最近テレビの健康情報番組の影響で、「血管若返り」や「血管年齢」という言葉が急速に認知度を上昇させています。これは、それだけ多くの人が見た目年齢だけでなく、身体の内側に対する健康意識・アンチエイジング意識を高めているという証左と言えるでしょう。
しかしながら、「血管若返り」や「血管年齢」という言葉が認知度を高めているとは言っても、まだまだ一般化しているとは言えず、言葉自体は耳にしたことがあっても内容や周辺知識についての理解は追いついていないのが実情のようです。
そこで今回は、血管年齢などの基礎知識を押さえつつ、血管年齢が高くなる原因や血管若返りの方法などについて、ご紹介したいと思いますので参考にしていただければ幸いです。
血管年齢とは?
そもそも血管年齢とは、どのような概念なのでしょうか?また、自分の血管年齢は、どのようにして把握すれば良いのでしょうか?
そこで、まずは血管年齢についての基礎知識を確認しておこうと思います。
血管年齢とは?
血管年齢(血液年齢)とは、血管のしなやかさ・血管の硬さを測定することによって導かれる血管老化の度合い・程度を示す指標のことです。
そもそも動脈血管は、肌の潤いやハリが加齢とともに失われていくように、年齢を重ねるに連れて徐々にしなやかさが失われて硬くなっていきます。この動脈血管の硬化こそが、動脈硬化です。
ですから、血管年齢とは、動脈硬化の進行度合い・動脈硬化の程度を示す指標と言い換えることもできます。つまり、動脈硬化が進んでいる場合には血管年齢が高く示され、動脈硬化の進行の度合いが遅ければ血管年齢は低く示されるのです。
血管年齢の測定方法
このような動脈硬化の進行度合いは、主にCAVI検査と頸動脈エコー検査によって測定することができます。ただし、動脈硬化の進行度合いを把握する検査と血管年齢の測定は、必ずしもイコールではないので注意が必要です。
自分の血管年齢を把握することに主眼がある場合は、CAVI検査を受けると良いでしょう。
CAVI検査
CAVI検査(キャビィ検査、ABI・CAVI検査)は、動脈の硬さの程度・動脈の詰まりの程度・血管年齢の3点を測定する検査のことです。CAVI検査は、専用の検査機器が必要になるものの、被検査者の負担も少なく、動脈硬化症の発見や端緒の把握に大きな役割を果たします。
CAVI検査自体は非常に簡単で、被検査者は仰向けに寝た状態になり、両腕と両足首に血圧測定のような測定器を巻いて、それぞれ4ヶ所の血圧と脈波を5分程度で測定します。得られた血圧と脈波から導かれるCAVI値が高いほど動脈が硬くなっていることを示し、同様に導かれるABI値が低いほど動脈が詰まっていることを示します。そして、得られたCAVI値を同性・同年齢の健常者のCAVI平均値と比較することで、血管年齢を求めます。
頸動脈エコー検査
頸動脈エコー検査は、首にある頸動脈に超音波を当てて、その反射波(エコー)を画像化して頸動脈の状況を確認する検査のことです。
頸動脈エコー検査は、CAVI検査のような数値的な診断ではなく、視覚的に動脈硬化の有無・血管の詰まり具合を確認できる点で優れています。ただし、CAVI検査のように具体的な血管年齢を導き出すことはできません。
頸動脈エコー検査も被検査者の負担は少なく、仰向けに寝た被検査者の頸部にジェルを塗布して、医師が測定装置を頸部に押し当てて画像撮影を行います。検査にかかる所要時間は、数分程度です。そして、得られた画像を元に、医師が動脈硬化症の有無や進行度合いを診断していきます。
血管年齢が高くなる原因
それでは、なぜ血管年齢が高くなり、動脈血管の硬化が進むのでしょうか?すなわち、CAVI検査によって得られたCAVI値と血管年齢が、同性・同年齢の健常者のCAVI平均値と比較して高くなってしまうのでしょうか?
