勉強や仕事で頭を使いすぎたとき、風邪をひいたわけではないのに熱が出たという経験はありませんか?このようなとき、「知恵熱が出た」という表現がよく使われます。
しかし、本来「知恵熱」とは、ある時期の乳児が引き起こす原因不明の発熱のことを示し、大人に見られる症状を示すものではありません。とは言うものの、大人の場合においても、明確な原因があるわけではないのに熱が出ることがあるのも事実です。
そこで、ここでは、知恵熱についての症状や原因について、大人と乳児、双方のケースをご紹介いたします。
大人の知恵熱
頑張りすぎたときや、頭を働かせすぎたときに出る、いわゆる“大人の知恵熱”は、正確には「心因性発熱」または「ストレス性高体温症」と言います。
心因性発熱には、37度程度の微熱が続く慢性タイプと、緊張やストレスで突然38~39度の高熱が出る急性タイプ、そして、慢性と急性のどちらの症状も出る合併タイプがあります。
心因性発熱の原因は?
心因性発熱は、仕事が急激に忙しくなる、極度の緊張、人と喧嘩をするなど、突然大きなストレスがかかったときや、残業や介護などで慢性的に疲弊しているときなど、何らかの要因が重なり、精神的・体力的なバランスが崩れたときに起こります。
このような状況に置かれると、ストレスを対処しようと脳が指令を出し、交感神経が活発に働いて体温を上昇させようとするため、このような症状が見られるのです。
風邪の発熱との違いは?
ストレスが原因となる心因性発熱の場合、風邪薬や解熱剤などを服用しても効果がありません。これは、心因性と風邪による発熱では、熱が出るメカニズムが大きく異なることが起因しています。
風邪などのウイルス感染によって熱が出る場合、私たちの体内では「炎症性サイトカイン」や「プロスタグランディンE2」と呼ばれる物質が生産されています。
漢方薬や風邪薬は、これらの物質の生産を抑制することで解熱効果をもたらすのですが、心因性発熱の場合、サイトカインやプロスタグランディンE2の生産が発熱の原因になっているわけではないので、薬を服用しても明確な効果が得られないというわけです。
知恵熱の症状
心因性発熱の場合、熱が出るといった症状のほかにも、以下のような症状が見られます。
- 発熱
- 頭痛
- 全身の倦怠感
- 集中力の低下
- 精神不安定
- 食欲不振 など
また、急性タイプのように突然高熱が出るケースでは、原因となるストレスから解放されると、熱が下がることが多いようですが、慢性タイプのように微熱が続く場合は、ストレスから解放されたあとも、しばらく発熱が続くことがあります。
本人が明確な負担を感じていなくても、思わぬことがストレスとなり、このような症状が起こることがあります。病院で検査をしてもとくに異常が見られない場合は、心身ともに無理な状況ではなかったかを振り返ってみましょう。
治療法
心因性という言葉がつく病気ですので、根本的な治療法は、やはり原因となるストレスを軽減させることが一番の治療法と言えます。
病院で「心因性発熱」と診断された場合、ストレスを取り除くほかに、以下のような治療法が行われます。
<生活バランスの改善>
ストレスが原因で発熱する人は、真面目で頑張り屋の人が多いと言われています。このような人は、生活の中で「優先順位」をつけるのが不得意で、やらなければならないことを全て完璧にこなそうと頑張ってしまうのです。
まず、生活のペースを落とし、仕事や家事をする際、全力ではなく7割くらいの力で取り組む練習をします。そのことに嫌悪感を抱く人もいますが、身体を壊しては元も子もありません。治療のためと思って、「さぼっているのではないか」といった考えは捨てて取り組みましょう。
また、休憩をとることも忘れてはなりません。行動する時間と休む時間をしっかり分けて、生活にメリハリをつけることが大切です。休息するときは、まぶたを閉じて目も一緒に休ませると、さらに脳をリラックスさせることができます。
このような症状が出るのは、精神的に弱いからだと思い込み、メンタル面を鍛えようとする人もいますが、これは元気になってから取り組めば良いことで、治療時には負担になる可能性の方が高いと言えます。「改善する」「強化する」といった意識ではなく「身体の休ませ方を覚える」といった認識で、治療に取り組むことをおすすめします。
<薬物療法>
病院などで、心因性発熱に対して薬が処方される場合、解熱剤は処方されません。先にも述べたように、風邪などのウイルスによる発熱ではないため、薬を服用しても効果が得られないからです。
病院で薬物療法を勧められる場合、安定剤や抗うつ剤、睡眠が十分に取れない症状も併発している場合には睡眠導入剤などが処方され、「熱」に対するアプローチよりも、「ストレス」に対してアプローチする薬が処方されます。
しかし、このような心因性による症状での薬物療法は、人によっては逆効果になることもあります。薬では根本的な治療ができないことを頭に置き、治療のためのサポートとして脇役程度に考えておく方がベターでしょう。
また、薬を服用する際には、用法・用量を守って正しく服用することが大切です。
乳児の知恵熱
冒頭でも述べたように、知恵熱とは、本来乳児に見られる症状を示します。生後6ヶ月~1年ほど経ったあたりの、ちょうど知恵がつき始める時期に発熱の症状が見られ、大人の知恵熱とは異なり、ウイルスや細菌が原因となるのが特徴です。
乳児の知恵熱の原因は?
