夏風邪とは、どのような症状のことを言うのか、ご存知でしょうか?「夏に風邪をひくと、夏風邪?」…あながち間違ってはいませんが、このように、言葉は聞いたことがあるものの、詳しい説明をいざしようとすると、ピンとこない人が多いのではないでしょうか?
夏風邪は、暑く、湿度の高い気候を好み、夏になると、活発に活動を始めるウイルスに感染する、感染症のことを言います。暑い夏は、夏バテを起こしやすく、体力や免疫力も低下しやすいため、感染する可能性が高くなり、また、回復にも時間がかかるケースが見られます。
そこで、ここでは、夏風邪の原因となるウイルスが引き起こす症状や、回復までの注意点などをご紹介いたします。
夏風邪の原因となるウイルス
そもそもウイルスは、気温が低く、乾燥した環境を好むため、冬に風邪をひくことが多いのですが、全てのウイルスが、そうだというわけではありません。
ウイルスは、200種類以上も存在し、その中には、温度差や湿気に強く、暑さを好むウイルスもいるのです。そしてそれが、夏風邪と呼ばれる症状を引き起こす原因になっています。
さて、では、夏風邪の原因ウイルスとしてよく見られる、3つのウイルスについて、見ていきましょう。
アデノウイルス
アデノウイルスとは、小さな球形粒子状のウイルスで、細胞の表面には、アンテナのような突起が12本ある、「ノンエンペローブウイルス」と呼ばれるウイルスの一つです。
ノンエンペローブウイルスとは、アルコール消毒液などのダメージを受けにくいウイルスです。胃酸や胆汁酸にも抵抗できるため、口から侵入すると、腸管に感染してしまうこともあります。
ウイルス名についている「アデノ」とは、扁桃腺やリンパ節を意味し、文字通り、喉元を中心に増殖するウイルスで、潜伏期間は5~7日と言われています。
現在、51型まで発見されており、その種類によって症状も異なりますが、代表的な症状としては、喉の痛みや咳、発熱、結膜炎などがあげられ、腸管に感染すると、下痢や腸炎といった症状も引き起こします。
エンテロウイルス
エンテロウイルスとは、ポリオウイルスやコクサッキーウイルス、エコーウイルスなど、共通した性質を持つウイルスの総称で、日本では2005年から検出されているウイルスです。
別名「腸管ウイルス」と呼ばれており、口から侵入し、まず喉で増殖し、さらにその後、腸管で増殖します。アデノウイルスと同じように、ノンエンペローブウイルスのため、アルコール消毒は効果がありません。
また、EV68~71型、73型など、エンテロウイルスの種類も様々で、それぞれ症状が異なるのですが、代表的な症状としては、発熱、鼻水、咳、体や筋肉の痛みが初期に現れ、その後、ウイルスの種類によって、胃腸炎を起こしたり、呼吸器に問題が出るといったように症状が異なってきます。
なかでも重症化の可能性が高いD68型の場合は、麻痺が生じる場合もあります。
コクサッキーウイルス
エンテロウイルスに総称されるウィルスの一つで、有名な病気だとヘルパンギーナという病気があり、その他には特に乳幼児や子供にかかりやすい夏風邪や手足口病や髄膜炎などの症状を引き起こすウィルスです。
このウィルスによって発症する病気を患う人のほとんどは5歳以下の子供であり0歳〜1歳が特に多くそれから順に2歳3歳4歳という順で発症の確立が低くなっていきます。
手足口病などは子供に起こりやすい夏風邪ですが、稀に大人に感染することもあります。子供の看病をしていたことなどが感染経路になり感染するケースがあります。大人に感染した場合子供に比べて重症化しやすく、食物が喉を通らないほど口の中に口内炎が出来ることもあります。
コクサッキーウイルスが引き起こすヘルパンギーナも発熱や口内炎などの同様の症状が現れます。
ニューヨーク州のコクサッキーで初めて確認されたのでこの地名が付けられています。A群24型とB群6型に分けられ、喉にウィルスが付着しそこにウィルス血症が出来て全身に広がっていきます。
夏風邪として代表的な3つの感染症
夏風邪は、ある特定の1つのウイルスが、1つの病気の原因になっているわけではありません。これはつまり、Aという病気の原因となるウイルスが、「ウイルス1」の場合もあれば、「ウイルス2」の場合もあるということです。
