人間にとって心臓はなくてはならない存在です。心臓が全身に血を運び、体に酸素などのエネルギーを運んでいます。中には心臓が弱く、普段の生活で悩まされている方も中にはいらっしゃると思います。
今回は心臓病のひとつ、QT延長症候群について紹介させて頂きます。あまり聞き慣れない病気だと思いますが、実は恐ろしい病気なのです。この記事を読んで、少しでも心臓に関する知識と心臓病の怖さを知って頂けたらなと思います。
この記事の目次
QT延長症候群とは何なのか
QT延長症候群は原因不明のQT延長時間により起きる心臓病のひとつです。失神発作や突然死を起こす恐ろしい病気でもあります。
5000~7000人につき1人発症するとも言われています。
男女差はあるのか
小児期では男性、10~20代前半では女性が多いと言われています。
心臓について
QT延長症候群の細かな説明に入る前に心臓に関する基本的な知識について紹介させて頂きます。心臓の正常な機能を知ることにより、異常をより理解できるようにするためです。
心臓の解剖
心臓は約280~300gの袋状の心筋繊維でできている筋肉組織です。胸の左側に存在しています。左右の心房・心室の4室と僧房弁と三尖弁、洞房結節や房室結節、ヒス束、プルキンエ線維という構成です。
心臓の役割
心臓は血液を循環させる役割があり、脳や筋肉などに酸素を送り込む役割があります。毎分60~100回拍動して血液を送り込みます。
心拍数50回以下を徐脈、100回以上を頻脈、規則的な脈拍を整脈、不規則な脈拍を不整脈と言います。他にも二酸化炭素を排出して、酸素を取り入れるガス交換にも一枚噛んでいるのです。
血液循環の流れ
血液循環の流れはこのようになっています。
- 大循環:肺毛細血管→肺静脈→左心房→左心室→大動脈→動脈→体組織毛細血管
- 小循環:体組織毛細血管→静脈→大静脈→右心房→右心室→肺動脈→肺毛細血管
大循環で全身に酸素を送る、小循環で二酸化炭素を体外に排出すると覚えておくといいです。酸素と二酸化炭素がバランスよく体内に存在することで血液の循環と呼吸を行うことができるのです。
心臓をコントロールしているもの
心臓は自律神経により上手くコントロールされています。
この自律神経、交感神経と副交感神経に分類されています。交感神経が興奮すると、心拍数が上昇し、心臓が強く収縮して血圧が上昇します。副交感神経が興奮すると、心拍数が低下し、心臓の収縮力が弱くなり、血圧が低下します。この自律神経は延髄でコントロールされ、状況に応じて交感神経と副交感神経のバランスを調整しているのです。
また、アドレナリンとアセチルコリンという神経伝達物質も心臓の収縮に関わっています。アドレナリンなんかはテレビ番組などで聞いたことがあるかもしれません。
QT延長症候群の原因について
QT延長症候群の原因について説明させて頂きます。根本的な原因は不明とも言われていますが、いくつかの要素が絡んでいるとされています。
遺伝子の異常による先天性の場合
遺伝子の異常が原因で発症する先天性の場合があります。常染色体優性遺伝によるRomano-Ward症候群や劣性遺伝で聴力障害のあるJervell and Lange-Nielsen症候群といった病気で起きると言われています。
後天性の場合
抗不整脈薬などの薬剤、低カリウム血症などの電解質異常、徐脈などの後天性のものにより、QT延長症候群を発症するケースもあります。
外的なものとして
精神的な興奮や驚愕、激しい運動により発生する場合もあります。
原因から知っておくべきこと
原因となる遺伝子によって、発作のきっかけやどの治療薬が有効かなのかが変わってくるということです。症状が現れるかどうかや重症度も個人差があるという事も理解する必要があります。
QT延長症候群の症状について
QT延長症候群の症状について移ります。
動悸
動悸はドキドキするような訴えの事です。不整脈で生じる代表的な症状です。
立ちくらみ
立ちくらみはめまいの症状のひとつで起立性低血圧とも言われたりします。立ち上がる時にふらっとしたり、目の前が白くなって気を失いそうになったりします。
失神発作
失神発作は不整脈で生じることが多い症状です。意識を消失した際に呼吸している状態の事を失神発作と言います。ちなみに呼吸していない場合は心肺停止状態です。
けいれん発作
けいれん発作は手足をガクガクと震わせる発作の事です。発生時は本人の意識はありません。発作が収まった後は力が入らないことがありますが、多くの場合は一過性で徐々に回復していきます。
突然死
QT延長症候群を発症した際、突然死する場合があります。
注意すべきこと
失神・けいれん発作はてんかんと間違えられる場合もあるので、その辺りは注意すべきことです。
QT延長症候群の検査・診断について
QT延長症候群の検査・診断に移ります。
