偽アルドステロン症とは、薬剤の副作用による病気です。
薬剤による副作用はよく知られていますし、多くの人々が警戒しています。だから、効き目が穏やかな生薬(しょうやく)や漢方薬を使ったり、効き目の弱い市販薬を求めたりします。
ところが、ところが・・・偽アルドステロン症は、安全と思われる生薬・漢方薬で起きる副作用なのです。漢方でよく使われる甘草(かんぞう)という生薬、また、その主成分であるグリチルリチンを含む漢方薬や風邪薬、胃腸薬、肝臓薬を過剰に服用すると、アルドステロン症という疾患によく似た症状の副作用が起きるのです。
ええ?!漢方薬でも副作用が起きるの?!・・・という方が多いと思いますが、漢方薬でも副作用が起きるのです。
偽アルドステロン症の原因と症状、対処方法と併せて、漢方薬の副作用についてもお伝えしますね。
偽アルドステロン症の原因
偽(ぎ)アルドステロン症は、甘草、またはその主成分であるグリチルリチンを含む医薬品を過剰に摂取して起きる副作用です。アルドステロン症とよく似た症状ですが、原因が全く異なるので、「偽」と呼ばれています。
[アルドステロン症]
アルドステロン症(原発性アルドステロン症)とは、副腎皮質ステロイドホルモンの1種であるアルドステロンが過剰分泌される疾病です。
原因は、副腎皮質に腫瘍が発生したり、副腎皮質が腫れておおきくなったり(過形成になったり)することです。副腎皮質に腫瘍ができたり、腫れて大きくなったりすると、アルドステロンが多量に分泌されます。血液中のアルドステロン量が増加します。
アルドステロンが過剰に分泌されると、高血圧と低カリウム血症を引き起こします。
アルドステロンは腎臓に作用します。身体の中に水分とナトリウム(塩分)を蓄えるので、血圧が高くなります。また、尿の中に必要以上にカリウムを排出するので、カリウムが減少して筋力が低下してしまいます。
副腎皮質は、アルドステロンとともにコルチゾールというホルモンを分泌しています。アルドステロンは、ミネラルコルチコイド受容体と結びつき、コルチゾールはグリココルチコイド受容体と結びついて、働きます。コルチゾールはミネラルコルチコイド受容体と結びついて働くこともできます。
副腎皮質が正常な場合、アルドステロンよコルチゾールの方が多量に分泌されます。そのため、コルチゾールをコルチゾンに変えて、ミネラルコルチコイド受容体と結びつかないようにしています。ミネラルコルチコイド受容体と結びつかなければ、ミネラルコルチコイドが過剰に働くことはないからです。
詳しくは、原発性アルドステロン症とは?症状や原因、検査方法や治療方法を知ろう!を参考にしてください!
[偽アルドステロン症の原因となる甘草とは?]
偽アルドステロン症の原因は、甘草またはその主成分であるグリチルリチンを過剰摂取することです。
甘草は70%の漢方薬に含まれています。また、主成分のグリチルリチンは、市販の風邪薬や胃腸薬に含まれ、肝臓疾患の治療にも利用されています。
甘草とは・・・?