そのため、一度感染した病気でも、そのとき感染したのとは違うウイルスに感染すると、また同じ病気に感染する可能性もあります。
さて、それでは、夏風邪として代表的な3つの感染症について、見ていきましょう。
ヘルパンギーナ
ヘルパンギーナは、エンテロウイルス属に属するウイルスが原因となって発症する場合がほとんどです。なかでも多いのが、エンテロウイルス属のコクサッキーウイルスA群やコクサッキーウイルスB群です。
ウイルスは、体内に侵入すると2~4日の潜伏期間を経て、突然、症状として現れはじめます。
初段階では、急な発熱、喉の痛みが現れ、さらに進行すると、口の中や喉の奥に、水泡や重度の炎症(口内炎)が起こり、ひどい場合には、急激な発熱によって痙攣を起こしたり、合併症として無菌性髄膜炎を発症するケースも見られます。ほかにも、軟便・下痢といった症状が出る人もいるようです。
口の中が痛むため、食事が困難になり、脱水症状になりやすいので注意が必要です。1週間程度で、熱も下がり、水泡も治ると言われていますが、感染力の非常に高いウイルスなので、しばらくは用心して経過を見ることが大切です。
詳しくは、ヘルパンギーナに大人が発症したときの症状は?対策も紹介!を参考にしてください。
手足口病
手足口病も、ヘルパンギーナと同じように、エンテロウイルス属に属するウイルスが原因となって発症します。なかでも多く見られるのが、エンテロウイル属の、コクサッキーウイルスA16型、A4型や、B2型、B5型、あるいはEV71型などです。
ウイルスは、体内に侵入すると3~5日の潜伏期間を経て、その後、発熱や喉の痛みなどが症状として現れます。そして、手のひらや足の裏、口の中にも水泡が現れ、感染ウイルスがEV71型の場合は、頭痛や嘔吐などの症状が見られることもあります。
1週間から10日前後で、自然と治っていくケースがほとんどですが、まれに急性髄膜炎や、急性脳炎を生じることがあります。
また、ヘルパンギーナと症状が似ていますが、ヘルパンギーナの場合、手足には水泡は出ず、手足口病より高い熱(38~40度)が突然出ます。手足口病の発熱は、大体37~38度です。
こちらもまた、感染力が強いため、水泡が良くなってからも、2週間ほどは、飛沫・接触・糞口の全ての感染経路に注意しましょう。
詳しくは、手足口病が大人に発症した時の症状とは?感染経路や治療法について!を読んでおきましょう。
咽頭結膜炎(プール熱)
咽頭結膜炎は、プール熱とも呼ばれていますが、プールのみで感染するわけではなく、飛沫・接触といった経路であれば感染の可能性は、十分にあります。
原因となるウイルスは、アデノウイルスの51種類の血清型のうち、3型を主とし、そのほかにも4型、7型、あるいは2型、11型、14型などがあげられます。
5~7日の潜伏期間を経て、発熱、頭痛、喉の痛み、さらには胃腸炎や下痢、結膜炎を発症し、3~5日程度、このような症状が続きます。また、結膜炎によって、目やにや涙目、光を眩しく感じるなどの症状が現れることもあります。
なかでも、アデノウイルス7型に感染した場合、小さな子供や高齢者は重症化しやすい傾向があり、呼吸障害や二次感染も併発しやすいので、早急な対応が必要です。また、38~40度の高熱を伴うため、脱水症状を起こさないよう、気を付けなければなりません。
夏風邪が治りにくい理由
鼻や喉で感染が起こり、その部分の炎症により熱などの症状が発生する冬の風邪に比べて、夏の風のウィルスは腸内で増殖し、その排出に時間がかかることから夏風邪は長引きやすいという特徴を持っています。
さらに夏風邪を発症させるウィルスに対する有効な薬が今のところ開発されていないことも、長期化してしまう原因の一つです。市販薬などでも売られるような特効薬があれば良いのですが、今のところ開発されていません。
特に夏は、その暑さにより体力の低下や食欲不振などの症状も出やすい時期で、それが原因で抵抗力が下がったタイミングでこのウィルスが体内に侵入しやすくなることで病気を発症します。もともとの免疫が低下しているところにウィルスが侵入することで症状が長引き治りにくい環境が続いてしまう原因になっていると考えられるでしょう。
夏風邪を治し方は?