既往歴
発作の既往があったかどうかを調べていきます。
家族歴
家族の中にQT延長症候群があったかどうかを確認し、先天性のものかどうか確かめます。
遺伝子診断
遺伝子を見て、遺伝子の異常による病気を確認して、QT延長症候群を引き起こしている原因を確かめていきます。
心電図
心電図でQT時間の延長とT波と呼ばれる波の変化を確認していくことになります。
つまり
遺伝子の異常の有無を既往歴や家族歴、遺伝子診断から把握する事、心電図で心臓の興奮状態を確認することが重要になるということです。
心電図について
QT延長症候群では心電図を見ることが必要となります。ここでは心電図の見方を補足説明させて頂きます。心電図で何を表しているかを把握して、正常と異常でどのように違うのかというのを少しでも理解して頂いたらなと思います。
心電図とは何なのか
心筋の活動電位の変化を経時的に記録したものを心電図と言います。いくつかの誘導方法があります。
標準肢誘導
右手、左手、左足、右足に電極を装着して、2つの電極間で記録します。
単極肢誘導
右手、左手または足の電極とGoldberger電極との間で記録する誘導法です。
胸部誘導
胸部上に装着した電極とWilson電極との間で記録する誘導法です。
波形を見ていく
心電図を見ていく際、波形や大きさを見ていくことが重要となります。基本的な波形はP波、QRS波、T波からなります。稀にT波の後にU波が見られることがあります。
P波は心房の興奮、QRS波は心室全体への興奮への広がり、T波は心室の興奮回復を示しています。ST部分は心室全体の興奮、PQ時間は房室間伝導時間、QT間隔は電気収縮時間を表します。
心電図でどういうことが分かるの?
心電図から心拍数、心臓のリズム(不整脈の有無)、平均電気軸、興奮伝導障害(房室ブロック、脚ブロックの有無)、心筋障害(狭心症、心筋梗塞の有無)、心肥大、体液の電解質異常などを把握することができます。なので、心臓の病気の際は心電図を見ることは必須と言えます。
QT延長症候群の場合は?
QT延長症候群は電気収縮時間が延長していることを示し、心室の興奮が長くなってしまうということです。結果、心臓がリラックスするのに時間がかかるということを意味しています。
QT延長症候群の治療について
QT延長症候群の治療について説明させて頂きます。
QT延長症候群に気づいた場合はどこに受診すればいいのか
QT延長症候群に気づいた場合、小児循環器科か循環器科に受診する必要があります。場合によっては突然死に至る病気なので、早期発見と早期治療が必要となります。つまり、普段から近くの病院で不整脈の専門医のいる病院はどこなのかを情報収集することが大切だという事になります。
投薬治療
発作の予防のためにβ遮断薬が有効とも言われています。カルシウム拮抗薬などがそれに当たります。
日常生活指導
日常生活において、激しい運動や興奮など発作の原因となる動作、発作を誘発する薬剤を使用することを避けるのが大事です。この辺りは医師の処方をきちんと受けて適切な治療薬を選択することが必要となります。運動も理学療法士などのリハビリスタッフと相談すると尚良いと思われます。
ペースメーカー
ペースメーカーを用いて脈拍を増やしていきます。これにより、QT時間を短縮し、徐脈を予防することが目的です。
植え込み型除細動器
投薬治療が有効でない場合に用いられる治療です。QT時間を正常化させる場合に行われます。
交感神経切除術
交感神経切除術は不整脈の原因となる所をアブレーションにより電気焼灼する治療法です。正常な心臓のリズムを獲得するために行われます。投薬治療では改善できない場合や不整脈を根治するという意味で行われたりします。経験を積んだ医療チームが行うと、成功率は9割と有効な治療法と言っても過言ではありません。QT延長症候群だけでなく、多くの不整脈でも用いられており、ポピュラーなものになっています。
つまり
QT延長症候群の治療の際は投薬治療が有効かどうかを知る必要があります。それにより、投薬治療のみなのか、植え込み型除細動器や交感神経切除術による治療が必要なのかどうかが変わるからです。また、日常生活での運動量や内容の指導やどの薬は用いてはいけないかなども医師と相談して、発作を起こさせないということも大事になるという事です。
まとめ
今回、QT延長症候群について紹介させて頂きました。不整脈を理解する上では、心臓の正常と異常の違いや心電図で心臓はどうなっているかを把握する必要があるというのを理解できたのではないでしょうか?
また、QT延長症候群は遺伝による先天性のものと薬などが原因で発症する後天性のものに分かれ、どの遺伝子に異常があるかで治療が変わってくることも理解する必要があります。この記事を読んで、少しでも不整脈の怖さなどを認識して頂けたらなと思います。