そこで、血管年齢が高くなる原因について、ご紹介したいと思います。
動脈硬化とは?
動脈硬化とは、動脈血管の血管壁が厚みを増して硬くなることにより、血流が低下する状態・症状のことを言います。
たしかに、動脈血管は年齢を重ねるに連れて徐々にしなやかさが失われて、硬くなっていきます。しかしながら、加齢は動脈硬化の一つの要因でしかありません。そのため、動脈硬化を促進する危険因子を避けていれば、動脈硬化の進行を押しとどめることが可能とされています。
ですから、加齢は動脈硬化を進行させる一要因ではあるものの、その他の動脈硬化の危険因子を排除する努力をすれば、動脈硬化の進行を遅らせて血管年齢を実年齢よりも若く保つことは可能なのです。
動脈硬化の発症メカニズム
動脈硬化の端緒は、生活習慣病である高血圧症や血糖値が高くなる高血糖・糖尿病などが原因となって、血管内膜が損傷することにあります。
その損傷部から血管内膜の中に悪玉コレステロールが入り込み、免疫細胞の一種であるマクロファージが悪玉コレステロールを異物と認識して捕食します。悪玉コレステロールを捕食したマクロファージは、そのまま血管内膜の中で死骸となり、結果として血管内膜の中に粥状(アテローム状)の隆起(プラーク)が形成され、血液の通り道が狭くなって血流を悪化させる要因になります。
さらには、このアテローム性プラーク(粥状隆起・粥腫)は壊れやすい性質を有しており、血圧変化や心拍数変化などが契機となって突然破裂することがあります。このアテローム性プラークの破裂が生じると、その破裂部分から血栓形成を誘う物質が放出されて、破裂部分を覆うように血液が固まり血栓が形成されます。
この動脈内の血栓は、いわば「かさぶた」のようなもので、血栓部分は血管の厚みを増す一方で、血管のしなやかさは失われて硬くなります。そして、血栓部分の厚みによっては、血流の低下どころか血管が詰まって血流がストップすることもあるほか、動脈硬化が進行した動脈血管は非常にもろくて損傷しやすい状態にあり、血圧や心拍数の変化などで破れて出血することもあります。
このようにして動脈硬化が発生して、血管年齢の上昇が進行します。ですから、血管年齢の上昇の原因は、加齢よりも高血圧症や糖尿病などの生活習慣病による割合が非常に大きいと言えるでしょう。
動脈硬化の危険因子
動脈硬化の危険因子とは、動脈硬化を促進させる要因のことを言います。言い換えると、動脈硬化の危険因子とは、血管年齢を上昇させる原因と言うこともできるでしょう。
動脈硬化の危険因子としては、次のようなものが挙げられ、これらの危険因子が多く存在する人ほど動脈硬化の危険性がより高まります。
- 肥満
- 高血圧症(高血圧)
- 糖尿病(高血糖)
- 脂質異常症(高脂血症)
- 喫煙
- ストレス
- アルコールの飲みすぎ
- 運動不足
- 加齢
- 体質
特に肥満・高血圧症・糖尿病・脂質異常症の生活習慣病と喫煙は、5大危険因子とされ注意が必要です。
血管年齢の上昇の影響は?
このように動脈硬化は様々な危険因子が重なることで発生が促進され、血管年齢も上昇していきます。それでは、血管年齢が高くなると、どのような影響が現れるのでしょうか?
