食の豊かな現代では、スーパーやデパートなどの食料品売り場に行けば、実に様々な食材を購入することができます。とくに、最近では健康志向の上昇を受けてか、「有機」「オーガニック」「国内生産」と謳う食料品も、多く見られるようになりました。
新鮮で品質の良い食材は、私たちの食卓に安心を運んでくれるものです。そして、飲み物も、いろいろなものがあります。おしゃれなカフェラテや、フレッシュジュースなど次々と新しいものが販売されています。
とくに、果物のジュースなどでの、「果汁100%」「国内生産」といった表記は、私たちの購買意欲をそそる一つの指標ともなっているのではないでしょうか?
そこで、気になるのが、今回ここでご紹介する「濃縮還元」という言葉です。パッと耳にすると、ギュッと果汁が詰まっているようにも聞こえますが、そのあとに「還元」という文字がついていることで、一気にイメージが曖昧なものになってしまう人は、そう少なくはないはずです。
「濃縮還元」という表記のあるジュースは、一体どのようなジュースなのでしょうか?
ジュースに記されている様々な表記
「果汁100%濃縮還元ジュース」という表記をよく目にしますが、果汁を100%使用しているにも関わらず、そのお手頃な価格帯とのギャップに違和感を抱く方も多いかもしれません。
ここでは、ジュースなどにある様々な表記と、その製造工程などをご紹介しながら、濃縮還元ジュースの正体に迫ります。
濃縮還元の場合
「濃縮還元」という表記があるジュースの製造工程では、まず、加熱やフリーズドライなどの方法で、濃度を高くした果汁を冷凍したものを運搬し、運搬先の製造工場で希釈して作られています。
その後、高温で短時間加熱殺菌することで、本来の果汁と同等の濃度にしたものが、「濃縮還元ジュース」として販売されているのです。
これらは、原材料を輸入品に頼っているものに多く見られるのですが、運搬コストや保存コストを抑え、さらに衛生管理も容易になることから、このような技術が用いられていると言われています。
また、国内生産の果物でも、一年中実を付けているわけではありません。冬になれば、採れない作物も多々あります。それらを原料としている場合、濃縮した果汁を-20℃で冷凍保存することで、一年中、同じ原材料を使用したジュースを製造することができるというわけです。
濃縮方法としては、
- 低温でも水分を蒸発させやすい「真空濃縮」
- 水分を凍らせて、凍った部分を除去する「凍結濃縮」
- 特殊な膜に濾過させることで水分のみを除去する「膜濃縮」
などの方法が用いられているようです。
濃縮果汁の場合
濃縮還元果汁と似たような表記で「濃縮果汁」というのがあります。「100%濃縮果汁」「100%濃縮還元果汁」どちらも同じように見えますが、容器の大きさや価格を見れば一目瞭然です。商品として並んでいる「濃縮果汁」は、「濃縮還元ジュース」よりも、ひと回り、あるいはふた回りほど、小ぶりな容器に入っていることでしょう。
濃縮果汁の場合、果物をしぼって取り出した果汁から、煮詰めるなどの過程を経て、濃度を1/5~1/6位になるまで濃縮します。濃縮果汁の商品は、スーパーなどではあまり見ることがありませんが、自然食品のお店や、お中元用の商品で見かけることがあります。
これらは、カルピスのように、飲むときに水で薄めて飲むタイプのジュースとして知られています。すなわち、「還元されていない状態の、濃縮された果汁」ということです。
ちなみに、濃縮された果汁は、凍結温度が低いと言われています。これが何を示すのかというと、前途のような冷却コストの低減に加え、液体のまま保存が可能になるということです。さらに、酸味の強い果物の濃縮果汁の場合においては、濃縮することで酸性に傾くため、細菌などが繁殖しにくくなり、衛生面でも、管理しやすくなるそうです。
また、果汁を搾る際には、果皮も含めてまるごと絞って搾汁する方法と、果皮を除き果肉部分からのみ搾汁する方法があります。前者の場合は、苦味が強くなるなどのリスクがあるようです。
ストレート果汁の場合
ストレート果汁と表記がある場合のジュースでは、果汁をそのままの状態で低温保存し、殺菌工程を経た状態の果汁が使用されています。
果物の名産地や自然食品のお店などに行くと、少し高価なジュースとして、ストレート果汁のジュースが販売されているようです。
濃縮還元のジュースに比べると、味も見た目も大きく異なることは、言うまでもありません。味は果物そのものの香りを保ち、果汁の色味も、濃縮還元のものに比べると濃いのが特徴です。
また、ここまでにあげた様々な製造方法は、果物に限らず野菜ジュースなどでも用いられています。
濃縮還元に隠されたトリック
ここまでご紹介してきたことを見ていくと、ストレート果汁の方が、果物や野菜のそのままの風味や香りを楽しめるということがお分かりいただけたことでしょう。
しかし、濃縮還元のジュースと、ストレート果汁の「味や見た目以外の違い」については、いかがでしょうか。実は、濃縮還元ジュースには、「そうだったの?」と驚くような事実が多々あるのです。
それでは、ジュース容器にラベルなどで記されている文言を中心に確認しながら、それらが意味する“本当のところ”を見ていきましょう。
本当に国産?
