みなさんは、健康を考えて何か続けているスポーツはありますか?
中高年の方たちは、無理に激しいスポーツはせずに、ウォーキングなどの軽い運動を心がけている方も多いことでしょう。
ここ数年で、老若男女を問わず、ジョギングやマラソンなどを楽しむ方が増えてきました。会社帰りに少し走ったり、皇居の周りをジョギングする人、いわゆる ”皇居ランナー” も多く見られるようになり、一種のブームともいえます。その一方で、こういった運動をする人たちが増えてきたことと比例するかのように、増えてきている疾患があります。
それが アキレス腱周囲炎 と呼ばれるスポーツ障害のひとつです。
アキレス腱周囲炎とはどんなものか
アキレス腱そのものが炎症を起こしている場合をアキレス腱炎といいますが、アキレス腱周囲炎は、アキレス腱そのものの疾患ではなく、文字どおり、アキレス腱の周囲の組織が炎症を起こしている状態をいいます。このふたつの症状を区別することは難しく、同時に発症していることもあります。
アキレス腱周囲炎は、運動後などに、アキレス腱を覆っているパラテノンと呼ばれる薄い膜が炎症を起こし、急性期には踵(かかと)のあたりが痛み、また、腫れたり、患部が熱をもったりします。
アキレス腱のケガをしたことのない人たちからすると、アキレス腱が「足にある」ということはわかっていても、実際にアキレス腱自体は、足のどのへんからどのへんまでを指すのか、いまいちピンと来ないかもしれません。そして、アキレス腱はどういった仕組みで、どのようにからだの動きを支えている腱なのか、意外と知られていないのです。
アキレス腱のある場所とその役割とは?
アキレス腱は、踵(かかと)の後ろに付着していて、ふくらはぎの真ん中あたりから踵にかけて、約15センチほどの長さがある腱のことです。
厳密にいうと、下腿三頭筋(かたいさんとうきん)というふくらはぎの筋肉の下部から、踵骨(しょうこつ)まで繋がっています。
「アキレス」という語は、ギリシャ神話に登場する不治の超人アキレス(Achilles)の唯一の弱点部分が踵であったことに由来しています。アキレス腱は正式には、踵骨腱(しょうこつけん)といいます。
腱という部位は、筋肉と骨の仲介役となって、筋肉と骨をつなげ、骨格を動かす働きを担ってくれているのですが、腱は筋肉と違って、伸縮性があまりないために、無理に引っ張ってしまうと切れてしまうことがあります。
腱といえば、腱鞘炎(けんしょうえん)という疾患をよく耳にします。手首の腱鞘炎はよく起こる疾患のひとつですが、アキレス腱は人間の体にある腱の中で最も太く最も強靭なつくりとなっています。
それというのも、人間は二足歩行であり、特に下のほうにある足首やアキレス腱にはものすごい力が加わることになります。
そのため、アキレス腱は、ふくらはぎの筋肉と、踵の骨をしっかりとくっつけてくれる役割を担い、跳んだり、跳ねたり、走ったり、と様々な激しい動きに耐えられる仕組みになっているのです。
そんなに頑丈にできているアキレス腱が、どういった原因で炎症を起こし、それによりどんな症状がでてくるのでしょうか。
アキレス腱周囲炎の主な症状と原因
アキレス腱周囲炎は、運動後に踵のあたりが突然痛みだすことが最も多いようです。
また、ジャンプのときだけとか、特定の動きをするときに痛みがでることもあります。朝起きて歩き始めるときに痛みを訴える方も多く、患部を押すとさらに痛みが増したりします。酷くなると安静にしているときでさえ痛かったり、患部に腫れがみられ、熱く感じたりします。
進行すれば足関節の動きが鈍くなり、足首を動かすたびにきしむような摩擦音が聞こえることもあります。
アキレス腱周囲炎は、加齢によるアキレス腱の老化で、その部分に柔軟性がなくなることも原因になりますが、偏平足だったり、歩き方にくせがあったり、合わない靴を履き続けることで、アキレス腱に負荷がかかり、炎症を起こす可能性もあります。
また、中高年だけでなく、俊敏なサッカー少年でも、強靭なスポーツ選手でも、運動のしすぎや、アキレス腱に急激な負荷がかかれば、だれにでも起こりうるスポーツ障害です。
その治療法と心がけるべきこと
はじめは運動をしたあとに、踵のあたりの違和感を感じるだけだったり、動き始めに痛みを感じる、という程度であったりします。はじめに痛みがあっても、動きだすと慣れてきて痛みが緩和してくることが多いため、何もせずに放っておきがちです。
それどころか、もう治ったと勝手に判断してしまい、整形外科で診断してもらう前に、さらに過度な運動を続けてしまい、症状をさらに悪化させてしまうケースも多いのです。症状が進行すれば、歩けないほどの痛みになることもあり、腫れや痛みが慢性化し、生活に支障をきたす場合もありますので、何かおかしいなと気になったら、早めに整形外科に行き、診断してもらうことが大切です。治療の開始が早ければ、治りもそれだけ早くなります。
スポーツ障害を専門に取り扱っているスポーツ外科などのある整形外科に行くのがベストです。では、治療法にはどのようなものがあるのでしょうか。
急性期に安静を保つ
まずは、続けていた運動を中止し、医師の指示どおりの期間、安静を保つことです。
