鼻詰まりに悩んでいて、耳鼻科に行ったら「鼻の中の骨が曲がっている」と診断されることがあります。これを鼻中隔湾曲症(びちゅうかくわんきょくしょう)と言い、症状が重いと鼻詰まりや副鼻腔炎など、やっかいな症状を引き起こすことがあります。
ここでは鼻中隔湾曲症が起こる原因や、特徴的な症状、もし手術することになってしまったときの心構えなどについて説明していきます。
鼻中隔湾曲症なぜ起こるのか?
「鼻中隔」とは、左右の鼻腔を仕切る壁のことで、鼻のほぼ中央に存在します。本来は鼻梁(びりょう)に沿って、咽喉からまっすぐに伸びています。しかし、実は成人の鼻中隔の約90%が、少なからず彎曲があると言われています。
特に困った症状が無ければ放置しても構いませんが、彎曲が酷くて、鼻詰まりなどの生活に支障をきたすような症状がある場合は、「鼻中隔湾曲症」として診断されます。
なぜ鼻中隔が曲がるのか?
鼻中隔は3つの骨で構成されており、前方の「鼻中隔軟骨」、後方の「篩骨正中板(しこつせいちゅうばん)」「鋤骨(じょこつ)」があります。鼻中隔は、それらの骨を粘膜が覆う形で形成されています。
鼻中隔が曲がる原因は、頭蓋骨の発育過程でそれぞれのパーツの成長スピードが異なることで起こります。成長と共に鼻中隔は徐々に曲がっていくので、この彎曲は小児は見られず、頭蓋の成長が完成している成人に起こる症状となります。
このような症状があったら鼻中隔湾曲症かも?
自分では気付きにくい鼻中隔湾曲症ですが、以下のような症状があれば疑ってもいいかもしれません。
鼻閉塞(鼻詰まり)
鼻中隔彎曲症の人で最も多く、いびきや睡眠時の呼吸障害になることもあります。特徴としては、鼻中隔が突き出ている側の鼻腔の通気が悪く傾向があります。
頭痛、頭が重い
鼻中隔を覆う粘膜が腫れ、反射的に神経が刺激されているために起こります。
鼻血
鼻中隔の突出部の形状によっては、飛び出ている部分の粘膜が薄くなったり、飛び出た箇所が他の鼻の粘膜を傷つけてしまい、頻繁に鼻血が出ることがあります。
嗅覚障害
鼻の通気が悪く、粘膜も腫れやすいため嗅覚障害が起こります。
鼻中隔彎曲は鼻の仕切りが曲がっているので、どちらか片側の鼻が慢性的に詰まることが多いです。ただしアレルギー性鼻炎や、副鼻腔炎でもこのような症状が出ることがるので、自分では一概に鼻中隔彎曲症であると断定できません。実際には鼻炎の治療で耳鼻科に行ったときに、医師による鼻腔の検査で判明するケースがほとんどです。
困っている症状があれば、医師に日常生活で困っていることを申告して、必要な検査や治療方針を決めていくことになります。
鼻中隔彎曲が慢性鼻炎や副鼻腔炎を併発する恐れも
鼻中隔湾曲症の人は、アレルギー性鼻炎や副鼻腔炎を併発することが多く、湾曲そのものよりもそちらが問題となることが多いです。
これは鼻中隔が彎曲して鼻腔が狭いところに、鼻炎による粘膜の腫れがあると、鼻詰まりが酷くなって、鼻汁が増えたり細菌が繁殖して粘膜に炎症が起こることがあります。それがさらに慢性的な鼻炎となり、慢性的副鼻腔炎などの症状が出る可能性が高くなります。
主な診断・検査方法
自分ではほとんど分からないので、耳鼻科で次のような検査を受けることになります。
- 視診
- 内視鏡(ファイバースコープ)
- CTスキャン
- 鼻腔通気度検査
また鼻詰まりが起こる症状によっては、アレルギー検査なども行います。医師はそれらの検査結果を総合的に判断して、治療方針を立てていきます。
鼻中隔湾曲のタイプは?
彎曲のタイプは、C型、S型、くの字型、逆くの字型、下方型などがあります。顔の正面から見たときに、アルファベットのCのように曲がっていれば「C型」鼻中隔の下の方が急に曲がっていれば「下方型」となります。
曲がり方は人によって違うものであり、先天的な奇形や外傷を除いては、誰でも鼻中隔湾曲は起こりえます。いずれも少しの歪みは一般的なものなので気にしなくてもよいのですが、鼻中隔が大きく曲がって悪影響を及ぼすと、先に述べたような症状が発生するため治療が必要です。
鼻中隔湾曲症の治療方法は?
鼻中隔湾曲症は様々な悩みを引き起こします。もしこの症状と診断された場合に、どのような対処方法があるのかを説明します。
根本治療の方法は手術のみ
鼻中隔湾曲症の根本的な治療は、手術のみとなります。
手術を望まない場合は、一般的な鼻炎の治療と同じように、点鼻薬やレーザー治療、凍結治療などを行うことがあります。しかしこれらは対処療法なので、一時的には良くなっても、その後に再発する可能性があります。もし彎曲が酷くて慢性的な症状に悩んでいる場合は、根本的な治療として「鼻中隔矯正手術」を勧められることが多いです。
鼻中隔矯正手術は骨を切除するオペになりますので、限られた総合病院の耳鼻科で行われるのが普通です。また、この手術は16才以上でないと受けることはできません。成長期はまだ顔の骨格が発達している最中にあるためです。
手術にかかる期間や費用は?
