「最近、咳がひどくて・・・」あるいは、「子供の高熱が39度もあって、なかなか下がらない・・・」など、お困りの方はいらっしゃいませんか?
そんな症状、実は、非定型肺炎かもしれません。
そんな方のために、今日は、肺炎の概要と非定型肺炎についてお話ししたいと思います。
非定型肺炎とは
肺炎の定義
肺炎という病気は、誰もが一度は耳にしたことのある病気でしょう。
肺炎は、日本では年間10万人を越える死者を出しています。年間の死亡者数では、がんや心臓病、脳卒中に次いで4番目に多い病気(2007年)なのです。ですが、実際のところ、一体どのような病気なのでしょうか?
まずは、辞書で肺炎の定義を確認しておきましょう。
肺の炎症。細菌・ウィルス・マイコプラズマなどの感染、またアレルギー・放射線・化学物質などによるものもある。小葉性肺炎・大葉性肺炎・間質性肺炎に分ける。発熱・胸部痛・咳・痰・呼吸困難を来す。
広辞苑第五版 岩波書店
肺炎という病名の通り、肺が炎症を起こして人体に支障をきたしている病気ですね。
念のため、英英辞典でもその定義を確認しておきましょう。
pneumonia
a serious illness affecting one or both lungs that makes breathing difficult.
(片方または両方の肺が呼吸困難に陥って苦しむ重篤な病気 筆者訳)
OXFORD Advanced Learner’s Dictionary
英英辞典では、肺炎の原因よりも症状の方に着目して定義しているようですね。呼吸困難を伴う病気なので、肺炎にかかったことのない方でも、肺炎が相当苦しい病気であることは容易に推測できます。
さまざまな肺炎
肺炎には、大きく分けて2種類の分類方法があります。
感染する環境による分類
まずは、感染する環境によって分類する方法をご紹介します。
市中肺炎
市中感染とは、普通にくらして日常生活を送っている方が、病院や診療所などではなく、外部で肺炎に感染し、発病した場合を指します。多くの場合は、風邪やインフルエンザにかかってしまい、こじらせてしまったことで発症しますが、早めに適切な治療を受けることで完治することがほとんどです。
院内肺炎
他の病気のために入院した後、48時間以降に感染した肺炎の場合は、院内感染に分類されます。気管内挿管として人工呼吸器を装着していたり、何らかの原因で患者さんの抵抗力が低くなっていた結果、発症してしまいます。
市中肺炎に比して、予防や治療が困難と言われており、死亡率も高くなっています。
病原微生物の種類による分類
こちらの分類方法は、病原微生物の種類による分類で、主に以下の3種類があります。また、複数の菌が混ざって感染を引き起こしている混合感染の場合もあります。
細菌性肺炎
肺炎球菌やインフルエンザ菌、黄色ブドウ球菌などの細菌が原因となって引き起こされる肺炎です。
非定型肺炎
今回のテーマである非定型肺炎ですが、マイコプラズマやクラミジア菌、レジオクラ菌など、一般の細菌とは種類の異なる微生物が原因となって発症します。
ウィルス性肺炎
インフルエンザウィルスや麻疹ウィルス、水痘ウィルスなど多様なウィルスが原因となり、発症する肺炎です。
つまり、非定型肺炎とは、マイコプラズマやクラミジア菌、レジオクラ菌などの他の細菌とは異なる微生物が引き起こしている肺炎なのです。
また、非定型肺炎は、治療が遅れると重篤化して、命の危険すらあります。
また、呼吸器系疾患や慢性的な内臓疾患などの病気を抱えている方、高齢者の方は、健康な方に比して、肺炎にかかりやすく、なかなか治癒しない傾向があります。
