足が壊死(えし)する病気があるのを知っていますか?壊死とは細胞が死んでしまった状態で、放っておくと壊死した部分が腐敗し、さらに辛い症状を起こす危険があります。見た目にも影響するとても特異な病気に思えますが、実は身近な持病でも起こるかもしれない症状なのです。
ここでは、足の壊死の原因や特徴、予防法などについて説明していきます。
壊死とは?
人の身体の局所で、血流が悪くなると酸素や栄養分が欠乏することで部位の細胞が死んでしまい、「壊死」という状態を起こすことがあります。壊死は「ネクローシス」とも呼ばれ、細胞が死んだ跡の状態を指します。
正常な皮膚や粘膜などの細胞は、代謝により古い細胞組織が剥がれ、新しい細胞に生まれ変わる機能を持っています。また身体の中で異常が起こったり死んでしまった細胞というのは、「アポトーシス」という作用によって、体の外に自然に排出されたり、他の細胞に吸収されて無くなっていく浄化機能を持っているのです。
しかしこのようなアポトーシスの機能に障害を受けたり、新しく組織の補充がされず死んだ細胞跡が残ってしまうと、壊死状態となり細胞組織に異常を残すことがあります。
一度壊死してしまったら、その部位は本来の正常な機能が失われます。壊死したのが内臓の組織であれば、その内臓にに関わる身体機能が低下します。また消化管や心臓のような袋状の細胞組織が壊死すると、穿孔と呼ばれる穴が開くこともあります。神経細胞や心筋のように再生しない部位が壊死すると、人工組織で代用するしか治療法はなく、身体に大きな負荷がかかるような重い障害を持つ可能性もあります。
壊死は広がる危険も!
身体の一部分で壊死が起こると、壊死を起こしている細胞膜が破裂し、内容物が流出します。その細胞の中にあった酵素や、情報伝達の役割を担うサイトカインというタンパク質が流出すると、周囲の細胞にも影響を及ぼすことがあります。
そのため壊死した周りの皮膚が、進行性を伴って広がっていく症状が現れます。重症になると、壊死が広がっていく可能性がある部位全てを取り除く必要があり、切断や除去の手術をしなければならない場合もあります。
そのため壊死の治療に関しては、いかに早期に治療を行うかが大事になってきます。
壊死と壊疽の違い
壊死というのは先に述べたように、身体の一部の細胞が死んでしまうことを言います。そして壊死した部分が腐敗してしまう状態を「壊疽(えそ)」と言います。
壊死した足の先などが黒くなったり、褐色に変色していると壊疽を起こしている可能性があります。壊死した細胞は血管が障害を起こしている状態であり、さらに血管が硬化して血流が完全に無くなってしまうと、組織から水分が失われて皮膚が萎縮した壊疽状態となります。いわゆるミイラのような状態になってしまうのです。
壊疽になると、最初に壊死の原因となった部位の周りの健康な皮膚も死んでしまうことがあり、広範囲に及ぶと切断が必要となることがあります。また腐敗により感染症を併発する可能性もあります。
足の壊死の原因は?
壊死を招く主な原因は、事故や病気によって身体の一部が血行障害になることです。病気以外にも細菌やウィルスなどの感染や、毒物による破壊、薬剤の副作用、神経性障害があります。また高温、放射線、高圧電流などによる外的な物理作用によるものがあります。
その中でも足の壊死は、糖尿病などの病気が原因で起こりやすいと言われており、身近な持病によって患う可能性があります。厚生労働省の調査によると、糖尿病患者の約1%が足を中心とした壊疽を起こすと言われています。
足に壊死が起こりやすい理由
手足など身体の末端は、閉塞性動脈硬化症や抹消動脈疾患により、血流の低下が起こりやすい部位です。
特に足は靴ずれやタコ、イボなどの角質異常、水虫などの感染症が起こりやすい場所であるため、免疫力の低い人は傷が化膿しやすく、壊死や壊疽を引き起こしやすいといわれています。
重症化すると切断の可能性も…
足の病変は重症化しやすく、壊死や壊疽の症状で下肢の切断を余儀なくされる人は、年間1万人以上いると言われています。この数字には指の切断の人数は入っておらず、膝下や膝上、股関節から下の足を切断する人数と言われています。これだけ多くの人が壊死や壊疽の症状で苦しんでいるというのは、非常に不安になる数字です。
気になるのは、糖尿病の患者において、足の壊死や切断に至るような重症の患者が多いということです。特に糖尿病の合併症が発症していたり、糖尿病腎症の治療で人工透析を受けている人は悪化しやすいと言われています。また足を切断した患者は、その後寝たきりになるケースも多く、糖尿病の患者が足を大切断した後、5年以内に約6割の人が死亡するという報告もあります。
糖尿病で壊死が起こりやすい3つの理由
糖尿病は、血糖値が病的に高くなり、身体のいたるところに疾患が現れる病気です。主に体内の血糖値を下げる働きを持つインスリンが作用しなくなることで起こります。
