職場の定期検診で受けた血液検査の結果にある、「血色素量」という項目。これは、赤血球に含まれているヘモグロビンの量のことです。
この血色素量が足りないと、赤血球の数が仮に「異常なし」となっていた場合でも、精密検査を受けましょう、という案内を受ける場合があります。
それは、一体なぜでしょうか?
今回は、血色素量の数値の意味や、異常値であった場合のリスクなどについて紹介いたします。
この記事の目次
◆血色素量を計測するのはなぜ?
血色素とは、赤血球に含まれる成分で、その名の通り、血液を赤い色に見せている色素です。この赤い色は、赤血球に含まれるヘモグロビンに由来しています。ヘモグロビンとは、ヘム鉄と呼ばれる鉄化合物と、グロビン(タンパク質)からなるタンパク質です。
このヘモグロビンは、赤血球の中に多く含まれており、酸素を体のあちこちに運ぶ働きを持っているのです。
鉄は、錆びていると赤い色になりますよね?錆びるとは、イコール酸化する、酸素と結合している状態ですから、血液の色は、サビと同じ原理で赤くなっているわけです。
ちなみに、血液は、動脈に流れる血と、静脈に流れている血では、色が違います。
動脈に流れている血は、肺で酸素と結合しているため、鮮やかな赤色をしていますが、静脈血は、酸素を体内のあちこちに届けた後のため、暗い赤色になっています。
赤血球は約120日で寿命を迎え、その時にヘモグロビンも分解されてしまいます。血色素量とは、このヘモグロビンの量を表す数値で、体内での酸素の運搬力に関わる重要な数値です。
○血色素量の正常値と異常値
通常、成人の血液には、血色素は100ml中に14~16グラム含まれています。1日の中でも若干の変動があり、朝食後になると数値が上がり、寝る時には低くなるとされています。
また、生理があるため、女性の方が男性よりも血色素量の数値は低めになっています。年齢によっても違いがあり、生まれたばかりの赤ん坊は高い値ですが、生後6カ月から5歳までは12グラムほどになり、その後、徐々に増える傾向にあります。
年齢が高くなると、今度は徐々に減るようになります。
成人における血色素量の異常値は、男性では100ml中に14グラム以下、女性では13グラム以下とされています。
◆血色素量が異常値の場合はどんな病気?
血色素量が低すぎる場合は、赤血球やヘモグロビンが少なすぎている状態であり、多くは貧血であると考えられます。貧血は、赤血球やヘモグロビンが減ってしまったことで、体内に酸素が十分に供給されていない状態をいいます。
貧血の症状としては、動悸や息切れ、立ちくらみ、めまい、疲れやすいなどが挙げられます。貧血の中でも主なものが、「鉄欠乏性貧血」です。
鉄は血色素の大切な原料ですが、出血などによって体内の鉄分が不足してしまいます。鉄分が不足すると、材料が足りないため、健康な赤血球が作られなくなり、大きさがバラバラになったり、形が不揃いになったりします。
例え、赤血球の数は正常であっても、一つ一つが小さいと、その中に含まれるヘモグロビンの量も少なくなってしまうため、鉄欠乏性貧血になってしまうわけです。
例えば、消化器官から出血していたり、月経過多の場合、出血による鉄欠乏性貧血になることが多いようです。
特に、女性の月経過多は、子宮筋腫が原因である可能性もあるため、調べておく必要があります。ただし、一口に貧血と言っても、他の種類も考えられ、中には白血病や肝硬変などが原因となっている場合もありますので、医師の診断を仰いで適切な処置を受けるようにしましょう。
○血色素量が多いとどうなるの?
一般的に、血色素量は数値が低すぎることが問題の場合が多いのですが、中には血色素量の数値が高すぎる場合があります。
数値が高すぎる場合には、血液中に赤血球が多すぎるため、血液がドロドロになり、血管が詰まりやすくなってしまうのです。
そのため、脳血栓や心筋梗塞などの血管が詰まることが原因の病気になりやすくなります。
「私はヘモグロビンの量が多い」と安心してばかりもいられないのですね。この場合の対処法としては、水分不足にならないようにこまめに水を飲むことが大事です。目安としては、男性なら1日3リットル、女性なら1日2.2リットルと、通常より多めに水を飲むことがすすめられています。
◆血色素量が少ない時の症状
この血色素量の数値が低いと、どのような症状となって現れるのでしょうか?ここではいくつか主な症状を紹介していきます。
○疲れやすくなる
血色素の量が少ないと、一度に運べる酸素の量が少なくなるため、細胞が酸欠状態になり、体が疲れやすくなります。
また、酸欠状態を解消しようとするため、たくさんの血液を送り出そうと心臓に負担がかかり、脈拍数が上がります。
○立ちくらみやめまい
脳は、その働きを維持するのに、酸素を最も必要とする臓器といえます。
脳がたった15秒ほど酸素不足に陥っただけで、意識を失い、立ちくらみやめまいを感じると言われています。
ちなみに、意識を失った人を見かけたら、心臓マッサージをして脳に血液を送り込むのも同じ原理ですね。
○血の気が引く
ヘモグロビンは赤い色をしていますから、血色素量が少なくなると、全身の様々な部分が白っぽくなります。
分かりやすいところだと、顔色やまぶた、爪の色などです。
あっかんべ~をしてみると、目の舌のまぶたの裏が、白っぽくなっているかどうかが分かります。
○息切れ
血液の中に酸素が少なくなると、量を増やそうとして、呼吸が早くなります。
一般的に、人間の呼吸は、1分間に15回ぐらいが標準のようですが、血色素量が極端に少なくなると、1分間に30回ほどに呼吸の数が増え、息切れを起こすことがあります。
このように貧血を起こすと、様々な症状が現れます。
◆血色素量を増やす方法は?