甘草は砂糖の50倍も甘味のあるマメ科の植物です。昔から、根を乾燥させて生薬として用いてきました。また、その甘味のために、エキスや粉末にして、お菓子や調味料としても利用されています。日本では、醤油の調味料として使われています。欧米では、リコリス・キャンディやルートビアなどに使われています。また、甘味が強いのに、低カロリーということで、ダイエット食品にも利用されます。
甘草の主成分はグリチルリチンです。グリチルリチンは腸内細菌によってグリチルリチン酸に変わります。グリチルリチン酸には、強い抗炎症作用、保水作用があります。美白効果もあると言います。
甘草・グリチルリチンには、抗炎症・抗ウィルス・鎮痛・鎮咳・去痰・抗アレルギー・強力な解毒・保水などの作用があるので、様々な漢方薬や医薬品に利用されているのです。
甘草が偽アルドステロン症を引き起こす仕組み
甘草の主成分であるグリチルリチンは、腸でグリチルリチン酸に変わります。
このグリチルリチン酸は、副腎皮質ホルモンのコルチゾールをコルチゾンに変化させる酵素の働きを妨害します。そのため、コルチゾールが過剰になります。過剰なコルチゾールはミネラルコルチコイド受容体と結びつき、ミネラルコルチコイドが過剰に働くようになります。
同じ副腎皮質ホルモンのアルドステロンが正常に分泌されているのに、アルドステロンが分泌過多のような状態になるのです。ですから、偽アルドステロン症では、血液中のアルドステロンの濃度が上昇しません。
過剰なコルチゾールは尿細管のミネラルコルチコイド受容体と結びついて、作用を発揮します。水分を保存し、ナトリウム(塩分)の再吸収を促進するので高血圧になります。また、カリウムの排出量を増加させて、低カリウム血症を引き起こします。
偽アルドステロン症も、高血圧と低カリウム血症が主な症状です。
偽アルドステロン症を生じさせる甘草の量は・・・?
甘草ならば、1日2.5g、グリチルリチンならば、1日100mg、以上を摂取すると、偽アルドステロン症を発症しやすいようです。
しかし、漢方薬などは長期間服用することが多いので、1日1~2gの摂取でも発症することがあります。
[偽アルドステロン症を引き起こす薬剤]
偽アルドステロン症の原因となる甘草またはグリチルリチンを含むのは、医薬品だけでなく、御菓子類やソフトドリンク、調味料、ダイエット食品類、美容サプリメントなどにも含まれているので、過剰摂取になりやすいのです。
➀ 漢方薬
甘草は漢方薬の70%に含まれています。特に甘草湯は1日8g、芍薬甘草湯は1日6g、摂取することになります、小青龍湯や人参湯なら1日3g程度です。甘草が少ないと言われる葛根湯や防風通聖散でも1日2g摂取します。
② 一般医薬品
風邪薬、健胃剤、総合胃腸薬、解熱鎮痛剤、鎮咳去痰剤、婦人薬、ビタミン剤などに、グリチルリチンが含有されています。
驚いたことに、仁丹にも含まれているのですね。
③ 併用すると、偽アルドステロン症を発症しやすくなる医薬品
高血圧症に、サイアザイド系降圧利尿剤やループ利尿剤が処方されている場合、甘草を成分とする医薬品を併用すると、低カリウム血症を発症したり、重症化したりしやすくなります。
糖尿病にインスリンが投与されている場合も、甘草を含む医薬品を併用すると、低カリウム血症を引き起こし、重症化しやすくなります。
B型・C型慢性肝炎では、グリチルリチンと小柴胡湯を服用する上に、グリチルリチン配合剤をくり返して静脈に大量投与します。そのため、偽アルドステロン症を発症しやすくなります。
副腎皮質ステロイド剤や甲状腺ホルモン薬は低カリウム血症を起こしやすいと言われます。甘草・グリチルリチンを含む薬剤と併用する時は、要注意です。
[甘草以外の偽アルドステロン症の原因となる薬剤]
偽アルドステロン症の原因は、甘草やグリチルリチンだけではありません。
フッ素含有のステロイド外用薬を長期間に渡り使用すると、偽アルドステロン症を発症することがあります。
酢酸フルドロコルチゾンなどのミネラルコルチコイド製剤を多量に服用すると、偽アルドステロン症を発症することがあります。
偽アルドステロン症の症状
偽アルドステロン症というくらいですから、症状は、アルドステロン症とよく似ています。ほとかどの症状が、高血圧症と低カリウム血症によって生じます。
[発症しやすいのは・・・?]
