恐らく聞いたことはあるだろうと思われるこの発疹チフスですが、他人事に思っていてはいけません。
日常に潜む悪魔と言ってもいいであろうこの恐ろしい病気、発疹チフスについて今回は触れていきたいと思います。
この記事の目次
発疹チフスとは?
発疹チフスとは何か、それについて、まずご紹介します。
シラミやダニが媒介する急性熱性感染症
発疹チフスとは、一度は聞いたことがある病名ではないでしょうか。第一次世界大戦や第二次世界大戦などの社会不安定期に多く発症例が見られているこの病気ですが、日本でも戦後、1957年までに3万人以上の発症者を出しています。
人口密集地や不衛生な地域や場所、高地や寒冷地などに多く見られるこの病気は元はシラミやダニが原因です。主に衣服につくとされています。
この病気は発疹チフスリケッチアという細菌が動物や衣類などを媒介に体内に潜入し、人の細胞内で増殖することによって発病する感性症の一種です。
媒介する病原体の詳細は、先ほど述べたシラミやダニということになっていて、不衛生な場所、戦争や紛争地帯などに多く見られることで有名です。
不衛生な場所、日頃掃除などをしていない場所や菌が増殖しやすい戦場などが多く発症される場所としてあげられています。
近年、日本では発症例が報告されていない?
日本で最後に流行したのが1957年になります。それ以降は終息し、一例も発症の報告はあげられていません。世界的に見れば戦争や紛争が起こらない、過度の貧困地帯などがない国は報告の事例はありません。日本ではほぼ絶滅した病気と思われています。
しかし侮ってはいけません。この病気もの元はシラミやダニです。不衛生な場所で発症の事例があると見ると日頃掃除をしていない場所などは危険であるとみて間違いはありません。
発疹チフスの感染経路について
では、どういう感性経路を辿って人に感染するのか、ということをご説明します。
コロモジラミから人へ
発疹チフスの主な媒介シラミはコロモジラミです。
「リケッチア」を排便するコロモジラミが人間の血を吸い、痒くて掻く、という行為によって体内に感染する経路が最も確実性のある情報となっています。
コロモジラミは吸血中に排便をするので、吸われた場所、つまり痒くなる場所にコロモジラミの糞があるということです。その後、痒くて掻くという行為をして、皮膚の引っかき傷から体内に菌が入り込むということになります。
また、空気感染の報告も挙がっています。
人が密集する地域、戦場などでコロモジラミの糞によって感染した人の多い地域などでは、コロモジラミの糞が塵埃に乗って空気感染するという場合もあります。コロモジラミの糞便中のリケッチアは常温なら300日以上の感染力を持っているという報告が挙がっています。
つまり、空気中で常温であれば死滅することなく、300日という膨大な時間を生き続けるという恐ろしい事実があるということです。
第一次世界大戦や第二次世界大戦で蔓延した理由がここで繋がるというわけですね。ナチスドイツのユダヤ人強制収容所などでもこの風疹チフスの発症が報告されています。アウシュヴィッツなどの収容所では人が密集しているので、一人が感染すると空気感染、そしてコロモジラミ自体が人から人へと感染するというのも十分考えられることと言えるでしょう。
媒介動物もいる?
リケッチアの感染が原因のこの風疹チフスですが、媒介動物がいることもわかっています。コロモジラミ、そしてアタマジラミなどが媒介されることが多い自然地帯でムササビが自然感染した報告があります。自然感染したムササビなどから人へ感染するというケースも考えられるでしょう。
また、人獣共通感染症の可能性も捨て切れません。動物から動物へ、人から人へ、動物から人への感染経路も視野に入れるべきだと思われます。
発疹チフスの具体的な症状
では、ここで発疹チフスの具体的な発症後の症状についてご説明します。
主な症状
リケッチアが体内に入り感染を起こしてから約1から2週間が潜伏期となり、その初期症状にまず発熱が挙げられます。
39度から40度の高熱が見られ、熱の上昇度は急激、突発的と言われています。突然、急激に39度以上の熱が出るということです。
発熱後、発疹が全身に広がります。具体的な日数でいうと発熱から2日から5日です。蕁麻疹や湿疹が体幹に現れ非常ひ強い痒みが生じます。
さらに、5日を過ぎるとそれが全身に拡大されます。ただ、顔や手のひら、足の裏には発疹は広がらないようです。それが二週間程度続くとされるのが発疹ヒフスの主な症状となっています。
ただ一つ注意点があります。
上記のように二週間で徐々に解熱される方向へと向かうのですが、40%の確率で重症化する恐れがあるということです。
次の項目で重症化について触れたいと思います。
重症化した場合はどうなるの?