それでは、血色素量が少ないと検査結果に出た場合、どのようにして数値を改善していけばよいのでしょうか?
ここでは、主な方法を3つ紹介したいと思います。
○鉄分を補給する
血色素の量を増やすには、ヘモグロビンの原料となる鉄分を多く摂取することが大切です。
食事やサプリメントで積極的に摂るように心がけていきましょう。
この時気をつけるべき点は、鉄分には、ヘム鉄と非ヘム鉄の2種類がある、ということです。
ヘム鉄は、肉や魚介類など、動物性の食べ物から摂取することができる鉄分で、非ヘム鉄は、豆や野菜、海藻など、植物性の食べ物から摂取することができます。
実は、鉄分の吸収率は、ヘム鉄のほうが大きいので、こちらを積極的に摂取するのがおすすめです。
○有酸素運動を心がける
有酸素運動とは、ウォーキングや水泳、サイクリングなど、長い時間をかける運動のことで、この時、人間の体は、酸素を多く取り込んで脂肪を燃やし、エネルギーを取り出しています。
そのため、有酸素運動を続けていると、酸素を体内でたくさん運ぶ必要が生じ、体が赤血球を増やそうとするわけです。これによって、血色素量も増加していきます。
この時、ジョギングやジャンプなど、足の裏に負担をかける運動だと、足の裏で赤血球を破壊してしまうため、ウォーキングや水泳などが好ましいでしょう。
私達の体は、初め体内の糖分をエネルギー源として使い、それがなくなると、脂肪を使い始めます。
糖分をエネルギー源として使っている間は酸素をあまり必要としないため、糖分から脂肪分にエネルギー消費が切り替わる30分前後を目安に運動を続けるようにするのがおすすめです。
○食事の時にコーヒー、お茶を控える
珈琲やお茶には、タンニンという成分が含まれています。このタンニンは鉄分と結合する力が強いため、せっかく鉄分の多い食事を心がけても、コーヒーやお茶に含まれるタンニンが吸収を阻んでしまいます。
そこで、食事の時には一緒に飲まないように心がけたほうがよいでしょう。
◆血色素量を高める食品にはどのようなものがあるの?
この項目では、特に、血色素量を高めるのに効果的な食品を紹介します。
ヘモグロビンの材料は、先程述べたとおり鉄分ですので、吸収率の高いヘム鉄を多く含んだレバーなどの肉類、あさり、煮干し、シジミなどの魚介類がおすすめです。
ただし、効果的にヘム鉄を摂取したいなら、サプリメントがありますので、栄養補助食品として利用するとよいでしょう。
また、非ヘム鉄を多く含む植物性の小松菜、ホウレンソウ、ひじきなども、ビタミンCを一緒に摂るようにすると吸収率が上がりますので、それらを食べる時には心がけるといいですね。
合わせて、ヘモグロビンの成分にはタンパク質も含まれているので、タンパク質の合成に関係する栄養素も不足しないように心がける必要があります。
例えば、にんにくや唐辛子などに多く含まれるビタミンB6や、シジミやアサリ、いくらや海苔に多く含まれるビタミンB12、お茶に含まれる葉酸などが必要な栄養素ですので、バランスよく栄養補給をするようにするとよいでしょう。
◆まとめ
いかがでしたでしょうか?
血色素量とは、私たちの体内で酸素を運ぶのに必要な、ヘモグロビンの量であり、重要な数値であることがお分かりいただけたかと思います。
私たちの体はたくさんの細胞から成っていますが、酸素なしでは、これらの細胞は生きていけません。
その酸素を運ぶための血色素量は、健康のバロメーターですから、医師と相談しながら食生活と運動に努めて、良い数値になるように心がけていきましょう。