偽アルドステロン症は、薬剤の長期間の服用によって発症しますので、服用してから数週間で発症することもありますが、数年、十数年服用後に発症することが多いようです。
そのため、50代~80代の高齢者に発症しやすくなります。
男女比は1:2で、男性より女性の方が発症しやすいようです。
[自覚症状]
初期症状
初めは、手足の力が抜けて、力が弱くなります。手足がこわばり、つっぱったような感じがします。
血圧が高くなり、降圧剤を服用しても、なかなか下がりません。
次期症状
続いて、身体がだるく、疲労感がとれなくなります。筋肉痛や手足のしびれ・麻痺が生じます。こむらがえりが起きやすくなります。
顔や手足が浮腫(むく)み、頭痛、吐き気、嘔吐が生じます。喉が渇きやすくなり、水を多量に飲むようになります。
動悸がします。気分が悪く、食欲が低下します。
進行すると・・・
偽アルドステロン症が進行すると、歩いたり立ったりができなくなります。少し動いただけでも息苦しくなります。
赤褐色の尿が出たり、尿が大量に出たり、逆に尿が出にくくなったりします。
糖尿病が悪化したり、まれに意識がなくなったりすることもあります。
[高血圧症]
血圧とは、血流が血管の壁に与える圧力のことです。心臓が収縮して血液を流出させる時は、血圧が高くなります。これを最高血圧といいます。心臓が拡張すると、血圧は低くなります。これを最低血圧といいます。
正常な血圧は、最高血圧が130~139mmhg、最低血圧が85~89mmhgとされています。
高血圧は、心臓・脳・腎臓・目に重大な疾病を引き起こします。狭心症・心筋梗塞や脳梗塞・脳出血などを引き起こします。
高血圧症は自覚症状があまりありません。でも、血圧が上昇すると、頭痛・めまい・肩こり・耳鳴り・手足のしびれなどが生じます。動悸や胸部の圧迫感が起こったり、脈が乱れたりします。
[低カリウム血症]
カリウムは98%が身体の細胞中に存在します。残る2%のカリウムが血液中に存在します。でも、この血液中のカリウムが、細胞や神経、筋肉を正常に機能させるために必要不可欠なのです。血液中のカリウム濃度が3.5mEql以下になると、低カリウム血症といいます。
血中のカリウムが低下すると、筋肉・消化管・腎臓に悪影響を与えます。
筋力が低下して、痙攣(けいれん)や筋肉の収縮が起きます。脱力感が生じます。
吐き気や嘔吐、便秘が起きます。
尿が多量に出たり、出にくくなったりします。尿が赤褐色になることもあります。喉が渇いて水を多量に飲むようになります。
低カリウム血症が進行すると、手足が麻痺して、歩行が困難になります。呼吸筋が麻痺したり、不整脈が起きたりします。腸閉塞になることもあります。
詳しくは、低カリウム血症について!症状や原因、関連する病気を紹介!を参考にしてください!
偽アルドステロン症の治療法
偽アルドステロ治療法の基本は、服用している甘草またはグリチルリチンを含有する薬剤をやめることです。
[早いうちに、おかしな症状に気づく]
手足の力が抜けたり、力が入らなかったりして、全身がだるく感じる。手足がこわばったり、つっぱった感じがある。こむらがえりが頻繁に起きる・・・このような症状が、風邪薬や胃腸薬、漢方薬を服用している時に起きたら、偽アルドステロン症の疑いがあります。すぐに、薬の服用を中止して、お医者さんに相談してください。
血圧計があれば、血圧を測定します。血圧が上昇していれば、偽アルドステロン症の可能性が高くなります。
症状が、だんだんきつくなるようなら、要注意です。すぐに病院で診療を受けることをオススメします。
[診断]
血圧の上昇・浮腫み・不整脈・心電図の異常があり、血液中のカリウム濃度が低いにもかかわらず、尿中のカリウム排泄量が多い。また、血漿アルドステロンの濃度が低い・・・このような検査結果に加え、漢方薬などの長期服用があれば、偽アルドステロン症と診断されます。
