悪寒がして高い熱が出る。身体がだるい・・・「風邪かな?」なんて思っていたら、なんと皮膚に赤い筋ができて、ビックリすることがあります。これは「リンパ管炎」という病気です。
リンパ管は、リンパ液が流れる通り道で、全身に網目のように分布しています。
リンパ管炎は、リンパ管に細菌が侵入して、リンパ管とその周囲に炎症を起こす疾患です。リンパ管炎が進行すると、リンパ節炎になります。細菌が血液に入って「敗血症」を起こせば、死に至ることもあります。
リンパ管の原因の1つが、水虫だと言うのですから、驚くと同時に笑っちゃいますよね。水虫というのも、馬鹿にできないものですね!
リンパ管炎の原因と症状、治療法と予防法、そして、リンパ管・リンパ節などリンパ系について、お伝えしますね。
リンパ管炎とは?
リンパ管炎とは、リンパ管に細菌が侵入して、リンパ管とその周囲に炎症を起こす病気です。急性と慢性があります。一般に「リンパ管炎」というと、「急性リンパ管炎」を意味します。
[リンパ管炎の原因]
リンパ管炎には、急性と慢性があり、原因も症状も異なります。
急性リンパ管炎の原因
急性リンパ管炎の原因は、溶血性連鎖球菌やブドウ球菌などの細菌がリンパ管に侵入することです。手足の外傷や潰瘍(かいよう)から溶血性連鎖球菌やブドウ球菌などが侵入します。水虫に感染していると、その患部から細菌がリンパ管に侵入します。
水虫は、白癬菌という真菌(カビ)による皮膚感染症です。白癬菌に感染すると、とてつもなく痒くなります。痒みに耐えられずにかきむしると、皮膚がボロボロになります。この皮膚の傷から、細菌が侵入し、リンパ管に入って炎症を起こすのです。
同じように、虫刺されによってリンパ管炎が発症することがあります。ダニや蚊、ブヨなどに刺されると、猛烈に痒くなります。中には、刺した時に毒を注入する虫もいます。痒みが激しいので、かきむしると、皮膚が傷つきます。この傷に手指についている細菌が侵入し、リンパ管にまで入り込むのです。
転んで手足に擦り傷ができたり、うっかり刃物で手足を切ったり刺したりして、外傷を作ると、その損傷部から細菌が入り込み、リンパ管に侵入します。
慢性リンパ管炎の原因
慢性リンパ管炎の原因は、主として真菌(カビ)による感染です。真菌には、白癬菌やカンジダ菌、アスペルギルスなどがあります。また、結核や梅毒の感染から発症することもあります。
フィラリアという寄生虫が侵入することもあります。フィラリアは犬の感染症として知られていますが、人間に寄生することもあります。蚊に刺されると、バンクロフト糸状虫他のフィラリアの幼虫が体内に入ります。フィラリアの幼虫はリンパ管に侵入して、成虫になります。そのため、リンパ管炎やリンパ節炎をくり返し発症し、リンパ液循環障害を引き起こします。さらに、リンパ浮腫(むくみ)や生殖器の浮腫、象皮病を発症します。
急性リンパ管炎が慢性リンパ管炎に移行することはありません。疾患の原因が異なるからです。慢性リンパ管炎は、最初から慢性症状で進行します。
[リンパ管炎の症状]
急性リンパ管炎の場合は、風邪に似た発熱や悪寒などの症状が出ますが、慢性リンパ管炎になると、初期に発熱することがあっても、ほとんど気づかないまま進行することが多いようです。
急性リンパ管炎の症状
➀急激な悪寒・倦怠感・発熱
まず、急激な悪寒が生じます。身体がだるくなり(全身倦怠感)、食欲がなくなります。頭痛や筋肉痛が生じます。吐き気や嘔吐が生じることもあります。
高熱を発します。40℃近い高熱になることも珍しくありません。
これらの症状は風邪の症状と似ているので、お医者さんに行かない人もいます。しかし、急激な全身倦怠感と悪寒、高熱は、急性リンパ管炎の特徴的症状ですから、できるだけ早くお医者さんの診療を受けることをオススメします。
