「溶連菌」をご存知でしょうか?子供を持つ人ならば、多くの人が一度は耳にしたことがあるかもしれません。溶連菌とは、主に喉や皮膚に症状を引き起こす病原体で、感染する季節によっても症状が異なります。
5~15歳の子供が感染しやすいと言われており、感染力が強く、幼稚園や小学校などの集団で行動する環境下では、とくに注意が必要です。しかし、大人の場合においても、疲れや睡眠不足、ストレスなどによって免疫力が低下すると、感染する可能性があります。
また、溶連菌に感染すると、自然治癒でも大丈夫だという声もありますが、実際のところはどうなのでしょうか?
そこで、ここでは、溶連菌感染から治療までの症状や、自然治癒における安全性などをご紹介いたします。
溶連菌感染症について
溶連菌に感染すると、喉や皮膚の症状が主に見られますが、重度の合併症を引き起こす可能性があるため、感染拡大が警戒されています。
まだ症状が表に現れていない潜伏期間にも感染する可能性は十分にあるため、気づかないうちに、ほかの人に感染してしまうこともあるのです。
溶連菌とは?
溶連菌は、人間の喉に生息している常在菌の一種で、5~20%の割合で健康な人でも保有していると言われています。正式名称は「溶血性連鎖球菌」と言い、α溶血とβ溶血の2種類があります。
このうち、人に感染症をもたらすものはβ溶血のA群、B群、C群、G群で、約90%がA群β溶血性連鎖球菌によるものだと考えられています。
乳児は母体からもらった免疫が活発になっているため、感染する可能性は低いと言われていますが、感染率が0%というわけではないので、注意が必要です。
また、妊娠している人の羊膜に感染してしまうと、破水しやすくなり、出産時に赤ちゃんに感染する危険性があるので、非常に注意しなければなりません。新生児は免疫力が低いため、溶連菌に感染すると、髄膜炎や敗血症などを引き起こすこともあるのです。
溶連菌感染症の症状は?
溶連菌に感染すると、2日~5日間の潜伏期間を経て、症状が出てきます。1年中感染する可能性はありますが、なかでも12月~3月、7~9月に流行しやすい傾向があり、前者の場合は主に喉に症状が見られ、夏場に感染する後者の場合においては、皮膚に症状が出やすいという特徴があります。
それぞれの症状は、以下のとおりです。
<喉に感染した場合>
- 38~39度の高熱
- 喉の激しい痛み、赤みを伴う腫れ
- 扁桃部分に白いものが付着する
- 頭痛
- 嘔吐
- リンパの腫れ
- 口の中に赤い斑点ができる
- 舌の表面がいちごのようにザラザラする「いちご舌」
- リンパ節を中心に広がる湿疹
- 体や手足の発疹
※喉に感染した場合には、高熱や喉の痛みといった咽頭炎などに始まり、そこから体や手足の発疹、いちご舌などの発症という順に症状が見られるようになり、解熱後に手足の皮膚が剥けることもあります。
<皮膚に感染した場合>
- 関節部分に皮疹が出て、発熱を伴う「猩紅熱」
- 痂皮性の膿痂疹が出る「とびひ」※ブドウ球菌感染によるとびひは水疱性の膿痂疹
- 悪寒や高熱とともに、痛みを伴う浮腫性の紅斑が現れる「丹毒」
- 熱を帯びて急速に腫れが広がり、水ぶくれや膿疱が現れる「蜂窩織炎(ほうかしきえん)」
- リンパに沿って線のような紅斑が手足に現れる「急性リンパ管炎」
感染経路
溶連菌の感染経路として、最も多いと言われているのが「飛沫感染」、そして次に多いものとして「経口感染」があげられます。
二次感染防止には、手洗いうがいなどの基本的なものに加え、マスクの着用、同じ食器は使わないといった予防策が有効です。とくに家族で感染した人がいる場合には、注意しましょう。
また、皮膚に感染する猩紅熱やとびひなどの場合には、二次感染の可能性があるものと、そうでないものがありますので、症状によって医師に確認すると良いでしょう。
治療法
<喉に感染した場合>
溶連菌感染症は、早めに対応することが重症化を防ぐためのカギとなります。喉による症状が出た場合には、耳鼻咽喉科、もしくは内科、小児科を受診しましょう。
年齢や発熱、喉の炎症の具合などを医師が確認し、溶連菌感染の疑いがあると診断した場合には、まず、5~10分程度で結果のわかる検査を行います。検査後、溶連菌感染症だということが確認された場合には、痛み止めや炎症を緩和する薬とともに、抗生物質が処方されます。
薬を服用すると、症状が改善されてきますが、症状が良くなってきたからといって、抗生物質を飲むのを自己判断でやめないことが大切なポイントです。
抗生物質の服用期間は、大体5日~10日間と言われており、子供にとってこれだけの間毎日薬を飲み続けるというのは、とても大変なことかもしれません。しかし、体内から溶連菌がいなくなるまで飲まなければ、後に紹介する重度の合併症を引き起こす可能性があるので、医師から指定された期間中は、抗生物質をきちんと飲んでおきましょう。
また、咽頭炎や口内の発疹による痛みで、食事が喉を通らない場合には、ゼリーや茶碗蒸しなどの柔らかい食べ物を食べ、辛い物や酸っぱい物などの刺激物は避けるようにしてください。高熱が出ている場合には、こまめな水分補給も大切です。
<皮膚に感染した場合>
傷口などから溶連菌が感染し、猩紅熱やとびひなど、皮膚に症状が出た場合には、皮膚科を受診してください。
皮膚に症状が現れた場合には、とくに清潔にしておくことが大切です。喉の場合と同様に、抗生物質が処方されますが、それぞれの症状によって塗り薬や、かゆみ止めなどが一緒に処方されます。
いずれの場合においても、症状が発症した場合には、免疫力を高める食事などを心がけ、安静にして休養しましょう。
自然治癒とそのリスク(合併症)
溶連菌は自然治癒できるという情報もありますが、本当なのでしょうか?