特に、高齢者の方は注意が必要で、肺炎で死亡する患者さんは、65歳以上の高齢者がその約9割以上を占めています。この原因は、加齢による免疫力の低下やその他慢性疾患などを抱えていることなどによるものと考えられています。
肺炎の症状が見られたら、早めに病院に行って診察してもらうことが何よりも大切になります。
肺炎は、治療が早ければ早いほど、回復も早くなるからです。
非定型肺炎の原因
肺炎は、呼吸器系の器官が人体を防御する機能が低下していたり、病気やストレスなどの原因のために、人体の免疫力が低下しているときなどに、病原微生物に感染すると発症する可能性が高くなると言われています。
肺炎の原因に触れる前に、まずは、肺や気管などの呼吸器のしくみについてご説明しましょう。
呼吸器のしくみ
人は、通常、無意識のうちに呼吸器を使って呼吸をしています。
鼻から空気を吸い込み、その空気は、喉や気管、そして左右に分岐する気管支を通じて肺の中に取り込まれていきます。これらの器官は、総称して「呼吸器」と呼ばれています。
呼吸器は、「上気道」と「下気道」の二つに分類され、その二つを合わせて「気道」と言います。上気道は、鼻から喉まで、下気道は、気管から気管支までを指します。
空気は、気管支から肺に入ると、枝分かれして細分化し、最終的には「肺胞」と呼ばれる小さな末端の袋のような部分に送り込まれます。このような細分化された肺胞が、ブドウの房のようにたくさん集まって「肺」という呼吸器官を構成しているのです。
肺は、これらの肺胞に取り込まれた空気の中から酸素を取り出して、血液に酸素を供給し、血液中に溜まった二酸化炭素を取り出して、人体の外部に送り出す重要な役割を果たしています。
肺炎が起こるしくみ
このように、人体に空気中にある酸素を取り込む大切な働きをしている呼吸器ですが、空気と一緒にウィルスや細菌などの病原微生物もまた、取り込んでしまうことがよくあります。
このようなウィルスや細菌などを人体内に取り込んでしまった場合、呼吸器内にある防御機能で身体を守る機能があります。
例えば、鼻毛や鼻の粘膜、喉の粘膜などで人体内に取り込んだ大きな粒子を捕え、そこまでで捕えきれなかった小さな粒子は、気管で咳をして外部へ排出します。
咳をしても外部に排出できなかった細かな粒子は、気管支で繊毛という細かい毛で捕捉し、繊毛は1秒間に15回という猛スピードでこれらの粒子を人体外に吐き出します。
さらに、人体には、「免疫機能」という病原微生物に抵抗する力があり、これを「免疫力」と言います。人体が、咳を出したり、発熱している状態は、人体内で、この免疫機能が働いて病原微生物と戦っているのです。
このような免疫機能によって、軽度の気道炎症程度で治まります。
しかし、気道の炎症が悪化して呼吸器の防御機能では止められなくなってしまう場合やその他の病気やストレスのために、人体の免疫力そのものが低下しているときには、病原微生物が上気道や下気道を通って肺にまで侵入して感染を引き起こしてしまい、肺炎を発症してしまうのです。
つまり、病原微生物の感染力が、人体の防御力や免疫力をしのぐ強い力を備えていると、肺炎が発症してしまいます。
非定型肺炎のメカニズムをわかりやすく図式化すると、
病原微生物の感染力>人体呼吸器の防御力+免疫力=肺炎の発症
となります。
他の病気との関連性
肺炎は、インフルエンザなどの呼吸器の感染症や慢性疾患のある患者さんがかかりやすいのが特徴です。
風邪やインフルエンザ
風邪やインフルエンザを適切に治療せずにしておくと、肺炎を発症してしまうことがあります。その原因は、風邪やインフルエンザウィルスによる喉や気管などの気道で炎症が発症してしまい、菌に対する気道の防御機能が低下しているところに、別の細菌が感染して、さらに2次感染を引き起こしてしまうことがあるためです。