夏風邪特有のウイルスに感染しても、現段階では予防接種や、治療に使用するワクチンなどがないため、明確な「治し方」というものがあるわけではなく、ウイルスが死滅するのを待つしかありません。
まずは、病院で受診し、それぞれの細かな症状に対する対処療法となる薬を処方してもらいましょう。
さて、ここからは、ウイルスが減退し、夏風邪が治るまでの療養中の過ごし方で、気を付けるべき点について、ご紹介いたします。
こまめな水分補給
ウイルス感染による症状は、非常に体力を消耗します。まずは安静にして、良質な睡眠をとることが大切です。また、夏で汗をかきやすい環境の中で、さらに発熱や下痢などによって水分を奪われるため、脱水症状を起こしやすい状態になります。
手のひらに塩を乗せ、それを舌先でつつく程度の塩を摂り、同時にこまめな水分補給を忘れず、療養しましょう。横になって休む場合には、枕元にお水と塩をセットで常備しておくと良いでしょう。
もし用意があればこの時の水分補給にはより体内の水分に成分が近く吸収が行われやすい経口補水液が好ましいでしょう。スポーツドリンクでも良いですが、スポーツドリンクは水分量が多いため経口補水液のほうが吸収率は高いでしょう。
この時冷蔵庫で冷やしたものよりも出来るだけ体温に近い常温のものの方が身体を冷やさなくていいでしょう。
食事の管理
喉の痛み、あるいは口内にできた水泡などによって、食事が困難になる場合には、喉通りの良い柔らかい食事を心がけましょう。
お粥や柔らかく煮たうどん、スープや、野菜を柔らかく煮たシチューなど、症状回復のためできるだけ栄養価の高いものが望ましいですが、子供が感染した場合、それらを嫌がることもあります。その場合には、アイスクリームやゼリーでも、何も口にしないよりは良いですので、食べられるものを食べましょう。
酸味や辛味など、刺激の強いものは、口内の炎症に染みる場合がありますので、できるだけ避けると良いかもしれません。
また、症状で口内炎などの口内の痛みを伴う症状が出ていないうちになるべく食事を摂っていたほうがいいでしょう。痛くなってからでは食事は億劫になりますので、夏風邪を引いた際は症状が進行する前に食事で栄養をとっておきましょう。
特に風邪の時に摂っておきたいのはビタミンCです。特に野菜などに多く含まれています。熱を加えると吸収率が下がってしまうので出来れば熱を通さず生の状態で食べるのが良いでしょう。
入浴
感染症は、入浴をしてはいけないというイメージがありますが、高熱がある場合を除き、ある程度症状が落ち着いてきたら、ぬるめのお湯に浸かるなどして、汚れを落とし、新陳代謝を促すことも大切です。
しかし、家族内での感染を防ぐため、完全にウイルスが死滅するまでは、「感染した人の入浴は最後にする」「タオルや浴室にある小物を共有しない」「浴室を使用したあとは、必ず掃除をする」といった点に気を付けましょう。
また、手足口病などによって、水泡がある場合は、タオルでゴシゴシ身体を擦るのではなく、水泡を潰さない程度の弱い水圧のシャワーのみで、汗を流す程度に済ませるようにしてください。高熱がある場合の他に頭痛などの症状がある時は、悪化の可能性がありますし、下痢や吐き気の症状が強い時は浴室での対処ができないのでこの様な症状が強い時は入浴は避けたほうが良いでしょう。
風邪のときの入浴方法についての詳しい記述は風邪の時のお風呂の入り方について!入っていい基準は?を御覧ください。
下痢止め薬を飲まない
ウイルスは、便の中に含まれて体外に排出されます。そのため、下痢の症状が出た際に、市販薬の下痢止め薬を飲んでしまうと、ウイルスを体内に閉じ込めた状態となり、治療の妨げになります。少し辛いですが、下痢は、そのまま外へ出してしまいましょう。
また、便から感染する場合もありますので、使用後の便器は、ノンエンペローブウイルス専用の消毒液などで消毒しましょう。ドラッグストアなどで、「ノロウイルス用消毒液」として販売しているものも効果があります。
トイレの後には、必ず手を洗い、清潔に保つように心がけましょう。ウイルスによる感染症では、とにかく清潔に保つことが重要です。
これらのウィルスは病気の症状が収まってからもおよそ1週間〜2週間は便や咳などから排出されます。この症状がなくなったタイミングで安心してしまって、その便や使用したものの共有などによって接触感染を起こす確率が高くなっています。十分注意しましょう。
新たな感染を防ぐために
とくに家族内で感染した人がいる場合、新たな感染を防ぐため、感染中は、タオル(浴室用、フェイスタオル、バスタオルなど)を共有せず、また、洗濯物も分けて洗う方が安心でしょう。
せっかく洗った洗濯物を、清潔に保つために気を付けたいのが「湿度」です。洗濯したタオル等は、できるだけ乾燥した場所へ収納してください。夏風邪のウイルスは湿度を大変好むため、洗面所や台所、お風呂周りなどは清潔にし、こまめに換気するよう心がけましょう。
先程も述べたように、症状が収まってからも感染者の体内には多くのウィルスが存在しています。排出には1週間〜2週間の期間が必要なため、気を抜かずこの期間も感染対策を行うようにしましょう。
子供には外から帰ってきたら手洗いとのどのうがいを徹底させることが、家族間での夏風邪を発生させない有効な手段です。特に感染しやすい子供の感染を特に未然に防ぎましょう。
まとめ
いかがでしたでしょうか。このような夏風邪と呼ばれる感染症は、小さな子供が感染しやすい傾向にありますが、大人も感染します。大人が感染した場合には、子供よりも重症化しやすいウイルスもありますので、注意が必要です。
身の回りを清潔に保ち、普段の生活から、免疫力を上げるための食事や、適度な運動を心がけ、元気な心身で夏を過ごしましょう。
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