確かに、症状がごく軽い場合、あるいは免疫力がある程度備わっている大人が感染した場合などは、そのまま放置しておいても自然治癒するケースもあるようですが、二次感染を招く可能性を考えると、ベストな治療法とは言い難いでしょう。
また、ウイルスによる感染症の場合、ウイルスは体内で長期に渡って生息することができませんが、溶連菌のような「細菌」の場合においては、身体の中で長く生息することができます。
自然治癒で、細菌を体内に長期間留めておくことによって懸念されるのが、『合併症』です。とくに、溶連菌の場合においては、合併症としてあげられる病気が、かなり重度なものになりますので、注意が必要です。
合併症 その①<リウマチ熱>
リウマチ熱は、よく耳にする「関節リウマチ」とは異なり、脳や心臓にまで症状が及ぶ非常に危険な病気です。症状としては以下のようなものがあげられます。
- 発熱
- 食欲不振
- 肘や膝、足首などの関節の痛み
- 動悸や息切れ、胸の痛み、疲れやすい(心内膜炎、心膜炎、心筋炎などの可能性あり)
- 身体が勝手に動くなどの不随意運動(脳の異常による舞踏病の可能性あり)
- リング状の赤い皮疹が体幹部に出る
このような症状のほかに、リウマチ熱の恐ろしいところは、約3割が後遺症を伴う可能性があるという点です。その後遺症は「弁膜症」と呼ばれるもので、心臓の弁に異常が見られ、心臓から血液を上手く送り出せなくなるというものです。こうなると、治療のために手術が必要になる場合もあります。
さらに、リウマチ熱は再発しやすいため、再度溶連菌に感染するのを防ぐため、少なくとも5年は抗生物質による予防が必要になると言われています。
ちなみに、溶連菌感染症の合併症としてリウマチ熱を発症する場合には、溶連菌感染から1~4週間後に、上記のような症状が見られるようです。
合併症 その②<急性糸球体腎炎>
溶連菌感染症の発症から10日前後に、以下のような症状が見られた場合には、急性糸球体腎炎を合併症として引き起こしていることがあります。
- 血尿
- 尿が泡出つ(蛋白尿)
- 全身の浮腫
- 高血圧
- 尿の量が減少する
- 呼吸困難
急性糸球体腎炎の治療には、半年ほど通院する必要がありますが、投薬や食事療法などによって完治することができる病気です。
合併症 その③<アレルギー性紫斑病>
溶連菌感染から1~2週間後に以下のような症状が現れた場合には、アレルギー性紫斑病を発症している可能性があると考えられます。血管病の一種で、とくに男児が発症しやすい傾向があります。
- 蕁麻疹に似たかゆみを伴う皮疹(後に紫斑になる)
- 赤紫色の紫斑
- 手足の関節の腫れ(関節炎)
- 腹痛
- 腎炎
アレルギー性紫斑病には、現在のところ特効薬は発見されておらず、数週間で症状が改善するため、治療は休養と、痛み止めやステロイド剤、免疫抑制剤の投与によるものがメインとなります。
自然治癒によるリスク
ここまでご紹介してきたように、溶連菌感染症の自然治癒には『二次感染』と『合併症』という2つの大きなリスクが伴います。
免疫力のある大人などで、症状がごく軽い場合においては、自然に治ることもあるようですが、仮にその周りに免疫力の低下した人や妊婦、小さな子供がいれば、二次感染の可能性は十分に考えられるのです。潜伏期間から、発熱している間は、感染力も高いので、油断はできません。
また、皮膚に症状が出た場合の自然治癒は、後に痕が残る可能性もありますので、抗生物質に加え、皮膚科で処方された塗り薬をきちんと塗っておくことも大切です。
合併症の場合においては、体内に細菌を長期間留めた状態にしておくことが大きな原因だということは先にも述べたとおりです。これらを未然に防ぐためには、やはり、抗生物質をきちんと飲むべきだと言えるでしょう。
溶連菌感染症の場合、抗生物質を飲むと1~3日という早い段階で症状が緩和します。細菌に感染したということは、免疫力が低下しているということです。免疫力が低下しているときに、自然に回復するのを待って身体に余計な負担を掛けるよりも、薬で、早めに症状を改善し、その後に、身体の持つ自然治癒力に頑張ってもらい、完治を目指す方が望ましいでしょう。
まとめ
いかがでしたでしょうか。溶連菌感染症を防ぐためには、手洗いうがいなどで、細菌を体内に侵入させないことも大切ですが、免疫力を高めておくことも同様に大切です。
栄養バランスのとれた食事、こまめな掃除で住環境を清潔に保つ、質の良い睡眠、適度な運動などで、普段から細菌やウイルスに抵抗できる身体づくりを心がけましょう。
そして、感染の疑いが少しでもある場合には、早めに病院を受診し、合併症や感染拡大を未然に防ぐよう努めましょう。