特に、細菌性肺炎では、このようなケースが多々見られるようです。
呼吸器系の慢性疾患
慢性気管支炎や気管支喘息、肺気腫、肺線維症など、呼吸器系の慢性疾患をお持ちの方は、比較的に、気道や肺に病原微生物が感染しやすい状態にあるため、肺炎を併発するケースが多くあります。
そのうえ、この場合には、肺炎を発症すると、「呼吸困難に陥る」など、元々の疾患がさらに悪化することもありえますので、ご注意ください。
呼吸器系以外の慢性疾患
また、糖尿病や腎不全、肝硬変といった慢性的な内臓疾患を抱えている方も、注意が必要です。慢性的な内臓疾患は、全身の免疫力を低下させ、病原微生物に感染しやすくなってしまう傾向があるからです。その結果、肺炎を発症してしまうのです。
その他、脳梗塞などの脳血管障害の場合には、「誤嚥(ごえん)」と呼ばれる症状が起きやすくなります。
これは、食道へ飲み込もうとしていた食物を、誤って気管の方に入れてしまう症状です。誤嚥が起きると、飲み込んだ食物に含まれている細菌が肺に侵入し、感染を引き起こして肺炎を発症することがあります。
非定型肺炎の症状
非定型肺炎には、以下のような症状があります。
高熱
多くの場合、肺炎には発熱を伴います。ときとして、38度以上の高熱が出ることも珍しくありませんが、高齢者の肺炎のときには、発熱の症状が出ないこともあります。
咳・痰
肺炎を発症すると、激しい咳をすることが多々あります。細菌性肺炎の場合、黄色がかった、あるいは緑色がかった痰を伴う湿った咳が出ることが多く、非定型肺炎の場合は、痰を伴わない乾いた咳が長く続くことが多いようです。
感染した病原微生物の種類や炎症の箇所によって治療が異なるので、痰の色や粘性などをきちんと医師に伝えて適切な治療を受けられるようにしましょう。
呼吸困難
血液中の成分や細胞内液が肺胞内に滲み出て、肺胞内に水がたまってしまい、胸が苦しくなり、時に呼吸困難に陥ることがあります。重篤な場合には、血液中の酸素が不足した結果、顔や唇が紫色となるチアノーゼ症状が現れることもあります。
胸痛
炎症が、発症している肺だけではなく、胸膜にまで達すると、胸が痛くなることもあります。
その他の症状
呼吸が多くなり、脈が早くなります。また、頭痛や関節痛、筋肉痛、悪寒、食欲不振、倦怠感などの症状が出ることもあります。
肺炎の検査
肺炎の検査には、肺炎にかかっているかどうかを診断する検査と肺炎の原因となっている病原微生物を調べる検査があります。
肺炎にかかっているかの検査
肺炎にかかっているかどうかを診断するには、問診や聴診などの診察を行うとともに、画像検査や血液検査を実施します。
画像検査
レントゲンなどのX線撮影や胸部CT画像検査などを実施して、胸部の画像を確認します。肺炎を発症して炎症を起こしていると、炎症部分は白く映るようになります。
血液検査
血液中のCRP値や白血球の数、赤沈値を測定し、血液中の酸素濃度も測定します。
ちなみに、CRP値とは、C−リアクティブ・プロテインの略称で、正常な血液中には微量しか含まれていない成分です。
体内で、炎症や組織細胞破壊などが起こると、肝臓で生成されて血液中を流れるため、症状の程度に比して数値が上昇します。このため、炎症や感染症の指標や病状把握に有用な指標です。
また、赤沈値とは、試験官内で、赤血球が沈んでいく速度を測定する検査です。赤血球沈降速度、血沈、ESRとも呼ばれています。
血液を試験官内に入れて、抗凝固剤を投与して血液が凝固しないようにするための試薬と混ぜ合わせると、そのうち赤血球が下へ沈み、上澄みのような透明な血漿(けっしょう)が上に残ります。
このときの赤血球の沈む速度で炎症を伴う病気の有無や症状の程度が判断できます。