手術自体にかかる時間は1〜2時間ほどですが、入院期間としては約1週間が標準です。昔は日帰りでも手術を行っていたこともありましたが、それはやや乱暴とも言える行動であり、手術後の治療のことを考えると1週間は入院したほうが安心です。
それなりに入院費用もかかってしまいます。手術自体は健康保険が利いて自己負担は3万円くらいですが、プラス入院費として10万円以上は見ておいたほうがよいでしょう。また別途、再診にかかる費用や、抗生剤や鎮痛剤の処方料がかかります。
手術方法は?痛みはあるのか?
鼻中隔湾曲症では、鼻中隔の骨を除去し調整する鼻中隔矯正手術がメインとなります。また同時にアレルギー性鼻炎も酷い人は、下鼻甲介(かびこうかい)切除という手術が行われることがあります。
手術では鼻の表面に傷をつけることはありません。鼻の穴の粘膜をメスで切開して剥がし、その下の骨と軟骨を必要なだけ切除して、再度粘膜を張り合わせます。
鼻中隔の骨の切除といっても鼻中の骨をバリバリと削るわけなので、この手術は人によってはかなりハードな内容と言えます。全身麻酔、局所麻酔を選べますが、手術の内容を考えると、最近は全身麻酔を用いて行うことが多いようです。麻酔が効いているので、麻酔注射のチクっとした痛み以外は、手術における痛みは全くありません。
しかし本当に辛いのは、手術後に麻酔が切れた時で、鼻をガンガンと叩かれるような強い痛みが出ることがあります。その時は医師や看護師に相談して、症状に合った鎮痛剤を処方してもらうことで和らげることが出来ます。
手術後に気をつけることは?通院は?
手術直後はベッドで安静となります。その後2日間ほどは、切開した粘膜をくっ付けるためにガーゼを鼻の中に入れて、さらに両側から患部を圧迫しておく必要があります。もちろんこの状態では口呼吸のみとなってしまいますので、食事はできますが呼吸しにくいのと、喉が乾くなどの症状があります。また手術後しばらくは痛みの対処として鎮痛剤の投薬が必要です。そのためこの間は、運動や仕事などはできないのが普通です。
またガーゼを抜いた後も、出血しやすいため、1〜2日間は安静を取ったほうがいいでしょう。鼻血が出るうちは詰め物をしておく必要があり、鼻の中の汚れも溜まりやすいので、1〜2週間は清掃の治療が必要になります。
退院後は自宅で綿栓を取り替えたり、定期的な通院をするだけで、日常の生活をしても大丈夫です。
手術における危険性はあるか?
手術の危険性は気になるものです。
まず全身麻酔のため、10万人に1人の確率で死亡リスクがあります。また鼻中隔矯正手術での危険性としては、稀に合併症を起こして出血したり、鼻中隔に穴が開く鼻中隔穿孔(びちゅうかくせんこう)となることがあります。
穿孔があるというのは、いわゆる鼻の真ん中にピアスを開けたような状態と同じです。鼻で呼吸をした際に通気があり、状態が悪いと鼻出血が繰り返し起こったり、かさぶたが出来て不快になることがあります。ただし穿孔になった場合の治療ということでは、症状が酷くない限り放置となるケースが多く、手術で修復することはありません。
このような危険性については、手術前に医師から説明を受けるはずなので、心配であれば担当医師へよく確認しておきましょう。きちんとした医師であれば、必ず患者の相談によく乗ってくれるはずです。また術後に気になることは、通院の中で申告して、別の治療を受けるべきかの判断を仰ぐよいでしょう。
手術の効果は?鼻中隔湾曲症は治るのか?
思った以上にハードな手術と入院を終えて、鼻中隔がまっすぐになることで、以下のような嬉しい効果があります。
- 鼻呼吸がしやすくなる
- 鼻中隔彎曲が原因の副鼻腔炎などの症状が和らぐ
- 鼻が通るので、嗅覚がよくなる。発声しやすくなる
手術の効果は、元の彎曲症状の重さにより個人差はありますが、鼻中隔湾曲が根本原因となっている場合の様々な症状は和らぐと言えます。
ただし鼻腔の不調は、アレルギー性鼻炎や副鼻腔炎などの他の病気と併発して起こっていることもあるため、手術をしたからといって、全ての悩みが改善するとは言い切れません。複数の症状を抱える人は、手術前後に治療するべき手順を、しっかりと医師に確認しておくことが大事です。
まとめ
鼻中隔が湾曲していると、鼻詰まりや副鼻腔炎など様々な困った症状を引き起こす場合があります。鼻中隔は成人なら多くの人が曲がっているので、特に困る症状がなければ心配要りませんが、湾曲が酷くて症状が重い場合は、根本的な治療をした方が良いことがあります。
根本治療のメインは「鼻中隔矯正手術」です。鼻腔の骨を削り、入院も1週間ほど必要なので、時間的にも費用的にも負担がかかります。手術をするかどうか、どんな治療を優先するのかは、耳鼻科の医師に相談しながら、治療方針を決めていくとよいでしょう。