悪寒(おかん)というのは、震えを伴う、背中がゾクゾクする寒気のことです。
②線状発赤・疼痛・蜂巣織炎
炎症を起こしたリンパ管の辺りから、鼠径部(そけいぶ)・脇の下・頸部(けいぶ=首)などのリンパ節に向かう、赤い筋状の線状痕が皮膚に現れます。赤い線は、幅数mmから数cmで、押すと痛みがあります。これを線状発赤(せんじょうはっせき)といいます。線状発赤の周辺は熱を帯びていて、押すと痛みます。
疼痛が生じることがあります。
進行すると、蜂巣織炎(ほうそうしきえん)が起きます。蜂窩織炎(ほうかしきえん)・蜂巣炎(ほうそうえん)ともいいます。
蜂巣織炎とは、手足の傷口や毛穴から侵入したブドウ球菌などの細菌が、皮膚の奥深くで引き起こす化膿性の感染症です。溶血性連鎖球菌やブドウ球菌などの細菌は、水虫の傷から侵入することが多いようです。患部を中心に広い範囲が硬く赤く腫れ、痛みがあります。しばらくすると、ブヨブヨした感じになり、膿が流れ出て、潰瘍となることもあります。
③頻脈
脈が速くなることを、「頻脈(ひんみゃく)」といいます。リンパ管炎を発症すると、脈が速くなり、動悸や息切れが起こります。
脈というものは、普通は一定のリズムで打ちっています。理由もなく、速くなったり、遅くなったり、乱れたりすることはありません。
④リンパ節炎
リンパ管の炎症がリンパ節にまで広がると、リンパ節炎が起きます。リンパ節が腫れて、コリコリしたしこりのようになります。押すと、痛みがあります。コリコリしたしこりは1個だけでなく、複数個できることもあります。
リンパ管炎の部位によりますが、リンパ節炎は、頸部・脇下・鼠径部に起きることが多いようです。
慢性リンパ管炎の症状
慢性リンパ管炎は、ゆっくりと進行します。皮膚の線状痕も赤くならず、リンパ管炎を起こしている部分の皮膚が硬くなり、硬い索状物(さくじょうぶつ)が指に触れます。この索状物を押しても、痛みはありません。
疼痛を生じることもありません。発熱することも少ないようです。
進行すると、炎症のために肉下種や結節を生じます。リンパ管が閉塞してリンパ浮腫を生じることもあります。リンパ浮腫が生じると、後遺症が残ることがあります。
肉芽腫(にくげしゅ)とは、慢性的な炎症により刺激されて細胞が増殖し、おできのような、こぶのような、腫瘤的な病変です。
結節とは、皮膚や内臓にできる隆起物腫や腫瘤のことです。エンドウ豆からクルミくらいの大きさです。
リンパ浮腫とは、リンパ管が炎症などで狭くなり、リンパ液の流れが悪くなると、リンパ液がリンパ管の外ににじみ出て、腕や足がむくむことです。
血液に細菌が入ると・・・
リンパ管炎・リンパ節炎が悪化すると、血管に細菌が侵入して、全身を巡るようになります。血管に細菌が侵入すると、「菌血症」や「敗血症」を発症します。
菌血症とは、細菌が血液中に侵入することです。日常的に起きるので、たいていは一過性で、問題ありません。幼児や高齢者は感染を起こして、発熱することがあります。
(敗血症)
敗血症は、細菌感染症に対して生じる全身反応で、「全身性炎症反応症候群」といいます。急速に全身状態が悪化するので、死亡率が高くなります。虫歯から細菌が侵入し、血液の中にまで入り込み、敗血症を発症することがあります。
多くの場合、菌血症から敗血症に移行します。
リンパ管・リンパ節とは何?
リンパ管炎・リンパ節炎といいますが、「リンパ管・リンパ節とは何か?」という疑問が起きますよね。リンパ管もリンパ節もリンパ系という組織に属し、体内に生じる老廃物の処理や免疫機能を担っています。
[リンパ系]
循環器系には、血液を循環させる心臓と血管系で構成する血液系と、リンパ液が流れるリンパ管とリンパ節で構成するリンパ系の2つがあります。
リンパ系は、リンパ液(リンパ)・リンパ管・リンパ節・胸管から成る組織です。
リンパ液とは?
