減少傾向にあるとはいえ、年賀状や暑中見舞い・残暑見舞いなどの季節の便りを出す人は少なくないでしょう。そんな季節の便りで良く見かける表現の一つに、「~ご自愛ください」というフレーズがあります。中には、ビジネスシーンにおけるビジネスメールで「~ご自愛ください」を使っている人もいるのではないでしょうか。
この「~ご自愛ください」というフレーズは、相手方への気遣いを表現する言い回しとして非常に重宝します。そして、「お身体(お体)ご自愛ください」いう形で「お身体(お体)」という言葉を組み合わせる言葉遣いも頻繁に見かけます。
しかしながら、この「お身体(お体)ご自愛ください」という言葉の組み合わせは、正しいようで実は誤った言葉遣いなのです。そこで今回は誤用によって恥ずかしい思いをしないためにも、「ご自愛ください」の意味を再確認した上で、「お身体(お体)ご自愛ください」の表現が間違いの理由、「ご自愛ください」の正しい使い方について、ご紹介したいと思いますので参考にしていただければ幸いです。
「ご自愛ください」の意味について
たしかに「~ご自愛ください」というフレーズは、相手方への気遣いを表現する言い回しとして非常に重宝します。しかしながら、「ご自愛ください」の意味を確認したことのある人は少ないのではないでしょうか?
そこで、まずは「ご自愛ください」の意味について再確認しておこうと思います。
「自愛」の意味
「ご自愛ください」というフレーズの「自愛」という言葉の意味について、いくつかの国語辞書を調べてみると概ね以下のような意味があることが分かります。
- 自己愛
- 自分自身を大切にすること。
- 自分の健康状態に気を配ること。
- (倫理学用語として)自分の利益を大切にすること、その感情。自己愛。利己的な考え。
- (古語として)物を珍重すること。
「ご自愛ください」の意味
このように「自愛」という言葉には複数の意味が存在するわけですが、基本的には「自分を大切にする」という意味合いを有しています。
その上で、「自愛」という言葉は「ご自愛ください」という表現や言葉遣いにおいては、「自分自身を大切にすること」あるいは「自分の健康状態に気を配ること」という意味で用いられます。ですから、「ご自愛ください」というフレーズには、相手方に対して「自分の身体を大切にして、健康でいてください」と気遣いを示す意味があるのです。
注意すべきポイントとしては、「ご自愛ください」というフレーズの中に、大切にする対象や目的語として「自分自身、自分の身体(体)、自分の健康状態」が含意されていることです。
「お身体(お体)ご自愛ください」の表現が間違いの理由
このように「ご自愛ください」というフレーズは、相手方に対して「自分の身体を大切にして、健康でいてください」と気遣いを示す意味があります。
それでは、どうして「お身体(お体)ご自愛ください」いう形で「お身体(お体)」という言葉を組み合わせると、日本語として誤りとなるのでしょうか?そこで、「お身体(お体)ご自愛ください」という表現が間違いである理由について、ご紹介したいと思います。
「お身体(お体)ご自愛ください」の表現が間違いの理由
「お身体(お体)ご自愛ください」いう形で「お身体(お体)」という言葉を組み合わせると日本語として誤りとなる理由は、前述の「ご自愛ください」の意味にあります。
「ご自愛ください」の意味で注意すべきポイントとして、大切にする対象や目的語として「自分自身、自分の身体(体)、自分の健康状態」が含意されていると説明しました。この点こそが、「お身体(お体)ご自愛ください」というフレーズが日本語として間違った表現である理由です。
つまり、「お身体(お体)ご自愛ください」というフレーズは、「ご自愛ください」の意味に「自分自身、自分の身体(体)、自分の健康状態」という目的語が含意されているにもかかわらず、更に重ねて「お身体(お体)」を組み合わせているのです。要するに、二重表現となってしまっている点で、日本語表現として間違っているわけです。
ですから、頻繁に「お身体(お体)ご自愛ください」いう形で「お身体(お体)」という言葉を組み合わせる言葉遣いを見かけますが、このような言葉遣いは誤りであって、ある程度日本語の用法に詳しい人から見ると恥ずかしい言葉遣いなのです。
二重表現について
二重表現は、同じ意味の言葉や表現を繰り返すことを言い、重複表現や重言(じゅうげん)とも呼ばれます。
この二重表現は、例外的に同じ意味の言葉を重ねることで意味を強調する修辞方法にもなりますが、原則的には言い回しが冗長になって聞き手に違和感を生じさせるため日本語の用法として間違いとされます。
