大豆といえば、世界中でもてはやされる代表的な健康食材の一つです。
事実、「畑の肉」と呼ばれる大豆には良質なタンパク質が多く含まれています。さらに、オリゴ糖、イソフラボン、その他コレステロールの値を低下させるといわれる大豆サポニンや大豆レシチンといった機能性物質も豊富に含んでいますから、昨今の大豆性食品のブームもうなずけます。
しかし、このように優れた食品である大豆も、食べ方や摂取量によっては私たちの健康に害があることをご存知でしょうか?今回は大豆性食品を食べる際に気を付けたいことを記事にしてみました。
今回の記事では大豆の食べ過ぎによる健康リスクとそれを回避するための方法について一緒に見ていきましょう。内容は大きく①タンパク質とカロリーに関するリスク②遺伝子組み換え大豆のリスク③消化や自律神経の乱れなどのリスク、の3つです。
タンパク質とカロリーに関するリスク
体質改善のために大豆性食品を食べる
コレステロールや血糖値を下げるために大豆を食べるという方は多いのではないでしょうか?
実際、大豆に含まれる機能性物質は体質改善に有効だと言われています。
ただし、ここで忘れてはいけないことがあります。それは大豆性食品に含まれる「タンパク質」と「カロリー」です。
大豆にはタンパク質とカロリーが多い
大豆は野菜と違って食物繊維のほかにタンパク質や脂質を多く含んでいます。
そのため、一日に摂取する野菜の量を増やすような感覚で新しく大豆性食品を摂る量を増やした場合、一日に摂取するタンパク質やカロリーの総量がかえって増えてしまいます。
例えば、一丁のお豆腐で冷奴を作って食べたときに得られるエネルギー量はだいたいゆで卵3個分、脂質の量では2個分程度です。
体質改善や健康志向といった効果をねらって、肉や魚類に加えて大豆を食べる場合、あなたが本来望んだ結果は得られないかもしれません。食事に大豆性食品を一品加えるだけでは食習慣の改善とはならないのです。
ではどうすればいいのか
この場合、大豆を他の食品の代用食品とすることで、他の肉類や魚類の摂取量を減らすことが大切です。
「大豆ダイエット」という言葉も最近よく聞きますね。どこかで「大豆の低脂肪タンパク質がしなやかな身体を作り、大豆サポニンが脂肪の燃焼を助ける」というキャッチフレーズを耳にしたことがあるのではないでしょうか。肉類の摂取を止め、その代わりに大豆性食品を食べるというダイエット方法です。
つまり、大豆ダイエットでは、肉を食べる代わりに大豆を食べることで、生きていくために必要なエネルギーやタンパク質を得ると同時に、健康促進に重要な機能性物質を体内に取り込むことができるのです。
遺伝子組み換え大豆のリスク
遺伝子組み換え作物とは?
バイオテクノロジーの発展にともなって、「遺伝子組み換え作物」という言葉もよく取り上げられるようになりました。
スーパーなどで販売されている大豆性食品の成分表示の欄で、「大豆(中国産)(遺伝子組み換えでない)」といった表示がされているのを目にされたことのある方も多いと思います。
遺伝子組み換え作物というのは、通常の作物を使った品種改良ではなく、遺伝子に直接別の遺伝子を組み込むことで品種改良された作物のことです。
遺伝子組み換え技術によって、アメリカでは害虫に強く、実も大きい大豆の大量生産を狩野にしています。
遺伝子組み換え作物の危険性
遺伝子組み換え食物は収穫量や味も調整が可能で、未来の食糧生産を担う食物ではあります。しかし、まだまだ未発達な技術です。
例えば、あるフランスで行われたある実験では遺伝子組み換えされたトウモロコシをラットに与え続けたところ、ラットががんを発症するリスクが高まったそうです。
遺伝子組み換え食品とどう向き合うか
日本では納豆や豆腐といった大豆性食品に対して、原材料の表示に関して遺伝子組み換え作物かどうか明記することが義務付けられています。
しかし、醤油や味噌にはそれは適用されません。なぜなら、DNAがほとんど分解されてしまっていて、DNA鑑定によって調べることができないからです。
ただその場合、DNAがほとんど分解されているので、遺伝子組み換えによる健康リスクは小さいと考えることもできます。しかし、油断はできません。
遺伝子組み換え技術はまだまだ発展途上の段階にあります。ネガティブに考えすぎることもよくありませんが、完全に信頼しきってしまうのも考え物です。