糖尿病患者の9割を占める二型糖尿病は、生活習慣病が原因となりやすい病気であり、中高年以上で多く見られます。運動不足、暴飲暴食といった生活習慣の乱れや、加齢、遺伝的要素が糖尿病を引き起こすため、日本では高齢化に伴い患者は増える傾向にあると言われています。
それではなぜ、糖尿病の患者に足の壊死が起こりやすいのでしょうか。それは糖尿病患者が患う血管障害や、免疫低下などの原因があります。主な3つの原因を説明します。
閉塞性動脈硬化症
糖尿病は高血糖の症状によって血管が傷められる特徴があり、腎症や網膜症、神経障害などの合併症を引き起こしやすくなります。また動脈硬化によって心筋梗塞や脳梗塞にもなる可能性があります。 いずれも血管障害が原因となるものですが、それが足の血管に起これば閉塞性動脈硬化症となり、足の細胞の血管に危険な状況を生み出します。
最初は足の血管が詰まることで、しびれやだるさ、痛みなどの初期症状を感じます。しかし傷が治りにくかったり、気付くのが遅いという理由によって、閉塞性動脈硬化症が悪化し壊死を招きやすくなります。その結果、足の切断が必要な重症となることがあるのです。
足の感覚麻痺
糖尿病の患者に多い抹消神経障害も、足の壊死につながる原因のひとつです。
高血糖により神経への栄養を供給する細い血管の血行が滞るために、最初は足のしびれや、足がつるといった症状が現れます。この症状は徐々に進行するため、次第に感覚が鈍くなり痛みを感じにくくなります。
感覚が麻痺していくと、靴擦れややけどの外傷にも気付きにくくなり、本来なら分かるはずの痛みが悪化しているのか改善しているのか分からなくなるということもあります。そうなると手当てや治療が遅れてしまい、結果として壊死や壊疽になってしまうのです。
免疫力の低下
高血糖によって身体の抵抗力が弱くなり、細菌や水虫(真菌)などの感染症にかかりやすくなります。また傷の治りも遅く、悪化しやすい傾向があります。
これは血糖値が高いと細菌やウイルスを倒す白血球の機能が十分に働かないため、病原体の抗体を作り出す免疫機能が低下することで起こります。
このような足の症状があれば要注意!
糖尿病による動脈硬化や、それに伴う合併症としての足の壊死は、突然なるものではありません。先に初期症状が現れてから、徐々に進行するのです。そのため糖尿病の初期症状で現れる足の異常に早く気付き、治療をすることで切断するような悪化を防ぐことができます。
初期症状には、以下のようなものがありますので、確認してみましょう。
- 足がしびれる、つりやすい
- ふくらはぎのこむら返り
この中で足がしびれたり、つりやすいというのは、糖尿病の初期症状で現れやすい抹消神経障害によるものです。またランニング中や就寝中などにもふくらはぎのこむら返りをしやすいのは糖尿病の初期症状の代表的なもので、糖尿病の3人に1人は悩まされていると言われています。これは神経系の異常な作用によって、筋肉に継続的な収縮が起こってしまうためと言われています。
- 足の皮膚が乾燥している
- 巻き爪
皮膚が乾燥したり、巻き爪に成りやすくなるのは壊死に至る前の皮膚異常の初段階です。乾燥している部分から細胞が死滅していき、周囲に広がる恐れがありますので、早期の手当てが必要です。
- 立ちくらみや胃もたれ
- 便秘と下痢を繰り返す、尿意を感じにくい
糖尿病の合併症により自律神経に障害が及ぶと、これらのような身体の不調を感じるようになります。不調の原因が糖尿病の場合は血管障害にで治りにくい傾向がありますので、医師による早期の治療を受けるようにしましょう。
足の壊死の予防法は?
足の壊死は、薬剤や外傷が原因の場合を除くと、糖尿病の合併症によるものが多く基本的にゆっくり進行します。そのため早期に手当をすることが一番の予防となるのです。ただし糖尿病の場合は先に述べたように症状の進行に気付きにくい特徴があるので、放置をしないように心掛けることが大事です。
また糖尿病の壊死は足先に出やすいのが特徴なので、きちんとフットケアを行うことも予防に繋がります。薬用せっけんで丁寧に足を洗浄し、乾燥やひび割れが起こらないようにクリームなどで保湿するといでしょう。
日頃からたこ、イボ、水虫などの皮膚の異常がないかチェックして、靴擦れや化膿などの足の怪我には十分に注意しましょう。もし異常があったら、「たいしたことないか」と自分で判断せずに、医師に相談して適切な治療を受けることが大事です。
まとめ
足の壊死という症状は、重症化して壊疽の状態にまでなると、切断しなければならないような恐ろしい病気です。その原因は糖尿病によるものが多く、薬剤や外傷などによるものを除けば、治療や人間ドックでの検査が確立されています。糖尿病の原因が生活習慣病である場合には、日常の生活習慣の乱れを正すことで対策が可能です。
またすでに糖尿病を患っている場合は、日頃のケアや手当てによって、予防することもできます。重症化しないために、もし足の皮膚の異常を感じたら放置せずに、早期に医師の治療を受ける事が一番の対策となるのです。