり、ゆすったりしてはいけません。嘔吐の危険もあるので、身体のむきは横向きにし、見守ってください。症状が落ち着いたら、体温を測り、しばらく様子をみます。意識がはっきりしたら、病院へつれてゆきましょう。ただ、以下の場合には、救急車を呼ぶ必要があります。
- けいれん発作が5分以上続くとき
- 一度治まっても繰り返しけいれんが起こる時
- けいれんが治まっても意識がなかなか戻らない時
- 身体のどこかに麻痺がみられる場合
- 身体の一部、または部分的に強く痙攣している場合
【参考】症候性てんかん
まとめ
熱が出たくらいなら風邪だろうからとりあえず市販薬を飲んで様子をみて・・は、未成年には危険もあるということをお分かりいただけたでしょうか。風邪くらいで病院へいくなんて、と思われるかも知れませんが、風邪は万病のもと、という昔からの言い伝えを大事にしましょう。
どの病気にも言えることですが、知ることで防げるものが沢山あります。知らないことは、遠慮せず医師に聞けばよいのです。自己判断で投薬したり、放置することは、避けたいものです。
「子供の熱には大人の薬を与えずに医師に相談する」を守ってくださいね。