濃縮還元ジュースの場合、「国産」と記されていても、原材料の産地は国産ではないということが、珍しくありません。なぜならば、外国産の果物を使用していたとしても、濃縮還元した果汁の希釈を日本の工場で行えば、それは国産であると表記できてしまうからです。
消費者庁が発表している「果実飲料品質表示基準」でも、『希釈した場合は、希釈した国が原産国』という文章があり、国が定めた基準が、原産国を曖昧にさせてしまっていることがわかります。
現実的に考えても、国産の果物を使用しているジュースであれば、現在の濃縮還元ジュースのような価格帯に抑えることは、まず困難であることは、容易に想像できるのではないでしょうか。
また、原産国が不明であるということは、輸入された国で使用されている肥料や農薬についても知ることができないということにもなります。
「健康のために」と購入したジュースに、農薬がたっぷり使われている果物や野菜を使用されていたとしたら、いくら残留農薬検査を通過しているものでも、やはり「健康」とは程遠くなるような印象を抱いてしまいます。
「100%」表記について
ストレート果汁と、濃縮還元果汁を希釈して作られているジュースの、どちらの場合においても、「100%果汁」と表記できるということも、驚きの事実かもしれません。
確かに、100%の果汁を濃縮したものなので、希釈しても代わりはないように感じるかもしれませんが、これは、次にあげる栄養価などの面から見ると、ストレートの果汁と濃縮した果汁では、大きく異なることがおわかりいただけることでしょう。
濃縮還元の栄養価について
濃縮還元のジュースに含まれる栄養価は、ストレート果汁のものに比べると、大きく異なります。
まず、先に述べた製造工程を再度見直してみてください。「濃度を高くした果汁を冷凍」という言葉があるように、果汁は一度、冷凍されてしまいます。また「加熱殺菌」という過程もくぐり抜けなければ、濃縮果汁を作ることはできません。
ビタミンなどの栄養素は、冷凍すると破壊するため、ほぼ意味をなしていないのと同等です。これは、加熱殺菌においても言えることでしょう。栄養素に含まれる消化酵素や有機酸は加熱殺菌の時点で壊れているのです。
「ビタミンを摂ろう」と思って、濃縮還元ジュースをたくさん飲むのであれば、栄養面においては、果物をそのまま食べるのが一番手っ取り早いとも言えるでしょう。
また、濃縮還元ジュースなどに限らず、冷凍や加熱の工程を経ているものは、全て同様であるとも考えられます。忙しい現代人に人気とされている「これを飲めば一日分の野菜が摂れる」という謳い文句で販売されているジュースでも、その栄養価を見てみると、厚生労働省が定めている「一日に必要な栄養価」には達していないことが認められています。
つまり、一日に必要な量の野菜を原料として使用しているだけで、栄養価においては、また別の話、というわけです。
濃縮還元ジュースに使用されている香料について
濃縮還元ジュースの原材料名を見てみると、原料となっている果物や野菜とともに、「香料」と表記されているものもあります。この香料は、国から「指定成分」とされている成分の一つです。
指定成分とは、それらを摂取すること(化粧品などの場合においては、塗ること)で、アレルギーなど、身体に何らかのトラブルを起こす可能性がある成分です。
そのような危険な成分が故に、成分表に表示することが義務付けられているのです。
では、香料とは、そもそもどのような成分が含まれているのでしょうか?「香料」と一言で言っても、例えばいちごの香りのする成分が単体で香料となっているのではなく、さまざまな成分を組み合わせることで、「いちごのような香りがする成分」を作り出しているのです。
- 酪酸エチル
- 酪酸ブチル
- 乳酸エチル
- イソ吉草酸エチル
- アルデヒド
- アセトフェノン
- バニリン
- リナロール
- 酢酸エチル
など、20種類以上を組み合わせることで、本来の香りに近くなるように作られています。代表的なものでは、発ガン性物質やシックハウス症候群の原因物質としても規制されているアルデヒドは、ご存知の方も多いかもしれません。
どれほど多くの成分を組み合わせてできている場合においても、表記は「香料」の二文字に集約されてしまうのは、なんとも歯がゆいものです。
このような人工の合成香料は、とくに小さな子供にとっては喘息やアレルギーの原因になる可能性があるとも言われています。
食品に含まれているのは、少量です。過剰に摂取しなければ問題はありませんが、現代の食生活を見てみると、過剰に摂取する危険性がゼロだとは言い切れないのではないでしょうか。ジュースをたくさん飲む習慣があり、それらに加えてお菓子やインスタント食品なども多く摂取するような食生活をしている場合は、要注意です。
100%という表記が有るにも関わらず、香料が必要であるということから見ても、本来の果物の成分とは程遠いことが見て取れることでしょう。
100%果汁なのに「加糖」?