肺炎を発症して細菌に感染して炎症が出ていると、CRP値や白血球の数が増加し、赤沈値は高くなります。また、血液中の酸素濃度も、肺炎を発症していると低下する傾向があります。
肺炎の原因となっている病原微生物を調べる検査
肺炎を発症している病原微生物を突き止めるには、喀痰(かくたん)検査や迅速検査を実施します。
喀痰検査
喀痰検査は、主に2種類あり、原因となっている微生物を痰から推定する検査は数時間程度で結果が判明します。その他には、単に含まれる菌を培養して原因となっている微生物を特定する検査もありますが、こちらの検査は結果が判明するまでに数日を要します。
迅速検査
鼻腔(びくう)や咽頭(いんとう)を拭った液から、インフルエンザウィルスなどによる感染かどうかを推定する検査と、検尿して、肺炎球菌やレジオネラ菌によって感染したのかどうかを推定する検査があります。
どちらの検査も、比較的短時間で結果が判明します。
非定型肺炎と肺炎の治療
非定型肺炎の治療は、現在、薬物治療が主な治療方法となっています。
従来の治療法では、入院及び注射薬による薬剤投与が中心でしたが、現在では、化学的な進歩のおかげで、効能のある経口抗菌薬が使われるようになったためです。
患者さんの病状にもよりますが、現在では、外来での薬剤服用を主とする治療も可能となってきているようです。
抗菌薬の種類
抗菌薬には、細菌の増殖を抑制し、細菌自体を死滅させたりする効能があります。
その科学的構造により、セフェム系やペニシリン系、マクロライド系、キノロン系などの種類があります。
βラクタム系抗菌薬
βラクタム系抗菌薬には、セフェム系やペニシリン系など、さまざまな種類があり、細菌壁(細菌の形を維持している壁)を生成することを妨げることによって細菌を死滅させる効能があります。
マクロライド系・テトラサイクリン系抗菌薬
病原微生物の活動を活発化させる役割を果たしているタンパク質の生成を妨げることによって、病原微生物の増殖を抑制し、死滅させる効能があります。
マクロライド系・テトラサイクリン系抗菌薬には、βラクタム系抗菌薬には効能がないマイコプラズマやクラミジア菌、レジオクラ菌など、非定型肺炎にも効能があります。
キノロン系抗菌薬
病原微生物の遺伝子生成を妨げることによって、病原微生物の増殖を抑制し、死滅させる効能があります。細菌の多くやマイコプラズマ、クラミジア菌、レジオクラ菌などの非定型肺炎も含めて、幅広い効能があります。
対症療法的な薬物治療
上記のような抗菌薬の他に、多様な肺炎の症状を和らげてくれる薬物治療も必要に応じて行われています。
ひどい咳には、鎮咳薬(ちんがいやく)、発熱した際に用いる解熱剤、痰の症状を和らげたり、出しやすくしたりする去痰薬(きょたんやく)、気管支拡張薬など息苦しい症状や咳を和らげたりする薬が患者さんの症状に合わせて処方されているようです。
その他の治療方法
体力回復に努め、身体の抵抗力・免疫力を回復させるためにも、しっかりと温かくして安静にしていること必要です。また、発熱や食欲不振による脱水症状を回避するためにも、水分や食事による栄養を十分に摂る必要があります。
おわりに
ここまで、肺炎の概要をご説明しながら、非定型肺炎についてお話ししてきました。
最後に、日頃、日常生活の中で肺炎を回避する注意点についてお話しします。
- 風邪やインフルエンンザには注意を
- 体調管理に気を配る
- 可能であれば、肺炎球菌感染予防ワクチンを接種する
- 早めの受診を
- 高齢者の方は日頃から体調にご注意を
- 慢性疾患を抱えている方は十分な体調管理を
最後になりますが、非定型肺炎は、日頃の体調管理が大切です。
「私は大丈夫!」
などと、たかをくくらずに、
「石橋をたたいて渡る」
ぐらいに、日頃から自分の身体をいたわってあげましょう。