毛細血管からにじみ出た漿液性の液体がリンパ管に入って流れているものを、リンパ液といいます。単にリンパとも呼びます。淡黄色の透明な、弱アルカリ性の液体です。腸の近くでは、栄養分が濃くなるので、白っぽくなります。成分としては、血漿(けっしょう)によく似ていて、リンパ球を多く含んでいます。
[リンパ管]
全身に網の目のように張り巡らされているリンパ液の通り道が、リンパ管です。リンパ管は静脈にからみつくようにして、全身に分布しています。リンパ管は必ずリンパ節につながっています。リンパ節は、頸部・脇の下・鼠径部に多く存在します。
リンパ液はリンパ管を通り、頸部・脇の下・鼠径部などのリンパ節に集められ、胸管などの太い主リンパ管を通って、鎖骨下の静脈角から静脈に入り、心臓に行きます。
[リンパ節]
リンパ節は、リンパ腺ともいいます。リンパ管のところどころにある2mm~3cmの大小さまざまな豆状の小体で、1ヶ所に2~十数個集まっています。これをリンパ節群といいます。全身で600~700個ほどあります。
リンパ節群は、頸部・腋窩部(えきかぶ=脇の下)・鼠径部・腹部・骨盤部に集まっています。
リンパ節は、リンパ液の検問所、あるいはフィルターのようなものです。リンパ節には、リンパ球が集まっています。リンパ管を通って流入するリンパ液に含まれる老廃物や毒素、病原体(細菌やウィルスなど)を捕らえて、処理します。リンパ球が食べてしまうのです。処理しきれなかった毒素や異物、病原体、癌などの異形細胞は、リンパ球に一時的に蓄積されます。つまり、リンパ節でリンパ液を濾過(ろか)してしまうわけです。
また、リンパ節には、骨髄でつくられるリンパ球を溜めこんで、熟成させる働きもあります。
リンパ球とは?
リンパ球は免疫機能を担う白血球の1種です。リンパ節に集中して存在します。リンパ球は、体外から侵入したウィルスや病原体に対する抗体をつくり、攻撃してやっつけます。また、次の侵入に備えて、免疫因子をつくります。
[リンパ系の働き]
リンパ系の働きは、3つです。
➀病原体や毒素、癌などの異形細胞を攻撃する
病原体の中には、ウィルスや細菌、真菌類、異物が含まれます。病原体や毒素、癌などの異形細胞を、リンパ液の成分であるリンパ球が、攻撃して、食べてしまいます。
②全身の不要となった老廃物の運搬
リンパ液は毛細血管からにじみ出た漿液性の液体がリンパ管に流れ込んだものです。不要となった古い細胞や血球などの老廃物を運び去る働きをします。リンパ液はリンパ節で濾過されて、きれいになります。
③栄養分を運ぶ
リンパ液は腸管から脂肪分を吸収して、全身に運びます。そのため、腸の周辺のリンパ液は乳白色をしています。
[リンパ管やリンパ節が炎症をおこすのは?]
リンパ管やリンパ節が炎症を起こしたり、腫れたりするのは、リンパ球が細菌などの病原体や異形細胞と戦っているからです。リンパ球は生まれながらのファイターですから、リンパ管に侵入した異物を見逃すことなく、攻撃してやっつけようとします。リンパ節にはリンパ球が集中していますから、異物との戦闘は激しくなります。
リンパ球が細菌などと闘うと、リンパ管が赤い線状に見えたり、リンパ節が腫れてグリグリしたしこりになったりします。リンパ管やリンパ節の炎症は、リンパ球の戦闘の証拠です。
リンパ管炎やリンパ節炎は、リンパ球が溶血性連鎖球菌やブドウ球菌などの細菌と戦っているために、起きるのです。抗菌剤はリンパ球の援軍ですね。
リンパ球が勝てば、リンパ管炎やリンパ節炎は治ります。しかし、リンパ球が負けると、細菌は増殖して感染を拡大します。そして、細菌が血液中に侵入すると、敗血症が発症します。
リンパ管炎の治療と予防
リンパ管炎の治療は、早期治療が何より大事です。内科を受診して、治療を受けます。外傷から細菌感染を起こしたことが原因なので、外科的処置が必要なこともあります。
リンパ管炎の予防は、外傷の治療と免疫力の向上です。
[急性リンパ管炎の治療]
急性リンパ管炎は、早期に適切な治療を受ければ、1~2間で治ります。自宅療養で大丈夫です。2週間以上かかるような重症の場合は、入院して治療することがあります。
➀外傷の治療
細菌が侵入した外傷を治療します。外傷部分が細菌に感染して壊死することがあります。その場合は、感染部を切開して切除する必要があります。