これはそれぞれの商品によっても異なりますが、濃縮還元ジュースの中には、「加糖」という成分表記があるものもあります。この時点で、不自然さは十分に感じられますが、これは一体どういうことなのでしょうか?
そもそも、前途のように、濃縮還元することで、香りや風味も飛んでしまいます。故に香料が必要になったりするのですが、砂糖もまた、これと同様のことが言えます。ストレート果汁に比べて、濃縮還元したジュースは、本来の味とは違うため、砂糖や香料で味を「調整」しているのです。
JAS規格が認めている加糖率を見ると、さらに驚くかもしれません。以下のデータをご覧下さい。
<加糖率2.5%以下>
温州みかん、りんご、レモン、ぶどう、パイナップルなど
<加糖率5.0%以下>
オレンジ、グレープフルーツ、桃、果粒入り果実、野菜と果物のミックスなど
本来の果物であれば、砂糖を加えずとも、酸味とともに程よい甘みが感じられるものでも、2.5%~5.0%の加糖が認められているのです。
果物そのものにも糖分は含まれていますが、これに加えて、砂糖まで入っているものを頻繁に飲むとなると、明らかに糖分過多になると言えるのではないでしょうか。
また、糖分はビタミンなどの吸収を妨げたり、身体を冷やす作用があるため、健康やダイエットだけではなく、お肌にも良くありません。
希釈する水は?
さらに、見落としがちですが、濃縮還元した果汁を希釈するのに使用している水についてはどうでしょうか。成分表にも、どのような水を使用しているのかを記しているのは、一部の商品のみです。
「天然水使用」という表記がある場合を除き、希釈する際には、水道水や地下水なども使用されていると言われています。健康を意識する人であれば、家庭内でも台所などに浄水器を付けている方もいらっしゃることでしょう。
しかし、いくら家庭内で水の品質に気をつけていても、濃縮還元ジュースの希釈工程で使用されている水が、想像しているものと程遠いものだとしたら、安心とは言い難いかもしれません。
健康のためには、ストレート果汁のジュースを飲もう!
ここまでご紹介したように、漠然としたイメージを一つ一つ追求していくと、濃縮還元ジュースは、決して「健康的」とは言えない飲料であることがわかります。
果物そのものの香りや、栄養を取り入れたいのであれば、やはり、搾ったままのストレート果汁のジュースをおすすめします。
それでは、最後に、様々なジュースの種類をあげながら、ストレート果汁ジュースがもたらす嬉しい効果をご紹介いたします。
リンゴジュース
リンゴに含まれる「リンゴポリフェノール」という成分には、内臓脂肪を減少させ、筋力を増強させる働きがあるということが認められたのは、有名な話です。そのほかにも、リンゴにはデトックス効果や便秘解消効果もあるため、ダイエット中の人にとっては嬉しい要素が盛りだくさんです。
また、皮の部分にも、抗ウイルス効果のあるケルセチンという成分が含まれているので、がん予防にも効果的だと言われています。
リンゴジュースを飲む際には、ぜひ、皮ごとジュースにしていただきましょう。
ブドウジュース
ブドウに含まれるポリフェノールには、善玉コレステロールを増加させる働きがあります。動脈硬化や生活習慣病の予防に毎朝飲むのも良いでしょう。
さらに、アメリカの大学で行われた実験結果によると、ブドウには記憶力が上がるという効果もあることがわかりました。試験勉強などで疲れたときに、ブドウジュースで糖分を補給しながら、記憶力も上げてしまいましょう。
グレープフルーツジュース
グレープフルーツには、美容と健康のために効果的な成分が豊富に含まれています。ビタミンCだけではなく、食物繊維も豊富に含んでいるので、腸の活動を活発にしたり、新陳代謝促進にも効果的です。
さらには、GI値の低い果物であるということに加え、ナリンギンというポリフェノールが食欲を抑制する作用をもたらしてくれるので、ダイエットには最適です。
オレンジジュース
私たちにとって身近な存在であるオレンジジュースですが、ぜひ、ストレート果汁のもので栄養素をそのまま取り入れていただくべきとも言えるでしょう。
オレンジジュースに含まれるクエン酸には疲労回復効果があり、疲れた身体をサポートしてくれます。さらに、ヘスペリジンという成分が、血管を拡張するよう作用するため、冷え性にも効果的です。
もちろん、ビタミンCも豊富なので、美肌づくりには欠かせないジュースかもしれません。
まとめ
いかがでしたでしょうか。濃縮還元という単純そうで曖昧な言葉には、いろいろなことが隠れていたようです。せっかく果物や野菜のジュースをいただくのならば、できるだけ栄養をそのままいただけるストレート果汁のものにすると、身体も喜ぶことでしょう。
また、ジュースも良いですが、食事からしっかりと栄養を取り入れることも大切にしてください。「食べる=噛む」という行為には、きちんと意味があり、咀嚼することで分泌される唾液には、消化吸収を助ける働きがあるのです。
ジュースばかりに頼るのではなく、食事をよく噛んで食べることも、忘れないように気をつけましょう。