骨折と聞くと、皆さんはどのような状態のことをイメージするでしょうか?実は、骨折にはいろいろな種類があり、ポキッと折れた状態(完全骨折)だけを示すものではありません。骨が凹んだり、ひびが入った状態などの“骨が壊れた状態”であれば、骨折と見なされます。
そして、スポーツをする人でなくても、思いもよらぬ負荷や衝撃によって受傷し、人によっては自分でも気づかぬうちに骨折していたというケースが多いのが「剥離骨折」と言われる骨折です。
捻挫や打撲などと間違われやすいのですが、そのまま放置しておくと骨が変形し、後遺症が残ることもあるので、注意が必要です。
そこで、ここでは、日常生活を過ごす中でも引き起こす可能性の高い、剥離骨折についての症状や、治療法などをご紹介いたします。
この記事の目次
剥離骨折について
あまり聞き慣れない言葉ですが、剥離骨折とは、「剥離」という言葉通り、何らかの原因で骨が欠けて、本来あるべき箇所から剥がれた状態のことを示します。
通常の骨折のような激しい痛みに比べると痛みも少ないため、すぐには病院に行かず「いつまでたっても痛みが引かない」といった症状で、ある程度時間が経過して受診し、剥離骨折だと判明するケースも多々あります。
剥離骨折とは?
剥離骨折と同義のように取られがちなのが、「裂離骨折」です。どちらも骨が剥がれた状態の骨折で、剥離骨折をインターネットなどで検索すると“筋肉や腱、靭帯などが引っ張る力によって、それらの付着部分の骨が引き裂かれたもの”と出てきますが、これは“剥離骨折”ではなく“裂離骨折”にあたる状態です。
裂離骨折の場合は、骨が未発達である成長期や、スポーツなどで筋力や腱を駆使する人に多く見られますが、「剥離骨折」の場合はこれとは異なります。
剥離骨折は、骨の衝突や摩擦によって起こる骨折で、強くどこかに指や肘などをぶつけたり、トンカチなどで釘を打ち損ねて誤って指を叩いてしまったときなどに発生します。
すなわち、裂離骨折のように、筋肉や腱などによって引っ張られる力がなく、直接的な外力によって生じるというわけです。これら2種類の骨折の特徴は、以下の通りです。
<剥離骨折>
- 直接的に外力が働いた部位で発生する
- レントゲン上では、剥離した部分の薄い骨片が見える
- 筋肉や腱、靭帯の付着している箇所に限らず、どこにでも発生しうる
<裂離骨折>
- 外力がほかの部位に誘導されるため、外力が加わった部位とは離れた箇所で発生する
- レントゲン上では、剥離骨折よりも厚い骨片が見える
- 筋肉や腱、靭帯などの付着部分で発生する
剥離骨折の原因
剥離骨折の原因は、事故によって不意に外から大きな衝撃を受けたり、何かに躓いて転倒するなどして、まさに、先に述べたようにトンカチで指を誤打するような衝撃が骨にかかることで生じます。
日常生活でよく見られるケースは、タンスに足の小指を強打し、打撲だと思っていたら剥離骨折だったという例です。
誰にでも発生しうる症状ですが、高齢者などで骨が丈夫でなかったり、カルシウムが不足するなどして、骨が脆くなっていると、剥離骨折を引き起こしやすい傾向があります。
剥離骨折の症状
剥離骨折は、強い外力が原因となるため、「骨折の痛み」というよりも、どこかにぶつけたり打ったりした痛みが強く、骨が剥離した痛みはそれらの衝撃による痛みが治まった頃に、じわじわと生じる傾向があります。
症状としては、受傷した箇所が腫れて圧痛があり、内出血を伴うこともあります。受傷した箇所にもよりますが、例えば足指を剥離骨折した場合には、歩行はできるものの、通常のようにつま先に体重をかけて歩くことはできません。
しかし、症状の度合いや人によっても異なりますが、捻挫や打撲痛と同じような痛みのため、そのままにしてしまうケースが多く見られるので、注意が必要です。とくに内出血や圧痛がある場合には、早めに病院を受診することをおすすめします。
剥離骨折の治療について
剥離骨折の疑いがある場合には、まず、レントゲンで検査をします。場合によってはCTやMRIなどを使用することもありますが、多くの場合は、レントゲンによるX線照射による検査がほとんどと言って良いでしょう。
診察の際には、具体的にどのような動作(あるいは事故)が怪我の原因になったのかに加え、痛む箇所や痛みの程度などを明確に医師に伝えられるようにしておきましょう。
応急処置
見た目で明確に剥離骨折であるということを自己判断するのは困難ですが、腫れや内出血が見られる場合は、早めに応急処置をすることで、治療期間を縮めることが可能です。応急処置として知られている方法に「RICE処置」というものがあります。
【Rest(安静)】
患部を動かさず、安静にします。受傷しても尚、患部を動かし続けると、もともと身体に備わっている治癒力が回復しようと作用し始めるのが遅れてしまいます。そのため、リハビリなどにも時間を要するため、完治までの期間が長引く原因になります。受傷後は、安静にできる場所へ移動し、できるだけ患部を動かさないことが大切です。
【Ice(氷冷)】
患部を冷却することによって痛みを軽減させます。さらに、血管を収縮させることで、腫れや炎症を早く緩和するといった効果もあります。