科学技術の進展に期待するとともに、私たち消費者も商品の表示や企業の説明を通じて知識や自分の頭で考える力をつけていくことがよりよい遺伝子組み換え食品との付き合い方ではないでしょうか。
消化や自律神経の乱れなどのリスク
大豆イソフラボンとエストロゲン
一般にイソフラボンは健康によいとされています。日本では世界に先駆けて大豆イソフラボンをはじめとする天然の食品成分の様々な生理機能について研究が行われてきました。近年では多数の機能性食品が登場しています。実際に、イソフラボンを含んだサプリメントなども販売されています。しかし、一方でイソフラボンの過剰摂取には危険がともなうようです。
大豆に含まれるイソフラボンは女性ホルモンのエストロゲンとよく似た構造をしています。人間の体内にはエストロゲンを吸収する受容体(受け皿のようなもの)があり、エストロゲンは受容体とくっつくことで初めて体内で機能します。このとき、イソフラボンの形がエストロゲンと似ているため、受容体がエストロゲンではなくイソフラボンとくっついてしまうことがあります。
そのため、大豆を過剰に摂取することによって、体内にイソフラボンが急増し、結果としてエストロゲンが受容体とくっつくことができず、体内のホルモンバランスが崩れてしまうおそれがあると言われています。
ホルモンバランスが崩れると……
ホルモンバランスが崩れると自律神経が乱れ、「自律神経失調症」「神経性胃炎」「過敏性腸症候群」「メニエール病」などを引き起こす原因にもなってしまう危険があります。何事もやり過ぎ(摂り過ぎ)には気をつけないといけませんね。
ただし、大豆を食べることによる自律神経による悪影響は大豆の極端な過剰摂取をしない限り、問題ないと言われています。通常の食事の中で大豆性食品を食べる程度なら、心配する必要はありません。実際、日本人は古来より豆腐などの大豆加工食品、もしくは味噌や納豆などの大豆発酵食品を習慣的に食べてきました。しかし、今まで納豆の食べ過ぎで病気になったという例は聞いたことがありませんよね。常識の範囲内で食生活を営む限り、問題はないかと思われます。
ちなみに、農林水産省によると、大豆イソフラボンの摂取上限値について、毎日欠かさずに長期摂取する場合の一日の摂取目安量の上限値を70~75mg/日だと想定しているそうです。ただし、毎日、長期間上限値を超えてしまうのでなければ、ただちに健康被害に結びつくというものではないと考えられます。
大豆は消化に悪い?
大豆に含まれる植物性油が消化には不向きであるとも言われています。
節分の時などに、煮豆を食べ過ぎると胃腸の調子が悪くなるのもそのようなことが原因だとも考えられます。
また、大豆にはフィチン酸塩が含まれています。フィチン酸塩は大半の豆類に含まれているとされていますが、大豆には特に多く含まれているそうです。フィチン酸塩は亜鉛との親和性が強く、消化管内に存在する亜鉛と強く結びつきます。亜鉛は傷の治癒やタンパク質合成、神経機能を支えるミネラルです。発展途上国の人々が先進国の人々よりも身長が低くなる要因として、豆類を多く食べることに起因しているのではないかという説があるくらいです。
ただ、フィチン酸塩の多くは水に浸すだけで取り除くことができます。さらに大豆の場合、発酵させることで食べるのに最適なレベルまでフィチン酸塩を減少させることができるようです。つまり、味噌や納豆といった大豆発酵食品のフィチン酸塩のレベルは発酵のプロセスで十分に調整されているということです。
消化には大豆発酵食品がよい
納豆や味噌といった発酵食品は、酵母や酵素を始めとした微生物の働きにより、いわば一度消化されているわけです。そのため、人間が発酵食品を食べて、それを体内で消化する場合、必要な消化酵素やエネルギーが少なくて済みます。
例えば、納豆の場合は、体内に入る前からすでに納豆菌の働きにより大豆を消化するための下準備が整えられているというわけです。安心してたくさん食べたいという方は未発酵の大豆性食品よりは大豆発酵食品を選んで摂取するとよいでしょう。
日本には納豆、味噌、醤油など優秀な大豆発酵食品があります。アジアの他の国々の事情を見てみれば、ネパールにはキネマ、ミャンマーにはペーポ、インドネシアにはテンペというように、大豆性発酵食品であふれています。アジアは大豆発酵食品の宝庫と言えるでしょう。私たちのご先祖様たちは大豆発酵食品の有用性を、科学が発達するずっと昔から経験によって知っていたのですね。私たちも先人の英知に学びたいものです。