そこで、血管年齢の上昇が招く影響について、ご紹介したいと思います。
脳血管障害
動脈硬化が脳血管や脳に近い動脈血管で発生すると、様々な脳血管障害を引き起こす危険性があります。
具体的には、脳血栓症や脳梗塞をはじめとして脳内出血・クモ膜下出血などが引き起こされます。
脳血栓症・脳梗塞
脳血栓症は、動脈硬化の影響で脳動脈の血管に狭窄が生じて、血流が極端に低下する病気のことです。血流が低下することで、狭窄部から先の脳組織に酸素や栄養が供給されずに、脳細胞が壊死に近い状態に陥ります。
また、脳梗塞は、脳血管や脳に近い動脈血管が動脈硬化によって閉塞することが原因となって、閉塞部から先の脳細胞に酸素や栄養が供給されずに脳の一部が酸素不足や栄養不足となり、その結果として一部の脳細胞が壊死する病気です。
脳血栓症・脳梗塞が発生する場所によって、様々な障害が発生することがあります。例えば、運動を司る脳組織が脳梗塞によって壊死してしまうと、当然ですが運動障害が発生して、場合によっては四肢などに麻痺が残る可能性もあります。同様に、記憶や認知を司る部位が壊死すると記憶障害・認知障害が発生しますし、感情を司る部位が壊死すると感情障害が発生することがあるのです。
脳内出血・クモ膜下出血
脳内出血は、脳内の血管が損傷して脳内に出血する病気です。また、クモ膜下出血は、脳の周囲を覆うクモ膜と軟膜の間に存在するクモ膜下腔に出血する病気です。
動脈硬化は動脈血管をもろくて損傷しやすい状態に変質させますから、動脈硬化の発生場所によっては、脳内出血・クモ膜下出血を引き起こす可能性があります。
狭心症・心筋梗塞
心臓は全身に酸素や栄養を含んだ血液を送り届けるポンプの役割をしていますが、心臓自体を動かすためにも酸素や栄養が必要となります。この心臓自体を動かすための酸素や栄養を供給するのが、冠動脈です。
この冠動脈に動脈硬化が発生して、血栓などによって血流が低下すると、一時的に心筋に十分な血液が行き渡らずに、胸の痛みや胸の圧迫感などの症状が現れる病気が狭心症です。
また、この冠動脈が動脈硬化などの影響で閉塞することによって、心筋への血流がストップしてしまい、心臓が停止してしまう病気が心筋梗塞です。
狭心症は一時的な症状ですが、治療せずに放置していると心筋梗塞に至り、心筋梗塞になると突然死を招く危険性があります。
血管若返りのための改善方法
このように血管年齢が上昇するということは、動脈硬化が進行しているということでもあります。そして、動脈硬化が進行すると、脳血管障害や心疾患など重篤で命に関わる病気を引き起こす可能性が高まります。
そこで、このような重篤な事態を招かないために、血管年齢を若返らせる改善方法について、ご紹介したいと思います。
生活習慣病の予防
前述したように血管年齢の上昇要因は、動脈硬化の危険因子とほぼイコールと言えますから、血管年齢の改善方法は動脈硬化の危険因子を排除していくことと言えるでしょう。
そして、動脈硬化の危険因子の中でも、大きな位置を占めるのが生活習慣病(肥満・高血圧症・糖尿病・脂質異常症)ですので、生活習慣病の予防をすることが重要な血管年齢の改善策となります。
健康診断で、血圧・血糖値・悪玉コレステロール値・中性脂肪値などで一つでも正常値から外れるものがあれば、生活習慣病予備軍と言えますから、今一度健康診断の結果を確認されてみると良いのではないでしょうか。
適度な運動
生活習慣病の予防には、適度な運動を実施することが有効とされています。特に、ウォーキング・水泳・サイクリングなどの有酸素運動は、心肺機能や血管機能を高める効果があります。
毎日でなくとも、1日置き程度で継続して有酸素運動を実施することで、生活習慣病の予防効果、すなわち十分な動脈硬化予防効果を得ることができ、血管年齢を若返らせることにつながります。
また、ラジオ体操や、医師の池谷敏郎先生が提唱するゾンビ体操などを実践しても、血流改善効果が得られるので、生活習慣病の予防・動脈硬化の予防となり、血管年齢の低下につながります。