水虫や虫歯なども、きちんと治療します。水虫は、適切な治療を施せば治ります。
②安静と冷却
安静にして、リンパ管炎を起こしている部分を冷やします。冷やして熱を取り、炎症を鎮めます。患部に浮腫(むくみ)が起きている時は、患部を高くして、寝ているようにします。
患部の浮腫を防ぐために、治癒してからも3ヶ月ほど、弾力ストッキングを着用することがあります。
歩き廻ったり、患部を動かしたりすることは厳禁です。症状が多少改善しても、完全に治りきっていなければ、動き回ると悪化します。赤みや腫れが広がり、疼痛も激しくなります。入院して治療することもあります。
③抗生物質の投与
リンパ管炎の原因は細菌感染ですから、抗生物質が効きます。広域抗生物質のペニシリンなどを投与して感染拡大を防ぎます。抗炎症薬を使用して、炎症を鎮めます。培養検査で感染源の細菌を特定できれば、適切な抗生物質を投与します。
むくみが酷い場合は、利尿剤を投与します。
リンパ節炎を発症したり、重症化したりした場合は、入院して、1日2回抗生物質を点滴します。
菌血症や敗血症にならないようにします。
[慢性リンパ管炎の治療]
慢性リンパ管炎の主な原因は、真菌感染なので、治療には抗真菌薬を投与します。感染部に塗布したり、服用したりします。注射で投与することもあります。
リンパ節が腫れて炎症を起こしているにもかかわらず、血液検査で炎症反応が弱い時は、生検を行い、原因となる全身性の病気を確かめます。結核や梅毒に感染していれば、その治療を行います。フィラリアのような寄生虫感染の場合は、フィラリアを駆除して、リンパ液の流れを良くします。
浮腫が酷い時は、弾力ストッキングを着用することもあります。
[リンパ管炎の予防]
➀外傷部を清潔にして治療する
手足の外傷部や白癬菌感染部(水虫)から細菌が侵入して発症するので、外傷部分や白癬菌感染部は、常に清潔に保つようにします。傷口から細菌が侵入するのを防ぎます。同時に、損傷部をきちんと治療します。
②免疫力を保持する
細菌や真菌が侵入して感染しても、免疫機能が正常に働いていれば、感染が拡大したり、重症化したりすることはありません。ちゃんと、リンパ液中のリンパ球が撃退してくれます。
でも、過労やストレス過多、病気などで免疫力が低下すると、リンパ球が細菌との戦いに負けてしまいます。
免疫力を高めるには、良質な睡眠を十分にとり、適度な運動をします。身体を冷やさないようにして体温を上げます。気分転換して、ストレスを溜めこまないようにます。
リンパ液は、血液のように心臓というポンプで流れるのではなく、自発的に流れています。運動して筋肉が伸縮すると、リンパ液の流れが良くなり、免疫力を高めます。
まとめ リンパ管炎は早期治療が決め手です
リンパ管を流れるリンパ液には、リンパ球という病原菌と闘うファイターが存在します。外傷から侵入する細菌などは、たいていリンパ球が撃退してくれます。リンパ節にはリンパ管が集まっていて、リンパ球が集中しています。リンパ管を通って侵入する細菌などは、リンパ節で撃退されます。リンパ節は、病原体と闘う砦(とりで)なのです。
リンパ管もリンパ節も、病気と闘う免疫機能を担う重要な組織です。リンパ管炎もリンパ節炎も、リンパ球が侵入した細菌と闘うために起きる病気です。
ですから、リンパ管炎・リンパ節炎が進行し、重症化することは、リンパ球が細菌に負けたということです。そのため、敗血症などという死亡率の高い病気が起きるのです。
リンパ管炎は、死に至ることもある危険な病気ですが、発症の原因は、単なるケガや水虫、虫刺されなどです。珍しくもない、ありふれたことばかりです。つまり、リンパ管炎は、日常生活でだれにでも発症する病気なのです。それだけに、恐ろしいと言えます。
悪寒・全身倦怠感・発熱、それに赤い筋状の線状痕が現れたら、リンパ管炎の可能性があります。すぐに内科を受診することをオススメします。頸部や脇の下、鼠径部のリンパ節が腫れてグリグリするようなら、リンパ節炎を発症しています。
菌血症や敗血症を起こす前に、病院で適切な治療を受けることが大事です。
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