厚生労働省と東大医学部産婦人科は2016年1月、共同でサイトメガロウイルスに関するホームページを開設しました(URL:http://cmvtoxo.umin.jp/)。「このウイルスに感染すると、胎児の流産、死産、脳の障害を引き起こす」と強く注意喚起しています。
マスコミで騒がれた「ジカ熱」同様、お腹の中の子供に深刻な影響を及ぼします。そしてこれもジカ熱と同じなのですが、ほとんどの大人はこの病気にかかっても大きな影響がないのです。それゆえに、対策を取りにくい病気といえます。
そしてジカ熱と違う点は、サイトメガロウイルス感染症は国内でも多く発症しているということです。
サイトメガロウイルス感染症の症状
サイトメガロウイルス自体の解説は、後で詳しく解説します。まずはこのウイルスに感染するとどのような症状が起きるのか、またはどのような事態に陥るのかについてみてみます。
胎児に重大な影響
妊娠中に母親がサイトメガロウイルスに感染すると、胎盤を経由して赤ちゃんに感染します。赤ちゃんが感染すると、10~30%の確率で出産後に異常が発生します。
最悪、流産や死産といった命に関わることがあります。命が救われても、脳に障害が残ったり、聴力が失われることもあります。
難聴は、小さいうちは異常がないのに、成長につれて発症することがあります。その場合、「胎内感染による症状がこの年齢になって難聴として現れた」ことを特定することはとても難しいでしょう。
大人の症状
大人のサイトメガロウイルス感染症の症状の特徴は「無症状もありうる」ことです。また症状が出たとしても「風邪かな?」と思っているうちに治まることもあります。
まれに悪化すると、だるさ、肝機能の異常、脾臓の異常、発熱、湿疹、のどが痛む、首が腫れる、といった症状が起きます。
大人の中でもより深刻な事態に陥るのが、免疫力が落ちている人です。具体的には、糖尿病や人工透析を受けている人、がん患者、免疫抑制剤の投与を受けている人です。こうした人がサイトメガロウイルス感染症を引き起こすと、肺炎になることもあります。免疫力が落ちている人にとっての肺炎は「死の病」になりかねません。
そのほか、網膜炎という目の病気や、胃腸炎や脳炎などが発症しやすくなります。
サイトメガロウイルスとは
ここで用語の解説をします。「サイトメガロウイルス」はウイルスの名称です。「サイトメガロウイルス感染症」はウイルスに感染して体調が悪くなったときの病名です。
つまり、このウイルスに感染しても症状が出ないこともあるのです。
珍しくないウイルス
サイトメガロウイルスは、世界中どこにでも存在する珍しくないウイルスです。また、感染しても大抵は「悪さ」はしません。なので日本人でも、感染していても気付かず過ごしている人は多く存在します。
日本人の約7割が既に感染しているという研究データもあります。
特定の場合に限り最悪の結果を引き起こすので、予防への取り組みが遅れたり、この病気の認知度が高まらなかったりします。厚生労働省の専用サイトが2016年になって開設されたのも、その一例といえるでしょう。
感染経路
母親を経由して胎児に感染することは申し上げた通りです。母子感染の他に、サイトメガロウイルスは、大人になっても感染します。ウイルスは感染者の膣液、精液、唾液、血液、涙、便、尿、母乳に排出されます。そのため、こうした「液体」に接触することで感染します。セックスによる感染が多いウイルスです。
またインフルエンザのように、くしゃみや咳による飛沫感染はしません。
母親が注意すべきこと
大人が感染しないようにするには、感染者と接触しないことに限ります。しかし胎児への感染は、予防ワクチンがまだ開発されていないため、母親が気を付けなければなりません。
妊娠後の感染に注意
赤ちゃんに障害が残るのは、妊娠後に母親がサイトメガロウイルスに感染することです。つまり、母親が数十年前に感染して、その後に妊娠しても、子供に感染することはまれなのです。