食生活の改善
生活習慣病は、運動不足とともに乱れた食生活にも原因があります。ですから、生活習慣病の予防には、食事の見直し・改善を外すことはできません。
肥満や脂質異常症の人は、摂取カロリーを抑制するとともに、中性脂肪や悪玉コレステロールを減少させるDHA(ドコサヘキサエン酸)・EPA(エイコサペンタエン酸)を含む青魚、脂肪吸収を抑える食物繊維を含む食材を摂取するようにしましょう。
高血圧症の原因の多くは塩分の取り過ぎにありますから、高血圧症の人は塩分摂取を控え、体内から塩分を排出する働きのあるカリウムが含まれる野菜類を積極的に摂取しましょう。
糖尿病の人は、摂取カロリーの抑制とともに、血糖値を上昇させる作用のある糖質・炭水化物が含まれる食べ物の摂取に気を配らなければなりません。また、血糖値を急上昇させないように、野菜類や汁物から食べて、最後に白米などの炭水化物を摂取するなど食べ順にも気を配ると良いでしょう。
このように生活習慣病それぞれで意識すべき栄養成分は異なりますが、基本的には栄養が偏ることなくバランスの良い食事をすることが大切です。
血管若返りに良い食品
バランスの良い食事をすることが大前提となりますが、血管年齢を低下させる成分を含む食品として、玉ねぎ・コーヒー・ダークチョコレート・黒酢・ブルーチーズ・くるみがテレビの情報番組で取り上げられ話題となっています。
玉ねぎに含まれる含硫アミノ酸は血液をサラサラにする作用があり、コーヒーやダークチョコレートに含まれるポリフェノールにも同様の効果があるとされます。また、黒酢には血小板の凝固を防ぐ成分が含まれ、ブルーチーズには血管収縮を防ぐ働きがあり血圧を低下させます。さらに、くるみは、体内でDHA・EPAを合成する際の原料となるαリノレン酸を多く含みます。
タバコを止める
タバコを吸う喫煙は、生活習慣病とともに、動脈硬化の危険因子の中でも大きな位置を占めると考えられています。というのも、タバコの煙に含まれる有害物質・化学物質には、血管収縮作用によって高血圧を招いたり、中性脂肪や悪玉コレステロールを増加させたり、血糖値をコントロールするインスリンの働きを弱める作用があるからです。つまり、喫煙は生活習慣病を助長することによって、動脈硬化のリスクを高めることが様々な研究によって明らかにされているのです。
ですから、血管年齢を若返らせるには、喫煙者は禁煙をしなければなりませんし、もともとタバコを吸わない人も受動喫煙を回避しなければなりません。
お風呂に入る
お風呂に入る入浴は、心身をリラックスさせて血管を拡張し、血流を改善する効果があります。シャワーで済まさずに、1日1回湯船に浸かることは、血管機能を若く維持するためにも重要と言えます。
具体的な入浴方法は、40~41度のお湯に15分程度浸かり、額に汗がにじむくらいを目安にすると良いでしょう。最近は、HSP入浴法という入浴方法も血管年齢の低下に効果があると話題になっています。
また、炭酸泉や酸性泉などの温泉は医学的にも血管若返りの効果が認められていますので、家庭では入浴剤で炭酸風呂にすると良いかもしれません。
まとめ
いかがでしたか?血管年齢が高くなる原因やその影響、血管若返りの方法などについて、ご理解いただけたでしょうか?
血管年齢とは、動脈硬化の進行度合いとほぼ同義です。そのため、動脈硬化を促進させる危険因子の存在が、血管年齢を上昇させる原因ということができるのです。
ということは、血管年齢を若返らせるためには、動脈硬化の危険因子を排除していくより他はありません。加齢や体質といった如何ともしがたい危険因子もありますが、動脈硬化を進行させる大きな要因は生活習慣病と喫煙ですから、血管若返りには生活習慣の見直しと禁煙は必要不可欠と言えるでしょう。それに付け加える形で、血管若返りに良い食品の摂取や入浴を実践すると良いのではないでしょうか。
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