発症者の60%は二週間程度で解熱に向かいますが、重症化する場合もあります。重症化した場合、一番恐ろしいのが死に至る可能性があるということです。
重症化した場合、まず大きく見られる症状があります。
主に精神面にそれが浮き出てきます。発熱から5日程度経過したあたりからうわごとを言うようになり、それが徐々に増えていきます。そしてその後、幻覚や興奮、錯覚症状、狂躁や錯乱状態に陥り、最悪の場合死に至ります。
しかしこれは病院に行かずに放置した場合のみですので、病院に行きしっかりと治療すれば100%とは言えませんが、ほぼ確実に治る病気です。
病院に行かずに治療をしなかった場合の致死率40%を超えます。ただ、小児や免疫を持っている成人の場合は発熱も起こさずに軽症で済む場合もあります。けれど注意して頂きたいのが、初感染から数年後、体内のリケッチアが潜伏し続けて再発症する場合もあるので、定期的に健康診断を受けるようにしましょう。
インフルエンザなどが流行していない場合で高熱が3日以上続き、発疹などが出た場合は病院ですぐに検査を受ける方がいいでしょう。内科で抗体の診断を受けてください。血液採取でワイフェリックス反応問いう方法を用います。これはチケッチアの生死や感染症が失われていたとしても最も有効的な検査方法です。
主な症状の一覧まとめ
- 発熱、39度から40度の高熱
- 頭痛、激しい頭痛です。
- 悪寒、寒気
- 脱力感、倦怠感
- 嘔吐、吐き気
- 発疹、蕁麻疹。全身に広がる湿疹
- 発疹による激しい痒み、手足局部の痒み
重症化した場合の症状一覧まとめ
- 発熱から5日程度経った後のうわごと
- 興奮症状
- 幻覚
- 錯覚
- 錯乱、狂躁状態
ただ、重症化することは稀なので、そうなる前に病院へ行くことをお勧めします。早期発見と早期治療が一番の薬です。
発疹チフスの治療方法は?どんな薬が効くの?
では次に、具体的な治療法や薬の詳細について述べようと思います。
主な治療法
風疹チフスの治療に用いられる治療薬の主なものは抗生物質になります。
テトラサイクリン、ドキシサイクリンなどが主流です。成人の場合はドキシサイクリン200mg/日(分2)を3日から5日の投与が一般的です。途上国ではクロラムフェニコール10mg/kgの1日4回、3日から5日の投与も行われます。
抗生物質による治療を行えばまず間違いなく死亡することはありません。逆に言えば、抗生物質による治療を行わなかった場合の致死率は極めて高いものとなっています。なのでもしそうかもしれないと思った場合はすぐに検査を行い治療をしましょう。他人事ではないかもしれません。ここ近年は日本での発症例は全くありませんが、不衛生な場所で生息するシラミやダニによって感染する危険性は絶対とは言い切れないのが現状です。
発疹チフスを予防する方法
ここでは感染しないようにする方法をご説明します。簡単なことなのでチェックしてみてください。
清潔な状態を保つ
先に述べた通り、この発疹チフスはシラミ、主にコロモジラミやアタマジラミから感染します。このコロモジラミなどの住処は人間の衣類、布などになります。普段私たちが来ている服などを住処にしているということです。
ケジラミやアタマジラミは人間の髪の毛や陰毛に潜んでいます。この類のシラミは入浴などで駆除や予め防ぐことは可能です。
しかし、コロモジラミは衣類です。汚れた服、不衛生な服などを住処としそれを着ることによって感染の危険性があるということです。
ただ日本では今のところコロモジラミの発生の報告はほとんどありません。ですが全くないということでないのです。不衛生な服などには注意が必要です。
もちろん寝具もそれに含まれます。衣服、つまり布生地のものに生息するので寝具の清潔さを保つことも特に重要なことだといえるでしょう。
一般的に清潔さを保つに、洗濯などですが、糞便内の発疹チフスチケッチアは少し違います。これらを完全に死滅させるには60度以上の蒸気を20秒以上通す必要があります。ご自宅で衣類や寝具の過熱消毒は難しいところがあります。なのでクリーニングや専門業者に頼むというのが妥当なところでしょう。天日干しなどでもあまり効果見られないでしょう。発疹チフスリケッチアは60度以内であれば300日以上の感染力を有しています。もちろん天日干しでもある程度は除去可能でしょうが、完全死滅は難しいと言わざるを得ないでしょう。
なので、もし心配な場合はクリーニングや専門の業者さんに依頼するのがいいと思われます。
ワクチン接種などの予防法
日本では今現在、風疹チフスの発症が見られないためこれは行っていないのですが、海外では風疹チフスの予防接種が可能となっています。
不活ワクチンや生ワクチンが市販されているようです。日本で市販されていないのは1957年以降、風疹チフスが一度も発症していないためと見るのが妥当でしょう。今後、風疹チフスが絶対に流行らないとは限りませんが、今のところ心配はしなくてもいいかもしれません。
もちろん清潔感は常に保つのが発症を0に抑える最も有効な手段です。定期的に衣服や寝具をクリーニングすることは、風疹チフスに限らず他の感染症や病気を予防する上でも大事なことです。なので出来るだけ清潔な状態を保つように心がけましょう。
現在、風疹チフスの発症例がある場所