例えば、良く冗談としても取り上げられる二重表現として、「頭痛が痛い」という表現が挙げられます。そもそも「頭痛」という言葉が「頭が痛い」ことを意味するところに、重ねて「痛い」と繰り返すので二重表現となります。もちろん言いたいことは伝わるのですが、会話や手紙などの文章の中に二重表現があると、聞き手や読み手としては途中で「???」と気になってしまいますよね。
ですから、相手方に余計な印象を与えないためにも、二重表現は原則として避ける必要があるわけです。
「ご自愛ください」の正しい使い方
このように「お身体(お体)ご自愛ください」いう形で、「お身体(お体)」と「ご自愛ください」を組み合わせると日本語として誤りとななります。
それでは、「ご自愛ください」というフレーズは、どのような使い方が正しいのでしょうか?そこで、「ご自愛ください」の正しい使い方について、ご紹介したいと思います。
会話や手紙文などの結びの場面で用いるのが基本
「ご自愛ください」というフレーズは、会話や手紙文などの結びの場面で用いることが基本となります。そして、前述のように「ご自愛ください」には「自分自身、自分の身体(体)、自分の健康状態」という目的語が含意されていますから、特に「自愛」の対象や目的語を示す必要はありません。
手紙やメールなどの結びの文章で用いる場合
手紙やメールなど文章の結びで用いる場合、単に「ご自愛ください」と結ぶだけでは、やや語調に物足りなさがありますので、相手方の体調や身体を気遣う簡単な理由として季節や天候の変化について触れると良いでしょう。
ちなみに、使い方の具体例・例文を示すと次の通りです。
- 季節の変わり目ですから、どうぞご自愛ください。
- 季節柄、朝晩の寒暖の差が激しいので、どうかご自愛くださいませ。
- 秋口に入り夏場の疲れが出やすいことから、どうぞご自愛ください。
- 厳寒の折、風邪が流行っているようですので、くれぐれもご自愛くださいませ。
会話での別れの挨拶で用いる場合
会話での別れの挨拶で用いる場合は手紙文などの場合とは異なり、それまでの会話の流れなどもあるでしょうから、相手方の体調や身体を気遣う理由として季節や天候の変化について無理して触れる必要はないでしょう。
別れ際などで、シンプルに「ご自愛くださいね」や「くれぐれもご自愛くださいませ」と言えば、相手を気遣う気持ちが十分に伝わります。
既に体調を崩している相手には使わない
「ご自愛ください」というフレーズは、基本的にある程度健康に生活している人に対して用いるものであり、体調を崩している人に対しては使わないのが一般的とされます。
というのも、相手方を気遣う意味で「ご自愛ください」と言ったとしても、受け手の相手方は既に体調を崩しているのであれば、受け手によっては皮肉のように聞こえてしまう可能性があるからです。
たしかに、「ご自愛ください」というフレーズは、相手方への気遣いを表現する言い回しとして非常に重宝します。しかし、本来の気遣いとは、自分が一方的に押し付けるものではありません。受け手となる相手方の気持ちに十分配慮してこそ、本当の気遣いと言えるでしょう。
ですから、既に体調を崩していたり、怪我や病気などが原因で入院している人に対しては、「ご自愛ください」のフレーズを使うことは避けるべきでしょう。ちなみに、このような場合は「一日でも早い回復を心から願っております」などと、別の表現を用いましょう。
目上の人に対して使っても問題ない
「ご自愛ください」というフレーズは、目上の人などに対して使っても問題ありません。
そもそも「ご自愛」の「ご」は、相手方に敬意を示す敬語表現の接頭語です。そして、「ください」は命令・要求の補助動詞の尊敬語にあたります。
また、意味的にも前述のように相手方の体調などを気遣うものですから、目上の人に限らず誰に対しても使える表現です。
ですから、「ご自愛ください」というフレーズは、自分よりも年齢が上の人やビジネスシーンで取引先の人などに対しても、問題なく用いることができるのです。
まとめ
いかがでしたか?「ご自愛ください」の意味を再確認した上で、「お身体(お体)ご自愛ください」の表現が間違いの理由、「ご自愛ください」の正しい使い方について説明してみましたが、ご理解いただけたでしょうか?
季節の便りにしても、ビジネスメールにしても、大人として社会人として正しい言葉遣いをすることは非常に大切なことです。そして、良く目にする「お身体(お体)ご自愛ください」という言葉遣いが、実は日本語の用法として間違っているのですね。
また、本記事でもご紹介しましたが、「ご自愛ください」の使い方として、体調を崩している人に対しては用いるべきではない、という注意点が存在します。
ですから、ぜひ本記事などを参考にして、あらためて「ご自愛ください」の意味や使い方を整理し、今後の生活に活かしていただければ幸いです。
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