偽アルドステロン症は原因となる薬剤の服用後、数週間で発症することもあれば、数年間から十数年後に発症することもあります。また、薬剤の併用で発症することもあります。そのため、お医者さんに診察を受ける時は、必ず服用中の薬剤と服用期間を告げてくださいね。服用中の薬剤には、市販薬も漢方薬、民間薬を全て入ります。仁丹でも、偽アルドステロン症の原因となるのですから、サプリメントの類も忘れずに、お医者さんに伝えるといいですよ。
[治療]
偽アルドステロン症の疑いが強い場合、原因となる甘草やグリチルリチンを含む薬剤の服用を中止します。
抗アルドステロン剤のスピロノラクトンを通常量投与すると、効果があるようです。しかし、低カリウム血症に処方されるカリウム製剤は、尿中のカリウム量が増えるだけで、あまり効果はありません。
やはり、原因となる薬剤の服用を中止することが、一番効果があるようです。
原因となる薬剤の服用を中止すれば、症状はだんだん消えていき、快復できます。予後は良好で、後遺症が残ることもほとんどありません。回復には、摂取中止後、数週間かかります。
[漢方薬や生薬は危険な場合もある]
漢方薬の原料となる薬効のある天然素材、つまり植物・動物・鉱物を生薬(しょうやく・きぐすり)といいます。
漢方薬は、漢方医学の理論に基づいて、複数の生薬を組み合わせて調整したものです。一方、生薬をそのまま用いる民間薬もあります。漢方薬・生薬・民間薬は混同されやすいものですが、別々の薬剤なのです。
甘草も生薬の1種ですが、通常、危険なものではありません。それだけに、いろいろな薬を作る時に利用されるのです。しかし、過剰に摂取すれば、人体に悪影響を及ぼすことがあります。その副作用の1つが偽アルドステロン症です。
漢方薬は昔からなじみ深く、薬効も穏やかで副作用が少ないと思われがちです。でも、漢方薬の原料となる生薬の中には、附子(ぶし)のように毒性の強い物もあります。葛根湯に含まれる麻黄(まおう)は動悸を生じさせたり、高血圧症に悪影響を及ぼしたりするので、中高年に処方する時は、注意を要します。
漢方薬でも、湿疹や間質肺炎、肝機能障害などの副作用があるのです。妊娠中の女性には、漢方薬が危険な場合もあります。まだ、はっきりとしていませんが、ある種の漢方薬が胎児の奇形を誘発する疑いがあります。便秘薬の大黄が流産や早産の原因となることがあります。
生薬をそのまま使用する民間薬は、副作用が強く出ることがあります。
漢方薬を服用する時は、漢方医のいる漢方薬局で相談することをオススメします。糖尿病や高血圧症などの持病があり、お医者さんの治療を受けている場合は、主治医に相談してから漢方薬を服用にすると無難です。民間薬を服用する時も、かかりつけのお医者さんに相談してくださいね。
また、お医者さんの診察を受ける時は、必ず服用中の漢方薬や民間薬、サプリメントなど健康食品について話し、服用期間をしっかり伝えることが大事です。
まとめ 甘草の副作用を知っていれば安心です
甘草やその主成分であるグリチルリチンの過剰摂取が偽アルドステロン症を引き起こします。でも、それは、めったにあることではありません。甘草やグリチルリチンを摂取したから、必ず偽アルドステロン症を発症するとは限らないのです。
むしろ、甘草やグリチルリチンは人体にとても有益です。抗炎症・抗ウィルス・鎮痛・鎮咳・去痰・鎮痙攣などの作用があります。肝臓で強力な解毒作用もします。抗アレルギー作用もあります。当然、いろいろな薬剤に利用されますよね。
甘味が強いので、お菓子やソフトドリンクにも利用されます。低カロリーなので、健康的な甘味料として重宝されます。
このように日常的に利用することの多い甘草だけに、過剰摂取する可能性も高くなります。そのために、甘草の副作用を知っておくことが大事になります。
漢方薬は長期間使用することが多くなります。そのため、高齢になってから、副作用が出ることが少なくありません。高齢者は持病もあるので、多種類の薬を併用するので、副作用が出やすくなります。甘草の副作用がどのような症状か知っていれば、慌てることなく、原因となる薬の服用を中止して、病院を受診することができます。
甘草やグリチルリチンを含む薬剤を服用している場合は、偽アルドステロン症の症状に注意することが大事です。少しでも偽アルドステロン症に似た症状があれば、すぐに病院に行くことをオススメします。