日本では近年一切、発症の報告はありませんが、では、今どこで発症の事例があるのか、それを述べようと思います。
現在の発症地
現在でいうと、寒冷地、山岳地帯、貧困や紛争地帯が挙げられます。アフリカ諸国や、インド、パキスタン、ギリシャ、中国などの国々や、近年最も多い国はブルンジ、エチオピア、ワルンダなどの報告が挙がっています。
世界的に見ても局地的な流行であるとみていいかもしれません。ただ戦争などが止まないこの世界情勢で完全に風疹チフスをなくすことはかなり難しいでしょう。貧困などの場所では頻繁に繁殖する風疹チフスリケッチアですが、直接的な感染だけでなく、空気感染もその枠に入るので危険度はかなり高いとみていいかもしれません。
発疹チフスと間違われやすい病気
この風疹チフスですが、他の病気と間違われやすいとも言われています。その詳細を述べてみましょう。
勘違いされやすいもの
風疹チフスが勘違いされやすい病気の代表格として、腸チフスやパラチフス、梅毒などが挙げられます。勘違いの主な原因は発疹で、その症状がよく似ていることから間違われやすい病気として挙げられます。
ただ、発疹は出るものの、風疹チフスと異なっているのが発熱の状態やその緩さで、風疹チフスの場合は急激な高熱であることです。他の場合は比較的緩な上昇となっていてそこに差異があるとみていいでしょう。
サルモネラ属のチフス菌とパラチフス菌からの感染が主な原因となっています。
他の病気の詳細とその違い
風疹チフスが上記の症状と似ていることから勘違いされやすいと述べましたが具体的に他の病気はどんな症状が出てどのような違いがあるのかをご説明したいと思います。
ひとえに発疹と括れるものではないのでしっかりと理解した上でもし万が一発症した際に対処できるようにしておくことが大事だと思います。
腸チフス
腸チフスは現在でも日本を除く東アジアやインド亜大陸、中東、南米、アフリカなどに蔓延している病気です。日本でも昭和初期から終戦直前まで腸チフスの患者が約4万人にのぼるなど、過去に流行した病気でもあります。
特徴的なのはやはり発疹です。ただ、風疹チフスとの違いは潜伏期間10日から14日後発熱するところでしょう。第一期には段階的に熱が上昇します。風疹チフスの場合は急激な体温の上昇に比べてこちらは段階的に上がります。ここが大きな差の一つと言えます。その後、主徴であるバラ疹が出現します。ここに大きな差異はありませんが、風疹チフスの場合は極度の痒みと徐々に全身に発疹が広がるという点が挙げられます。
次に第二期に突入するとここが腸チフスの極期でもあり、40度の高熱、下痢または便秘、重度の場合は意識障害を引き起こします。下痢や便秘に関しては風疹チフスには現れない症状なのでここで違いが出てくるでしょう。
第3期に突入すると腸出血を引き起こし、第四期で解熱し回復に向かう病気というのがこの腸チフスの特徴でもあります。
発疹や発熱の症状が初期で現れるので勘違いされやすいですが、やはり熱の上昇の緩さなどで判断できるでしょう。徐々に上がっていくのか、急激に上がっていくのかの違いを見逃さないようにしましょう。
梅毒
風疹チフスと梅毒の相違点は感染から発症までの期間と発熱の有無です。
梅毒といえば性感染症で有名です。性行為によって感染する感染症の一つで、局部の発疹やしこりから始まり、やがて全身のバラ疹へと広域化します。
しかし、発熱や高熱などの症状はなく、湿疹が主な症状と言えるので比較的勘違いはされにくいのですが、誤ってそう思っていまう人もいるようです。
梅毒は3年から10年が経過すると重症化し、血管や心臓に大きな影響を及ぼす病気としても知られています。風疹チフスはそう言ったものはなく早期に病状が出るため比較的間違うことは少ないでしょう。
しかし、全身の発疹で勘違いされやすいので、注意点としては、梅毒の初期症状は、性器の発疹やしこりなどが特徴です。そこから全身のバラ疹へと変わるのでそこを注意してみれば間違うことはないでしょう。
また風疹チフスは最初に高熱を発症するのでそこにも注意が必要です。
梅毒については、梅毒の初期症状とは?感染経路や治療法、予防法も紹介!を参考にしてください!
まとめ
ではここで総括に入ります。
現在日本では風疹チフスは流行はおろか風疹チフスリケッチアの菌の報告もありません。なので比較的流行を恐る心配はないと思いますが、ここで一つ注意点があります。
絶対に流行らないわけではない、ということです。海外旅行など、風疹チフスが局地的にでも流行している場所へ行けば発病する可能性はある、ということです。
日本では発症せずとも、海外で発症する可能性は十分にありえます。特に寒冷の山岳地帯などでは流行していることが多いのでそこで空気感染や傷からの感染も十分ありえます。
そしてそれを知らずのうちに日本に持ち帰ってしますということも視野に入れておくべきでしょう。最近ではデング熱などのものも危険視されていますが、今後風疹チフスがいつ日本に持ち込まれるかわかりません。
知識などをしっかりと身につけて、早期発見の場合はすぐに病院へ行くことを心がけましょう。そして、やはり清潔な状態を保つことが何よりの予防法です。
流行っても予防をしっかりしていれば問題はありません。普段から清潔な状態を保ち、風疹チフスに限らず多くの病気の予防を心がけましょう。