また、赤ちゃんが生まれた後に授乳や輸血などでサイトメガロウイルスに感染しても、症状も障害も発生しないことが多いのです。
ですので「妊娠したら注意する」これこそがサイトメガロウイルスによる悲劇を回避する重要なポイントなのです。
上の子供に注意
これまでサイトメガロウイルスに感染したことがないお母さんが、妊娠後に感染するケースで最も多いのは、お腹の赤ちゃんの兄や姉から感染することです。
兄や姉が保育園や小学校などで感染し、それがお母さんにうつり、そしてお腹の中の弟または妹にうつってしまうのです。残酷な経路です。東大医学部などは、妊婦が感染リスクを減らす方法を6つ提示しています。
- 頻繁に手を洗う。石鹸と水道水を使い、20秒以上しっかり洗うこと。特に上の子供のオムツ交換の後や、食事の後、鼻水やよだれを処理した後は念入りに手洗いしましょう。
- 上の子供のおもちゃや家具をしっかり洗う。石鹸、アルコール、漂白剤が有効。
- 上の子供とお母さんの箸やスプーンやコップは別々にする。使いまわし禁止。
- 上の子供へのキスは唇や頬を避ける。おでこへのキスや抱きしめはOK。
- 布団や敷物は天日で十分乾燥を。サイトメガロウイルスは乾燥に弱いため。
- お母さんが保育園や学校など子供がたくさんいる場所で働いている場合、①~⑤を職場でも徹底する。
妊婦への検査
妊娠後の初感染が疑われる場合、妊婦は検査を受ける必要があります。
超音波検査
最初に行う検査は超音波検査です。胎児や胎盤に異常がないか調べます。超音波が映し出す画像で、脳の大きさや頭蓋内の石灰化の様子、発育不全などが分かります。
さらなる精密検査
超音波で異常が見つからない場合でも安心はできません。まだ医療保険が適用されていないのですが、という特殊な検査を行います。これによってかなりの高い確率で、感染の有無が判定できます。
「羊水CMV DNA検査」という検査は、「IgG avidity測定」より高度な検査となります。著音波検査や「IgG avidity測定」で異常が見つからないが、それでも感染の疑いがゼロでない場合に行われます。「羊水CMV DNA検査」で問題なしと出れば、ほぼ感染の疑いは消えます。
ただ、この段階で母親への感染が判明しても、6割の胎児には感染しません。さらに感染した4割の胎児でも、何らかの障害が生じるのはそのうちの10~15%です。産婦人科の医師たちは、こうした内容を母親にしっかり伝えるようにしています。
サイトメガロウイルス感染症の治療
免疫グロブリン
妊婦にサイトメガロウイルスの感染が疑われた場合、胎児への影響を考慮して「免疫グロブリン」という薬が処方されることがあります。しかしこの薬に感染を抑える力はありません。この薬は、胎児の血小板減少や肝機能異常に対する効果を期待して投与されるのです。
ガンシクロビル
サイトメガロウイルスに感染した赤ちゃんには、ガンシクロビルという薬があります。難聴が改善したり、難聴の進行が止まる効果が期待できる薬です。また精神障害や運動障害が軽度になるという研究結果もあります。
しかしガンシクロビルは6週間にわたって点滴投与する必要があるので、赤ちゃんにとってはとても大きな負担となります。
また、このガンシクロビルは副作用が心配されます。母親にとって発がん物質になりうる可能性がゼロではありませんし。また「骨髄抑制」という症状が起きることも報告されています。骨髄抑制とは、白血球などが減少し出血しやすくなったり貧血を招いたりする症状です。
まとめ
この病気くらい「病気の知識を持っておいて良かった」と感じさせる病気はないでしょう。
「将来のママ」だけでなく、「将来のパパ」もこの病気について、少なくとも1度はインターネットで調べて勉強するとよいでしょう。
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