症状がひどいときは、できる限り足を使わないように、つまり、歩かないようにするのが一番ですが、仕事や家事、育児などに忙しい世代はそうも言っていられないでしょう。
その場合、患部をギブスなどで固定し、外部刺激から守る方法もあります。痛みのひどい場合、痛みもそれにより軽減され、さらに患部を悪化させる心配もなくなります。
アイシング
急性期によく行われている手軽な治療法としては、アイシングがあります。
アイシングとは、腫れて熱をもった患部をアイスバック(氷嚢)などで冷やす方法です。水では十分な冷却効果が得られないので氷を使います。炎症を起こしている部分は少し熱をもち、熱く感じることが多いものですが、そこを冷やせば、腫れを引かせ、炎症を抑える効果があり、治りも早くなります。何より気持ちよく、痛みも緩和されます。
運動後に痛くなった場合、すぐに行うとそれだけ治療効果が上がります。
足なので、氷水を入れたバケツに足を入れるという方法も利用しやすい方法のひとつといえます。
患部を冷やす時間の目安としてよく言われるのは、15分、20分ほどのアイシングを数回行うというものですが、患部の場所や個人の感覚によっても違いはでてきますので、患部の感覚がマヒしてきたり、鈍くなってきたら終了、というのを目安にする方が分かりやすくていいようです。
製氷機よりも、冷凍庫の氷を使う場合、冷たくなりすぎて凍傷を起こすこともありますので、アイシングについてもっと詳しく調べ、医師やトレーナーなどの指示に従って行いましょう。また、運動前にはしないようにしましょう。
ふだんは、冷シップを使うというのも個人で手軽にできる方法です。
テーピング・ストレッチ
痛みが強くて、まともに歩くことができない状態の場合には、テーピングを巻くとよいです。
テーピングが難しいときには、サポーターを使う手もあります。からだの部位に合ったものが売られています。
また、ヒールパッドと呼ばれるものを靴の中に入れて、踵を高くしてあげると痛みも緩和され、楽になります。普通に歩けるようになったらヒールパッドは必要ありません。ヒールパッドを使わなくても、踵が高い靴で底が広いものであればそれで大丈夫です。
痛みはあっても、歩くことができる程度まで回復したら、テーピングの継続とストレッチを痛くない範囲で行います。炎症がまだ残っている場合があるので、あくまで、痛くない範囲で少しずつ伸ばすようにします。ふくらはぎに違和感や張り感が出たら、すぐにストレッチをすることも良いとされます。これで筋肉が柔らかくなり、痛みがなくなっていきます。
運動前に行うときは、アキレス腱の伸ばしすぎに注意しましょう。
投薬・注射・手術
一時的に消炎効果のある鎮痛薬を飲むことも効果がありますが、痛みに関してはごまかしているだけなので、痛みがなくなったからといって自己判断しないようにしましょう。
また、ステロイドの患部への注射は、患部の炎症を早く抑えることができます。
このような治療で、多くの場合、症状が軽快していきますが、なかには数か月間、治療を行っても治らないこともあり、そのときには手術となる場合もあります。
その他の原因を取り除く
なかなか治らない人や再発予防を心がけている人は、運動以外の原因に目を向けることも重要となってきます。
歩き方を見直す
例えば、歩き方に癖があり、アキレス腱に負担をかけていることがあります。その場合、その原因となりえる、足に合わない靴や、履きすぎてかかとが減ってしまったようなバランスの悪い靴をずっと履き続けるようなことはやめましょう。回復期に患部のある方の足をかばうあまりに、引きずるような歩き方をするのもよくないことです。
走り方のチェック
ランニングを続けている人は、同じくシューズを見直し、デザインよりも、衝撃をいかに和らげてくれるかという機能を重視したものを選びましょう。古いシューズは機能が発揮されず負担をかけるので、買い替えが必要です。また、ランニング・フォームを改善することも一つの策となります。走路を見直し、チェックすることも重要となります。
体重を減らしていく
急激な体重増加もアキレス腱に負担をかけてしまう原因のひとつです。
安静期が過ぎて、痛みや腫れなどが引いて症状が治まってきたら、ふくらはぎのストレッチなどを行いながら、徐々に運動量を増やしていきます。
安静期の体重増加も気になるところです。増えた体重をそのままにしておくのはよくないので、ダイエットもかねて、医師の指導のもと、無理なく運動をするように心がけることも大切です。回復期に足をかばいすぎることもよくないことだからです。
まとめ
アキレス腱周囲炎は、初期の段階で気づかずに放置してしまったり、こじらせるとなかなか治りにくい疾患です。そうなれば完治までに長い時間を要することとなり、中高年であれば、アキレス腱の老化も手伝って、さらに治りにくくなるでしょう。
せっかく健康のためにと始めた運動が原因で、その後、生き生きと楽しい余暇が送れなくなるということは、とても残念なことです。
なので、足首や周辺に違和感を感じたら、すぐに整形外科に行くことが重要となります。そして、痛みが長引きそうなときは、かかりつけの整形外科医によく相談しながら、段階に応じて、適切な治療をほどこしてもらいましょう。その後は焦らずに、自分に合った方法で、気楽に気長に疾患と付き合っていくことが必要なのかもしれません。