しかしこのとき、市販されている湿布などで代用しないよう注意してください。湿布は、冷たく感じますが、冷却効果があるわけではありません。ここで大切なのは「冷やすこと」なので、ビニール袋などに氷を入れたり、保冷剤を使うなどして、冷却するようにします。
【Compression(圧迫)】
適度な圧力を加えることで、腫れや炎症をコントロールします。包帯などで患部を固定するように巻き、安静にしておきましょう。このとき、締めつけすぎるとうっ血を招くので、軽く引っ張りながら包帯を巻くように気をつけてください。
また包帯などがそばにない場合には、タオルを裂いたり、ハンカチなどでも代用可能です。添え木の代わりになるようなものがあれば、それも用いて固定しつつ、軽く圧迫しながら包帯などで患部を巻いておくと、さらに良いでしょう。
【Elevation(挙上)】
心臓より高い位置、あるいは同じくらいの位置に固定することで、痛みや腫れを緩和させます。足の場合には、横になり、足の下に枕などで高さを出し、心臓よりもやや高めの位置に足を上げた状態にしておきます。手の場合には、三角巾などを首から下げ、そこに腕を通して、手がぶらりと下に降りた状態にならないようにしておくと良いでしょう。
このような「RICE処置」は、骨折の場合に限らず、打撲や捻挫などの症状にも応用できます。できるだけ早くこの処置を行うことで、回復までの期間に差が出ると言われています。
固定治療
視診、触診、レントゲンなどの検査によって、剥離骨折だと判断された場合は、主にギプスやシーネを用いて固定し、自然治癒するのを待ちます。
シーネというのは、あまり聞き慣れないかもしれませんが、ギプスと同じように固定するのを目的とした添え木のようなもので、医療用語では「副子(そえこ)」と呼ばれています。
固定期間は、人によっても異なりますが、早ければ2~3週間、通常では1ヶ月~1ヶ月半と言われています。しかし、足指・手指など、どうしても動かしてしまう場所になると、骨がくっつきにくいため、もう少し時間を要することもあるようです。
痛みがひどい場合には、ロキソニンやボルタレンなどの鎮痛剤を服用しながらの治療になります。重要なのは、「とにかく動かさない」ということです。
しかし、動かさないようにするための固定具を当てている箇所にかゆみやかぶれが出たり、動かさないことによってむくみが生じる場合もありますので、その場合には医師に相談して改善策を検討することをおすすめします。
固定具が外れたあとは、専門医の指示のもとでリハビリを行い完治を目指します。固定したことによって、可動域が狭くなった関節などの柔軟性を取り戻すためには、リハビリは欠かせません。無理をせず、根気よく続けることが大切です。
手術治療
骨折の場所や度合いによっては、手術が必要なケースもあります。手術では、剥離した骨を、元の位置に戻して、金属固定具などを使用して固定します。術後は、鎮痛剤などを服用しながら、安静に保ちます。
スポーツ選手や仕事の都合で一刻も早く治療しなければならない場合にも、手術療法を選択することがありますが、手術をすると入院が必要になります。
また、手術治療の場合、早ければ翌日からリハビリが可能です。固定治療と同様に、筋肉の衰えや、関節が凝固するのを防ぐためにもリハビリを怠らないことが完治への近道です。
治療中の食事
安静しておくこと以外にも、治療中に気をつけておきたいのが食事です。骨折時に比べ、治療中は、鎮痛剤の影響もありそこまで痛みを伴わないため、身体が損傷部分を修復しようとしていることに気づきにくいですが、私たちが思っている以上に、身体は頑張っており、実は非常に体力を消耗しているのです。
そのため、バランスの良い食事で、栄養面からしっかりとサポートしていくことが大切です。
「骨折」と聞くと、カルシウムを連想するかもしれませんが、カルシウムだけを摂取しても、体内で「栄養素」としての役割を果たすことができません。
カルシウムを定着させるためには、タンパク質が必要不可欠なのです。なかでも「I型コラーゲン」と呼ばれるタンパク質は、カルシウムを定着させる土台を作っている大切な栄養素です。これらを多く含む牛スジや豚足、手羽先などを取り入れながら(※飽和脂肪酸を多く含むので摂り過ぎには注意)、ビタミンやミネラルなどのバランスも考えてメニューを決めましょう。
また、タンパク質を吸収するには、ビタミンCと鉄分が欠かせません。全体の栄養バランスを見ながら、カルシウム、タンパク質、ビタミンC・B・K・D、鉄分、ミネラルを摂取するよう心がけましょう。
まとめ
いかがでしたでしょうか。あまり聞きなれない剥離骨折ですが、日常生活を過ごす中でも、十分に発生しうるものです。どこかにぶつけるなどして、患部に異変が見られた場合には、応急処置を速やかに行い、早めに病院を受診しましょう。
また、普段運動をしない人ほど、思わぬことで怪我をしやすいと言われています。骨折だけではなく、そのほかの身体の故障を防ぐためにも、日頃からストレッチやウォーキングなどで身体を動かし、運動神経や反射神経が鈍らないように心がけておくことも大切です。
健やかな身体をつくるのは、私たち自身です。正常に機能していることに感謝しつつ、怪我などをした際には、しっかりと休養し、身体が治癒する力を存分に発揮できるようにサポートしましょう。