赤ちゃんは、胎内にいる間に母体から免疫をもらっており、生まれてからしばらくはその免疫が残っています。しかし、生後6ヶ月を過ぎたあたりから、母体からもらった免疫が切れるため、ウイルスや細菌に感染しやすくなるのです。
また、生後6ヶ月~1年を過ぎた、1歳~4歳でも子供は知恵熱を出すことが多々あります。ウイルスや細菌が原因となっていることに変わりはありませんが、成長するに伴い、原因も若干異なってきますので、年齢別に原因を見てみましょう。
<0歳~1歳>
身近なウイルスや細菌に感染します。特別な環境下でなくても、少しの間人ごみに連れて行ったり、初めての場所に行くだけでも、熱が出ることがあります。
母体からもらった免疫が切れ、自分の免疫力・抵抗力で初めてウイルスや細菌に挑むため、大人ならば平気なウイルスにも容易に感染してしまうのです。
<2歳~3歳>
このくらいになると、乳児の時期に比べると免疫力・抵抗力はついてきますが、幼稚園や保育園などで集団生活が始まるようになります。すなわち、「初めての環境」でいろいろな体験を重ねるということです。
これらの疲れによって、身体の抵抗力が落ちたときに、まだ会ったことのないウイルスに出会うと、簡単に感染してしまいます。
<4歳~>
徐々に免疫力・抵抗力がつき、前のように簡単に知恵熱が出ることは少なくなりますが、遠足や運動会などの行事があると、子供は体力も精神力も使います。いくら楽しそうにしていても、身体は疲れてしまうのです。
疲れるとウイルスや細菌に感染しやすくなるため、このくらいの子供は、何か特別な行事の後に、知恵熱を出すといったケースが多々見られます。
子供の知恵熱についての明確な病原体については、まだ明確にはわかっていません。原因不明の高熱を引き起こすウイルスや細菌は、数え切れないほど多く存在していると考えられます。
出会ったことのないウイルスに抵抗するために知恵熱を出しながら、自分の免疫力・抵抗力を徐々に培っていることを考えると、知恵熱は、成長における大切なステップであると言えるでしょう。
症状
子供が知恵熱を出した場合、ほかの病気と見分ける必要があります。知恵熱とほかの病気を見分ける際には、以下のような知恵熱の特徴に注意して症状を観察してください。
- 急な発熱で、長引かない
- 鼻水や咳、腹痛や下痢といった熱以外の症状が出ない
- 微熱と高熱を繰り返さない
知恵熱の場合、熱がドンと上がって、翌日にはケロッと治っていることがほとんどです。症状が長引く場合や、熱以外の症状が見られる場合には、別の病気の可能性もありますので、すぐに病院で診察を受けましょう。
治療法と予防策
ここまで見てわかるように、知恵熱は子供の成長のためには、必要不可欠な症状であることがわかります。よって、これらを予防するということは、成長に必要な“身体機能の準備”を邪魔することにもつながりかねません。
しかし、健康的な成長をサポートする意味で、普段の食生活から栄養をバランス良く摂取しておくことは大切です。小さな子供は、野菜を嫌う子が多いですが、ただでさえ日本は野菜や果物の摂取量が、諸外国に比べて少ない傾向にあります。
また、野菜や果物そのものの栄養価自体も、昔に比べて減少していると言われています。例えば、1985年に採れたトマトにはビタミンCが40g含まれていたのに対し、2005年に採れたトマトのビタミンC含有量はたった15gと、約3分の1も減少しているのです。
これは、日本人の味の好みに合わせて幾度も品種改良された結果です。ですので、普段から野菜を摂取することを意識しておくことは、育ち盛りの子供を持つ親としては、非常に大切なことなのです。
また、治療法としては、安静にして休んでいれば、ほとんどの場合治まります。消化の良いものを食べて、ゆっくり寝るのが一番です。
熱が高くて辛そうなときは、首の後ろや頭、脇などの太い血管が通っている部位を冷やしてあげると良いでしょう。あまりにも熱が高い場合には、病院へ行って解熱剤をもらうというのも方法の一つです。
まとめ
いかがでしたでしょうか。原因が何であれ、熱が出るということは、身体が元気を取り戻そうと戦っている証拠なので、良いことなのですが、その分エネルギーを消耗するので、体力を奪われるのも事実です。
知恵熱が出たときは、大人の場合も、子供の場合も、ゆっくりと心身を休めることが大切です。また、子供の場合は、自分の症状をはっきりと伝えることができないこともあるので、日頃から丁寧にコミュニケーションをして、できるだけ早く体調の異変に気づいてあげられるようにしたいものですね。